男の身だしなみ

(ちょっとだらしない話)

● 最初に

 またまた研修をやる事になった、だがその時期は、なんと正月の4日から6日にかけての三
日間の研修である。
 最初は年末の御用収めの日から三日間という事にしていたのだが、いずれにしても常識か
らはちょっと(大分?!。)外れた研修の日程であるが、調査士会が主催ではなく、我々調査士
個人グループ主催による研修のため、自分たちの日程を優先した結果こういう事になってしま
った。
 12月の初っ端に、季節はずれの大雪となり、果たして研修期間中の日程は大丈夫なのだろ
うかと危ぶまれたのだが、12月初旬に大雪がふれば正月は穏やかで、12月に大雪が降らな
ければ2月に大雪になるというこの地方のジンクスどうりとなった。
 1月4日午前9時に参加者は全員集合。だが、ここで異変の前兆は既に現れていた。
 いつもは遅刻魔で「そば屋の出前」と冷やかされている山本君が集合20分前には来ている
ではないか。いつもの調子で現場で用意をしながら待っていた我々も、いつものように「山本君
が来たから、さぁ現地に行こうか。」とつい、口に出る。
「えっ、まだ集合時間より20分もありますよ。」
おかげで、真面目に集合時刻より前にやって来る人でさえ、遅刻しているように思われてしま
う。
 定刻には総勢17中都合で遅れる連絡のあった4名以外の13名が揃い、道のり40分ほどの
観測現場へと向かう。



●不安

 今回の3級基準点については、電話とFaxを駆使しW氏に指示を仰ぎ設置したが、現場につ
いては一人での踏査となり、少し不安の残る場所が三個所ほどあった。

 一つは3−40の地点、これは国道の道路擁壁に位置し、通常のガードレールの高さよりも
高いものが設置してあり、更に安全面を考えての外側の海側にガードーレールの補強用のコ
ンクリート擁壁が2メートル間隔で出っ張っている。そこが三脚の足場になるはずと、通常であ
ればガードレールの殆ど真下に設置するのだが、外側の海よりに設置した、一応、自分で三
脚を据えて確認はしているのだが、他人の三脚は色々あり少し不安が残る。

 更に3−39の基準点については、与点の2級基準点11を観測する地点なのだが、丁度視
通線上に、土木作業器械のかなり大型のパワーショベルがあり、しばらく放置されていた。選
点をした際には、そのシャベルのアームの部分が山状になっており、その隙間を通して、視通
が出来ていたが、実際の観測までにパワーショベルが動かされ視通がふさがれはしないだろう
か。

 そして3−38の地点、この地点は段々畑の急峻な坂道を80m程登った位置にあり、かなり
の傾斜の山林の中に設置していた。路線の形等のため、この辺りに新点を作りたい、何とか
与点と他の新点の両方が見える場所が無いかと探したのだが、民家の屋根や、ミカン畑の防
風林が邪魔をしてなかなか良い場所が無く、とうとう、山の中途中の50m程の足場の悪い、じ
っとしていてもずるずる滑るような傾斜のある山林の中になってしまった。後々の使用の事を
考えて、コンクリート柱に基準点鋲を設置、当然セメントで固めてはいるのだが、なにせ傾斜地
のため、足場が悪く観測が行えないだろうと、周りの足場もドライモルタルを100キロ以上使
用して、ある程度の平坦な足場を確保。

 だが、モルタルの設置をすべて完了し、モルタルが固ったのを確認する為立ち寄った際にこ
の地点から3−37の地点を覗き込むと、10mほど先の枯れた松の大木が少し視通を邪魔す
るかもしれないなと不安ではあったのだが、100キロ以上のモルタルを急峻な山道を3回以上
往復して担ぎあげ、やっと設置したものをもう変更する気は起こらない。確認の為3−38の基
準点鋲を設置したコンクリート柱を股ぎ、目指す3−37がある場所を視通、特徴のある地形の
横に基準点3−37を設置している、こちらからはその場所が見えるが基準点の位置自体は良
く分からない、だがこの様子では恐らく見えるはずだ。そして与点の10番と11番(偏心点)の方
向は問題ない。

 どうやら、最初に選点した位置からいくと、きっちり位置を固定する努力をせず、適当に穴を
掘り、コンクリート柱を入れたため、20センチ程西側に移動したようだ。やはり、決めた位置は
移動のないように何らかの注意を払う必要がある。



● 全員、現場へ

 40分後、全員2級基準点12番の点に到着。ここはこの町には珍しく国道幅が広く、緩衝帯
として花壇が作られており、その広場に車が10台ほど置ける場所でもある。
 一番最初の観測場所としたのは、全員の車が駐車出来る場所である事は勿論なのだが、た
またまこの場所は位置が良いにもかかわらず、標高50m程の位置にあり、次の新点(3−4
3)はここから見下ろす形になる標高2m程度で、国道の中の花壇の場所に2級基準点12番
を設置しており、更にここは国道のカーブの部分でもあるため内側にむいて傾斜がとられ、そ
の外側部分(海側)は盛り上がった状態になっており通常の状態では今回の新点(3−43)の
位置が見えない。そこで無理をせず偏心観測をする事にしたものである、偏心の研修を行うに
も条件が良く、なによりも足場が良いので全員がまず、ここの観測を行った後各自の持ち場に
分散する事としたものである。

 既に、時間は午前10時になろうとしている。本日は肌寒いが、それでもこの地方では12月
初旬頃の気温とあって絶好の観測日和となった。また天気予報では、翌日は50パーセント以
上の確率で雨の予報である。
 予定では、初日は半日程度、二日目はまる一日使用して観測を終了するはずであったが、
急遽初日の今日に出来るだけ観測を済ませる事になった。それに伴って観測現場から帰って
から遅い昼食をとる予定が、昼飯抜きの観測終了後、晩飯という事になった

 取り敢えず、新点の位置を知っている私は次の新点3−43の位置に向かい、目標板を据え
付ける。同時に前回2級基準点を作成して与点13番の位置を知っている宝さんが、同様に反
射板を据え付けに13番に走る。



●研修開始

 いよいよ、研修がスタートした。この実務研修は単路線と結合多角路線に別れている。これ
はこの地域の地形的なものから、やむを得ず一部の地域を単路線としたものである。最初の
12番からは単路線で11番まで新点5点の路線が組まれている。
 研修の参加者はもう何回か研修に参加しいる人が多く、大体の要領も心得ており、取りたて
て注意する事も無いが、最初に偏心の観測とあって、5、6人が最初の練習も兼ねて観測。な
かなか進まないようである。

 待つ身になると時間が非常に長く感じ、海からの風も段々厳しくなるような気がする。それで
も1時間が経過しようとする頃
「そちらから観測して下さい、こちらを反射板に替えます」とトランシーバーからの声が響き、各
自一斉に自分の持ち場に移動しているのが見える。こちらにも手簿記入の応援がやって来て
水平角、鉛直角、距離と観測し、10分ほどで終了。
 
 前視点の3−42へ反射板の方向を向ける。3−42の観測も同じように10分ほどで終了。
「観測終了しました。どこへ移動しましょうか」とW氏にお伺いをたてる。
W氏「そんなら、3−38へ登って下さい。」
やっぱり、3−38か。私しか場所を知らないから仕方ないか。
 車に乗り、移動する、途中最初からの不安であった3−40で悪戦苦闘して三脚を据え付け
ているのを横目で見ながら移動。とうとうここはW氏が出てきて据え付けを行ったらしい、やっ
ぱり難しかったのだろうか。まぁそれでも器械の据え付けが出来たからいいとしよう。これもい
い経験になるだろうと一人で解釈しながら車で移動出来る所まで来て、取りあえず一人で三
脚、光波測距儀、反射板を持って山の中腹にある3−38に登る。
 急勾配のずるずる滑る細い、段々畑の中の山道をふくらはぎが悲鳴をあげそうになるのを
我慢しながら、約100mの距離を15分程かけて登る。
何とかモルタルを固めた3−38にたどり着く。



● 松の木は枯れていた

 3−38で三脚の据え付けを開始。終了したころには観測の相手方の与点の11番(偏心点)
に山本君が既に器械の設置を完了していた。トランシーバーで
「山本君この場所見えるかな。」
「どこ、ああっ、見えるで。」
山本君、光波測距儀を覗き込みながら、「電線が少し、邪魔してるから、反射板の高さ、高くす
るか、低くするかどちらかにして下さい。」
「大分、高さ変えないといかんの。」
「いや、10センチ程。」
「このくらいかな。」
「はい、いいです」
 もう一つの与点の10番は肉眼で足元まで見えており問題ないようだが、新点の3−37から
は見えるのだろうか。3−37の宝さんと交信
「宝さん、見えますか」
「どの辺りですか。」
「山の中腹に水道のポンプ倉庫が見えると思いますが、そちらからはその方向の10m程上に
なり、枯れた木が4本ある場所です」
「ええっ、ちょっと待ってんよ。」
「今横で枝を降っているけど解りますか。」
「見えません。」
「ちょっと待って下さい、枯れた木の前に出ますから。」山の傾斜を下り枯れた木の前に出て枝
を降る。
「ああっ、今見えました。」
「これから5メートル程上になります。」
「見えました、黄色い三脚が見えましたけど、その上の反射板は見えてません。」
「そしたら、低くして観測しましょうかね。」



● 切ろか

とトランシーバーで交信していると、いきなりW氏の声が入ってきた
「松の木が邪魔してみえんのかな。ほなら切ろうわい。」
「器械、低く据えたら見えるのは見えるんよ。」
「どうせ松は枯れとるんじゃろう。」
「うん、地主さんには町の方から連絡してもらって、伐採の了解はもらっているんだけど、大き
いからなぁ。」
「切ったらいいわい。鋸持ってそこに行くけん。」
あらかじめW氏には事情を話していたので、即座の判断になったものである。
20分ほどして、すそ野の方でがさがさと音がする。住宅地図にあらかじめここへの図面は書
いて全員に渡していたのだが、地形が入り組んでおりこの場所が解るかどうか心配だったのだ
が、一発で探し当てたようだ。さすが。
W氏とともに二人が手伝いにやってきてくれた。



● 使えるん

 早速、「この木やね。」と品定め、枯れてはいるが、松の木だけに余計固くなっている。
直径60センチ程度で8m程の松であるが、上部は既に折れてなくなっており、元々はどの程
度の高さだったのかは解らない。
 持参した鋸は刃渡り25センチ程度で、後はナタが一丁があるだけである。急傾斜地である
ため踏ん張りもあまり効かない。
更に松の下にはミカン畑が迫っている。
 さすがのW氏もどこから切ろうかと迷っている、松の木に登り、根から3メートル程のところを
切り出したが、なかなか切れない。一緒に登ってきたHさん
「思い切って、下から切らんけん。」
「ほうじゃね。下から切ろうか」
木から降り、下の方を切り出した。
 さすがに、上の方は枯れているといっても、まだ生木の状態で、これもなかなか切れない。鋸
で切り。鉈で叩き。そして三人かがりで押してみる。松の木はぐらぐらするのだが、一向に倒れ
る気配は無い。西側から、東側から、そして北、南側から方向を変えて鋸で悪戦苦闘する事
30分、三人かがりで押すと、やっとメリメリいう音がしだした。
「倒れるぞ」の声とともに、ミカン畑の方向に倒れて行く。
「ミカンの木、大丈夫かな。」
「大丈夫。丁度上の雑木の上で止まった。大丈夫じゃ。」
トランシーバーから、宝さんの声
「よう見えるよ。」
「よしよし、これで観測は出来るね。お疲れ様でした。」
と言ったまでは良かったのだが。W氏、下界を眺めながら
「ここ、後で使えるんで。」
「見晴らしはいいんだけど、ここを頻繁に使うという事ではしんどいね。後視点よ。」
 彼はきっと次の文句が口から出掛かったのだろうが、そこは既に研修中とあって、ぐっと我慢
したようだ・・・。もっとええ場所見つけんといけんですよ。ろくな選点してないですよ・・・。
 私の頭の中には、その文句が浮かんだが、ぐうたらと手抜きにかけては人後に落ちぬ。ここ
は一つ知らないふりをするに限る



●悪い、悪い

 やっと観測が出来る状態になった。しかし、こちらは一番最後の観測である、他からの観測
のために反射板の高さを私が整準出来る最高の高さ155センチに上げている。
 三方向の観測があるため、それらの観測が総て終了する迄待たなければならないが、そろ
そろお腹もすいてきた。早く観測終わってくれないかなと思っている内に、松が邪魔していた
3−37の地点で再測が続き、1時間程待機した後、やっと観測になった。
 当然のように、反射板の高さをそのままに光波測距儀に入れ替えたものだから、見えにくくて
仕方が無い。元々傾斜地であり、いくら足場をモルタルで固めたといっても、器械が据わる程
度の広さしかない。方向を変える度に、ずるずる滑りながら移動したり、三脚の下を移動したり
して身体を入れ替えての観測。
 爪先立ちをしながら、あたかも老人が老眼鏡で新聞を覗き込むような視線になりながらの観
測となる。この格好は眼鏡を掛けているものにとっては非常に辛い観測となる。
案の定、倍角差30秒、観測差20秒となった。

 こりゃいかん。もっと楽な姿勢で観測しよう。もう少し器械の高さを下げる事にする、通常の観
測の高さで観測を開始、ずるずる滑りながらの観測であるが、それでも観測する姿勢がほぼ
自然の格好になり、制限も倍角差10秒、観測差5秒とまずまずの成果。

 トランシーバーに向かい「悪い、悪い、再測をして遅くなりました。これで観測終了しました。」
もう午後4時になろうとしている。
トランシーバーから、「本日はこれで終了します」と言う声が聞こえる。
「やれやれ、やっと終わったぞ。」
後は一路、夕食の待つ隣町へ一目散。



● 距離がおかしい

 やっと昼食兼夕食にありつくがまだ本日の予定は終了していない。今日の結果を取りまとめ
なければならない。
 午後7時、全員集合してまず手簿の整理から行う。倍角差、観測差のチェック。距離のチェッ
クを行う。大体全体の予定の8割程度が終了したのだが、それは再測が無ければという事で
ある。
 各自電卓を叩きながら確認をしていく。
 距離については双方向から鉛直角と斜距離を観測しているため、その距離の比較を行う。
 午後10時頃やっと、すべての計算結果がまとまる。
 3−38と10番の距離が、お互いに観測した数値がおかしいようだ、他にも2個所程おかしい
観測や観測もれがあり、明日再度観測しなければならないようだ。



● 残り

 翌朝、8時集合、天気予報どおりの雨である。
 再び、研修現場へと向かう。とにかく残りの観測をまず済まさなければならない。
 残った観測場所は四等三角点横ハエを含む5点の観測である。四等三角点横ハエは標高
60m程の小高い山にあり、そのすそ野には海から10m程の高さで国道が通っている。国道
から三角点のある小高い山は傾斜が40度以上もある絶壁で、光波測距儀で山の端を覗くの
にも、望遠鏡で覗ける本当にぎりぎりといっても良い状態である。
 当然三角点は絶壁から10m程離れた位置にあり、絶壁の位置から1メートル程山に入った
位置に偏心点を作っての作業である。丁度偏心点の位置は絶壁のちょっと出っ張った部分
で、大勢が乗っかるとそのまま下に抜けてしまうような場所のため、偏心点の観測は二人だけ
が受け持つ。
 雨の為、器械を濡らさぬよう(人間が濡れぬようにではありません。)傘をさしながらの観測で
ある。
 下の新点へは伸び上がって観測、下の新点からは思い切り上目使いでの観測となる場所で
ある。だが初日に偏心観測の研修をあらかじめ行った成果か無事終了。
 同様に残った観測点も総て終了した。
 残るは再測の場所だけである。



●再測

 だんだん雨もひどくなってくる。今日もまた3−38に登って来た、今回は一人では無く、三人
で荷物を手分けして持ってきたため、何とか登る事が出来る。
 雨は止む気配も無く、我々の体に吹き付る。急峻なだんだん畑の中の道も雨を吸ってますま
す滑りやすくなる。
 おかげで汗をかきかき登ってきたが、これが後でとんでもない事になろうとは・・・・ 。
 3−38に器械を据えるのだが、ますます器械が据えぬくくなって行く。三脚を据えようと、踏
み込むため、方向を変えようと移動するのだが、ずるずると滑り、更に雨で体は濡れ、眼鏡に
は水滴が付き、はく息は白く見える。気温も大分下がってきている。昨日は気温12度、気圧
767mHgだったのが、さっき測ると5度と755mHgになっている。一日で天と地程の差が生じ
ている。
 再測の理由は、10番とここの3−38に据え観測した距離が120mほどなのにかかわらず
7ミリの差が生じたせいらしい。ここからは三方向なのだが他の3−37と11番の二方向につい
てはそれ以上の距離であるにもかかわらず2、3ミリ程度の差で済んでいる。
 一方10番からも11番を観測しているが、双方の斜距離は330m程であるが2、3ミリの差で
問題無いのだが、10番とここ(3−38)では、どうもおかしいらしい、ひょっとして水平距離をと
っているのではという疑惑もあり、10番と3−38の間の距離の観測の再測量となったもので
ある。



● レンズが曇る

 まず10番の方向からこちらを観測するため、足場に苦労しながら反射板を設置。
距離のみであるので簡単に観測は終了。念のために斜距離の他に水平距離と比高も観測し
たようである。続いてこちらからの観測である。

 ケースから光波測距儀を取り出し三脚に設置。観測を始めるが、何やらピントが合わない。
自分の老眼がここに来て一気に進んでしまったのだろうか。
 自分の眼を擦りながら、もう一度覗き込む。やはり同じようにみえる。もう一度接眼鏡から目
を外し、肉眼で10番を見る。小雨のためやや靄ってはいるが、それほど見えない状態ではな
い。まだ午前11時を少し過ぎた時間で、暗くも無い。一体何が原因なのだろうか。ひょっとして
器械に水が入ってしまったのだろうか。
 落ち着け、落ち着け。一緒に上がってきてくれている二人に悪い。望遠鏡のレンズを念のた
め手で拭いてみる。
 まだ完全ではないが視界が広がる。「ああ、レンズの曇りか。」と納得する。それでは慌てる
事もない、レンズをふけば良い。
 どうやら光波測距儀をケースから取り出す時に、光波測距儀の望遠鏡が天頂を向いて格納
していたのを、そのまま三脚に取り付け、整準終了までそのままの向きにしていた。
 丁度この場所は足場も悪く、その間傘をかけて雨よけをする事が出来なかった。更に望遠鏡
を正常の位置に移動した時に手のひらが近づき望遠鏡のレンズにその温度が伝わり、レンズ
が曇ってしまったらしい。おまけに視準をする時に、器械ごしに自分の目で方向を確認し、大体
の位置を決めるさいに、どうも私の荒い鼻息が、接眼望遠鏡の部分にもかかったらしい。おか
げで両方のレンズが曇り、どうにも視界が悪くなったらしい。



● ハンカチ

 ちょっと接眼望遠鏡の部分も指で拭いてみる。大分曇りがなくなったのだが、まだ不十分であ
る。「こりゃ、本格的にハンカチで拭かなくては。」と思い、自分の作業服のポケットを探すが、
出て来ない。あれっと思いながら、もう一度ゆっくり探す、いつもは無造作にポケットに突っ込
み、いらない時には2つ以上のハンカチが出てくるのだが、こんな時に限って出てこない。
「ハンカチ持ってませんか。」
他の二人に声を掛けるが、二人とも小さく首を横に振るだけ。
「器械の中にレンズ拭きがあるんじゃないん。」
 早速さがしてみるが、残念一緒に入っている工具類はあるのだが、レンズ拭きだけが無い、
どうも以前使用して、そのままポケットに入れたまま、もとの場所に返さなかったらしい。そのう
ち自分の眼鏡も水滴が溜りだし、段々条件が悪くなる。指や手で曇りを拭ったつもりでも、体温
と器械内部の温度が違い過ぎて余計に曇ってしまう。とうとうレンズ越しに見える目標は、ヘア
ーと、白い画面となにやら怪しげに動く誰かの服の動き、まさにお風呂場の湯気に眼鏡が曇っ
た時のようになって来た。
 幸い水平角の観測は前日終了しているので、まだ気持ちに余裕があるが、どんどん雨が激
しくなってくる。とにかく早く終わらせなければ!!。



● 下着で

 頭の中で何かふくものはないか、なにかないかと必死で考える。周りは雑木だらけ、ずるずる
滑る傾斜地の土と石。傘、手簿の用紙、濡れてしまった帽子と服。長靴。筆記具。頭の中には
それしか浮かばない。
 これでは観測どころでは無い。
 濡れていないもの。レンズを拭けるもの。となると柔らかいものでなければならない。きちんと
したものはなにもない。うーん。仕方ない、男の世界、見せて恥ずかしい年でもない。ベルトを
緩め、へそが見える程度に下着のシャツをめくり上げレンズを拭く。先ほど一生懸命山道を登
ってきたせいで汗で少し濡れているが、びしょ濡れの上着よりはいいし、何よりも柔らかい。
 なんとか、まだ曇ってはいるが、目標板が見えてきた、すかさず距離を観測。斜距離。水平
距離。比高を器械の操作により確認する。
 今回は、器械高を同じにしているので、生のデータで相違がすぐ分かる。だが斜距離では
120mで7ミリも相違。そして比高は2ミリ程度の相違であった。
「前回の相違と一緒です。」
「それなら良いです。降りてください。昨日一番最初の観測をした12番に集まって下さい。」
もう長居は無用と、転がるように、降りていく。だが今回は安全靴を履かずに安物の運動靴で
観測したために、雨のせいで靴の中とズボンはぐしょぐしょになっている。



●最後のチェック

 12番に到着。既に他の観測場所にいたものは全員集合し、我々の到着を待っていた。そこ
では、10番、11番を観測した器械をそれぞれの場所で据え付けていた、私が到着するなりW
氏、いきなり「そこへ器械据えて下さい。」何の事か解らず、丁度鋲のある場所に器械を据え
る。
 「そしたら、反射板にして、こちらに向けて下さい。」まず、11番を観測した器械でお互いの距
離を観測、更に反射板の向きを直し、10番で観測した器械で、それぞれの距離を観測。
「器械に据え直して、二方向の距離を測って下さい。」
 素直に、観測。先程からの観測の記録者がこちらへやってくる。まず11番の観測器械方
向、距離を読み上げる。
 そして距離のおかしかった10番の観測器械方向。距離を読み上げると記録者が「あれっ」と
いう声をあげる。
「どうかしました。」
「おかしいな。10番と11番の観測器械の双方からの距離は25mで2ミリ違い。11番とあなた
の距離も20mで1ミリしか違わないけれど、10番の観測器械とあなたのは30mで4ミリ違う。」
W氏「そしたら、120mで7ミリは出らい。」

 前回の2級基準点の研修で、どうも私の器械の距離がやや不正確ではないのかという疑惑
があっただけに、今回の事は、ひょっとして私の器械が悪いのだろうかと心配していた。
「そしたら距離はお互いの平均値をとるようにしましょう。」
 今回は、どうも器械の相性が悪いようで、私の器械、11番を観測した器械、10番を観測し
た器械の順で、距離が長く表示されるようだ。勿論、制限の中に入っているから問題はないの
だが、非常に気になる現象である。

 「帰って、高校に設置した基線場で確認しよう」という事にはなったのだが、お互い1年半前に
基線場で観測した時は、ドンピシャの値だっただけに、定期的に点検する必要性を感じてしま
った。



● 最後に

 全部の観測が終了後、内業を開始し、点検計算から高低計算、偏心の計算。記簿作成、近
似座標計算と進み。パソコンで厳密水平網の計算を行う。その結果単路線で標準偏差2秒。 
 結合多角路線でも標準偏差4秒という非常によい精度をあげる事が出来た事を報告してお
く。

 なお、厳密高低網については現在、研修疲れの為、しばらくの休みの後計算する事としたい
のでお許し願いたい。



久しぶりに基準点測量研修
     
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