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島根会 川手 弘之
● 唐突に 唐突にP氏から、年も押し迫ったある夜、電話が入る。 「四国で、3級基準点測量の研修会があるのだが、参加せんか?。」 「いつです・・・」 「1月の4、5、6日とあるんだが。」 「正月のですか。」 (うそだろう。冗談は止めてよ。) 「どうせ暇でしょうあんたの場合。」 情けないが、図星。 だが、こういった機会でもないとないと惰性で日々が過ぎてしまう・・か。 おだてともっこにゃ乗らないが、酔狂な話にはすぐ乗ってしまう性格が幸い(災い?)して、実 に唐突に研修会の参加が決まった。P氏は人をのせるのがうまい。 数日後、届いた通知に1素子ミラーと20秒読みのトータルステイションであっても持参の事と のP氏の走り書きのメモ・・・・・。 僕のは20秒読みのトータルステイション。持って行くとすれば当然それしかないが何に使う のだろうか。 はて、3級基準点測量の場合、10秒読みまでのはずだが、・・・・研修会だからいいのか な?。偏心点の研修にでも使うのだろうか?。 P氏の最初の説明では、別に器械を持っていかなくてもいいという話のはずであったが・・・。 「研修は実際にはどういった内容なんでしょう。」 「行ったら解るよ。四国にはW氏とか、T氏とか・・とか鬼のような人一杯いるから」 途端に頭の中に、金棒を持った赤鬼、青鬼がうようよと、まるで鬼ケ島に出かける桃太郎の 気分。いや、きび団子を食べなきゃ良かったサルかキジの気分。 P氏は、不安にさせるような事を言う。 え〜いっ、出たとこ勝負だ!!。てなわけで、正月の3日午前11時、お屠蘇とテレビの正月 番組に別れを告げて神の国を出発。鬼が待つという四国をめざし走る。神のご加護のせいか 快晴、中国山地を越え、フェリーで瀬戸内海を渡り目的地の宇和町に夜の8時に到着。恐いく らい順調な滑り出しであった。 ●研修開始 1月4日、一日目は穏やかであった。 曇り 軟風 西風 観測には気象条件はまずまず良好。 研修の状況が今一つ、つかめていないのだが、割り当てられた器械点にP氏とともに行く。 こうなれば、ここでの研修に毎回のように参加している経験豊富なP氏が頼りである。 私の股下の長さを嘲笑うかのように、海岸線の道路脇のやたら背の高いガードーレールの 下に真鍮製の金属鋲 点3−40があった。ところがこの点、持参した木製の三脚を据えようと すると丁度いやらしくガードレールと三脚の脚が干渉し合う。いいかなと思っても、脚頭を水平 にしようとすると三脚のねじが丁度あたってしまう。 普段は、多少の事があっても整準ねじで無理矢理合わせてしまうので、感覚が掴みにくいの だ。三脚の据え付けにもたもたしていると噂のW氏がこちらへ歩いてくる。 「据わらんの。」W氏は柔和に言い、私と交代しててきぱきと三脚の据え付け作業に取り掛か る。 「こりゃ、いかんね。もうちょっとガードレールの真下なら据え付けも楽なのに、選点がいかん ね。」と言いながら据え付けてしまう。噂の鬼は柔和であった。 「三脚の脚頭を水平にしなければならないと言うけれど、整準ねじで合わせてしまうのとそんな に差が出るもんなんですか。」 「出ます。」一瞬頭につのが生えたように見えた。 そして、鬼は次の場所に立ち去って行った。 事前の打ち合わせで、器械高とミラー高をきちんと測れば、高さを統一しなくていいと言われ たのは助かった。 (補正計算により整理するとのこと)。ただし高さについてはミリまで厳密に測れとの事。器械高 を一定に据え付けろと言われたら、絶望的だな・・・。 器械を設置し一区切り、観測開始を待つ間。 「それはそうと、研修だからえ〜んでしょうかね?‥。」 「何。」 「いや、3級基準点に20秒読みの器械を使用して。」 (内心・・・愛機の性能で制限内にはいるだろうか・・・。いや、入ったとしても制限の1/2を越え たら再測と聞いているが・・・ふ、不安。) 「折角、研修に来るから、全員が慣れた器械で測ってもらった方がいい。それに今頃の器械は いいから、そんなに差は出ないという考えだと聞いたよ。」 まあ、とにかくやるしか無い。私が観測者。P氏が手簿者となり観測を開始する。 1回目の観測は倍角差10秒、観測差20秒。3級の制限は確か30秒・20秒である。 「制限にはなんとか入ったね。倍角差は器械の問題、観測差は観測者の腕」と手簿を付けてい たP氏。ここまでは至ってのんびりとした雰囲気だったのだが、 突然「再測やね。」何時の間にか来ているW氏。 あっちかと思えば、またこっち、まさに神出鬼没。各点に目を配っている。鬼と言われるゆえ んか。 冷や冷やもので再測をする。倍角差0秒、観測差0秒。一安心。 「うーむ。20秒読みのトータルステイションでも、結構まとまるもんだな。」 横から「器械の読みが荒いから、まとまりやすいんだろう。」とP氏。 テープ測距でも、10センチ刻みで読めば、誰が測っても同じ数値になるという事か。 ちょっと悲しい。 点3−36 最初の点以外は、我々は格別に割り当てらられていなかったので、防波堤の上の点に器械 を設置しだす。足場が平らなので設置は至って楽だ。 一方、コンビで動いているP氏は観測計画図をみていたが。いきなり「ここはやばい・・・。 観測方向があっちと、あっちとこっちと・・・。」P氏が配点図を振り回す。 なるほど、高度角のかなりある点がある。木の陰のようで良く分からない。ここは地形を良く 知っている地元組にお願いする事にして・・・すたこらさっさと移動する。 点3−35 ここも同じ防波堤の上、至って据え付けが楽な場所である。調査士志望とかいう某氏が見学 していった。足場もいいので、ゆったり観測出来る。 倍角差10秒、観測差10秒高度定数の較差0秒。いい調子である。なんか自信が出てきた。 1月5日 点3−34 雨、それも横から吹き付ける最悪の天候。 海岸線のためか、ちょっと塩っぽい感じがする。 昨日とは、がらりと変わって最悪の天気。まさに鬼の出現しそうな天気である。 「みぞれよりましだよ。」P氏。 「今日は、Pさんの器械で観測しませんか。」 (こんな日に観測したら器械の調子悪くなる。やーだよ) 「いやーっ、観測者の使い慣れた器械が一番だよ。」 (あれれっ。あーたと私の器械は同型機ですよ。) 「手簿付け、雨が降って大変ですから、今日は私がしますよ。」 「いや、今日は目の調子がもう一つでね。ゴホッ、ゴホッ。」 (おいおい、あのね。目の調子が悪いのに、なにも咳込まなくても。いいよ仕方ない) とうとう私の器械で測る事になる。 冬の景色に場違いなビーチパラソルの下でトータルステイションの対物レンズが曇る。接眼 レンズが曇る。車の中と外気温との差で曇ってしまうのだ。 観測開始の合図があるまで、相当時間がかかる。 しばらく置いてあったから、いいかげん曇りにくくなっているはずだが、観測を始めるとすぐに レンズが曇ってしまう。テイッシュペーパーで拭き拭き観測する。 傘ではじけたしぶきやら、鼻息やらが対物レンズや接眼レンズを曇らす。 「普段なら絶対に測量に出かけない日ですね。」 (観測やりたくないな。ああ愛しの愛機に雨が) 「ごもっとも。」P氏はえらく機嫌がいい。 (きっと、先程の自分の器械を出さなかった選択を喜んでいるに違い無い。こうなりゃ、やけ だ。愛機よ頑張ってくれ。) なんか、異様に気合の入った観測になり、倍角差0秒。観測差0秒。高度定数差0秒。 「やっぱり、観測は気合ですね。」 「一発観測再測なし。」等など訳のわからないことを言いながら、観測を完了。 他のチームの見学(観測器械の傘持ち)に回った。 それにしても、偶然だが器械を年末に調整に出したばっかりで調子が良かったせいか、観測 結果が制限内に入り、ほっとする。 ● 現場を終えて 器械高とミラー高を統一せず、後に計算で補正するというのは実に便利だった。 器械高を合わせるという事について、現場で苦労したり、1mmの単位まで合わせる事を考 えると(今までは、合わせるといっても5mm以内くらいに入っていればOKといった感覚であっ た。これを1mm未満まで持っていくと考えると・・・頭痛がする。)計算で済むならその方がずっ と楽だと思った。 原則論の器械高と視準高を同一にする。・・・というのばっかり頭の中に残っていたが、補正 計算をするというのが実用的だと思った。 なお、W氏の言葉を借りると 「2級なんかの遠い距離をはかる場合だったら、仮に高さが5ミリくらい違っていても距離が遠 いから観測する鉛直角にあまり影響が無く、問題ないと思うけれど。 3級や4級なんかの近い距離になってくると、段々鉛直角の観測が難しくなって来るんよ。きっ ちり同一の高さに据えれたら良いけれど、なかなか正確な高さで据える事は難しいし、近い距 離だったら、現実に高さが2ミリ程度違っても、観測した鉛直角に与える影響は大きくて、厳密 高低網の計算したら制限に入らなくなるんです。 だから、近い距離の場合は、器械高とミラー高を無理に合わして、誤差を生じさせるよりも、 それぞれの高さを正確に測って高さの補正計算をしてやる方が間違いが無いと思いますよ。 反対に2級だったら器械高とミラー高は同一の高さに合わして観測しますよ。 計算が楽ですから。」 用は必要に応じて使い分けをしなさいという事らしい。
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