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● 自信がないけれど 今まで基準点の研修をやってきたが、この明浜町の地形では与点の四等三角点や三等三 角点は、険しい山頂にあり、折角、観測しても、万一再測となると、30分以上かけて、山にの ぼらなければならず、全員に非常に迷惑をかける事となる。 私も、自分で観測し、自分の業務に取り入れたいと思っていたが、ちょっと、いや大分自信が ないので、黙っていた。 一回目の基準点測量の実習は無事終了し、2回目の研修へと突入、今回の地形は前回と比 べると、かなり、穏やかな地形である。だが与点の四等三角点や三等三角点は相変わらず険 しい山頂にある。今回も偏心観測は出来ないかなと諦めていると「やってみますか。」と声がか かる。「やるぜ」、と喜んではみたものの、あまり自信がない。 「偏心点から標石を観測する時は、高さを変えて2回観測したらいいです。そのくらいの時間 はありますから、慌てずにやってください。」「えっ、高さを変えて2回観測しろってどういう事な のかな。」頭の中にはてなマークが一杯になる。更に「偏心要素の測定の書き方解りますか。 こんな風に水平観測の用紙に何でも全部書き込めばいいですよ。」と言って、自分が観測した 用紙をみせてくれる。水平角距離、鉛直角全部の記載がある。「なるほど、なるほど、こうする のか」なんとなく、出来そうな気になってきた。 ● 山に登りながら 説明を受けた後、頂上の三角点を目指して登って行く、「え〜っと、確か偏心点と標石の場所 に三脚を立てて、高さを同一にして、お互いに目標板と器械の上部を入れ替えて、お互いの場 所から鉛直角を観測して、偏心点で水平角と距離を測るんだったな。」頭の中で、偏心の事を 思い出しながら登る。しかし、高さを変えて観測するという事がどうもピンと来ない。 そう言えば、以前の研修で直接水準という事でレベルを山頂に持って上がった事があった な。あの時は標石と偏心点の大体中間にレベルを据えて、偏心点と標石の高さを測定したな ぁ、確か、一回測定した後、レベルの三脚の方向も180度据えなおして、もう一度観測したな ぁ。あの時はレベルなんかほとんど使った事がなかったので観測の値に自信がなかったけれ ど、丁度あの時はW氏が標尺を持ってくれていた。確か標尺の横に垂球を垂らして、標尺の垂 直を確認しながら、観測値を読み上げると、「ここですね。」と言って、標尺の観測した位置を指 さしてくれた事を思い出す。 更に、標石の上には針を洗濯バサミで立てて、偏心点から水平角を観測した事。建設省作 業規程によると偏心距離が50メートルまでならば、検定を受けた鋼巻き尺で距離の観測を行 なわなければならない。しかし、実施機関の了解があれば10メートル以上の距離であれば光 波測距儀の使用が可能である。いろんな事を額ににじむ汗とともに思い出す。 今回は、間接水準であり、光波測距儀により距離と鉛直角を観測して、偏心点の標石よりの 高さを求める。 背中のガチャ、ガチャという音とともに、三脚を2組、光波測距儀、目標板とミラーを二人で持 って上がり、息切れをしながら何とか山頂にたどり着く。 ここは、前回の基準点研修の際に四等三角点須ノ崎から見える筈だった四等三角点の渡江 である。前回、私が須ノ崎から渡江は見える筈だと言いながら、見えなくて以後みんなにうそつ き呼ばわりをされてしまった因縁の場所である。 この雑木の上に登って、上着を脱いで振り回した苦い思いが頭をよぎる。「汚名挽回。汚名 挽回」と口ずさみ乍ら準備を開始。須ノ崎には簡易造標で5メートルの標尺を立ててくれてい る。須ノ崎は公園であるため、伐採をする事が不可能であったため、前回は2.5メートル程の 木が5.6本ほどが邪魔をして結局視準出来なかった。 ●ひも 早速、偏心点に光波測距儀を据える、「とにかく、低い場所の方に脚二つを持っていく原則、 原則、基本に忠実に。」ぶつくさ言いながら、高さも合わせるためなかなか三脚が据わらない。 こんな地形のため三脚の据え付け方には苦労する。折角、「これで良し」と三脚を据えつけた 後、光波測距儀を据えて、求心望遠鏡を覗きこむと、はるかかなたに偏心点がある。何回か 同じ事をくり返し、何とか設置完了。同じ様に標石にも三脚を据え反射板を設置。それぞれ1. 4メートルの高さにする。しかし、現地は15度程の傾斜地しかもミカン畑の中という条件、お互 いが見えそうで見えない。ミカンの枝があちこち邪魔になっている。そこで一生懸命、枝を押し たり、その辺にある間伐木でミカンの枝につっかえ棒をしたり、様々な工夫が要求される。その うちトランシーバーから「準備できましたか。」と連絡が入る。「ちょっと待って、今ミカンの枝を 押さえていますから。」「邪魔になる枝はひもで引っ張って下さい」「ひもを持って上がっていま せん」「えっ、山にあがるのにひもを持っていないんですか。」「すいません。」ここは謝るしかな い。懐中電灯、鋸、鎌、気圧計、温度計そして手簿は持って上がっているが、ひもは持ってい ない、勿論、山に上がる前に頭の隅にさえ無かった。経験不足、後で注意を受ける事になる。 ● 1.4メートル それでも何とか、ミカンの枝も処理する事が出来、観測する事となる。しかし、傾斜が15度近 くあるため、偏心点からの標石への観測へは上目づかいで望遠鏡を覗く事になり、反対に新 点の方向を視準する際には、少し伸び上がって覗きこむ事になる。胴長短足、出っ歯で近視と しゃくにさわるくらい典型的な日本人である私にとっても誰が機械高の目安を1.4メートルとした のかは知らないが丁度良い高さである。 偏心距離が100メートル未満の偏心要素の観測は2対回観測であるが、さすがに1.5キロ 離れた須ノ崎と本点までの偏心距離が10メートルをわずかに越えた距離であるため、2対回 の観測結果も水平角観測が倍角差40秒観測差60秒の制限に、きわどく入る。 鉛直角の観測については、常数点検との較差が5秒ときっちり制限内に入る。今度は標石 から偏心点への鉛直角を測ると常数点検との較差は10秒と、いずれもきっちりと入る。だが、 偏心点からの高度角と標石からの高度角の絶対値が1分ほど違う、「おかしい、こんなに差が 出てはいけないはずだ。」再測か、いや、念のため、そのまま鉛直角を測っても同じ値だ。偏 心点からも2回観測しているが差はない。 「距離が短いし、傾斜もきついから、この程度でいいんじゃない」と手簿者と勝手に相談し、こ れで0Kとしてしまう。 ● 気温、気圧 新点の観測班から、反射板の準備が出来たと連絡が入る。さあ、今度は新点を観測だ、須ノ 崎と新点の角度を観測しなければ、鉛直角の観測から始まる、新点の鉛直角と常数点検のた め適当に使用した建物の角の鉛直角との較差5秒0K・0K、次は距離の測定だ、新点の位置 の温度と気圧をトランシーバーで聞く、我々の位置の気温、気圧も測定し、その平均値を機械 に入力する。しかしながら今回の研修については使用光波測距儀は同一ではないため、各光 波測距儀のメーカによって気圧の単位が一定していない、使用光波測距儀が違えば、こちら はmmHgを使用しているのに、相手方はヘクトパスカルを使用、標準気圧を表すのに760m mHgと1013ヘクトパスカルでは数字にかなりの開きがあり、相手も自分の光波測距儀と同 一のつもりで「気圧は755です」と言っても相手からは、「ヘクトパスカルでお願いします。」と請 求があり、再度、ゴソゴソと気圧計のところへ向かう事になる。 温度については、棒状の水銀柱で日陰で観測とあるが、なかなか水銀柱を持っている人が いないのでアルコールの温度計も使用。更には、日陰が見当たらず、日向で観測しているた め、時々逆転現象がみられる。今回は7班で観測し、その準備しかしていない、幸いにも光波 測距儀と反射板については余裕があるため、突発的に観測点に移動、観測する場合は時々 組み合わせによっては気圧計と温度計が不足する場合も出てくる。丁度今その事例があった ようだトランシーバーを通じてアドバイスが聞こえて来る。 「100メートル上がる毎に、気温は0.6度から1度、気圧は13ヘクトパスカル減っていくよ。だ から、自分の場所の気温と気圧が解っていれば、そのつもりで計算しなさい。相手との高低差 は最初に温度補正とか気圧補正をせずに、ざっと距離を測れば光波測距儀で解るだろう。そ れから後に気温、気圧を計算して平均値を光波測距儀に入力してきっちり測ればいいんだ よ。」と耳に飛び込んでくる。トランシーバーで聞きながら「へぇ〜っ。そんなものなのか。気圧は 知らなかったなぁ。」やはり、私には測量の常識が完全に欠如している。田舎に住んでいなが ら草花の名前なんかほとんど知らない。梅と桜、さらには杉と檜の違いさえ怪しい、良くこれで 土地家屋調査士をやっていると我乍ら感心しているのだが、測量についてもこの程度の知識 で大きな顔をしているのかと思うと空恐ろしくなる。 ● 真っ白 余計な事ばかりしていたせいか、どんどん日もくれて来た。距離の測定も終了し、水平角の 観測を残すのみとなる。早く観測しないと本当に日が暮れてしまう。 須ノ崎と新点の2方向で3対回の観測である。日暮れの海に突き出た小さな半島にある須ノ崎 を視準するが、直接視準しようとすると、望遠鏡のピントが全くあわない、いくら調節しても真っ 白なままである。「ありゃ、見えん」弱った、どうしょう、いくらやっても真っ白。肉眼で覗くと、なん とそれらしきものが見えているではないか。光波測距儀が故障したのだろうか、「おいおい、こ こまで来て頼むぜ。」新点を視準するとはっきり見える。「これは故障ではない、何とかしなくて は。」仕方なく、手前の海にある真珠のいかだにピントを合わし、そのまま望遠鏡を上にゆっく りと移動し、須ノ崎の標尺を見ると、くっきりと見える。なんと不思議な現象である。人間の目の いたずらだろうか。10分後何とか観測終了。 ● 今日の10分、明日の2時間 しかし、倍角差20秒、観測差15秒である。何とか2級基準点30秒、20秒の制限内には入 っているものの「ちょっと良くないかな。どうしょうか」手簿者と相談、「制限内だからいいんじゃ ない。」「そうだね。まあ、一応彼に御伺いを立てておこう」とトランシーバーで「20秒と15秒な んですが、どうしましょうか。」「ちょっと良くないですね。もう一回測っといて下さい。」即座に言 われてしまった。急いで再測、今度は何とか10秒と10秒であった。観測の平均値は1秒程度 の相違である、この間の所要時間10分。 前回の基準点実務研修の際に再測が生じ、朝一番に観測したが、観測点の光波測距儀は 勿論、反射板を据える場所にも再度、全員が配置につかなければならず、その位置だけの観 測であるにもかかわらず、宿舎を出発して2時間程度の時間がかかった事を思い出す。そうい った事からも、結果によれば、観測の制限内でも再測を恐れず、納得のいく観測結果を得た 方が、結果的には全員の迷惑が少なくなる。自分が早く帰りたいと思い、いいかげんに終了す る事の影響の大きさを知る10分でもあった。 ● 山からおりて 観測を終了し、宿舎に帰りつくが、どうも「高さを変えて2回観測したらいいです」そう言われ た事が頭から離れない。一応研修で習った通りしたんだから良かったんじゃないか。何故高さ を変える必要があるのかな。恥を忍んでこの事を聞いてみる。 「今回は1.4メートルの高さにして偏心点からも標石からも観測出来たので高さを変えずに 観測したけれど、どうして、高さを変えて2回の観測にする訳。」 「ああ、両方で観測されましたか。まあ、それが一番いいんですけれど、両方でお互いの鉛直 角を測るという事は球差を消去するために行なう訳でしょう。」確かに、言われて見ればそうい う風に習った。「今回の様に偏心距離が短くて、球差に影響が無い場合、しかも視通の条件が 悪くて、鮮明に見えるが、それは全体ではなく、ある高さの部分で見えるような場合なんかは、 極端に言えば偏心の距離と角度それに標石からの高さが観測出来ればいいのだから、標石 にはきちんとまっすぐたてればピンポールでもいいと思います。なかなか山に沢山の荷物を担 いで上がれないでしょう、条件を悪くして無理して観測するよりも、現場に合わしてきっちりした 観測の方がいいと思います。」なるほど、なるほど、「それで、高さを変えるのは標石に立てた 目標板を変える訳なの。」。 「いいえ、偏心点からの片観測であるため、光波測距儀の持つ誤差を消去するために、偏心 点に立てた光波測距儀の高さを変えて標石にたてた目標板の鉛直角と距離をそれぞれにとっ て確認する訳です。」後で建設省作業規程を読むと同様な事が書いてある。 どうも私は杓子定規に考えてしまっていた様である。臨機応変に現場に合わせて、より正確 という事か。
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