第1章 長い前書き ・ 回想

1-1 地図混乱地域における基準点設置作業・高浜地区

●昭和56年、高浜との出会い

 昭和56年、私は20代最後の年に転職して父(土地家屋調査士)の補助者となった。

 当時、一部の新進気鋭の土地家屋調査士さん達は既にトランシットを使用していたが 、土
地の測量はまだ平板測量が主流であり、父も平板で業務をしていた。

 ただ、事務所の片隅に会の斡旋で購入したという、ニコンの20秒読みのトランシットがひっそ
りと置いてあった。

    「この器械どうやって使うの、正確なの?」好奇心で父に聞く。
    「よう、わからん。」との答え。
    更に
    「計算なんかはどうするの。」
    「この本に書いてあるぞ。」
    これ以上は聞くまい…。

 父が平板を使用して、私は訳のわからぬまま父の言うとおりの場所にポールを構え、布巻尺
の先端を持って測量を手伝っていた。

 「松山市の高浜地区で地図混乱地域における基準点作業があるのだけれど、良い勉強に
なるからお宅の息子さん参加されないだろうか。」と支部からのお誘いがあった。

 「とんでもない。まだトランシットにさえ触ったことがないのに・・。皆さんの邪魔になってしまう
ので、すみません。」と尻込み。
折角のお誘いを断ってしまった。

 測量士補の受験参考書にはトランシットの使用方法と測量座標でのサイン、コサインを使用
しての座標値の求め方の説明があった。
 しかし、現実には機械を見たことさえなかったのだから、受験とともに当たり前のように忘れ
ていた。



●昭和58年前後、私の業務は

 そのうち、機会に恵まれ、先輩の土地家屋調査士さんからトランシットの使い方や実際の観
測値から座標値を求め、座標値を開いて2点間の距離を計算したものと実際の2点間の距離
を比較してみてその正確さに驚いた。

 当然、結合トラバース測量など理解出来ていないが、それでも観測点1点からの放射測量で
現場を測量してみる。
 観測点1点からの測量だけでは、実際の現場を測れるはずもなく。何とか観測点の位置を変
えて境界を測る開放トラバース測量の方法で現地を測る。
 使用器械はトランシット・鋼巻尺、現場での観測値は大学ノートに記入。
 そして計算方法は関数付の電卓で手計算。
 三角形の三辺を計算して、ヘロンの公式により面積を求めていた。

 その後、今から思えばおもちゃのような性能のパソコン、シャープMZ2000を購入。測量用の
簡単なプログラムを自分なりに組んで放射測量・開放測量そして面積計算は可能となるが、現
地では、20秒読みのマイクロ読み式のトランシットと鋼巻尺。

 冬場の外業ではマイクロメータを読み、凍える手で大学ノートにボールペンで観測値を記載
すると、事務所に帰り、計算をしようと確認すれば、誤読なのか誤記なのか、68秒やら372度。
0か9か、5か6か、1か7なのか。意味不明の数字が並ぶ。

 高度経済成長と合わせて、田舎の土地家屋調査士も業務数が増加し、また測量ソフト会社
も一般に普及し始めたパソコンとセットで売り込みに来る。

 これは便利と、放射、開放、結合計算が出来るプリンタープロットの測量ソフトを購入、何と
か結合トラバース測量の真似事をするようになる。(それでも平地の見通しの良い場所での4、
5点の結合トラバース測量を実施して、閉合差2cm以内、精度5000分の1以上なら上等という感
覚の持ち主、今から思うと危ない状態)



1-2 法17条地図作製作業・鷹子地区

●昭和61年、開業と鷹子17条地図

 人より余分な時間をかけて、やっと補助者から土地家屋調査士になった。

 「松山の鷹子で法17条地図作製作業があり、今回の17条地図作業について、本会は全体を
研修として捉え、県下全域の会員の手で実施する」ということとなり、まずは水平角の2対回観
測、鉛直角の1対回観測の技術指導が本会の講師により支部毎に行われた。

 そのころ、土地家屋調査士の卵となった私は有無を言わさず基準点班に入れられ、その後
の一筆地作業まで鷹子17条地図に関わることになった。

 片道2時間かけて17条地図の作製作業とのお付き合いが始まった。

 先行して基準点作業が行われ、器械高、反射板高さをあらかじめ決められた高さに統一、水
平角については教わったとおりの2対回観測、鉛直角は1対回観測、距離は斜距離を2セット。

 当時、TSも発達して、観測角も距離もデジタル表示となり、特に距離については水平距離が
即時に表示できるようになっていた。

 せっかく便利な機能を何故使用しないのか本当に疑問に思う、本会の折角の研修も私には
全く身についていなかった。

 はじめて扱う着脱式のTSと1素子のプリズムのための三脚の設置にとまどいながら、観測
の効率を上げるために観測している間に先回りして一つ前の観測点に、三脚を指定の高さに
据えていく。

 4級基準点は単路線方式で行われた。出発する与点から他の与点を後視点として観測を開
始し、順次新点を観測、そして到達した与点でも他の与点を前視点として観測する。

 今まで、平板の延長としての任意座標しか知らない私には、どのように対応してよいのか頭
の中が混乱したが、実際に現場で作業を行ったおかげで、結合トラバース測量での既知点の
取り付け方をおぼろげながら理解することが出来た。

 更に、内業ではトラバース測量の計算。傾斜補正、気象補正、両差補正、投影補正、そして
縮尺補正。

 何故このよう事が必要なのか理解もできず、言われたまま首をひねりながらも電卓を叩き計
算する。理屈が頭の中で整理できていないのだから、計算は間違いだらけ。

 確かに、いきなり水平距離と水平角の観測結果では高さを求めることは出来ない、でも4級
基準点の50メートル前後の距離とあって補正値も1ミリあるかどうかの値、これならいっその
事、水平距離観測で補正計算をわざわざしなくてもいいのでは・・・。

  全く、測量の理論が解っていない。反省。

 翌年、続いて一筆地測量に入る。現地立会い、素図作製、官民境界の立会い、境界確定、
境界標識の設置・番号付けへと進み、一筆地観測についても、基準点からの関連付けを行
い、各境界点の公共座標値を計算する。本来のマニュアルどおりの土地家屋調査士作業に触
れ、自己流(父)の作業方法しか知らない私にとって、新鮮な驚きでもあった。

 かなり厳しい日程であったが、当時の役員は連日のように、地元の松山支部は勿論、土曜、
日曜には、全県下の会員が参加した17条地図つくりとなった。

 「17条地図は土地家屋調査士がやらねばならない。」これは、地元の土地家屋調査士は勿
論、県下の土地家屋調査士全員の使命感であったように思う。

 また、私にとっても国土調査の測量は法17条地図と同様に作製されており、国土調査地区
の境界の復元作業や確定測量業務はこの方法を十分に理解し、業務に取り入れることが必
要であると確信した。


高浜17条基準点作業に思う
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