第4章 観  測


4-1 GPS観測

●マイ、ブロック

 毎回GPS研修に参加の徳島県の古川氏と仙石さん、今回も高浜のGPS作業に協力して頂い
ている。

 仙石さん、集合場所で自分の軽自動車の後部ドアをあけ、「よいしょっと」の掛け声とともにな
にやら取り出している。

 コンクリートブロックのようだ。

 三脚固定のための、重し用ブロックである。

 GPSの観測は、あらかじめ日時を決めた観測計画によるので当日が雨や風の強い日であっ
ても観測することがある。

 その際、据え付けた位置がずれることのないように三脚をアンカーで固定したり、重しをつけ
てみたり、近くの構造物に紐で固定したりといろいろ工夫を凝らしている。

 今回は8個のブロックを持参していただいた。

 歴戦の後を物語るように、ブロックには紐がそれぞれに付いており、そのまま三脚に結びつ
ければ固定が出来るようになっている。
 そして、「仙石」とマジックで名前が書いてあ る。
 いつも徳島でのGPS研修の際には強風・雨
とまともな天候がなかったような気がする。
 晴天で穏やかな日の観測が多い我々には そのような備えは頭の中にはなかった。
 経験が、一番大事な研修なのかもしれな い。



●三等三角点白石

 本日はGPSによる2級基準点の観測、順調に観測は進んでいる。

 最近、渡部氏の私に対する態度に明らかに「いたわり」が加わっているようである。

 それは50歳を過ぎてしまった私の年齢によるものなのか、一向に上達しない基準点の知識と
技術に対しての同情のせいなのか・・。

 3セッション目の私の受け持ちは与点である三等三角点白石である。

 2セッション目であらかじめ現地を下見した私はあることを決めていた。

 この三角点は渡部氏が事前調査の際に、山頂で木の根に絡まって転がっている標石を見つ
けた位置ではなく、新設され、改測された場所である。県道の緩衝帯に作られた花壇の中に新
設された新三角点である。

 現地に行くと、夏の日差しの中、車の往来の心配のない引き込み線には影もあり、涼しげで
運転に疲れたドライバーが気持ちよく仮眠をとっている。

 これは、渡部氏の私への折角の配慮と、機械を設置し、GPS受信機の電源を入れると私は
心地よい眠りについた。

 しばらくすると、なにやら眠りを邪魔する人影が、

 「何しとるん。」

 「時間まで寝とってええんじゃろう。」

 GPS観測はひたすら寝ることと思っている私に呆れ顔の渡部氏。

 何も言わずに受信状態を確認し、いずこかに去っていった。

 やはり、あきらめられている。



●えい、やっ

 ここは、3級基準点3−9、ボートが展示してある。

 といっても、ヨット等を一時預かりして、使用の際には、海にクレーンで下ろしている場所であ
る。利用者は車で来て、海岸部まで降り、クレーンで降ろされたヨットに乗って海に出て行って
いる。当然、道路部分と海とに10メートルほどの段差がある場所で、その間は断崖絶壁になっ
ている。

 基準点のある場所はそのような道との間を有効に利用している場所。

 基準点を設置する岩と道の間には3メートルほどの距離があるのだが、その間は平坦では
なく、ちょうど岩だけが突き出た形になっている。

 その岩と道の間に鉄骨を渡して、その上部をボートの展示場として使用している。

 展示場から下をみれば、網目になった床から一気に海までが見える状態。

 更に基準点のある岩からは、50センチほどの柵があるだけで、直ぐに断崖絶壁になってい
る。

 反対側からは山も迫っており通常の三脚では上空の視界に障害物がある。

 3メートル程度の高さが必要になる場所。

 どうしても長脚が必要となる場所なのだが、石突を強く踏み込むと、そのまま絶壁の下まで落
ちそうな、なんとも恐ろしい場所である。

 これはたまらんと、皆一斉に知らん振りを決め込む。

 今回の観測では、まだ犠牲者が出ていない。そろそろ…。

 だが、観測順番に当たってしまえば仕方がない。


 そして、整準台を長脚に設置。脚立に腰掛け、のぞきこみ求心をする。

 気泡管を合わせ、いつもなら方向を変えて求心をするときには、腰を浮かして覗き込むのだ
が、さすがにこの場所だけはなかなか腰が上がらない。

 手は長脚を思い切り握り締めている。

 脚立の上からは360度海ばかりに見
え、陸地がみえない。やたら海面が光っ
てみえる。
 求心しても、基準点の十字がなにやら
ぼやけて見える。ピントが合っているの
やら、怖さでかすんで
 いるのやら、これ以上は怖くてもう書
けない…。



[ 一級基準点網図 ]



[ 新浜地区三級基準点網図 ]



4-2 TS観測

●墓地の老木が

 4級基準点のTS観測は中学校横の墓地から開始した。

 観測班は機械検定を受けた機械を使用するため、小野、大野(渡部氏の機械使用)、野本班
にそれぞれ分かれ、一つの路線の中で観測点を順番で交代して進むことになった。

 最初の与点の3級基準点から観測し、古い桜の木の横を通り、霊園を過ぎたところで、トプコ
ンを使用している野本氏から、次観測されますかと声がかかる。

 実はトプコンの機械を使用したことがあるのは野本氏と荻山氏そして私だけなので、野本氏
と交代できる観測者の控えとして器械の操作方法に慣れる必要があるからだ。

 「いいよ。」多少は腕に覚えがある私、断ることは出来ない。しかし、悲劇はここから始まっ
た。

 ただ、私も現在はこの機種は使用したことがないので、操作方法について野本氏より教わり
3方向の観測を始めた。

 おかしい、観測差が30秒を超える。もう一度、や
っぱり30秒を超え制限に入らない。こんなはずで
はない。

「おちつけ。落ち着け」

「どうしたん。入らんの」と渡部氏が聞いてくる。

「うん、調子悪い。」

「あれっ、この三脚ように据わってないで。」

 三脚を見ると、三脚の一方がコンクリート擁壁のひび割れた場所に据えつけてある。
これでは制限に入るはずがない。

 機械の操作方法ばかりに気を取られ、既に反射板が据付けてあり、そこへTSの上部だけを
交換したため、何も注意を払っていなかった。

 人が据付てくれた三脚だからと、気泡管の確認だけして、据付の確認をしなかった私の怠慢
である。

 しかし、本当のハプニングはこの後起きた。

 3回目の観測が制限内に入り、観測が終了した途端に「メリメリ」という音がして、先程の基準
点横の桜の老木が倒れてしまった。

 もし、あの桜の木の横の基準点で観測を失敗していたら、ひょっとして誰かが下敷きになって
いたかもしれない。

 4級基準点が開始されたばかりだというのに、なにやら怪しい雰囲気が立ち込める。



●統一した高さ

 今回の4級基準点の観測については、原則的に高さを1メートル40センチで統一していた。

 高さがそれぞれに不統一であると、高さの偏心となり、計算も非常に複雑となる。

 原則として1メートル40センチに合わせながら、観測を進めていく。

 使用している3台の機械はトプコン、ニコンとメーカーの相違する機械を使用しているため、
それぞれ同一の機種の反射板を使用している場合は下盤を残し、上盤を入れ替えても機械高
は変化がないのだが、この機種の違いにより2ミリ程度の高さの相違が生ずることになる。

 さらに、反射板のみを使用しているソキアとの組み合わせとなると、4ミリ程度相違することに
なる。


 観測を開始する前には、その都度三脚の据付の踏み込みの確認の後、高さをもう一度チェ
ックして調整してからの観測が義務づけられた。


 しかし、ここは厳しい現場であり、いつも1メートル40センチ位置前後の観測点だけの微調整
とは限らない。

 1メートル50センチでしか観測の出来ない観測点に遭遇したときは、前回の観測点で今回の
後視点も1メートル50センチ、当然前視についても1メートル50センチと高さを揃え観測が一区
切りつく場所まで継続することになる。

 いつの間にか、誰となく号令を掛け始める。

 号令とともに反射板、機械点みんな一斉に三脚を調節して高さをあわせ、コンベックスで確
認する。観測の最後のほうになると、この所要時間も1分前後となり、さほど苦にも感じなくな
る。



●反射板に

 高さを指定し、統一するために一番役に立ったのは反射板の横につけた印だろう。

 TSについては、機械の横に高さの印もついているし、その機械の形からも地上の鋲からの
高さをコンベックスで測っても障害となる場所がないため測りやすい。

 反射板については横に反射板自体が出っ張っており、地上の鋲からコンベックスで測ると、
出っ張りが邪魔になるし、その高さを示す位置がなかなかわかりにくい。

 そこで反射板の横に、鉛筆であらかじめ目印をつけておくことを教わる。

 測るとスムーズに間違いなく測ることが出来る。

いろいろな人と共同作業をすると、効率の良いちょっとした工夫を知る。



●3メートルの大男と1メートルの

   それでも駄目なら…。

   山あり谷ありの本当に厳しい現場、ついに秘密兵器が飛び出すこととなる。
 急傾斜の山越えの現場、直線距離は短いが路線として
はどうしても結んでおきたい場所。
 渡部氏は山の上、私は平地の道路にいた。

 「下から見えますか。」

 「声はするけど、見えんよ。山から遠ざかってもう少し畑
の中に入り込んだら、傾斜がゆるくなって見えるよ。」2メ
ートルほど山から遠ざかり、畑の中に入り込むと渡部氏の
姿が見える。

 「解りました、ここにします。」と渡部氏は道路上に選点 をした。 

 更に、住宅地に入り、2メートルほどの生垣により路線が分断されてしまう場所が出てしまっ
た。

 「ええわい。ここにしましょう。」

 普通では見えない場所をそのまま選点してしまった。 

 逆に、足元は見えるけれど、1メートル以上の位置は見えない場所もある。

 これも簡単に「そこでいいですよ。」と選点してしまった。

 いよいよそれらの場所も観測をすることになった。高い据付の必要な場所にはGPS測に使用
する最高3メートルの高さになる長脚(スカイレッグ)を据付け、脚立に乗って観測をしている。

 時間はもう既に夕暮れの時間、下側の道路から山頂を見上げながら、しかも太陽の光に目
標物をさえぎられながらの観測、三方向の観測とあって、観測方向が変わるたびに、脚立から
おり、方向を合わせて脚立を据替え、再度その上に登って観測と忙しい。全員が見守り、プレ
ッシャーのかかる中、渡部氏の観測が続く。
 「よーやる」と皆感心しながら最終結果を覗き込むと観測結果は制限内にきちんと入ってい
る。脱帽。


 一方、1メートル未満の据付場所、普通の三脚を思い切り低く据付るのかと見ていると、持参
したのは先程とは正反対のミニ三脚。全長でも50センチほどの三脚である。

 三脚を据え、その上にTSを設置する。

 今度は踊る調査士荻山氏「僕が測ろうわい。」と自ら志願しての観測。

 以後ミニ三脚は荻山氏の出番となった。



●3メートルの反射板

 スカイレッグで観測をした基準点の反対側。
つまり山側の基準点。
 下から見上げると、当然のように通常の
高さでは見えない。下の観測点の高さと同
様な高さに上げないと見えない。
 スカイレッグはもう使っている。

 ポールを使用して反射板を高くあげることは誰も考える、同じことでも渡部氏がやると少し違
っていた。

 まず三脚と整準台を据付け、整準台にアタッチメントをとりつけて、ピンポール2本をつなぎ、
下の観測点と同様な高さの位置にミニプリズムを取り付けたが、これで終わりではなかった。

   「TS持ってきて。」

 観測点以外の2台のTSを、山の反射板の位置に上げ

 「5メートルくらい離れて90度開いて、2箇所から下の基準点を見て、そのまま上のプリズムま
で確認して。」

 「少し右、左」と調整しながら、プリズムが基準点位置と一致しているか慎重に確認する。

 GPS測量の際に、スカイレッグを使用したりポールをあげたりする場合、渡部氏は必ずこの
手法で確認している。

 反面、ずぼらな性格の私は、1本程度のポールではこのような確認を行ったことがない。本
当に小さなことからこつこつと積み上げないと、きっちりしたことは出来ない。



4-3 死の路線

●死の路線

   思い出したくない路線がある。

 霊園裏の基準点から中学校横の池を通り、見晴らし山の展望台の基準点3−19に結ぶ路
線だ。路線の大半は他地域となるため、余計な部分を排除して、最短の路線となっている。

 5月に選点を行い、6月の暑い日に伐採をしながら観測をすることになった。

 平坦な池の土手を通り、途中から急傾斜になるヒノキ林の中に入り、そのまま急傾斜の続く
雑木の山に変わり、さらにやや緩い傾斜が続く茨の原野そして展望台に通じる山道へと平面
距離であれば200メートル程度の路線の部分。

 基準点班は5つに別れ、TSと反射板と観測者が1組、野本班、大野班、小野班の3班と、反
射板を設置する各1人の2組が位置につき順次、五月雨式に観測を行う。観測を終了した班は
次々に山頂めざして順繰りに観測を行う。

 池の基準点から山道の基準点までは5辺、7点で結ばれている。

 このうちのヒノキ林の中の急傾斜が始まる基準点から山道に出るまでの基準点3点の間が
特に問題なのだ。

 傾斜は30度を超え、40度近くある。前に進むためには、前にある木をつかみ、自分の体を引
っ張りあげて歩かなければ、体は自然と後ろに引き戻される。

 更に視通を確保するために伐採をしたため、今まで?まっていた雑木がなくなり、ますます登
るのは難しくなった。

 おまけに観測のために今度は三脚を担ぎ、機械を背負っている。

 担いだ三脚はガチャガチャと駄々をこね、背負った機械を守るために横に転びながらも必死
で前にすすもうとするが、何も持たなくても自分の体重以上の重さで体はずるずると後ろに引
きずられる。

 汗びっしょりになりながら、やっと40度近い急傾斜の雑木の中を抜けると今度は茨が密生す
る30度近い普通の急傾斜となり、茨が遠慮なく体を刺す。

 「いたい、いたい。」と叫びながらも観測自体はやけくそのように順調に進む。


 5月の選点の前、既に渡部氏はこの路線を下見し、皆のために下刈りを行ってくれていたこと
を忘れてはならない。

 彼が、一人でこれ以上の悪条件の中で伐採や下刈りをしてくれている。その時の状態を考え
れば頭の下がる思いがある。



●雨の4級基準点

 日頃、私の事務所では、私と補助者が揃うとろくなことがない、大事な日に雨をふらす「雨男」
だと言われている。

 今回の高浜では私を上回る「晴れ男」揃いだったのだが、本日は参加している若手が途中か
ら帰ったため、今までの晴天が嘘のように、どしゃぶりの雨となる。それでも4級基準点の観測
を行なっている。

 GPS観測は全天候型の測量であるが、TS測量は全天候型ではない、それでもTSに傘をさし
かけ、人間は合羽を着込み、頭にはヘルメットで観測を続行する。

 かわいそうなのは、全天候型ではない整準台である。

 傘を差しかけてもらえず、合羽も着せてもらえない、長時間の観測になりとうとう中に水滴が
溜まりだす。

 その日の何点目かの観測が終了、次の前視点で求心をしようと覗き込むと、いくらピントを合
わせても基準点の十字のマークが見えない。

 眼鏡に水滴がついて、よく見えないのではとハンカチやテイッシュで眼鏡を拭くのだが、一向
に見えるようにならない。

 整準台を覗き込むとどうもレンズが曇っている。

 ちょっと横にしてみると、水滴も内部にあるようだ、しかし、観測が始まる時間が近づいてい
る。何とかしなければ、祈る気持ちが天に通じたのか、何とか求心が出来て、受信機を据付る
ことが出来た。

 だが、雨は降り続く、とうとう次の観測ではどこも同じような状態になったらしい。M先生の整
準台を2台使用していたのだが、いずれも同様の状態になってしまった。

 何とかならないかと整準台を振ってみると水が外に飛び出してきた。

 覗き込むときれいに見える。

 これで観測が出来ると喜んで続行したのだが、後でこれが問題になる。


 観測終了後、整準台を分解して、エアコンをかけて、1日乾燥させたのだが、どうにも調子が
悪く、業者に修理を依頼したとのこと。

 業者の話では水が入っただけなら良かったのだが、無理に水を出そうと振ったためはいって
はいけない部分に水が入ってしまったのだという。

 人間や整準台は全天候型ではない。



●弁当はどこがいい

 4月から高浜に遠征をして、まる一日基準点作業班と付き合う。

 朝8時から夕方日が暮れるまで現場ではむさくるしい男ばかりの世界、何も楽しみがない。

 こうなると楽しみはお昼の弁当だけ、朝8時からの作業は効率も良いが、休み無く仕事をした
ものにとって12時をまわるころには身体は休息を、お腹は腹の虫の大合唱状態になる。

 2日に1回の基準点作業も1ヶ月を超えようとしている。

 晴天(日照りのような毎日)に恵まれているが、作業は順調にすすんでいるのやら、いないの
やら。まだまだ先の見えない手探りの状態であるため、作業効率を考えて昼食は現地での弁
当、飲み物の提供も昼食時のみである。


 現地も新浜から高浜へと移動。弁当を買う場所は最寄のスーパー。食事場所も近くの公園
か空き地と替わらない。

 この生活が1ヶ月も続くと、皆わがままに、前はあそこだったから本日はあそこの弁当が良い
と、いつしか昼食係となった班長の大野氏と戒能氏を困らせることになる。
 もう楽しみは食うことだけである。
 私の高かった血糖値も、このよう な生活のおかげでほぼ正常となっ た。
 よくよく特権階級には縁のない身 体なのだろう。
 ちなみに、一番おいしいお弁当は 身近な場所にある…でした。

 血糖値といえば
 今回、基準点作業が初めてという重松氏、お弁当を食べるたびに

 「私、血糖値が高いので」

 としきりにカロリーを気にしている。

 食事後、「血糖値が上がっている。上がっているのが解る、眠たくなってきた・・。」とお決まり
のセリフ。

 朝から夕方まで真面目に黙々と基準点作業をしており、眠たいとは思えないのだが、血糖値
ばかりはどうしようもない。

 しかし、私のように「おっさん」になれば、食後の暇な時間は居眠りをしてしまうというのは年
齢からくるもので当たり前のこと。

 事務所で一人口をあけ、だらしなくヨダレをたらしているのは、私だけだろうか。

 重松氏の眠たくなる本当の理由はおっさん化現象ではないかと私は思っているのだが、彼は
医者にもかからず血糖値のせいにしている。





[ 高浜地区図根多角点網図 ]



[ 新浜地区図根多角点網図 ]



高浜17条基準点作業に思う
     
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