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● 年寄りの冷や水 最近、年のせいか、疲労回復のスピードが衰えている。ちょっと無理をして頑張った運動の 後、10代20代では痛まなかった筋肉も、30代後半には翌朝しっかり痛み出し、40代半ばに なると当日は勿論、翌日も痛み、とうとう3日目にはドスンとくる。 若い人からは「年寄りの冷や水」と笑われ、こんなはずでは無かったのに、と日頃の鍛練不足 を嘆く事になる。 基準点の研修をやるようになり、20代、30代の若い人達と山頂の三角点目指して、道なき 道を雑木をかき分けながら登る。1個所だけなら何とか誤魔化せるのだが、1日に3つも4つも 三角点探しに山に登ると、とうとう「先に行っといて。」と休みながら登ることになる。これが二日 も続くと、もう翌日は地獄の苦しみなのだが、体力しか自慢出来るものがないから頑張らなくて はと、ただただ歯を食いしばり、へらす口を叩いて頑張る。 だが、その反動か、研修が終わった翌日から、1週間は全く仕事が手に付かず、ボーっとして いる状態になる。 GPSを購入し、効率的になったと言っても、それは観測する時だけの事で、与点を探す時は 同じ事。かえって大規模な地域での観測が可能になった事から、今までより余分に三角点に 登らなければならなくなって来た。 観測にしても、すべての与点で大規模な伐採をする訳にも行かず、伐採を最小限度にとどめ るために、当然のように、GPSのアンテナの高さを上げる事になる。 それに伴ってまっすぐあがっているかどうか確認するための必要器材が多くなる。まさに年寄 りには不向きな器械だ。と嘆いていては話が続かない。そこは我慢我慢、後が楽になると言い 聞かせている最近の観測である。 ●横着三原則 自分で自覚出来る身体の調子でさえ、このとおりなのだから、身体の一番てっぺんにある頭 の働きは推して知るべし。 元々よろしくないところに、勉強嫌いという、年齢に関係の無い障壁がある。我が子供に「勉 強せいよ。」と言っても、これでは説得力が無い。おかげで我が家の子供達は一向に勉強しよ うとしない。 そんな調子だから、難しげなGPSの解析については、若い者にお願いしようと、私より少し若 いW氏に任せっぱなしである。 もっとも、私たちの仲間には、解析ソフトはあるのだがGPSの受信機からデータを取り込むた めの基盤が一つしか無い為に、誰か一人が代表で解析する事になる。 我々の仲間は愛媛県全域から観測に集まる為に、各人の移動距離が長く、場所によっては3 時間を超える場合もあり、観測終了後、直ちに解析にかかりその日の内に結果を出すことを 原則としている。そうなると限られた時間に終了させるためには、どうしてもスムーズに解析す る必要があり、勉強して理屈の解った、解析に慣れた人間が行う必要だと自分達に都合の良 い理屈を勝手につけW氏に全面的に頼ることになる。 当然のように、勉強嫌い。仲間では年寄だから、みんなが労たわってくれるだろう。暇な時間 は酒を飲みたい。 という横着三原則に適応する私と新居浜の宝さんに解析のお鉢は廻って来ようはずがない。 ● 移動 だが、この三原則にあぐらをかいていた我々に、ついに報いの時が訪れた。 それは、GPSの使用が建設省公共測量作業規程にも認められ、従来と細かい部分が変更と なり、それに対応してGPS各社の解析ソフトも変更された。 早速、我々がGPSを購入したメーカーから、新ソフトでの研修会の案内が来た。 日頃、解析を全くせず、W氏にすべてをまかしてしまっている我々としては、若い他の二人は 忙しそうなので、枯れ木も山の賑わい。どうせW氏がすべてをやってくれるから横で見ておこう 、後は都会の夜を満喫しようと、僻地に住んでいる私にとっては四国を半分以上移動するとい う研修会場の高松市へと向かった。 朝早くJRで出発してもいいのだが、少し研修開始時間より遅れる事になる、こういう事を我が W氏は許してくれない。 本来こういった時間厳守は年寄りがうるさいのだが、本当は懇親会があると聞いて参加した わが年寄り軍団二人はいたって鷹揚。酒さえ飲めれば良いのだから始末が悪い。 それでも今回は、少し真面目なところを見せなければと、前日の夜、JRで移動して新居浜に宿 泊、翌朝、新居浜から高松まで車で三人が同乗して研修場所にやって来た。 ●不埒な二人 研修場所のGPS販売会社の高松支店に到着。研修開始時間には悠々と間に合う。既に席 順は黒板で明示してある。それに従って着席。 我々にGPSを販売した社員の顔も見え、お互いに会釈を交わす。 「え〜っと、1、2、の・・・7社ですか。今日の研修会に来ているの。」 「12の会社が我が社のGPSを購入されています。」 「四国で既に12社か。ここのメーカーだけじゃないだろうから30社以上は入れているという事 だろうな。はて、四国で測量会社は何社あるのだろう。まぁいいか。」 「今回参加した7社の内2社は新規に購入された会社のようですね。」 「僕らだけじゃね。調査士は。」 と言いながら、周りを見渡す。大きな測量会社の新進気鋭の担当者ばっかりのようである。各 社2名から3名が参加されている。どの顔も真剣そのもの、後の懇親会を楽しみにしている不 埒な輩は私と宝さんだけの様である。 だが、心配はいらない、我が社にはW氏がいる。W氏も他の測量会社さんに負けじと真剣そ のもの。 やがて、研修は、真剣なまなざしの中にやや不純な二人を入れて開始された。 ●研修 ノート型パソコンを大型の21インチのディスプレイにつなぎ、受講生の方に向ける形で研修が 開始された。 既に、机の上には変更されたソフトのマニュアルが用意されているが、各自GPSの解析ソフト のインストールされた自分のパソコンを用意しての解析研修となるため、各社とも1台のノート パソコンを二人が覗き込むようにして熱心に聞いている。だが液晶の画面は横から見ると、な かなか見ずらいものである。 私と宝さんは、はなっから諦め、W氏の邪魔をしては悪いと、こちらに向けてくれた大型ディス プレイ装置を眺め、解析ソフトの解説を聞く。 ソフトの解説の担当とパソコンを実際に操作する担当で二人掛かりでの説明である。 解説と同時進行で画面が対応してくれるため、今まで解析ソフトなど操作などした事のない私 でも何時の間にか、自分自身で操作をしているような気になってしまう。 ● スピード 解説を聞きながら、W氏の操作を時々横目で見ていると、W氏、先に新しい解析ソフトのテキ ストを送付してもらっている様で、既に、ある程度の予習をしているようである。練習問題の解 説と同時に、解析に取り掛かり、即座に終了している。 彼が我々の解析を一手に引き受けてやってくれているので、慣れてしまっていると言えば、そ のとおりなのだが、他の各社の担当者と比べても随分早いようである。 だが、彼のスピードが鈍ってきた。彼に理解力が無くなったのではない。 単にパソコンのスピードの差なのである。 彼のノートパソコンはまだ購入してやっと1年が経過しようかという品物なのだが、新規購入し た会社が使用している最新のものと比べると、完全に倍半分のスピードの違いがある。画面の 液晶の表示も大きく、横から見ても真っ暗にならず、鮮明である。 残念だが、解析の量が増加すれば、じっとパソコンの計算を待つ時間が多くなり、パソコンの 処理スピードが比較される。そして否応なくその差は加速度的に開いて行く。 かって、我々がGPSの購入を決めた際のデモのパソコンから比べれば、彼のパソコンのスピ ードは随分と早いと思ったのだが、1年も経てば、もう見違える程の進歩である。このスピード に我々の頭がついて行けようはずがない。 ●後戻り 最初にフロッピーの初期化から始まった。バックアップについてしつこい程の注意があり。フロ ッピーを初期化し、バックアップデータを取る。そして解析を始める。 レシオ 3以上。リファレンスバリアランス10以下の目安、そして残差を見る事により、観測条 件の悪い衛星を除外して計算出来る事等の説明の後、基線解析を開始。 参加者は測量については玄人なのだが、パソコンについてはあまり慣れていない。操作を間 違えては、「ありゃ間違えた。後戻りが出来ない。」と簡単にパソコンの電源を切り。再度電源 を投入してWindowsを立ち上げる。解説をする度に、「ちょっと待って、おかしかったんで、立 ち上げなおしてます。」と、いう声がある。 とうとう、担当者も「Windowsの場合、電源を切ってしまうんじゃなくて、CtrlキーとAltキー、そ してDeletキーを同時に押してもらえば、良いです。リセット出来ますので、そうして下さい。」参 加者全員その事は知らなかったようで、みんなパソコンの隅っこの方にマジックで小さく書き込 んでいる。そんな調子で講義は進む。 ● たばこ 狭い研修室に30人以上が研修を受けている。休息時間もほとんどない。お昼の弁当を食 べ、しばらく説明を聞いていると、段々眠たくなって来た。空気が悪い。脳が酸欠状態になって くる。 男ばっかりの為か、あちらでも、こちらでもたばこの煙が浮かんでいる。普段我々の仲間は一 切たばこを吸わない。だから、山に登った時や、事務所の後始末の時でもたばこの火を気に する事がない。なによりも空気が汚れる事がない。ただ一人Y君のみがたばこを吸うため、彼 がたばこを吸いはじめると「たばこの煙とにおいが嫌だから、あっちに行って。いいかげんたば こやめんかい。」と村八分にされている。 私も20年前は一日60本のたばこを吸うヘビースモーカーだったのだが、現在は止めてい る。以前喫煙をしていた者の方が、たばこに対する反応が鋭くなる傾向にあり、拒否反応をあ からさまに起こす事になる。4時間もせまい部屋にたばこの煙と閉じ込められると、どんどん空 気が淀んでくるのが分かる。ついに午後の昼食後、うとうとと寝てしまう。これは、私が気が緩 んでるのではなく。空気が悪いのだ。 研修中は携帯電話の電源を切り。 禁煙にしましょう。 ● やって下さい 一通りの説明が終了し、「それじゃあ、最後に簡単な練習問題をやって終わりましょう」と言う ことになったのだが、それまで漠然と聞いてた私と宝さんは、「やれ、やれこれでやっと終わる ぞ」と資料の整理にかかったのだが、顔なじみのGPS担当者が 「宝さん、この器械空いてますから、どうぞ使用して下さい。」と自分達が今まで説明用に操作 していたパソコンを使えと親切に言ってくれた。 宝さん「いいって。わざわざ恥かかんてもええって。」 私「折角やけん、やってみましょうや。」 「出来んと思うけどな。ほならやってみるで。」 「旅の恥はかきすてですけん。やりましょ。」 と、いい気になって操作をしたのが間違いの元だった。 いつもの様にドタバタ劇が始まる。解析などやった事が無い。今まで受けた説明も頭の中だけ で分かったつもりになっただけの中年二人に、いくら簡単とは言え練習問題が出来る訳がな い。 ●ドタバタ 「ちょっと、このテキスト見てください。」 「このページかいね。」 「これでいいんやったですかね。」 「さっき、これは説明してくれたで。」 心配して、担当者が見に来てくれる。 「大丈夫ですよね。」 「いや、大丈夫じゃないわい。」 「うそぉ〜っ。」 「恥ずかしいから、この21インチの接続は止めてくれる。」 「はい。……。」 ちょっと、あてが外れてしまった担当者。私達がかなりGPSを使用しているというので、全員が 解析出来ると思ってくれていたようであるが、ついに我々の実態が明らかになってしまったよう だ。 研修参加者達が練習問題が終り、続々帰っていく。だが、我々二人は遅々として解析が進ま ない。 学生時代、試験勉強などほとんどせず、いきなりぶつっけ本番で、何とかなるさと切り抜けて きた。今回も見ていろ、パソコンは壊れる事はないさと開き直り、解らぬまま解析をする。 ●間違い始め 「さっき、ここは説明で言ってましたよね。」と強引に、しかも後先を考えず、どんど゛ん入力して いく。練習問題は取り込んだ観測データをテキストファイルにした1セッションのデータを解析す るのだが、最初に取り込んだ後、レシオとリファレンスファイナンスを見てみると、えらく値が悪 い。廻ってきた担当者に 「値が悪いんだけど、このデータおかしくない。」 「いえ、みんな同じデータですけど、他の方はいい値出てますよ。」 「あれっ。最初から操作間違えたかな。」 「まぁ、練習ですから、どんどん先に進んでみて下さい。」 完全に諦められてしまった。 更に与点の経度・緯度を入力。1点固定の仮定網計算をやった後、再度与点の3点を固定 し、新点2点の値を得る形の実用網計算のため、与点3点の経度、緯度を再度入力し、計算し てやり、大体計算が出来たのだか標準偏差がえらく悪い。 観測図をパソコン画面に表示してやったのだが、なんと与点の1つの位置が反対側に表示さ れている。 これでは精度が良いはずがない。どうやら解析以前の問題があるようだ。 丁度、練習問題の解析は終了し、帰り支度も終り、時間潰しに周りを散歩して来たW氏もやっ て来た。 「出来たで。」 「出たのは出たんやけど、結果がおかしいんよ。」 「どれっ。」 と、観測図を覗き込んだ彼は「ありゃ。これは与点の入力の入れ間違いよ。」 ●一応、反省 通常なら「も一遍。やらんけん。」と言う言葉が彼の口から出るのだが。さすがに我々二人の 実力を知っている彼は、「まあ、ここまで出来たけん。ええとせんかい。」 会場には、ついに我々だけになってしまっている。販売会社に迷惑がかかってしまうのが悪い と。「もう。帰りましょうや。」 さすがに、なまくらとぼんくらの二人も声をそろえて「帰ろ。」 それでも。「勉強になったかい。どんな事かと言うのが大体解った。」 何の事はない。解らないと言う事が解った。 それでも、大体の流れは知る事が出来た。 実際のデータを扱うという事がいかに難しいかを身を持って知らされた研修でもあった。 確かに実際に解析をし、その良し悪しを切実に自分で感じないと、実力・知識とも身につかな い。 これは本当です。横着三原則では、門前の小僧にはなれないらしい。
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