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●怖いもの知らず GPSを購入し、5人が自己流でどんどん観測を開始し始めた。ただし、一人が群を抜いて勉 強し、あと一人がこれまた趣味の領域で勉強している。残された我々三人は観測の度に復習 する程度であるから、完全に落ちこぼれ状態である。 まあ、それでも観測出来ているからいいだろうと完全に先行する二人に頼りきってしまい、た だ受信機の据え付け係りとなり、電源を投入するのみである。まさに怖いもの知らずの典型。 高い器械がもったいない。 単純に二人の会話を聞きながら、そんなものなのかなと思ってしまう、若ければ門前の小僧 で知識も身に着くのだろうが、そこは頭の固くなってしまっている三人である。一向にGPSの知 識は向上せず、折角今まで研修した基準点について、理論については現状維持すら危なっか しくなってきている。 ●建設省公共測量作業規程 そんな中、建設省公共測量作業規程が改正されたので講習会に参加。 さすがに国土地理院の専門家たちの説明だけあって、明快に説明がなされるが、悲しいかな 全部判る訳が無い。当然の事のように説明は頭の上を通り抜け、興味のある部分だけが耳に 残るいつものパターンで説明を聞く。 基準点について厳密網を行なうのであれば、方向角の取り付けが不要となった。自然環境へ の配慮だそうである。確かに、我々のやった2級基準点測量でさえ、かなりの伐採である、国 土地理院が行なう、三等三角点以上の測量であれば、我々以上の伐採が必要になり、当然自 然環境へ及ぼす影響はあるだろう。 横目で後ろにいるW氏に、「原因はWさんじゃない。」 以外にも神妙に、「そうかもしれんな」と苦笑い。自覚はしているようである。 さらに、同次の基準点を使用しても良くなった。1級基準点作製にあたって、与点として四等 三角点を使用出来るそうである。 1・2級基準点については与点同士を結ぶ線からの飛び出しの角度についても40度以下、 路線の中の挟角は50度以上までに緩和。3・4級基準点についてはそれぞれ50度と60度に 緩和された、 1級基準点の新点の制限が2級基準点と同様に 与点の数=2+(新点数/5)以上に統一された。 いろいろ良い事の説明があるのだが、それ以外はなかなか判らない。後は適当に聞いておく 事になる。 ●セッション GPS観測についても説明があった、5キロまでなら使用できますよ。その5キロといのは与 点、新点、与点を結ぶ距離が5キロであり、与点と与点の直線距離ではないそうである。更に 与点を結ぶ直線から500メートル以内の飛び出しの距離であれば良いとの事である。「GPS を使うんだったら、無理して山の上に登らなくても、近くに条件の良い三角点があり、路線とい うか与点で囲む形が良ければれば、それを使用してもいいかもしれないね。」研修で散々険し い山に登らされ、山登りには抵抗のある軟弱調査士のため、ついつい楽なように考えてしま う。 今回GPSを使用して与点四等三角点3点を使用し、南北に長い地形に2級基準点の新点5 点を作製するために3セッションで行う予定であり、既に観測点でそれぞれカーテンを測り、衛 星情報により一番北端から第1セッションを開始し、真ん中の囲まれる地域を第2セッションそ して一番南端を第3セッションとし、重複基線は各セッションの隣接する基線とする観測計画を 立てていた。 だが、今回の地理院の説明では、環をつくる要領で重複基線を作製し、チェックを行なえとい う説明であった。 「あれ、今までのやり方ではいかんの」 「そうですね、ちょっと考えましょうわい。」 急遽、講習会の会場で、中央のセッションを第1セッション続いて南側を第2セッションとし最 後に北側を第3セッションとした。これで中央のセッションの環の形で基線を作る事になる。 「講習会、来て良かったね。」 「そうですね。」 これ一つで十分講習会に来た価値があった。 ●準備と移動時間 観測当日、観測計画では朝7時40分からの観測である、しかし準備はそれ以前に始めなけ ればならない。 今回の観測のためのカーテンの観測を行なった際に、かなりのカーテンがあり、与点はすべ て偏心を行なったのだが、山の頂上という事や荒れた雑木があり、それでもまだかなりのカー テンがある。 観測計画によれば、与点では衛星が3個しか確保出来ないそうである。カーテンを測ったの は、通常の器械高で観測しており、有る程度受信機の高さを高くすれば何とかなるだろうと楽 観的に考えていたのだが、果たしてどうなるのだろうか。 観測の前に、受信機は据え付けていなければならない。観測場所は一番近い私でさえ車で1 時間。W氏は4時間30分もかかってしまう辺ぴな場所である。 ●車中泊 「前日の夜に来て。泊るかな。宿舎取ろうか」 「いえ、どうせゆっくり泊まっている時間はありませんから、ホテルなんか泊まりません。現場に 行って車で寝ます」 「大丈夫かな。まだ寒いで。」時々零度近くになる天候の中、果たして大丈夫なのだろうか。 「測量する時はいつも、こんなんよ。慣れとるけん。」 そして観測日の前夜、彼は深夜に私の事務所にやっ来た。 「ほんとに大丈夫かな。」 「大丈夫て。いつもじゃけん。寝具も持ってきたけん。」との会話の後、彼は現地へと車で移動 した。 ●寝ぼけ眼 彼と分かれ帰宅したものの、私も朝早く出発しなれればと、目覚ましとにらめっこをしているう ちに、予定していた時間よりも30分近く遅れて、しまったとばかり、あわてて起きだし、寝ぼけ 眼で車に飛び乗り、ライトを付け目的地に向かう。 やっと待ち合わせの現場に到着。時は既に6時を廻っているがまだ薄暗い。 現場には、同じようにライトを付けた車が停まっている。 「悪い。ごめん」 すっかり、準備を整えた姿の彼が「いいえ。そんなら行きましょか。」 目的の与点四等三角点横はえに向かう、GPS受信機・スカイレッグ(3メートル脚)・脚立をそ れぞれ手に持ち乍ら、山道をガチャガチャと音を立てながら進む。 ●はじめて据える、スカイレッグ(3メートル脚) 脚立を使用してスカイレッグを据え付ける、実際は三脚の脚の長さが3メートル60センチの 長さらしい。これを伸ばしてしまうと、当然一人では据え付けが出来ない。 造園用の1メートル50の高さの脚立を持参し、一人がその上にのり、整準台の求心望遠鏡 を覗きこみながら、その脚をあっちへ、こっちへと気泡菅の気泡を見ながら指示し、下のもう一 人がその指示を実行するのだが、日頃このような経験がない我々にとって息がもう一つ合わな い。通常の三脚の据え付けは大概が一人で行い、踏み込んだ後で、高さの調製をする際に、 手伝ってくれる人に「そこの脚、もう少し伸ばして、縮めて」とかやるだけである。 早朝の、やっと朝日が当りだしたが、まだ薄暗く、鋲を探すにも、下のほうは暗くぼんやりとし ている。整準台の求心望遠鏡を覗いて、測点の鋲がどこに有るか探し当てるのだけでも、一苦 労である。 「何か、目立つ物を鋲の横に置いて下さい。GPSのケースを横に置いて下さい」。 「こうかい。」 「ああ、なんか黄色いものが見えました、次は白いものを横にしてもらえますか、コンペックス 持っていますか」 「持っているよ。こうかい。」 「観測点にある程度の位置にあたるようにして下さい」 「10センチの位置にしたよ」 「わかりました。ええっと、これがこうだからこの脚をそっちにやって下さい。」 「こうかい。」 「いや、もう少し、こっちです。」 「はい、いいです。今度はコンペックスを縦にして下さい。」 「はい、今度は縦に10センチの位置にしたよ」 「もう一回、横にして下さい。ああ、大体わかりました。今度はコンペックスの丸い字のある場所 を鋲の位置にして下さい、まず縦に、そして横に。はい、OKです。」 やっとGPSの受信機が据え終わった頃には20分が過ぎようとしていた。 「すごいね。高いね。」 「この下で充分観測出来ますよ。」 たしかに、光波測距儀を持ってきて観測する事が出来る広さは充分ある。 ●雨の中 7時40分第1セッションの観測がはじまるが、あいにく雨が降ってきた、まだ小雨であり、近く の木立の中に非難すれば、何とか雨はしのげる程度である。だが、奥の山の頂上を見ると完 全に靄がかかっている。 果たして、こんな天候でもGPS観測は大丈夫なのだろうか、GPSは全天候型というけれど、 本当に大丈夫なのだろうか。 雨はついに強く降り、風も強くなってきた。作業服の上に着たジャンバーに雨が染み込んでく る。 「GPS観測も中止せんといかんのじゃないのかな」。 まだ購入時の借金の返済が終わっていない高価な器械だけに故障が心配される。私など は、以前、光波測距儀を大雨の中で使用し、冠水状態にしてしまい光波測距儀の部品を全部 交換せざるを得なくなり、修理代の高さに肝をつぶした経験があるだけに余計な心配をついつ いしてしまう。 3セッションとも同じ場所で観測するため、本当に退屈で雨の心配だけをする事になってしま った。 そうこうするうちに、第1セッションの観測は9時に終了。続いて第2セッションの観測が9時 30分から10時40分までの観測である。 私はこの観測点でじっと我慢の子なのだが、他のメンバーは忙しく観測点を移動している。中 には30分で海抜5メートル程度の平地から100メートルの高さの山の与点に、山の傾斜を器 械類を背負って急いで登り受信機を設置しなければならず、まさに時間との戦いである。雨は どんどんひどくなる。気温もそれとともに落ち、おまけに風が相当強くなってきた。ついに、安全 靴にまで雨が染み込んでくる。 第2セッションの予定時刻になり、電源を投入する。見慣れた画面からファイル入力の画面 に移ると、「あれ、さっき入れたファイル名の最初の状態と違う。正月からの日時が1日多くなっ ている。何故だろう。」いつものように、またまた心配の種が出来た。また操作方法を間違った のだろうか。ドキッ。 「慌てるな。慌てるな」と自分にいい聞かせ、じっと考えてみる。 「ああ、そうだ、グリニッジの世界標準時間では日本時間の9時が0時だから、それで日が変 わるか。」自分で解釈し、ほっと一息、何事もなかったように以後は装う事にした。 やっと、どうにか1・2セッションが終了し、11時には全員私の位置に集合。 第3セッションが14時30分から15時40分となっているため、この間の時間を利用しての昼 食となる。 ●ビール 何が楽しみといって、こうなったら昼食の缶ビールとおしゃべり程楽しい物はない。いろいろ 昼食の嗜好を凝らし、前日焼肉と焼きそばで昼食と決めており、いろいろ買い出しをしていた。 早速カセットコンロに鉄板を乗せ、焼肉を焼き始める。 またたくのうちに、肉は無くなり、焼きそばへと移る。男の料理やる事はざっとしている。麺を ほぐすためにビールを掛けて調理。随分と乱暴なのだが、そこは屋外の料理、なにやらキャン プ気分となり、何を食べてもうまい。 家でもこのくらい料理をすれば、奥さんの機嫌もいいのだろうが、そこは研修だけが楽しみに なっている連中、研修のときだけの甲斐甲斐しさである。 GPS観測中は独りぼっちで話し相手もなく、じっとしていたため退屈でしかたなかったので、 ここぞとばっかりにおしゃべり。だが、ここでは、誰も失敗をした話はしない。みんな心の奥にじ っとしまっている。一人が失敗をした話をすると安心したかのように喋りはじめる。 ●体力 おなかも一杯になり、第3セッションの準備にとりかかる。第3セッションでは、20分ほどの山 道を器材を背負って登らなければならず、かなりの体力を必要とされる。 下見、伐採、偏心と計3回登っているが、出来ればもう登りたくない場所でもある。 一人で登れば、気軽に休み乍ら登るので30分程度の山道である。しかし、この研修に参加 した連中、体力勝負とばっかりに20分程度でのぼってしまう。体力の落ちかかった中年の肥 満体にはきつい道のりである。 今回、W氏とY君がこの山道を登るという事である。13時10分、二人は受信機、スカイレッ グ、脚立を担ぎながら山道を登っていった。 雨が強くなり、気温も3度か4度程度になったようである。風も強く、体が感じる温度はもう零 度といっても良い。 14時30分からの観測という事で、私は車の中で雨を避けていた。と突然「14時から観測を 開始して下さい」とトランシーバーから連絡が入る。 慌てて観測のため、受信機の場所に走りより、電源を投入。 W氏と一緒に山に登ったY君も、山から下り自分の観測現場へと急いで向かう。 14時丁度観測は開始された。衛星の状態も私の現場では常時6個受信しており、順調であ る。 さあ、雨に打たれてはかなわないとばかり、再び近くの車で雨をさけ、観測開始から30分ほ どした時、風と雨が強いため、受信機の状態を確認にいこうと、車から出た瞬間、後ろから呼 び止める声がする。W氏ではないか。 「どうしたん。」 「寒いから、運動しに下りてきました。ついでに観測点の写真を撮ります。」といって私の観測 点の写真を一緒に撮影した後、 「大丈夫かな。」 「これくらい、丁度いい運動ですよ。」 彼は再び山に登っていった。 彼は私よりも三つ若いだけである。なのに、この体力の違い、夜な夜な赤提灯のともる頃にし か体力を発揮出来ない私とは大違いである。 ●反省 本日の観測は終了した。全員ずぶ濡れになり、車で約1時間あまりの道のりを走り私の事務 所へと向かう。さすがにもうこれ以上の仕事をするのもいやになり。 とりあえず受信データのみをフロッピーにダウンロードし、細かいチェック等をしないまま、そ れぞれ帰路についた。 だが、ここで重大な落とし穴が待っていた。 各自、忙しい日々を過ごし、新しい別の現場に集合した時。計算を受け持つ(全部を受け持っ ているといった方が正確なのだが)W氏から 「前回の観測でアンテナ高さ、0.082メートルになっていました、間違ってますよ。注意してく ださい。今回は大丈夫ですか。間違わないでくださいよ。」との指摘がある。 「えっ、前回は3セッションとも同一の場所での観測だったけれど、確実にアンテナの高さは 入れたよ。記憶もあるし、それ1セッションだけが間違っているんじゃない。」 「いいえ、全部違っています。」 「3メートルは越えていたのは間違いないし、0.082メートルという事は考えられない。」 「恐らく、3.082メートルの間違いじゃないですか。」 「いや、確かに3メートル以上の数字を入れたが3.082ではなかったと思う。」 「分からなかったら再測です。調べておいてください。」 大変だ、3セッション全部、私の位置が関係している。再測となると全部の観測のやり直し だ。自分の顔から血の気がひくのが解る。 雨の現場だけに、手簿についてはグチャクチャになり、判読不可能になっていた。ひょっとし て捨ててしまっているのでは。いや、恐らく捨てたはずだ。 他のみんなに悪い。どうしょうか。土下座でもしてあやまろうか。頭の中を暗い考えだけが浮 かんでくる。 ●入力の単位 新しい現場で受信機の電源を入れ、入力を始めるとアンテナ高さがフィート表示になってい る。ひょっとしてフィート表示で入力したのでは。 翌日、W氏の事務所に 「ひょっとして、フィートで入力したんじゃないかと思うんだけど。」 「ああ、そうですか。計算してみます。」 だが、電話を置き、1時間ほどして、 「やっぱり、違いますね1フィート30.48センチですから逆算すると26センチ90になります ら、これではないですね。あまり心配しないでください。再測すればいい事ですから。」 日頃、厳しい彼が、やさしく言ってくれると余計罪の意識に苛まれる。当日が雨であり、全員 がずぶ濡れになりながらの観測であった。また、再度全員にあの思いをさせなければならない のか。目の前が暗くなり、どうやってあやまろうか、言い訳の文句を必死に考える。 だが、その日の深夜10時、諦めて風呂に入ろうと、下着姿になった時、彼からの電話が入っ た。 「遅くにすいません。どうもインチで入力してあったみたいです。1インチが2.54センチですか ら逆算すると、3.228メートルになりますから、この値のようです。」 そういえば、そんな数字が頭の中に浮かぶ。人間なんて勝手なものである。さっきまで全然 思い出せず、3メートル以上であったという事しか分からなかった事でも、明確な数字を示され るととたんに覚えていたような気になる。一生懸命計算をしてくれた彼への御礼の気持ちも失 せ、ついこちらが正しい事を言っていたのに、彼が信じなかったような気にさえなってくる。 「うん、3メートル20台の数字だったはずだからそれで合っていると思います。」 兎に角よかった、当日は天気が悪く、早朝でもあり表示している文字がまさかインチになって いるとは。あんちょこ片手に入力をしたためこんな間違いになってしまった。 Wさん有り難う、感謝の気持ちは持っております。 基本にかえり、何事も注意深くチェックをする事である。機械が便利になるにつれチェックが おろそかになり、機械を信用してしまい、チェックしなければならないところをチェックしなくな る。だから、とんでもないところでミスが出る。 本当にそんなお手本のようなミス。みんなごめん。他のメンバーは再測の危険があった事な ど知らない。危険は深く静かに進行している。
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