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●おいしい話 事務所で暇をもてあましていると、机の上の電話が鳴り、受話器を取ると聞きなれた役場の 境界確認担当A係長からの電話。 「さっき、国の出先機関から電話があり、調査士を紹介してくれという事なんで紹介したいん ですが、支障ないかな。」 「ありがとうございます。支障なんてないですけど難しい事件なんですか。」 「いや、国の出先機関が今回建物を新築するという事でその用地の取得のために分筆をし てほしいという事なんよ。」 「どこの土地か場所はわかっとるんですか。」 「土地は町の所有地です、場所は○×の隣です。現在倉庫が建っています」 「えっ、それだったら役場が測量すればいいんじゃないん。役場でも測量出来るんだし、係長 さんも技術があるのだからやればいいのに。」 「いゃ、契約の関係で費用はすべて国が出すという事だし、土地すべての境界の確定も行う 必要もあるようなので専門家に任せるという事になったんよ。」 「はぁ〜っ。そう言う事ですか。押捺交渉なんかはどうなるんですか。」 「町所有地だから、押捺交渉や、隣接地の立ち会いの要請や連絡は役場でします。」 「それは、願ったりかなったりですね。いいですよやらせていただきます。」 しめしめ、たまには役場もいい仕事を紹介してくれるな。あそこの場所には、以前私が図根三 角点同士をつないだトラバー点も目の前にあるし、簡単だぞ、いつも持ち出しみたいな仕事ば っかりだもの、今度はいい仕事だろうな。もう頭の中は取らぬタヌキの皮算用。お札がひらひら と舞っている。 ●やりとり 頭の中のお札がみんな地面について、焼きイモの火種となった頃、国の出先機関の担当者 Bさんから電話が入る。 「役場から紹介してもらったんですが。仕事引き受けて頂きますでしょうか。」 「はい、喜んで。詳しい仕事の内容はどうなっていますでしょうか。」 「詳しい内容については本日文書で発送させていただきまして、それを見て見積もりをしてく ださい、ご不明な点があれば、電話いただいたらと思います。」 翌日、業務内容についての文書が到着した。 ええっと、何々、分筆登記業務・境界確定業務・現況測量業務・高低測量業務、これまた 色々くっっいているな。おまけに境界確定については規程の図郭に、隣接地土地所有者の実 印の押印をする事とある。これはまた面倒くさいなあ。まあ、担当者のBさんに電話して聞いて みよう。 「境界確認書なんですが、調査士会の使用している境界確認書では駄目なんでしょうか。」 「全部が一覧であるほうが、管理しやすいので一つの図面の中に隣接者全員が押印していた だきたいのですが。隣接者一人々の境界確認書をいただくと、かさばってしまうし、紛失してし まうんです。」 「分かりました。後、現況測量と高低測量なんですが。現況測量は分筆の際には作製します ので、そのまま使用出来ると思われますけど、高低測量はどの程度必要なのでしょうか。内容 によっては測量会社にご依頼いただいた方がいいんじゃないかと思われますが。」 「本格的なものでなくても結構です。ただ現在建物がありますので、その建物が除去した後お 願いします。取り敢えず分筆登記をお願いします。」 「わかりました。まず分筆登記を行う事にします。」 「支払いや予算の関係もありますので、見積もりをお願いします。」 「はい、早速事前調査を行って分筆登記についての見積もりを送付いたします。」 ●事前調査 まず、現地の事前調査という事で、近所にあるトラバー点から現地復元のため改めて現地用 にトラバー点を新設。 依頼地の中に密生している雑木や竹については、伐採の許可を取り敢えずもらう。 現地は海岸の町特有の狭い敷地に筒いっぱい家が建っている。前面の県道に接している部 分は問題ないが、後ろの山林と接している境界と思われる場所は、急傾斜地で高さ5メートル 程のコンクリート擁壁がついてあるが、それでもまだ不足の部分もあり、依頼地の中も山側と の境界の半分近くに高さ1メートル50程の石積があり二段構えになっている。そこからがやっ と県道と高さが同じ宅地になっている。 建物はその石積みの根と複雑に絡み合うように建っており、境界もそこのようである。当然 敷地に筒いっぱいに建物があり、その形状は直角な部分は無く、土地の形状にあわせて建築 してあるため完全に不定形。当然一気に一つの観測点から測る事が出来ない。 仕方なく、境界点を全部観測出来るように5点の閉合トラバース測量を実施、路線長102.3 9メートルで角度の閉合差23秒、座標閉合差0.002メートルと、角度の差はちょっと不満が 残るが、トラバー点の設置場所も雑草や竹を切り開き乍ら視通を確保。トランシットをトラバー 点に担ぎ揚げるのに、石積みを滑り落ち、擦り傷を作りながら二人掛りで何とか担ぎあげたり した地形的なものを考えると上出来の精度であった。 同時に現況の境界と思われる点を適当にトラバー点から測量、法17条地図の図面と対比し てみる、その結果、最初は1筆の中の分筆であるように説明を受けていたのだが、どうも、2筆 からそれぞれに分筆を必要とされるようである。 後、隣接地についても、東側の土地については、依頼地、東側隣接地の双方の宅地を区切 るように宅地部分とは段差のある山側の畑への石積みの進入路があり、そのほぼ中央にな る。国土調査には道の記載が無いため、双方が土地を出し合った進入路として中央をとった のだろうと納得。 だが西側の土地については、軽トラックが登れる程度の進入路があるが、その進入路は依 頼地側にあるようである。 相違は大体わかったので、違いを頭に入れて立ち会いをやり、境界を確定する事としよう。と りあえず見積書は2筆をそれぞれに2筆に分筆する形で送付しよう。と事前調査は終了した。 ●見積もり 「一応、見積もりを提出していただいて、こちらで審査させてもらって金額を決定したいと思い ますが、それでいいですか。」 「いいですよ。」 といった前日の確認の電話もあり、翌日、分筆登記の見積書を作製し郵送。 担当者の要望で計算書も一応添付。 料金計算の試験をされているようで何やら落ち着かない。果たして田舎の調査士の見積もり は誤っていないだろうか。都会の調査士さんから何か不備を指摘されはしないだろうか。反面 指摘されるとしたら、正規の料金からみれば安すぎると言われるかもしれない。その時はさっさ と料金をあげようといった期待もあったり。自分の仕事の中身について、何か指摘されないだ ろうかと言った不安とともに担当者の返事を待つ。 二日後、郵送していた見積書が付き、じっくり内容も検討したと思われる頃、担当者からの電 話が入る。 「見積もりしていただいた金額の事なんですが、あの金額より少し落として、この金額にして いただけませんか。」 金額にしてわずかな値引き。 「はい、よろしいですよ。」こちらも、何か指摘されると面倒くさいので、あっさり了承し、中身に ついても聞くことはしなかった。根が従順な私??・・・は、聞いては失礼にあたるのではと黙っ ていた。 だが、喉元をすぎればすぐ忘れる、私のいいかげんさが顔を出し、なんであんな金額が出た んだろう。通常、審査するんだったら、「この金額を取るのはおかしいから、削除してくれ」と明 確に言うはずだかと不思議に思い、いろいろ計算してみる。つくづく私も閑人なのである。 そうこう計算をしている内に、ふと気がついた。単純に見積もり総額から95パーセントの金 額なのである。 つまり、5パーセントだけ単純に値切られたのである。あほらし。何だこりゃ。 ●立ち会い そうこうしている内に、役場のA係長から、立ち会いの日時について連絡が入る。隣接地所 有者、役場担当係長、国の出先機関担当者が立ち会いを行うという。こちらも支障のない日程 であったので、立ち会いは三日後の午前10時と決定。 その際に西側の土地の境界について、A係長から、西側の土地所有者であった、亡くなった 隣接所有者の父親から、「国土調査は間違っている、進入路の半分は自分の所有である。」と いう再三の申し出があった事実を知らされた。 「兎に角、現地での事としなければいけませんね。」 三日後の約束の時間。全員が集合。 「明確な境界については、どうも皆さんご存じないようですから、兎に角、国土調査で境界とさ れた位置の復元をしましょう。目でみていただいたら判断の材料になると思います。絶対的な ものではありませんし、完全に間違っているかもしれませんので取り敢えず位置を復元してみ ましょう。ただ、これは現地の構造物から多少のずれが生じるもしれませんが、国土調査実施 の状態に近い形で復元します。復元の後、皆さんで納得の行く場所を決めていただきます。ま た明確な境界があれば指示してください。その位置と復元した境界が50センチ以上ずれると 地図が誤っている可能性も有りますし。国土調査後に境界が変わっている場合も考えられま す。まず西側の境界からやりましょうか。」 前回の事前調査に使用したトラバース点から、西側の隣接地との県道側と山側の2点を取り 敢えず復元、現地には依頼地と西側の隣接の宅地に挟まれ、県道から山に向かって急勾配 の石積みの進入路があり、県道側は西側の整地してある宅地と進入路の石積みの根が丁度 復元点となった。続いて山側の境界点を復元すると、進入路の丁度真ん中あたりになる。 続いて、東側の隣接境界線も国土調査の位置を復元。県道側には丁度水路があり、その位 置にほとんど合致、といっても5センチ程度の位置誤差はあったのだが。図解法での国土調査 では、ぴったりと言っていいだろう。 更に、山側を復元。依頼地から一段高くなっている山側の畑に行くための、巾50センチ程の 進入路が延長3メートルに渡って伸びているが、依頼地からのすりつけ部分は丁度東側の土 地に。山側の畑との三者境界といえる場所は山側との境界については、一段高い山側の畑の 石積みの根の延長上となり問題ないが、東側の土地との境は、進入路は丁度依頼地と東側 の土地との真ん中になってしまった。 ●声の大きさ 西側の土地所有者 「昔から、この位置だったんだと言って、死んだおやじがこの位置にみかげ石を入れているん だ。」と山に上がる進入路のほぼ中央に位置し、県道から1メートル程奥まった位置にあるみ かげ石を見せる。 「山側のほうには無いんですか。」 「いや、山側の方は知らないです。」 「それじゃあ、山側の位置は国土調査どおりでいいですか。」 「それでいいよ。問題ないです。現在残ってい石積みを延長すれば、丁度そこになるからいい と思います。私に異存はありません。」 だが、横で観ていた近所の方、こちらに聞こえる程度の小声で 「あそこの死んだ親父は人の言う事なんか聞かない人で自分に都合の良い事ばっかり言う 人だった、あの石も自分が勝手に入れたんだ。」 一方、東側の土地所有者 「あれ、この位置が境界になるんですか。この道は丁度上にうちの畑があるので、そのため に依頼地の隣接の自分所有の宅地の中に進入路を作ったんで、これは昔からなんだけどなぁ 〜っ。おかしいですね。でも国土調査でその位置を境界にしているというんだったら、仕方ない です。私は図面をみるよな専門的な事は解らないし、専門家が言われるんだったら仕方ないで す。その位置でかまいません。死んだ夫だったらよく知っていると思いますが、私にはもう詳し い事情もわからないし仕方ないです。進入路がなくなったら違った場所から道をつけないと駄 目ですね。」 山側の土地所有者は町であり、町が急傾斜地の災害防止のためにコンクリート擁壁を築いて おり、工事のためその境界は明確でなくなっており国土調査の復元で了承するとの町のA係長 であった。A係長はまた国土調査の引き継ぎ事務を担当しており、事は簡単にすすんだ。 ●判断 さて、西側の土地との境界についてどうすれば良いのだろうか。 町のほうも、この依頼地については従来からの土地ではなく、この町に進出していた工場が 経営不振のため撤収する際に買収を行った土地であり、その際に境界の確定をせずに買収し ているため明確な境界は不明のようである。 事前に西側の土地所有者の父親の話は知っており、齟齬する境界については西側土地所 有者の主張する境界に合致するように分筆で対処し、その部分を真正な登記名義人の回復と いう形で所有権移転する事で町の意志は決定していた様ですんなり決定し、西側土地所有者 も主張する境界に最終的になるためもめる事もなく決定された。 後は確定した境界に境界標を入れ、確定測量を行った後、承諾の印をつくという事で全員の 了解がついた。だが、なにか私には後ろめたい気持ちが残る。 ![]() ●内緒の話 立ち会いの後、役場のA係長と細かい打ち合わせをするために役場に立ち寄り、内緒話。 「西側の隣接境界について分筆により処理するという事だけど、どうも根拠が薄いようです ね。あれでいいんですか。」 「再々申し入れもあり、これ以上もめたくないんで上司には諮ったら、分筆により、西側所有 者の主張どおりの線にするようにという事で決定していたからいいんですよ。」 「そうですか。でも東側の土地所有者はそれに反して気の毒だと思んですが、あれは恐らく国 土調査の方が間違っているんじゃないのかな。距離的には50センチくらいの事なんだけど、あ の進入路は全部が依頼地の中ではないような気がしますけどね。逆に東側の土地にあるのが 本当だと思いますけど。」 「あの状況や、上の畑から考えてもそうかもしれんな。」 「まあ、そのあたり少し考えてあげてください。進入路が依頼地にあるとすれば、依頼地側に ある進入路の部分は工事で削りとると言っていましたし、そうすると進入路の役を果さなくなる し、お気の毒ですね。国土調査許容範囲も多少考えてもいいんじゃないでしょうかね。」 「そうやね。こちらも上司に諮っておきます。」 「それじゃ、」 何故このような会話になるのかと言えば、県道に面した部分は県道として昔分筆されてはい るが、地積測量図は無く、閉鎖された土地台帳附属地図は、全く絵図で、その形さえあまりあ てにならない状態である。したがって通常は国土調査を前提として話をすすめるためこのよう な会話になっているのである。 ●印はつきません 1週間後、A係長からの連絡も無いのですべての確定境界に境界標識を入れ、確定測量も 完了、境界確認の書類をA係長に渡し、押捺交渉を依頼した。 「東側の土地についてはその後何にもないですか。一応測量は完了しましたので書類を作製 しました。最初に押捺交渉は役場がしていただくという事でしたので、よろしくお願いします。」 「はい、承知しました。全員お立ち会いしてもらって納得してもらっているから簡単に印は押し てもらうでしょう、2日程待って下さい。」 「はい、それではお願いします。」 だが、事は簡単に進まなかった。 我々が気の毒に思った東側の土地所有者は配偶者を亡くし現在一人住まいの老婦人なの で、なにかと知人に相談をしたらしく、「やっぱりあの位置では承諾のはんこをつくのは出来ま せん。境界については仕方ないのかもしれないけど、西側の土地はあんな風になったのに何 故私の方はならないんだろうか。とにかく進入路を削ってしまわれるのは困る、外を色々考え たけれど進入路にいい場所が無い。町のほうが少し境界を譲ってくれませんかという事だっ た。」 「やっぱりな。そう思うのが普通だし。あの状態だったら進入路は古いし、恐らく国土調査より も前なんじゃないかな、国土調査が少しずれていると考えるのがどうも常識ですよ。味方する 訳ではないけど町も少し考えてあげてくださいよ。」 「そうよな。それが本当だろうね。もう一度上司と相談してみます。」 ●分筆します 2、3日してA係長から電話が入る。 「上司に諮ったら、西側と同様に処理して、進入路は西側の土地所有者とするように分筆し て、所有権を渡す事に決定しました、お手数ですがそのように処理してください。」 「ああ、よかった。それじゃあ、そのように処理させていただきます。」 これで、なんとなく心のなかにもやもやしていた気持ちが無くなった。本来ならば地図訂正と 地積更正登記をするのが本当なのだろうが、事前に調査した状態からは、この依頼地のみが おかしくなっているようなので、境界については分筆をしたところを正しい境界とし、その間に出 来た土地はそれぞれ隣接土地所有者に所有権移転をする事で、役場とも話がついた。 おかげで、すべての境界確認も完了し、分筆登記も完了した。 ●行き違い やれやれ、やっと分筆登記が完了したか、少し面倒臭かったけれど、まあ、金額的なものか らいったらこの程度かな。と登記済証、登記簿謄本、隣接土地所有者の承諾の押印入りの実 測図を作製し、請求書も送付。 三ヶ月後、担当者のBさんから電話 「あのう、倉庫を取壊ししましたので、現況測量と高低測量をお願いします。高低測量について は5メートルピッチで高さを入れてください。なお、重機を入れる都合で県道側の電線の高さも 別に記載してください。標準断面図も三ヶ所程度作製してください。そして現況平面図には真北 を記載してください。」 「前回、公共座標で計算していますので北はあれでいけませんか。1度も相違しませんよ。」 「はい、出来れば両方で方位マークを図面に記載していただければありがたいんですが。」 「はい、分かりました。」 なかなか、ややこしいぞ、一応現況図は分筆時に作製した倉庫部分を消去し、その後の更 地になった部分を5メートルのメッシュで切るだけして終了。 高低測量も依頼地はもちろん、外側に位置する進入路やコンクリート擁壁、県道そして隣接 土地についても5メートルのメッシュで高さを記載していった。 光波測距儀で高さをとっても良いのだが、間違うと格好が悪いので、レベルを使用。 県道から進入する重機のために、県道と依頼地の上空を通る電線の高さを計測する、電柱 に固定している部分については簡単に測れるが、弛みまでは分からない。計算なんてまず無 理、仕方なく一番垂れている部分と電柱に固定している部分を観測し後はCADに任せ、図化 した後、その距離を読み取る事にした。要領が分からず試行錯誤をくり返し乍ら、なんとか格 好だけはつき、成果品を送付。 ●詰め だが、完成品を送っても担当者からは受領したという電話すら無く、こちらとしては、冷や汗を かきながらの図面作製だったため果たしてあれで良かったのかどうか不安な毎日が続く。更に これの見積もりおよび請求書の送付の要請すらない。 成果品の納付が3月だったため、担当者の転勤等の関係で遅れているのだろうと好意的に 解釈し、しばらく待っていたが、担当者からは何等連絡が無い。とうとう6月になり、私もしびれ を切らし担当者に電話。 「あれで良かったでしょうか。」 「はい、あれで結構です。」 「あのう、現況平面と高低測量の請求と見積もりはしなくてよろしいんでしょうか。」 「えっ前回の見積もりに入っていなかったんですか。」 「いや、あれは分筆登記のみなのですが、見積もりの内訳にはそう記載しておりましたが。」 「えっ、そうだったんですか、良くみなかったんですが。」 「・・・・。」 「今度建物の新築の際、表示登記を出しますので、そこで費用を突っ込んでください。」 「はぁ〜っ。」 情けない、まんまとやられてしまった。建物表示登記なんて、17条地図の所在の明確な場所 で、そう大きくもない建物であればたかが知れている。そんな費用にこの現況等の費用を突っ 込んだら何軒表示登記をすることになるのやら。後で会計検査院に指摘されるのがおちだ。こ の担当者、本当に分かっているのやら、タヌキなのやら。 迷える小羊、いや中年太りのブタは頭から湯気を立て、またしても血圧が上がり、肝臓に悪 い、ビールを今夜も流し込んだのだった。 ●手抜き ビールの酔いもさめ、この仕事を忘れた頃、また担当者のBさんから電話。 「一ヶ所位置のおかしい場所があるらしいんですが。」 「どこでしょうか。至急確認してみます。」 現地に急行。現地には建築会社の担当者が待っていた.現地で地積測量図をみながら確認を とると。どうも小さい水路の石積の場所で、Bさんも「どうせここはコンクリート擁壁に築きなおし ますから、簡単にペンキでもつけておいてください。もし何かあったら確定した座標で復元しま すので」といっていた場所の境界だった。 確かに、地積測量図とは違った位置にペンキがある。地積測量図は間違いなく作製されてい る、ただ現地のペンキが違っている。どうしたんだろうか。 「あっ、この位置は水路の石積が崩れており現地には明確な位置を示すものがなかったの で、計算で位置を出した場所だった。確か、土木用の写真をとる時にとりあえず、ペンキを吹こ うにも位置が分からないし、殆ど写真は一緒だからこのあたりにペンキを吹いておけ、後で座 標の復元をするんだからもういいや」とそのままにしていた場所だった。 「ありゃ、復元するの忘れてる、ペンキがそのままになっていますね、すいませんすぐ復元し ます。」機械を据え、確定した座標で境界を復元する。 やれやれ一件落着。 ●1センチ違ってます だが、次々と問題は起こる。またまた担当者のBさんからの電話。 「分筆していただいて、現況の確定測量もしていただいた場所の記載されている辺長が1セン チ程おかしいんですが。」 何でも、更地になった依頼地を今度建物を建築のため現地で待っていた建築業者が確定測 量をしたらしい。 建築業者は倉庫を壊し更地になった後、建築するため邪魔になる雑木や雑草を伐採し、一 番見通しの良い場所に機械を据え観測したものらしい。更地になった場所だけに、私が測った 状態とは雲泥の差である。 おまけに良くみると、東側の50センチ程度の巾で高さ1メートル程に盛り上がった状態の進 入路の上り口の途中のほぼ中央に打っていた金属鋲は、建物を取毀したさいに小型のユンボ で10センチ程度削り取られており、そのため位置が依頼地寄りの方向に移動している様子 だ。 残った調査士会会標にも、ユンボの爪痕が残り、無残にも曲がっている。 更に、県道との境界については現場打ちのU型側溝があり、構造物はすべて県道内にあり、 そこから10センチの位置に境界が確定され、その位置にはすべて金属鋲を仮に設置してい たのだが、これもものの見事に建物の取毀の際に、きれいになくなっている。まあ、この金属 鋲については造成により飛ぶことは最初から分かっていたので仕方が無い。 ●ぶつくさ 管理業務までは依頼された覚えは無く、建物の解体業者がやった後始末はこちらには関係 がないといえば言えるのだが、そこは品位のある田舎の調査士、ぶつくさと文句を垂れながら 確認していく。 確かに境界同士の距離が地積測量図に記載した長さと1センチ程度相違しているものがあ る。当然先程の東側の進入路上の鋲は相違している。 「倉庫が筒いっぱいに建ち、雑木や雑草が茂り、足元が殆ど見えない状態で5つのトラバー 点を使用して、あんな状態の測量で1センチ程度違っていると言われたらたまらんな。おまけ に解体業者の後始末までこちらがやらされるなんて、実際は担当者がきちんとその都度管理 にこんかい。」と言ってはみたものの、長いものにはすぐ巻き込まれなければやっていけない。 進入路の上の鋲については打ち直しが必要だが、幸いな事に外の相違する位置は境界同 士の延長上に2、3ミリ程左右に移動すれば全部の延長が合致する、隣接地の境界には異動 がない。 「こんなところで、1センチ以内に納めるなんてすごいですね」とお誉めの言葉でもあるのかと 思ったら、全く容赦のないお役所的対応であった。 「1センチの事を言うんだったら、更地にした後測らせてくれれば良いのに」多少憤慨しなが ら、この調子では建物の表示登記も 「建物の壁をめくって調査していただきましたか。建物の位置の確定のため、建物の角すべ てに座標をつけて表示しておいてください。建物の材質についても、構造を確認されるのです から、きっちり善し悪しや、そのものが使用されているか調査してください。建物表示登記も依 頼すると言ってあるのだから、工事中現場に立ち寄って中を覗いてもらえばその程度は解るで しょう。」 なんて柔らかい口調で、自分の管理は棚にあげて来るかもしれないな。我ながらいささかい やみな想像。 いつもの事ながらおいしい話は必ずそのままでは済まない。 ●反省 確かにトラバー測量のみかけの精度は良かった。1センチ程度はいいだろうと思うのは実際 に測量をする人間の考えであって依頼者にすれば、現況が全く違ってもプロに依頼したのだか ら、その結果が大事なのである。したがって更地にした時にその値が相違していたのでは依頼 した意味がないのだ。 たとえその土地が乙1地区の土地であっても、結果は甲1以上の事を要求される。精度区分 うんぬんというのは我々の都合での事であり、結果が優先される。つらいなぁ〜っ。 原因として、条件の悪い状態であったため、境界点に設置した境界標が直接視準出来ず、 ピンポールの高さを上げて観測をしなければならなかった事。 そして、じっくりとトラバー測量の結果を分析すると角の閉合誤差が23秒ある。みかけの精 度である閉合誤差は0.002メートルであり、非常に精度が良い、だが単純に路線長102メー トルを直線とし、角度の誤差23秒とすると1センチ程度の誤差になる。 「みせかけの精度にごまかされてはいけませんよ。確認するんだったら開放トラバーで計算し てみて出発点と到達点との間に生じる位置誤差が本当の誤差ですよ。」 基準点測量研修で常に言われている言葉を思い出す。1センチ程度の誤差がトラバーで生 じ、それを補正しているのであるから、当然各筆点にその誤差がしわ寄せされているのであ る。 単に、険しい地形でもあり、見せかけの精度だけが良かったことに満足してしまった事に対す るきついお灸であった。
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