![]() ●サイは投げられた ついに研修当日になってしまった。本当に我々に2級基準点が作れるのだろうか。今回は国 土地理院に届出は行わないが、当然、それに準じた作業を行うつもりである。しかしながら、 我々には経験が無い。過去の基準点測量の研修において色々学んではいるが、それはあくま でも研修であり、今回のように研修も兼ねるが、成果について実務で使用するのは初めてであ る。 既に国土調査が完了している地元の町を巻き込んで、精度の悪い国土調査の図面の改善 のためにも、基準点作成の大事さをPRするという目的もあり、失敗は出来ず、責任重大であ る。 本当に我々に出来るのだろうか。途中で投げ出す事はもう出来ない、仮に良い成果が出な かったら、責任上、良い成果が出るまで私が再測しなければならない。そのほうが不安という 声もあり、参加者みんなが頼りである。 ●集 合 当日、午前9時集合。既に前日から泊まりこんでいた四人は器械のチェックと水平角の3対 回の練習を兼ねて前回三辺法で作成した現場で練習を開始していた。 丁度9時、全員が揃い。四人の待つ現場に向かう。現場に到着すると、持参した器械を据え 付け、全員が交代で観測を開始した。各人、地形的にも平坦地であり、器械も据え付けやすい 場所とあって、水平角観測の3対回観測も倍角差、観測差の30秒、20秒の制限の中にすん なり入ったようである。 11時も過ぎた頃、器械の不良な物もなく、チェックを完了。基準点作成の現場となる隣町へ と移動する。途中の県道(もう既に、この位置から今回の基準点測量研修の対象地である。) で、あらかじめ選点した場所に新点(K−1)となる砲金を道路のコンクリート擁壁にドリルで穴 を開け、設置。その後今回の研修の拠点となる現場の民宿に到着した。 ●また、伐採 早速昼食をとり、今回の研修の班編成を決定。二人から三人の班編成となる。昼食の後の 休息時間に有志で前回の伐採の際に時間が無く、選点をしていなかったK−3地点に急ぎ向 かう。各人仕事の合間をぬっての研修であり、準備になかなか時間が取れず、どうしても用意 万端という訳にはいかない。 たまたま、私が以前、図根三角点を使用してのトラバース測量を行なった場所であり、私が 以前観測のために伐採し、プラスチック杭を設置した場所から、おそらくK−4地点、K−2地 点、K−9地点のすべてが観測出来ると判断し、選点を後回しにしていた。 急勾配の足元のなかなか定まらない砂のようなミカン畑の中の道を20分程度登り、K−3地 点に到着。「あれっ、思っていた位置では全然見えない。」急遽、場所を変更。木に登り、全部 の点が見えそうな場所を必死で探す。地主には伐採の許可を既に得ているので、伐採につい ては支障はない。しかし、研修に来てくれたみんなを待たしている、何とか早く場所を決めなけ ればと気ばかりが焦る。 ウロウロ場所を探す事10分程、木に登って辺りを見ていたW氏「ああっ、この位置でいけま すよ」の一言で伐採が始まった。3方向の伐採を手分けして行い、なんとか1時間後には伐採 も完了し、新点の位置が決定した。 みんなの待つ宿舎に戻る。時は14時30分。みんなが待ちくたびれて「今日は観測しない の。」完全に手持ちぶさたの様子。「今から、前回の選点でやり残した場所と、現場の下見をか ねて全員で出かけます」。全員、車を連ねての移動。 ●やり残し 測点K−8、金属鋲の設置。 測点K−16は測点K−17との視通の確認し、カーブミラーが視通を邪魔しているため、新 点の位置を20センチ横に移動。 測点K−19はK−18との視通の確認と位置の決定を行い、金属鋲の設置を行なう。 四等三角点須ノ崎においては偏心点からの測点K−17と四等三角点渡江との視通の確認 をそれぞれ行い一応終了した。しかし、須ノ崎ではもう17時を過ぎており、渡江に実際に人が たちそれを目で確認はしなかった。ただ、渡江からは須ノ崎の地形が見える事だけは前回の 選点の時に確認していた。そのため、W氏も私に「この方向ですか、」と確認したのみで、その 方向についての雑木の頭だけ切って、一応視通をつけ、本日は終了した。 ●誰かいない 宿舎に戻っての夕食。やっと食事が出来る。なんとか本日の予定を終了し、後は、与点の四 等三角点宮野浦と狩浜の伐採を残すのみとなった。 両方とも山が険しく、伐採と観測を同時に済ませる予定であり、明日以降の伐採となる。 やれやれ、本日は終了。「ビールでも飲んで明日も頑張って下さい。」と食堂に座ると、食事 の量が一人分多いではないか。 連絡の入った人については、食事のキャンセルをしており、あまるはずはない。ひょつとして 予約の人数を間違えたのではないか。一人、二人と頭の中で数えるが、余るはずはない。「え っ、ひょつとして。誰か来ていないのでは。」座っている連中をぐるっと見渡す。なかなか不足し ている人の顔が浮かんでこない。「だれだったかな。」。名簿と顔を一人づつ確認。「Kさんだ。」 慌ててK氏の事務所に連絡を取るが、応答が無い。「これはいかん。」朝9時の集合場所に遅 れて来て。一生懸命我々を探しているのではないか。折角、朝集合場所に来ていながら、車で 移動する際に迷子になった人の例もあり、不安になりK氏の自宅へも電話するが電話には誰 も出ない。いよいよこれは事故だと、私の自宅へも確認するが、彼からの連絡は入っていない との事。これ以上は、どうしょうもない、研修の案内には、この宿舎の電話番号も記載してお り、後は彼からの連絡を待つしかない。食事も終了し、風呂に入り。一息ついた頃。再度、彼 の自宅へ電話する。今度はやっと通じた。集合場所で彼は延々と待っていたのではないかと、 申し訳ない気持ちで電話口の向こうの彼に話をすると、なんと彼はこの研修の事を忘れ。当 日、彼の地域の地方祭だったため、見物に出ていたとの事。絶句。「早くこいよ。」。一言 ●悪魔のささやき そんな事があった夕食時にW氏から「明朝、方向角の取り付けのため、四等三角点の渡江 に登って、須ノ崎から良く見えるように造標を造りに行きましょう」と悪魔のささやきがあった。 そう言えば「直径10センチ程度の杉の丸太、何とか都合がつきませんか。脚立もあります か。」と電話があった。始めから、このような事態を予想していたようである。 更に、全員にこれからの観測にあたっては、器械高と反射鏡の高さについては原則として 140センチとする説明がある。また、器械の高さの測定にあたっては、三脚に器械を据えた後 測るのではなく、器械を据える前の三脚の脚頭の高さで、三脚の脚頭の穴からまっすぐ標石 迄の距離を測るように注意がある。確かに、器械を固定した後ではまっすぐ距離を測れず誤 差を生じる。 彼は体力もあるが食欲もすごい、みんながビールを飲むのを尻目に黙々とご飯をかきこんで いる。「ご飯食べないと、太りますよ。」最近中年太りを気にしている私には気になる言葉。それ でもビールを飲んでしまう中年の意地汚さ。 ●造標 翌朝6時。眠い目をこすりながら、宿舎から車で15分程度で四等三角点の渡江のある山す そに到着、器材を担ぎながら、高さ60メートル程の急傾斜の山を登る。朝飯前の運動にして は激しすぎる運動となり、息も絶え絶えの状態になる。 担いで上がった物は、標尺(スタッフ)、トランシット、三脚、杉の丸太3本である。トランシットも 持って上がって下さいと言われ、何が何やら解らずに体力にものをいわせて運んできた。 「よっしゃ、やるぜ」の掛け声で何やら作り出した。 四等三角点渡江は、ミカン畑の中にあり、ミカンの木は、手入れはされているが、2メートル 程度の高さに手入れされている。 このまま、反射鏡を140センチの高さで建てても須ノ崎からは、見る事が出来ない。地形的 な事を考えれば、恐らく3〜4メートルの目標物でないと見る事が出来ないだろう。 杉の丸太を2本、1メートル程度の間隔で打ち込み、そして残りの1本を横にして、丁度神社 の鳥居のような格好にして、固定してしまった。「即席、即席」と言いながら、今度は標尺をその 鳥居でささえる様にして、5メートルの高さに伸ばし、何時の間に用意したのか、針金で杉の丸 太の鳥居と標尺を固定し始めた。後の細かい固定については、現場の雑木の小枝と針金で器 用に固定した。針金の巻き方も標尺にあたる部分についてはテープで標尺を覆った後巻き付 けていく丁寧さ。また、標尺を良く見ると、一番上の部分には、長さ10センチ、直径1センチ程 度のまっすぐな木を垂直になるように針金で固定し、標石の丁度真上にあるようにしてある。 さすがだなぁ、と感心。W氏から「この辺りにトランシット据えて下さい。」指示があった場所 は、四等三角点渡江からは須ノ崎とは反対側の位置。何の事か解らず、急いで器械をすえつ ける。「標尺がまっすぐ建っているか、確認して下さい。」。なるほど、納得。トランシットでにら み、上から下まで、器械で確認する。前後の傾きは方向角の取り付けだから関係ないわけ か。横の傾きがあれば角度に影響するから、角度に影響しないように、前、もしくは後ろから、 まっすぐたっているか確認すれば良い訳か。一人勝手に納得してしまう。 ●観 測 朝飯に間に合うように、何とか宿舎にたどり着く。前日運動しているためか全員食欲がすご い。朝からどんぶり飯二杯くってケロッとしている。良く食べるなと感心しながら、私も二杯目を 食べおわってしまった。 本日から、本格的な観測である。まずは、比較的条件の良いK−12からK−17経由で須ノ 崎、K−18、からK−19経由で狩浜と路線を測る事となり、6班に別れトランシーバー片手に 現地へ出かける。 準備のため、少し遅れて宿舎を出たW氏と私であったが、W氏、国道沿いで観測の準備の ため光波測距儀を据えている場所に近寄り、「やれますか。」とチェック。時々「あっ、これ三脚 が良く据わっていませんよ。」三脚の据え方を指導。アスファルト舗装の上に据えている班につ いては、「三脚の位置は決まりましたか。」と言いながら石突の位置にトンカチと鋲で小さな穴 を開け、ずれる事のないように固定する。 「三脚が良く据わっていないと、平坦な場所はいいですけれど、傾斜地ではすぐ制限を外れ ますよ。まず脚頭は水平に。系手のある場所だったら、必ず低い位置に三脚の脚の二本が来 るように据えて下さい。基本に忠実に据えてください。器械は精密ですから、きっちり据えて下 さい」と言いながら皆の器械の据え方を確認していった。 私なぞ、器械を早く据える事だけに眼を取られ、三脚の脚頭を水平にする事なぞ度外視して いた。反省。すべては基本どおりに。 幸いに路線も国道に沿って決定しており、足場、見通しとも良く。2方向の観測が多かったた め再測も無く、調子良く観測が進んだ。 ●ライトを目指せ 体力のあるW氏は皆の器械の据え方を確認した後、未だに伐採の終了していない四等三角 点狩浜に登り、K−19との視通確保のため伐採を続けていた。 雑木の中をひたすら150メートルの標高差を登っていかなければならない四等三角点狩浜 は、前回の選点でもう懲り懲りであった私は、一応、「登ろうか」と申し出たものの「行きましょ う」と言われたら、どうしょうかなと心配していた。「いいです、若い人と登る様にします」。もう、 見放されてしまったが「助かった」。 やがて、観測の順番もK−19と狩浜の順番となった。トランシーバーを通して会話が聞こえ る。狩浜からK−19は山から平地とあって良く見えているようで、観測はすぐ終了した。しか し、逆に平地から山の中を見る形になるK−19からの観測については、なかなか狩浜の反射 鏡が解らないようである。 以前の選点と伐採の時、山の中の反射鏡について、果たして確認出来るかどうか不安にな り、W氏に聞くと「大丈夫です。ライトを使います。山の上の光波測距儀で平地の観測点を視準 し、接眼望遠鏡の部分からライトを照らすとレンズの部分が白く抜けたよう光って、良く解りま すから心配いりませんよ」との事であった。 今、丁度その場面のようである。山の上の四等三角点狩浜のW氏が「見えますか」平地のY 氏「ああっ、白く光って見えます。解りました」こんな会話がトランシーバーから聞こえて来た。ど うやら狩浜とK−19の観測も終了したようだ。 そして、午前中の最後の観測場所の須ノ崎まで進んだ時、それは起こった。 ●渡江はどこ 須ノ崎から渡江をみるが、全然場所が解らない。5メートルの標尺を立てており、絶対見える はずである。しかし、いくら見てもある場所に無い。望遠鏡を眺めれば、何かそれらしき物はみ えるが、確信はもてない。どうせ観測が終了すれば造標した資材を引き上げなければならな い。やむなく渡江に再度登る事とした。昼飯前の汗を流し、2、3回滑り乍ら、やっと渡江の造 標まで登った。 こちらからは須ノ崎の突き出た岬が全部良く見えている。これで見えないはずが無い。到着し た事をトランシーバーで連絡する。丁度3メートル程度の手頃な灌水用のエスロン管があった ので、それにタオルを巻いて振ったのだが、いっこうに見えた気配が無い。腕もだるくなった 頃、「標尺の後ろにある適当な木に登って、上着を脱いで振ってみて下さい。」いつの間にか四 等三角点の狩浜から降りて来たW氏の声が入ってくる。ミカン畑のミカンの木に登る訳にもい かず、あたりを見渡すが雑木ばかり。背の高い木もあるが、幹は細い、はたして登れるだろう か。 「自慢じゃないが、私は中年太りだぞ、こんな木になんか登れるものか」とぶつくさと一人言。 それでも、なんとか木に登り自分の着ていた上着を振る。振る度に落ちはしないかとおっかな びっくりである。若かりし頃はこんなんじゃなかったのにと情けなくなり、ついでに腕も疲れた 頃。「見えません、もっとはっきり見える場所に出て来てください。」。やっと木登りから解放され る。木から滑り落ちるようにして、ミカン畑のミカンの植林されていない見晴らしの良い場所に 出てタオルを振る。「これでも見えないのか、目を良く開けて見てくれ」、しかし、トランシーバー から聞こえる声は悲観的な事ばかり、30分後、やっと「確認できましたが、その方向はこちら の偏心点および本点からは見えません。どこか他に取り付け出来る場所はありませんか。」え っ・・・。見えるはずだが、皆に申し訳ない。他の場所はあの三角点とあの三角点、両方ともま だ踏査していない。これからでは間に合わない。どうしようか。頭は真っ白。「方向角の取り付 けは止めますので造標を撤収して降りてください」。すごすごと山を降り。昼食のため宿舎に向 かう。 ●良くあることですよ 「Wさん、悪いね」「いや、良くある事ですよ、気にしないで下さい。」 前回の選点の時も前日の選点の時も、一応、現地に来て視通の確認をしたつもりでいた。し かし、その両方とも17時ごろであり、相互に視通の確認をしていなかった。折角、前回の選点 の時は両方で視通の確認をしたにもかかわらず、西日の照り返しのせいで見えないものと思 い込んでいた。やはり、自分の目ではっきり確認しなければ後々の作業が全部無駄になってし まう事をこんな大事な時に実感してしまった。 計画、準備がかっちり整ってこそ、観測がスムーズに進む。 ●びしっと決めますか 少し遅めになったが、全員で宿舎で昼食となる。「今の時間は観測に不向きですから、ゆっく り食事して休息したらいいですよ」。W氏から珍しくやさしい言葉がでる。 食事をしながら、湾越えの4方向の観測について、S氏に「16時30分に1回限りのチャンス でビシット決めて観測してみますか。」と話し合っている。 水平角観測は10時から14時までは避けるようにという事は聞いているが、16時過ぎまで待 たなくてはならないのかな。と思いながら横で聞いている。 しかし、早朝から動いていると、何と能率の上がる事か。ひょっとして観測も予定しているより も早く終わるのではという期待も出て来た。だが、W氏「まだ、まだこの程度じゃ、安心できませ んよ。」しかし、民宿の昼食量については宿舎の料理長の予定よりははるかに越えていたこと は間違いない。運動量が多いだけ食事がすすむ。 ●再度K−3へ 食事が終了し、ゆっくり休息した後、午前中とは民宿を挟んで反対側の国道沿い観測する事 となり、私達の班は再度K−3へと向かう。一日に2回も上がるには、ちょっと厳しい場所であ り、脚もガクガクして来た。それでもK−6、K−8、K−9、K−10、K−11と観測が進み、山 の中腹に位置するK−2、K−4、K−5の新点にも角度の取り付けのため、それぞれの班が 上った。我々の班は最後までこの場所で頑張る事になる。やぶ蚊とバラの刺と付き合いなが ら、じっと我慢の子となる。 午後の観測については、かなりの高度差があり、再測も少々あったようである。それでも何と か最初の予定どおり17時までには全部が終了。急ぎ宿舎に帰る。 ●おかしいぞ 夜、今までの手簿の整理を行う。各班ごとに、頭を突き合わせ、整理を行う。 同時にW氏、チェックで環の水平角の閉合差を計算している。 どうやらおかしい結果が出た様である。 6度ほどおかしい様である。理由はすぐ解った。どうやらK−8地点からの観測で誤った測点 を視準したようである。犯人はY氏。K−9とK−10を間違えて観測したようである。視準する 相手であったK−9地点にいたO氏「いつまでたっても、反射鏡を向けろと言う連絡が無いので 不思議だなぁ。と思っていました。」。「あれあれ、」。当然、再測である。しかし、なんとK−3も 観測の相手である。Y氏は前回の選点と伐採の時に参加しておらず、近所で方向もほぼ同一 場所であったK−9とK−10を間違えても無理はない。日頃、測量技術には自信をもっている Y氏、S氏の変りにバシッと四方向の観測を決めて本日のヒーローになるはずだったが、残 念。こればっかりはどうしょうもない。平謝りで、明朝再測する事となった。 ●ケチのつきはじめ 前日、調子にのってW氏と夜遅くまで話し込んでしまった私の部屋に朝5時30分、Y氏がノッ クをする。眠い眼をこすりながら、K−3へと向かう。 外はさすがに薄暗く、車もライトを使用して移動する。朝飯前にはちょっと荷の重い坂を登り K−3に反射鏡を設置する。 今回はさすがにY氏も注意深く観測したと見えて、彼にしては少し時間がかかるなぁと思う程 度で観測は終了し、朝7時には何とか宿舎の朝食がとれた。しかし、これがK−3のケチのつ き初めだとは誰も思わなかった。 ●獅子奮迅 本日は与点からの観測を行うとの事。幸い四等三角点狩浜からは前日済んでおり、小早 津、権現、仁土の3個の与点にW氏と若いO氏が頑張って登るそうである。 本当は、偏心や色々実務の勉強をしたい事や見たい事がたくさんあり私も登りたかったのだ が。折角W氏が登ると言ってくれているので残念ながら譲る事にした。 しかし、彼の動きはまさに獅子奮迅の働きぶりであった。「厳しいところで再測になったら大 変です。やる事も多いですから私がやります」前回の伐採時に彼は既に覚悟を決めていてくれ た。しかしながら我々がいかに頼りないかという証明でもある。頑張らなくっちゃあ。彼は権現 の観測が済むと、休む暇もなく小早津、最後に仁土へと観測にあがる。 ●本日は晴天なり 本日は晴天。非常に温度も高くなって来て、かげろうの影響も多少出てきているようである。 与点と新点の関係も本日の観測は山頂の与点と海岸に所在する新点もしくはそこへ結ぶため の山の中腹の新点であるため、高低差も激しく。足場も悪い、しかもすべて3方向以上の観 測。かげろうの影響も加わり四苦八苦である。当然再測も多くなる。初日に比べて観測のスピ ードも鈍りがちである。 それでも何とか予定どうり進み、本日最後の観測点K−6となった。この場所はゲートボール 場の海岸部分の突堤にあり、コンクリート擁壁部分は50センチしかなく、三脚を設置すれば一 杯になる。しかも、片側は海である。観測をしたM氏、あまり海岸の測量に慣れておらず、海を 後ろにした時おっかなびっくりになり、どうしても接眼鏡を横から屁っ放り腰でのぞきこむように して観測。そのため120度輪郭の観測が制限から外れてしまい、再測。しかし、事無きを得て 終了。 W氏の獅子奮迅の働きのおかげで、後は四等三角点宮野浦にからむ観測のみとなった。 ●調査士は体力がないよ 研修最終日の本日、大伐採の予想される宮野浦については、観測に必要な人員以外は、全 員山頂に登り伐採することとなった。 ここは私が熱射病になった場所である。光波測距儀2台、三脚5台、反射鏡2台、脚立、前 回渡江で使用した杉の丸太、標尺そして10メートルのカスタムポールをそれぞれに背負い乍 らあがる。最初の50メートル程続く傾斜のある石段で、もうあごがあがった調査士が一人二 人、さらに200メートル程続くミカン畑の段々畑の農道でも二人程、そこから横に入った水槽 工事用の300メートル程の作業道でほとんどの調査士は討ち死。最初からの荷物を最後迄 背負いきった人は数えるほど。日頃の訓練不足が露呈する。 ●木のぼり やっと水槽に到着、ここからは稜線沿いに400メートルほど歩いて到着。ほっとする間も無 く、急ぎ伐採にかかる。宮野浦からは2方向の伐採をしなければならない。二手に別れ、伐採 にかかる。鋸、鎌、斧を駆使して伐採していく、皆ある程度なれたせいか、要領が良くなって来 ている。しかし鋸のきれが悪い。隣で切っているW氏の鋸は4回程ひいただけて、もう5センチ 程の木がきれている。こちらは3センチ程度の木もなかなか切れない、途中でへたり込む始 末。何でも彼は今回のために鋸の刃は新しくして来たとのこと「鋸が切れなかったら、無駄な体 力を使いますから」なるほど。確かに切れないと体力の消耗が激しい。 感心しながらも、1時間程で伐採はほとんど終了。後は赤松の枝が邪魔になり、それを落と すのみとなった。しかし、松は枝が少なく、なかなか登れない。 ちょつと挑戦とY氏が登ってみるが、何回やってもすべってしまい、やっと2メートル程登った ところでそのままコアラのように木に組み付いているのみ。もうこれ以上は登れそうにない。見 かねたW氏、やおら登りだす。全員、見事なもんだと感心して見とれている。腕と脚で木を締め 付けるようにして登っていく。あっと言う間に8メートル程登り、最初の枝に手をかけ、切り落と してしまう。更に二番目の枝もばっさりきりおとしてしまった。やっぱり彼は○○だ。 ●赤い光 これで、伐採は完了、山頂からは新点の位置が肉眼で確認出来るようになっていた。 取り敢えず、四等三角点宮野浦からは直接、新点が観測出来ないため、偏心点から、それぞ れの新点を観測した。しかし、やはり山の中を下からみあげる形になる、新点からの観測は、 偏心点の位置の確認が難しい。前日の狩浜と同様に偏心点からマグライトを使用して確認を する。 だが、K−5地点からの確認はかなり難しい。何度も何度も確認の連絡が入ってくる。10メ ートルのカスタムポールの先に紅白の旗を縛り付け、位置を知らせる。「旗については確認出 来ますが、反射鏡については確認出来ません。どのあたりですか」と連絡がはいる。こちらか らは肉眼でも確認出来ており、なかなかじれったい。ついにマグライトを使用して位置をしらす が、なかなか確認出来ないようだ。ついに、光波測距儀の位置を知らす赤い光を利用する事 になり。器械の高さを調節し、K−5地点に向け光を送りはじめた。今度はさすがに解ったよう である。順調に観測が終了した。 ●仁王だち ついに今回の研修の最後の観測。小早津からの方向角の取り付けのため、この宮野浦を観 測するだけとなった。 小早津の方向は四等三角点宮野浦からは丁度、宮野浦の山の稜線と同じ方向であり、これ は伐採の量が多く、伐採は不可能である。 そのため、ある程度高い、標識を作る必要がある。渡江で使用した造標をW氏又も作りはじ めた、しかし、今回は標尺を上げてもまだ、木の上に出ない。止むを得ず、鳥居のようにした 造標の横の部分に釘を打ち、その釘から垂球をつけ、標石の上に丁度来るように調節し、そ の上に標尺をまっすぐ立てた。当然トランシットによりまっすぐにたっている事は確認する。しか し、まだ小早津からは見えない。仕方なく、カスタムポールに紅白の旗を括りつけ、振ってみ る。やっと「旗は確認出来ました。」と連絡がはいる。連絡をとりながらポールをどんどん低くし ていく、丁度、標尺とほぼ同じ高さのところで旗は確認出来ます。それがぎりぎりです」との連 絡がはいる。標尺は見えないが、その後ろの旗は見えるとは、なにか不思議なものを見たよう な気になる。しかし、人間の眼は動いているものは良くみえるのだそうである。 そんなやりとりの後、「15分の辛抱、辛抱」と言いながらW氏他二名で、じっと標尺を支えて 仁王だちである。 「観測、終わりました」。終わった。小早津から連絡がはいる。 ●戦い終わって なんとか、すべての観測は終了した。天気にも恵まれ、全員が頑張ったおかげで、なんとか 終了する事が出来た。あとは結果がどうなるかである。再測があるか。全く使い物にならない かもしれない。不安がよぎる。とにかく、今回の研修は時間がない。 取り敢えず、昼食の後、現地解散とし、私の事務所に戻り整理を行うが全部を行う時間も無 く。経験豊富なW氏に後の整理をお願いすることにした。 そして、数日後、電話連絡の際、「実は、再測があるんです」「えっ、どこ。」「K−4です。」ま たまたK−3が観測の相手。まさに呪われたK−3である。 もう他の研修参加者はいない。私一人で観測しなければならない。W氏は常に一人で基準 点の観測をおこなっているそうである。頑張るなぁ。 ●一人で再測 少し、心細くなったものの、ナントかしなければ。まあ、ナントかなるさと現場に向かった。時 間は14時、観測の相手となる視準点に反射鏡を設置してまわらなければならない。K−1につ いては、現場に行く途中の町道であるので、簡単に設置。しかし、四等三角点小早津や研修 期間中連日のように登っていたK−3にも反射鏡を設置しなければならない。車で横付け出来 る位置でもないので、全部に設置して観測のためにK−4地点で光波測距儀を据え付け完了 したのは15時を過ぎていた。 急がないと、観測終了して反射鏡を撤収に行くころには真っ暗になる。早く観測しなくては。お まけに最近、山の中にはイノシシが出没していると民宿の料理長がいっていた。うら若い美人 と遭遇するならばうれしいが、イノシシは御免こうむりたい。早く、観測をしなければ。 ●まぶしい しかし、K−4地点から小早津の偏心点を観測するが、なかなか確認出来ない。下から山の 中の反射鏡を探す難しさは身をもって知っているが、こんな一人でやっている時に弱ったな。 大体このあたりのはずだが、かなりの伐採をしたから、それなりの様相になっているはずだと、 じっくり探す、なにか丸い浮き出た模様が木の上に丁度見える。「あれかな。ちょつと解りにくい な。ちょつと距離を測ってやれ。」光波測距儀の距離測定ボタンを押すと距離が測定出来た。 やはり、あれに間違い無い。確信すると、不思議なものでターゲット板の模様も見えて来た。こ の間10分。しかし、先程から太陽の光が、横からまぶしい。帽子のひさしで日光を遮り乍ら観 測。更にK−1地点を観測する。同じように太陽の光が邪魔をする。薄くもやのかかった様にな り、望遠鏡内のヘアで挟んだ反射鏡が少し、揺れているのがわかる。しかし、まぶしい。太陽 の光が眼にはいってくる。帽子のひさしを向きを変え乍ら、観測。更に呪われたK−3地点を視 準するが、見えない。「えっ、嘘だろう。前回の観測では、この地点から肉眼で三脚が見えたの に。」望遠鏡を使用しても、なかなか解らない。この地点に上がって、観測を手伝ってくれてい る人夫さんに、トランシーバーで連絡をとり、ポールを降り。タオルを降りして、やっとのことで見 つけだすが、近い距離であるにもかかわらず全体が白くひかり、非常に確認が困難な状態で ある。 それでも、何とか3方向、3対回の観測を制限内で終了した。その所要時間は18分ほどだ が、自分ではちょつと、目標の確認に時間を取りすぎたなと反省。今回は再測に来ているのだ から、再々測にならないよう、もう一度確認しておこうと再度はかりはじめた。 ●スポットライト 太陽の西日は益々きつくなっていたが、丁度K−4地点では太陽が山の後ろに入り、先程迄 のまぶしさが嘘のようになる。しかも西日がK−1、K−3地点にあたり、反射鏡はまるでスポッ トライトを浴びたようにくっきりと見えだした。こうなるともやの中にいたようなK−3の地点も、 今までのうっぷんをはらすかのように、肉眼でさえ見えだした。いかに私でも、これだけ観測の 状態が良ければ、きっちり観測が出来無ければ嘘である。テンポ良く観測は進み。今度は12 分程で終了した。今回も観測差、倍角差とも制限内に納まっている。 しかし、結果は1回目と2回目の観測の差は、両方とも観測の制限に入っているにも関らず2 0秒近く相違した。 いかに、気象条件の良い時を待つ事が大事か良くわかる。大気が安定した状態になるまで 待てと言うのはこういう事なのだろう。わずか20分程の時間でこうも変わってしまうものなの か。そう言えば、W氏がS氏に湾越えの観測を「16時30分に一回こっきりの観測でバシッと決 めますか」と言っていた事を思い出す。こういう事だったのだ。 15時42分、観測が終了し、各視準点に設置した反射鏡を回収に車で移動。イノシシに出会 う事も無く、無事回収する事が出来た。 後は結果を待つのみである。
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