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は〜い山本です。
● ちわ〜っす。山本で〜す。 今まで基準点測量研修においては的確な判断と迅速な観測を行い。『観測の鬼』・『スーパー スター』と呼ばれ、今まで再測なんて私には関係の無い世界だと信じて疑わなかった。だが、つ いにその神話が崩れ去る時が来た。 こんなことが起こるとは、悪夢は正月の基準点測量研修での事。私が住む街からはるか彼 方、はるばる1時間かけてやってやって来た。悪夢を見たのは3級基準点3ー33での事。 この町は海と険しい山にはさまれたわずかな平地に密集して住宅がある。丁度この場所は そんな町を象徴するような場所、海へ落ちる絶壁と山へ登る絶壁に挟まれ、やっと確保された 5メートル幅ほどの国道。平地はそれだけの場所である。 車を守るためよりは歩行者が海に落ちないようにと設置してある様に思えるガードレール。 基準点はそのガードレールのほとんど真下に設置されている。 視準する相手は3ー34と四等三角点横はえの編心点の2点である。 2方向の3級基準点の観測、そして距離的には3級基準点にしては少し短いが150メートル と50メートル程である。水平角は2対回、鉛直角は1対回、距離。 ガードレールから40センチ程のコンクリート擁壁の平坦部分を残し、海側は10メートル程の 絶壁、そして山側は逆に国道幅の5メートルの平坦部分があるだけで、土留めの高さ3メート ル程のコンクリート擁壁で守られ、高さ30メートル程の切り立った崖になっている。 同じ国道にある3ー34は平坦地同士で視通は問題が無いのだが、切り立った崖の上に四 等三角点横はえの偏心点がある。 丁度観測はガードレールを股ぎ、絶壁部分に背を向け、幅40センチ程の余裕しかないコン クリート部分に足をかけながらの観測になる。 研修で一緒の年寄り連中、二人のT氏はまだ命が惜しいと、この場所での観測から逃げ出し ている。年寄りは仕方がない。やはりスーパースターの私の出番なのである。 この程度の条件はお茶の子さいさい。雨が降っているから手早く観測をしなければいけな い。 軽い気持ちで2分程度で観測を終わらし、スーパースターの貫禄をアピールしなければなら ない。 ガードレールの真下にある基準点鋲にあわせて三脚を設置。光波測量距儀をその上に設 置。私のすばやさに、手簿を付けてくれている法務局職員は感嘆の声をあげているではない か。まあ、当然と言えば当然であろう。なにしろ私はスーパースターなのだ。 ●再測 順調に準備が進み。偏心点からの観測が終了し、いよいよ出陣である。 この程度であれば2分もあれば十分。きっと私の素晴らしさにびっくりするに違いない。一丁 やってやるか。腕をなでなで観測を開始する。 ちょっと無理な姿勢で観測。でもこの程度なら私の技術を持ってすれば大丈夫。 だが、1対回目終了時、登記所職員の付けている手簿を横目でちらっと覗く、あれっ、正反較 差が35秒もある。心の中で「しまった。再測だ」ちょっと動揺。手簿者の法務局の職員はまだ そこまで計算もしていないし、恐らく気が付かないはず。動揺を顔には出さず、知らぬ振りをし てそのまま2対回目の観測を行い、終了する。 再測と言わず、「ちょっと納得が行かないので、もう一回観測をするよ。」と笑顔で答え、手簿 を覗き込む。終わったばかりの2対回目の観測も同様の結果・・・。 またまた、心の中で「な、なぜだ。今までこんなにぶざまなことはなかったのに。」 動揺が広がる。こんなはずは無い。俺はスーパースターだ。なにか原因があるはずだ。必死 で頭の中で原因を探す。 傾斜がきつい為、目標板がはっきり見えていない。下から見上げる形になり、ミラー自体の 大きさが邪魔をして、水平角の目標となる目標板の三角マークが見えない。きっと、これだ。こ れに違いない。 崖の上の偏心点にいるはずのW氏に無線で。 「目標が見えにくいんですれど。もう少し見やすくならんろうか。」 「これ以上はなんともならんぞ。プリズムの中心を観測せいや。」 「了解。」 W氏、年寄り二人にはやさしいのに、私には厳しい。きっとスーパースターに妬みがあるのだ ろう。 「まぁ、いいさ。この際、再測してやろうじゃないか。」 だが、再度観測をした1対回目、そして2対回目、またまた同じ結果になってしまった。 「な・なぜだ?・・・。」また、再測。スーパースターの座が・・・。 段々、自信が無くなってくる。 ●どない 丁度その時、W氏の声がトランシーバーから聞こえる 「どない?。」 「いや、もう一回再測しょうかと・・・。」どぎまぎ。やばい。これは、怒られるぞ。 「観測の倍角差、観測差はどの程度あるんぞ。」 そこまでは計算してなかった。 「ちょっと、待って」法務局職員の持つ手簿を借り、急いで計算してみる。 「観測差 3秒。倍角差 5秒よ。」 「制限差に楽勝で入ってるじゃないか。」 「えっ。かまんの。」 「鉛直角がきつすぎる場合はこんな事があるんよ。かまんのぞ。」 確かに観測するのに、鉛直角は40度を超えての観測となり、顔を横向けてなんとか目標が 見えるかな。というような感じで観測をしていた。 「本当にかまんの。」 「しょうがないわい。」 「あっ。本当」。途端に気持はルンルン。 それにしても一対回の正反較差が35秒も有ったのに、倍角差・観測差の制限内に入ってい るとは。 ああびっくらこいた。こんな事があるから、観測については最低でも1対回観測をしとけと言う 事か。肝に命じておこう。 だが、そんな悪条件の中でも5秒という数字であった。なんと素晴らしい技術なのだろうか。 身体の中から段々自信が湧いてくるのが解る。 俺はやっぱりスーパースターだ。 ● 手簿者の独り言。 ・・・1対回目の観測値を計算してえらく違っていたけどいいんだろか、他の人はみんな。すい ません。といって観測をやり直すんだけど、いいのかな・・・。 ・・・山本さん2分で終わるって言っていたけど、もう30分以上かかっとるな。ひょっとして、こ の人大物言うだけで、観測下手なんと違うのかな。 今度はTさんの観測を見せてもらいに行こうっと。 ・・・折角手簿の整理の仕方も習ったから、計算しようと思ったのに、山本さんが全部やってし まってつまらないな・・・。 ・・・手簿も山本さんから戻してもらったから、勉強のため見ておこう、あれっ、えらく手簿の桝 目が埋まっているな。これって再測っていうんじゃないのかな。 そういゃあ、前に研修に来た時も、なんか山本さんが目標を間違えたって言って、みんな朝 早く出かけないといけないと言ってぶつぶつ言っていたな・・・。 ・・・やっぱり、この人、大した事ないんだわ。明日から気をつけとこう。 ちゃん、ちゃん。
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