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2-1 事前調査
●20年の歳月とともに
そして20年近い月日は厚顔の微青年を頭の薄い脂ぎったおっさんにヘンシンさせた。
地図混乱地域における基準点設置作業により基準点が設置されただけの高浜地区も、今回
法17条地図作業を実施することになり、改めて基準点設置作業が行われることとなった。
鷹子以来、私は自己流ではあるが地元で基準点らしきものを作製して業務を行っている。
しかし、それは狭い範囲の中の一筆地を測るための基準点であって、大規模な地域を関連
づける基準点を自ら作製したことがない。
時代も変わり、基準点の作製方法についても世界測地系によるGPS測量、TS測量(データ
コレクタの使用)、厳密網計算の使用と鷹子17条地図作製当時から大きく変化している。
その間、松山では公嘱協会により立派な17条地図が次々と作成され、宮内会長の言葉によ
ると松山支部では基準点の出来る会員は40名以上いるという。
自分自身の遅れてしまった基準点の知識や感覚を松山支部に遅れることなく、何とか追いつ
かなければならない。
高浜17条地図作業では基準点設置委員会が基準点を設置することとなり、日頃から基準点
と偉そうに言っている手前、法17条地図基準点作業に参加して、全体を見据えた基準点の作
製方法を学ばなければならない。
●事前調査
今回の高浜17条で使用する与点は、改測中ということで、平成15年12月21日、赤穂浪士の
討ち入りの日よりやや遅れて、電子基準点を使用して与点となる三等三角点大山寺、四等三
角点港山のGPS観測を行なった。
三等三角点大山寺では、山の中腹にある大山寺は四国八十八箇所の札所とあって、駐車
場に車をとめ、境内を通って山頂に上がろうとすると、目の前で初老のご婦人が「お接待」と紅
芋の蒸し饅頭をお盆に盛り、にっこり微笑んでいた。
思わず、「いいんですか。」
信仰心など全くないのだが、お腹の虫の命令するままにお饅頭を握っていた。
お饅頭で体力を整え、やや傾斜のきつい登山道、汗をにじませながら登っていくと、山頂に
向かい右と左に枝分かれしている、整備されている左のほうに行こうとすると、後ろから「そっ
ちに行ったら駄目ですよ。僕はこの間、間違えたんです」
改めて、すこし寂れた感の右側の登山道を登り、しばらく行くとそこには三等三角点大山寺
の標石が待っていた。
とりあえずGPS受信機を据付け、電源を入れ一息つくと大野氏が、「先程の道を左に行くと観
音像のある場所で、景色がいい場所です。見に行かれてはどうですか。」
というお誘いの言葉。
観測とはいえここは山頂何もすることがない、車の通行、そして幼児が走り回ることもない。
後1時間じっとここで待っているだけである。
一気に観音像のある山頂、大山寺奥の院まで上がる。松山市内そして瀬戸内海をはさむ対
岸の興居島も一望できる。松山城もくっきりと見え、瀬戸内海に浮かぶ興居島にある四等三角
点黒崎はどこだろうかと覗き込む、まるで肉眼でもみえそうな感じである。
本日はいい天気に恵まれ、良い観測が出来た。
お饅頭のご利益だ。
出来れば、三角点のある山には、全部札所があれば・・。
●屋根の上の偏心点
四等三角点港山は小高い山の山頂の公園にある。
そこは大きな桜の木が被さるようにあり、上空の視界が悪く、本点でGPSにより直接観測す
ることは出来ない。
事前調査(測量研修)の際には、本点から10メートルほど離れた公園の中央に、長脚(スカイ
レッグ)に1メートルポールを2本継ぎ、アンテナの高さも5メートルを超える高さにして観測、偏
心観測は四等三角点黒崎を方位標として観測を行なっていた。
地理院による改測の結果が公表され、本番である今回は本点から50メートルほどはなれた
位置の東屋が偏心点であると説明を受ける。
なにやら地理院の『点の記』に記載されていたらしい。
公園の中の建物だから、壁は無く、鋼板葺きの建物にびっしりとつるが巻きついているが
コンクリートブロック造のトイレの屋根の上にも誰かが作製した基準点がある。
●砂防ダム上の基準点
1級基準点の設置できる場所で、上空の視界の良い場所となると限られてくる。
この場所も、山間部でありながら上空の視界は申し分のない場所なのだが・・・。
そこは大きな砂防ダムの上、片方は10メートル、山側は5メートルの高さになっている。コンク
リート擁壁の厚みは3メートルと十分にあるのだが、なんとも不気味な感じがする。
それもそのはずで砂防ダムの山の根元から中央の開口部までのコンクリートの上部の部分
は普通水平になっているものなのだが、途中から中央の開口部に向かって斜めに下がってい
る。
じっと座っていても吸い込まれそうになる不気味な場所に1級基準点が選点されてしまった。
踊る調査士、荻山氏は強度の高所恐怖症とあって、砂防ダムの近所まではやってきたが、
「僕、いかんのですよ。」と一向に基準点の場所にやってこない。
一方、久万町の十川氏、高いところも全く平気な風。
「間伐の枝打ちだったら、もっと高いところにのぼらないかんのよ。このくらいなんでもない」と
身を乗り出し、わざわざ高い方の空間に手を出して振ってみせる。
●みかん山の基準点
山の中腹に基準点を選点する必要があるのだが、ここはみかん山の中、周りはみかんの木
ばかり、構造物といえるものは何もない。
だが、良く見るとみかんを山から直接平地に運搬するためのリフトの土台であったと思われ
るコンクリート構造物が今は使用することも無く、荒れ果てた状態で放置されている。
丁度15センチ巾のコンクリートで1メートル四方の高さも1メートルほどの水槽、そしてその水
槽の山の裾側にはスロープがついている。
渡部氏、水槽部分の上に乗り、周りと上空を見渡し、
「うん、うん、ここじゃ。」
と決めてしまう。しかし、どのような方法で観測するのだろうか。
続きは次章の便器の基準点へ…。
2-2 4級基準点の選点
●よいしょっと
本日は4級基準点の現地の下見ということで、私も参加しなくてはならないのだが、あいにく
会議に出席する必要がある。しかも懇親会に出席のため自家用車を使用することは出来ず、
JRで松山まで出かけるようにしていた。
渡部氏から、折角松山に来るのならとにかく手伝いに来いという連絡が入る。
仕方なく、朝の通勤時間帯にJRの松山駅を下車、伊予鉄道の大手町駅まで歩き、電車で梅
津寺駅まで向かう。
今まで車での移動であったので、朝の通勤・通学の時間帯の沿線の高校生の制服の変化を
眺めながら乗っているとあっという間についてしまった。
駅につき、「今、皆どこにおるん」と携帯電話で連絡をとると、近くの交差点付近とのこと。
急ぎ、そちらに向かう。
渡部氏「電車、近かったろう。」という言葉。
渡部氏も私と同じで電車になんか乗ったことがないはずなのだが。
「この間、電車に乗って帰ったんよ。」
「どしたん。高浜で宴会でもあったん。」
そこに大野氏が現れて
「実は、大変なことがあったんですよ。渡部先生の車が落ちたんです。今日その現場に行き
ますから。」
渡部氏本人は怪我もなくケロッとしている。
そういえば最近、車の免許を取ったばかりの娘さんに、愛車を乗り回されて、ここをぶつけら
れた、あそこを傷つけられたと言っていた。
娘さんが運転をしていて事故を起こしたのだろうか。
現地は、畑の中に3級基準点を設置した場所の近く、ため池が上手にある場所。
山からの水路を、小道が斜めに横断する形になっている場所の少し下の方。
幅2メートルほどの小道ではそのまま車の行き違いが出来ず、車を廻す場所として確保して
ある場所。小道からは2メートルほどの巾で空き地になっており、上手にはため池があり、池
から道路西側にある水路に向かって大きな三方張りの水路が下手にある。
そして西側には山からの水路がある。
どうやら、渡部氏一人で選点の下見をしている時に、方向転換する際に誤って、愛車の後輪
を深さ80センチほどの道路西側の水路に落としたらしい。
それをまた、一人で水路からだそうとして、愛車後部を持ち上げ前方に押したところ、今度は
勢いあまって反対側の三方張りのコンクリート水路に前のめりに突っ込んだという。
「よう、持ち上げたなぁ。」あきれながら、渡部氏の愛車をもう一度じっくり見ると、1メートルほ
どの高さから落ちた割には、傷がない。
かえって私の愛車が事務所の横のコンクリートブロックでつけた傷のほうが目だっている。
しかも、丁度軽自動車一台がきっちり入った場所だけが、車が落ちても障害物となるものが
ない場所である。なんという不幸中の幸い。
「仕方がないので、その日はJRで帰って、レッカー車で上げてもらうたんよ。修理屋さんも、し
ばらく乗ってみて駄目だったらあきらめてと言うことやったんよ。」
持ち上げる人間もすごい(呆れる)が、落とされてもまだ大丈夫という車もすごい。
これから、付き合わされるまともな人間は一体どうなってしまうのだろうか…。
●4級基準点の選点と補助基準点
4級基準点の選点が始まった。
紅白のポールを持ち、意気込んで早め早めに4級基準点の目安となる50メートル先の位置に
立つのだが、どうもうまくいかない。
正直、次がどこへ進むのか全くわからない。私にとって未知の町、何回来ても同じ様な街角
にしか見えない。
どこが新浜なのか高浜なのかも、まだわからない。
この町へ来るのは二ケタに近くなっているのに、どこも同じ様にみえ、次はどの場所という予
想もつかず、これでは満足な選点が出来るはずがない。
すでに、4級基準点の計画図をつくっている渡部氏は一体何回この町に来ているのだろう
か。
それでも、慣れてくるとなんとかなると思っていたのだが・・・。
日常的に4級基準点の路線を作製しているのだからとタカをくくっていたのだが、それは単
に、与点と与点を結び、新点に座標値を求める為だけの作業であったことを実感することにな
る。
基準点については、ほぼ50メートル間隔を目途にして、与点と与点を効率的に結べばそれで
良いとしていた。
路線の基準点と申請地との関係では、そのまま直結するものではなく、先に路線を作製して
おいて、作製した基準点から改めて現地のための準拠点なり観測点を作製するという間接的
な作業をしていたように思う。
「この位置にしたら、次の場所も良く見えるし、安全だよ。」と言っても、渡部氏が来ると。
「いや、もうちょっと、こっちにしましょう。ここならあそことあそこの境界も見えるから。」
少しずつ位置修正の繰り返しとなる。
これが何回も続くと、私でも学習能力がある。
「ここがいいけれど、あの境界を見なくてはいけないから、横に寄せたほうがいいのかな。」
「いえ、あの境界はこの基準点からではなくて補助基準点を作って見ますから。」
「えっ、補助基準点て・・・。」
高浜地区では、家が密接して建っていることもあり、4級基準点の網図には、ぽっかりと空白
の地域が出来ていた。
そういえば、法務局への見積もりの時、4級基準点と補助基準点とに分けてあった。
全部が4級基準点としか考えていなかったのだが、一筆地を測るためには4級基準点だけで
は測り切れない。どうしても臨機応変な点が必要になる。
ただその点が行きっぱなしの開放ではまずい、どうしてもきちんとした基準点に結んで精度を
確認したものでなければならない。
つまりこれが補助基準点ということのようである。
●俺の基準点
黒岩付近の海岸線を測るための4級基準点の選点中、「ええが、ええが。」とつぶやく声が
する。
渡部氏が3級基準点を設置予定(3−9)の場所の近所にある岩礁を見ながらつぶやいてい
る。
よほど気に入ったのか、干潮時にわざわざその岩礁まで渡り、岩礁の上にある円形のコンク
リート柱にしがみつき、ほお擦りをする。
夕ぐれの西日があたり、黒と白のシルエットが描くその影が海から出現した怪獣ガメラ(表現
が古い)に見えたのは私だけだろうか。
●基準点の材質
4級基準点の選点をしていたところ、昔、地図混乱地区の基準点設置作業で設置された4級
基準点を目にする。
ほぼ50メートルに1点の間隔で設置され、全部直径8センチの真鍮鋲が入り、上部には通し
番号が刻印されている。
しかし痛みがかなりある。交通量の激しい場所であれば、真鍮鋲の頭の十字が磨耗してしま
うのは、やむを得ないものがあるのだが、どうも違っている。
交通量はさほどない場所なのに、えらく真鍮鋲の表面がごつごつした岩のような状態になっ
ている。
真鍮鋲が傷つく理由として、最も考えられるのは重機のキャタピラーだが、明らかに違ってい
る。私も今までに道路上に設置された金属鋲や真鍮鋲をみているがこのような形状になってい
るものを見たことがない。
そのうち、コンクリートの継ぎ目にあるエラスに打ち込まれた真鍮鋲で、ぐらぐらと不安定な状
態になっているものを見つけ、軽く力をいれると簡単に引き抜くことが出来た。
それは、きのこの形をしている真鍮鋲のかさの部分の厚みが薄く、中の骨格の部分以外は
空洞のようであった。この空洞部分に力が加わったために岩の表面のようなごつごつとしたキ
ズになってしまったようだ。
明示性はあっても、永続性には問題がある。
今回の基準点設置作業では、費用面、設置面そして維持する事を考える必要がある。
4級基準点は500点以上にもなることから安価で、設置がしやすく、永続性があり、なおかつ
維持しやすいものでなければならない。
前回と同様仕様の真鍮鋲を使用することは避けなければならないが、真鍮鋲を使用すること
で、材料代、設置する手間等、費用的にもかなりの金額となる。
そこで、愛媛会では常識となっているステンレス製の鋲と登記基準点と明示したステンレス製
の座を使用することとした。
材料費は五分の一以下であり、今までの経験からも永続性がある。そして何よりも構造物に
ドリルで穴を開け、打ち込むだけとあって設置しやすく、設置時間、設置費用とも比べ物になら
ない。
ただ、通し番号を刻印することが難しいとの指摘があったのだが、基準点設置作業時に番号
がわかれば、後は点の記等により明確になるから基準点番号を間違うことはないだろう。
設置作業時にペンキで番号を記載しておけば良いということになった。
実際、観測時や写真での点の記を作製したのは一ヶ月以内であったので、まだペンキが残
っており、間違うことはなかった。
●ブラジャー事件
基準点班は毎回、渡部氏に監視されたタコ部屋のような生活を送っていたと思われても困る
ので、ここで一つ渡部氏のネタをバラすことにする。
選点時、我々は山手の里道にいたが、そこから渡部氏が三脚を担いで「ちょっと行ってこよう
わい」と小走りに20メートル程離れたアパートの前の通路を通った。
「んっ。」という変な声が聞こえる。
何やら、渡部氏が身体をくねらせているではないか。
丁度、我々と渡部氏は向かい合わせの位置関係。俳優と観客の関係である。
担いでいた三脚に、なにやら黒い紐のようなものが、どうやら洗濯物を引っ掛けたようで、紐
にはさらに二つの円形の…。
それが女性の下着であることに気付くには時間はかからなかった。
2-3 検定
●機械検定
今回の基準点設置作業は法17条地図作業であり、1、2、3級の基準点成果については国土
地理院の検定を受ける必要がある。
1、2、3級についてはGPSで観測をおこない、TSで観測を行なう4級基準点についても最終的
に法務局にその成果を提出することになる。
そのため、まずGPS・TSともに使用する機械の検定を受ける必要がある。
GPS受信機については協会所有の一周波の受信機5台、渡部氏所有の二周波の受信機
3台を使用することになるが、協会所有のものについてはその性質上毎年検定を受けていた
が、渡部氏所有のものも個人所有でありながら毎年検定を受けていたという。
GPS受信機の検定についてはいずれも前年の7月の集中検定で検定を受けており、今回の
観測は6月で終了するため、1年間の有効期限内でもあったので改めての検定は不要であっ
た。
また、TSについても渡部氏所有のニコンは境界鑑定測量業務のため2月に事前に機械検定
を受けていた。
今回の観測のためには、あと数台の機械検定を受けた機械が必要となることから、地元松
山の方の機械で検定を受けることなり、今回観測に参加する松山支部の会員に呼びかけ、小
野氏所有のニコン、野本氏所有のトプコン製の機械について検定を受けることになり、4月に
高松の測量協会四国支部で検定を受けた。
ちなみに、私の機械についても必要であれば検定を受けても良いと申し出たところ、渡部氏
からあっさりと「かまいません。」と断られた。
日頃から、車や機械類は使用さえ出来たら良いと、全く無頓着(ズボラなだけ)な私は日頃の
手入れをしていない。
半年以上前からのTSの横の汚れはいつになったらきれいになるのやら。
そんな状況を知っている渡部氏、こんな機械を使用して途中で壊れたりしたら大変と即座に
判断したようである。
もっとも、こんな汚れた整備不良の機械、検定する気にもならないといって拒否されたかもし
れない。
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