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● 工事でなくなります それは、8月末に役場から2級基準点の1つが港湾工事のために亡失するという通知を受け て始まった。 前年度の事業として、土木事務所から発注を受け、何とか今年3月にGPSで2級基準点を 20点ほど設置したのだが、丁度突堤に設置していた2級基準点が、突堤を新しく作り替える 為、10月末には工事で飛んでしまうので、対処してほしいという町の担当者からの連絡があっ た。 通常であれば、「それじゃあ、町が費用を負担していただけるのなら、何とかしましょう」と言う 事になるのだが、今回は既に、その後の3級基準点については町が費用を負担して設置する という話になっており、与点として使用する重要な点でもあるため、何とかしなければならない。 勿論10月までに3級基準点を作成してしまえば一番良いのだが、今回の3級基準点につい ては地形上の問題や、折角よちよち歩き程度の基準点測量の技術も忘れてしまうのではとい う危惧もあり、久々にトータルステイションでの観測を行おうという事になった。更に欲張りな事 に研修も兼ねて門戸を開こうという気持でもいたため、全員の日程の調節や参加のしやすい 日を選んでいたところ12月の御用納めの日か来年早々の観測の予定になったものである。 ●現地風景 早速、工事による亡失予定の2級基準点11番のある現場に車で向かう。 私の事務所からは40分程度かかるこの現場は、海岸の陸地のない町のお決まりのように、 海からの風景は、護岸から5m程は公共用地となる空き地があり、ようやく4m幅がとれる国 道、それ以降は密集した集落が2〜300m程度続き、そして最後に急峻な山に段々畑という 瀬戸内特有の風景になっている。 前回のGPSでの2級基準点作成あたっても、海と山に囲まれたわずかな平地部分しかなく、 上空の視界もなかなか取り難く、また、将来を考えて視通の確保もおこなおうとすると、込み合 った住宅地の中の道は20m以上まっすぐな場所も無い状態で、住宅地を過ぎるとかなりの勾 配のだんだん畑で、これも上空の視通は片方が開けているでけである。 そんな場所のため海に突き出て上空の障害物もなく、周りからも良く見える突堤は、少し動く のではという危惧もあるが、やむを得ないと選択をした場所であった。 ●迷う 現地に到着、11番は海の中に約30mほど突き出た突堤の、陸から20m程の位置に設置 していた。 役場に確認したところ、「突堤は工事で全部壊して、その場所に新しく同様の突堤を作成す る」更に「突堤に車が進入出来るように、陸地部の国道から4メートルの進入道路を付ける」と いう事であった。 とすると、この新しい11番については、移動距離は少なくても20m以上が要求される。 後視点予定の2級基準点10番との距離は約350mほどである。 さて、どこに新点(偏心点)を作ろうかと迷う。現在の11番と同様にどうせなら、コンクリート擁 壁等の構築物に設置したい。駄目なら、コンクリート柱を埋めて、それに基準点鋲を設置しな ければならない。単に観測の為の偏心だけであるならば、観測のし易い平地に鋲かプラスチッ ク杭でも打設しておけばよいのだが、今回は、永続的に使用する事になるので、偏心点という よりも新点作成になってしまう。 一体、新点(偏心点)をどこにしょうかと、迷いながら現地を歩く。コンクリート柱を使用すると すれば、公共用地の空き地しかないが、ここはご多分にもれず、駐車場となっているので、折 角設置しても、後日使用できるかどうかわからない。 となると、もう護岸のコンクリート擁壁上しか場所が無い。丁度波返しの設計になっているた め、護岸の天頂部分は50センチ幅の平坦部分があるが、海側へは高さ5メートル、平地部分 でも50センチから1メートルほどの高さがある。 少し器械が据えにくいかなぁ、と思いながらも護岸に設置する事にした、後は11番の点から どれほど移動した位置にするかである。 最初から20m程度は移動しなければならないのは解っている。偏心するためには与点が2 つ必要である。10番と11番の点を与点とする事に決めたのだが、11番は海に突き出た突 堤、10番は住宅密集地の終了始点から50m程山よりで突堤からの高低差は30mほどの高 台で、突堤のある場所から国道を通り、山に向かって走る農道の終了する点にあるため、10 番、11番は相互に視通が出来るのだが、10番を視通しようと思っても近くに迫っている住宅 の屋根に邪魔され、突堤の11番に近い位置で、10番と11番を同時に視通出来る場所が無 い。 ●決めた 護岸の上を端から端まで歩きながら10番の視通が出来る場所を探す。何とか屋根の隙間 から10番が見える、しかし11番からすると80m程離れてしまった。丁度ここは護岸の平地か らの高さが50センチ程度で、三脚を平地部分に立てる事が出来、余裕をもって観測する事も 出来る。「おおっ、これはいいが、ここにしょう」と安直に決めてしまった。 だが、これは後日、10番にとらわれすぎた結果であった事を反省する事になる。実は後視
点となる場所は他にもあり、そこを後視点にしていれば最低移動距離の20mですんでいた。
・・反省。
だが、11番の基準点が工事で無くなる日が迫っている、10月いっぱいとの事、もう既に10
日程しかない、取り敢えず決まった場所に基準点鋲を設置、エンジンドリルで穴を開け、基準 点鋲の傘の部分を奇麗に密着させるため、護岸のコンクリートをはつり、モルタルで補強す る。 ●観測 基準点鋲の定着するのを待つため、2日ほど於いて観測にかかる。慎重な観測をと心掛け、 今までのW氏のやった事を思い出し、11番、新点(偏心点)、10番と、それぞれから他の2点を 観測する事にした。まず器械高、反射板高とも140センチに合わせ、丁度三角形の形の閉合 トラバース測量を行った。現地で電卓を叩くと結果は角の閉合差12秒である。 事務所に戻り改めて計算を行うと距離の閉合差8ミリ。更に高低計算の概算を行うと11番か らぐるっと廻って戻ってきた高低差は1センチ程度である。 まずまずかなと思う反面、角の閉合差が12秒もあるのが気にかかる。 黙って再測に行こうと思ったが、かのW氏に電話する、 「閉合差12秒なんだけど。」 「悪いな、もう一回やらんけん。」とにべも無い、更に 「今の位置やけど、11番に近くならんの。」 「この位置しかないんよ。」 「仕方ないね。新点じゃね。」 と電話で話し合ったのだが、私はこの言葉の意味が後々まで理解出来ず、新点、偏心点の 使い分けが出来ずW氏とのこれからの話の中で新点と偏心点をごちゃ混ぜにして話をし、会 話をますます混乱させるのである。 ● どこが悪い とにかく、どこかの観測が悪いのは間違いない。「おまえの腕が悪い」と言われればその通り なのだが、とにかく腕が悪いなりに、何とかしなければならない。 「取りあえずどこが悪いのか、全部の距離を観測したのなら、三辺法で角度をチェックしてみん けんよ。」 「そうじゃね。」 そういえば、以前器械の点検のため、全部の距離を観測し、内角については三辺法により角 度を計算して、観測の角度をチェックしたのを思い出す。 早速、距離により、観測角とのチェックを行う。 11番は10秒、10番は2秒、そして偏心点の観測は20秒ほど相違する。 さては偏心点の観測が悪かったのだろうか。 偏心点の観測は倍角差5秒、観測差5秒、他の2点は11番は、倍角差5秒、観測差5秒、そ して10番は倍角差0秒、観測差10秒である。観測自体はそれほど悪くないはずなのだが、結 果的に大きな差が出てしまった。 この結果を比較すると偏心点での観測に問題がありそうだ。そう言えば心当たりが無くも無 い。偏心点は防波堤の上に基準点鋲を設置しているため、三脚の脚を2本を高い護岸の上面 にそして残る1本を低い平地の部分にしており、しかも金属脚で観測していた。そのため不安 定になってしまい観測に影響を与えたのではないだろうか。 ●再測 実際にもう一度観測をしなければ結論が出ない。 もう、工事が始まるかもしれないと、翌日、急ぎ再測に向かう、今回は、偏心点に木脚を使用 し、注意深く三脚をすえる。どうしても低い方に1本の脚を出さないと三脚の据え付けが出来な い。 なるべくねじれが生じないようにして、石突きも良く踏み込み固定、三脚の脚頭も水平になっ ているのを確認の後光波測距儀を設置、140センチの高さに調整する。 そして、残る2点の10番と11番についても三脚と反射板を140センチの高さになるように据 え付けて行く。 観測自体は快調に進み、水平角、鉛直角、距離総て観測も全部やり直し終了。 前回と水平角の観測の値を比べてみる。10番0秒、11番2秒そして偏心点10秒の相違であ る。今回の水平角の閉合差は3秒になった。 気象状態はどちらの観測日も良好であったにもかかわらず、2対回観測でこれだけの差が出 ている、本来ならば11番の2秒程度の差は仕方ないのだろうが、偏心点においては多すぎる、 明らかに間違いといわれても仕方の無い差になっている。これは三脚の据え付け方による影 響であろう。 陸地の少し難しい三脚の据え付け場所でさえこの程度であるから、山の急傾斜地での三脚 の据え付けには、基本に帰る据え付け方を忠実に実行しないととんでもない差が生じてしまう だろう。 ● 突堤は無くなった 11月、突堤は工事により無くなった、そして基準点鋲も無くなった。残されたのは10番の基 準点と偏心点のみとなった。 私は自分の業務を処理する事に追いかけられ、しばらくこの基準点については気になりなが ら、年末予定の3級基準点の観測に間に合えばいいや、というのんきな気持ちで新点と偏心点 の相違にも、いまだに気付かないでいた。 12月中旬、さすがに尻に火が着かないと準備をしないぐうたらな私でも、いささか心配になっ てきだした。 てっきり偏心だと思っているから、観測をやりっぱなしで計算を行っていない、ここであわてて W氏に電話 「あれ、まだ計算していなかったんだけど、偏心の計算だけしといたらいいの。」 「いえ、もうあれは新点ですよ。だから厳密網で計算して下さい。」 「えっ、偏心だと思って、与点2点だけしか見ていないよ。3点の閉合トラバースだけど単路線と いう事で厳密網で計算出来るのかなぁ」 「いや、計算は出来るはずですよ。やってみて下さい。」 「しまったなぁ、新点になるんだったら、もう一点与点を観測するか、路線を組んでおくんだった なぁ、また、後でみんなに怒るられるなぁ。」 そう言えば、偏心距離の制限は与点間の距離の1/6だったよなぁ、350mで85mだから、 これはまずいよなぁ〜っ。いいかげんな知識で、のほほんと最初の『偏心点ではなく新点です ね』と、W氏が念を押してくれたのをすっかり聞き流してしまっていたのを後悔する。 もう11番の基準点は無くなっている、今から観測する事は出来ない。閉合トラバースの形では なく、他のもう1点にとりつけて結合トラバースの形にしておけば良かったと思っても後の祭りで ある。 「どうしょうか。」 「仕方ないですよ。それで計算して見てください。」 W氏、最初からこの結末は見えていたようで、あまり驚く様子も無く、あっさり言われてしまっ た。 ● 厳密網計算 取りあえず、気を取り直して、パソコンのソフトを起動し計算する。といっても手簿をそのまま 入力するだけなのだが、観測点が3点だけなので、20分ほどですべての入力とチェックが完 了、厳密水平網計算を実行する。標準偏差1秒25、すごい、やったやった。ひとまず安心。も う、ここまで来れば終わったも同然、後は厳密高低網だ、ついでに実行。 だが、手抜きの報いは必ず現れる。厳密高低網の計算結果は標準偏差25秒、はるかに制 限を超えている。 おかしい、何故こんな結果になってしまったんだろうか、焦る。研修まで後一ヶ月もない。どの ように対処しようかと悩むが、もう与点となった11番は無い。制限値を超えた値を使用して研 修をしてもらうしかない。申し訳ない。 だが、原因だけは探らなければならない。 器械高、反射板高を同一にしてそれぞれに観測した鉛直角の較差は、350mの距離がある 10番と11番では13秒、280mの10番と偏心点では15秒、そして一番距離の近い(85m)偏 心点と11番では17秒であった。 ●またまた叱られる 私個人としては、あまり観測に誤りはないように思うのだが、以前鉛直角の観測で同じような 問題があった。やはりこの程度の距離で10秒以上の較差が生じるのは、うまく観測が出来て いない事らしい、特に距離が短く、ほとんど平坦な11番とその偏心点(新点)については、かの W氏から じんわりと「この距離で、平坦なら較差が生じてはいけないはずですが。ちゃんと間違いなく 視準したんですか。」 もう一つ「現地で出来る事は全部しなくてはいけませんよ。今ごろの器械は良いから、比高も ボタン一つですぐ表示するでしょう、比高もお互いから測っていれば、おかしいのはすぐ分かっ たと思いますよ。」 追い討ちをかける様に、「器械高きちんとなっていますか。コンペックスでちゃんと高さ測れて ますか。器械高と反射板高が同じ高さというけれど、実際の高さが相違していたなら、鉛直角 は高さの偏心という事でたすきがけで観測している事になって、すぐ影響しますよ。特に近い距 離になると大分影響しますよ。」 決定的に、「シフト式の器械を使われているから、三脚をそのままにして、光波測距儀と反射 板を据え付け替えしているでしょう、据え付けをする時に整準ネジを使って整準するけど、あれ で高さが狂っていると思いますよ」 「そうかなぁ、光波測距儀と反射板を取り替えた時も必ず、もう一度高さをとって確認したんだ けどなぁ・・。」 段々自信が無くなってくる。 確かにコンペックスで器械高等を出す場合、三脚に当たったり、器械に当たったりして、直線 的に測る事が出来ない、また、機械高のマークの位置と、コンペッスの目盛りも自分の目でに らんで、本当に目検討で測っている。是では本当に高さを測ってるのかと言われても、自信を 持って返す言葉が無い ●まあ、いいです やっぱり、近距離の鉛直角観測は難しい。頭の中では、確かに観測は同一の場所を間違い なく視準しているはずだ、高さもきっちり合わせたはずだ、それなのにこんなに差が生じるとは …。 自分の技術に自信が無くなってくる。 「まあ、いいですが、後はそれで計算しましょう。」 研修の当日まで裁判の判決を待つような気持ちでじっと、暗い年末を迎える。
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