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●お金をとるなんて 今回の基準点測量研修にあたっては、同一の町での2回目の研修となった。町の協力をとり つけ、実費費用の一部を負担協力してもらっている。勿論、利益など考えれない。 「この程度の実力で費用を取るなんておこがましい、詐欺じゃ。」とは、かのW氏の発言。確 かに、大半の参加者がたどたどしい知識で基準点測量に挑戦している。 まさに、始めて英語を習った中学一年生が、いきなり街で、見知らぬ外国人に話し掛けら れ、一生懸命、辞書片手に会話を試みようとしている風景を想像していただくと、我々の研修 風景と通ずるものがある。 かく言う私もその一人である事には間違いない。無謀と言えるかもしれない。しかし、やらな ければ何事も身に付かない。若気の至りといわば言え。もう、若いとは言ってもらえなくなった 年代なので、この言葉を使うのは少々気がひける。 反面、少々ずるくなってしまった年代でもあるので、駄目で元々と町に協力を依頼したとこ ろ、ひょうたんから駒。利害関係が一致したので少々の補助を頂く事にしたのだが、当然、実 費の全額には及ばない。 ●基準点杭を入れる しかし、今回の研修場所の地域については町も後で実際に基準点を使用したい場所であっ たため、基準点の設置についてはしっかりしたもので後々残るものを入れてくれという要望も あり、その費用については負担するとの事。 こちらについても、きっちりしたものを入れる事は願ったりかなったりである。 町はこちらに全て任せるという事なので、早速、カタログを見て材料を発注する。実際の基準 点の設置にあたっては、我々の予算、体力、そして地形を考慮して、ちょっと手を抜く事とし た。コンクリート杭を人力で傾斜地に運びあげる事を考えると、規定どおりのコンクリート杭を 使用する気にはならない。 コンクリート杭については、県や市町村が使用している素ぼり用の境界杭を使用する、これ は巾12センチ角で長さ90センチのコンクリート杭とその根元を固める基礎ブロックのセットに なっている。更に測量杭のカタログも参考にして、この境界杭を巾15センチ角で延長50セン チのものとし、杭の頭の中心に測量杭のように直径3センチの深さ10センチの穴を開けたも の20セットを町を経由して特別に注文した。更に、基準点である金属標については直径9セン チの金属標を町の名称の刻印入りで町が直接、業者に発注した。 基準点観測実習の予定の日がどんどん近づいてくる。早く、基準点の設置予定場所に杭を 入れなければ、気ばかりあせるが、町を経由してコンクリート工場に発注をしているため、色々 手違いもあり、なかなかコンクリート杭が出来上がって来ない。「もう、間に合わない、観測実習 の日程を日延べしようか。」と電話で話しあっている最中に、工場から完成したとの電話が入 る。すぐに軽トラックで運搬しようと工場までいくが、工場長が束ねてあるコンクリート杭を指差 し、「この分だけでも2トンありますよ、1回で運ぼうとするのは無理ですよ。」とたんに軽トラック がひ弱に見えてくる。リフトで荷台に乗せて貰うが、軽トラックのタイヤがふくれっ面になる。重 さのあまり運転台が浮き上がり、なかなか運転が難しい。慎重にハンドルを切りながら、カーブ を切り、何とか自宅に荷を運ぶ。 基礎ブロックも同じようにして、自宅に運ぶが、荷を降ろすのは一人である。人力とリフトの違 いを嫌という程知り、肌寒い1月だというのに汗が吹き出る。 ●穴堀り 前回、選点の際に三ケ所については既に80cm四方で深さ50cmほどの穴をあけていた が、四ヶ所については準備が出来ていないため、穴を掘りながらコンクリート杭を入れる事に なった。 まず、既に穴を開けていた場所にコンクリート杭がまっすぐに設置出来るように、セメントの 基礎を打つ、そして木で枠組みをつくり、基礎ブロックとコンクリート杭とを、セメントで固定す る。セメントが固まった後、木枠を外し、土を埋め戻し、コンクリート杭の頭が大体地上に5cm 程出る様に設置し固定した後、コンクリート杭の穴に基準点の金属標を入れ、金属標の傘の 裏の部分にはボンドを付け、穴にはセメントを流し込み、金属標を固定する。以上の要領でコ ンクリート杭を設置していった。 しかし、問題はまだ穴を開けていない場所であった。今回の基準点研修の地域を象徴するよ うに、急峻な傾斜地に設置する基準点ばっかりが残っていた。穴堀りに行くにも、車が横付け 出来ず、暫くの間徒歩で段々畑を登らねばならず、現場に行くだけで汗が出る場所ばっかりで ある。しかも、前回の穴堀りには参加者も多く、地盤も土だけであったため、全員が分担して作 業を行った事もあり比較的楽に作業が出来た。しかし、今回は、急いでいた事もあるが、みん なの都合もつかず二人だけの作業となった。 ●重い とりあえず、コンクリート杭と基礎ブロックを人力で持って上がらなければならない。おまけ に、ビニール袋一杯づつの砂、砂利そしてセメント、ポリ容器に入れた水を持ってあがらなけ ればならない。人数は二人。ちょっと担ぎでがあるぞ、一回では無理と二回に分けて運ぶ事に した、まず、コンクリート杭を担いで上がる、肩にずっしりくる重さ、ついでに腰にまで響く。平坦 地を歩く時はまだ良い。傾斜地を登る時、杭の重心がどうしても後ろになるため、ただでさえ、 ふくらはぎがはるのに、よけいふくらはぎが悲鳴をあげる。つづら折りの細い山道、ちょっと重 心が狂い、危うく下に落ちそうになる。下には後から続いて登ってくるW氏がいる、自分が落ち そうになり、コンクリート杭を放そうと思ったが、その姿が見えたので必死に踏みとどまる。後は 何気ないふりをして目的地まで担ぎあげた。 災いは何時おそってくるか分からない。 ●杭が転んだ 私の体力が無くなってしまっているのか、コンクリート杭を担いであがった肩の痛みと格闘し ながら、本日何回目かの山登りをしていた。場所は急峻な段々畑の中、基準点を山の中腹に 設置したため、農道に車を止め、細い山道を登り、途中からミカン畑の中腹を横断する。この ミカン畑の所有者はあまり手入れをしない方のようで、通常であれば三段くらいに石積みをつ いていると思われる傾斜地に石積みがなく、かなり急傾斜にミカンの木が栽培されていた。歩く 度に足の裏に傾斜が分かる。体の前後の傾斜であれば、何とかバランスがとりやすいが、体 の左右に傾斜を感じるとバランスを取りにくい事おびただしい。ふくらはぎの筋肉がパンパンに はってしまう。 ここらで一休みしなくては体がもたないと担いでいるコンクリート杭をおろし、休む事にした。 「傾斜がきついから、杭を横にしたら杭が転がったら行けない、立てかけるようにしょう」と疲れ た頭で考えた。「ヨイショ。」コンクリート杭を立てかける。ところが、いきなり、ゴロゴロとはでに 転がり始めた。最初「えっ、まさか。」、「うわーっ、どうしょう。」下には、人家もある。更に農道も ある。そのまた下には中学校がある。翌朝の新聞に「コンクリート杭、民家を直撃」という見出 しが頭に浮かぶ。「頼む。止まってくれ」と祈るが杭はますます勢いをまして、縦廻りで転んでい く。「もう、いけん。せめて、だれもけがをしないでくれ。」ミカンの木にでもあたって止まってく れ。弁償で済むならと真っ青になり、思わず目をつぶってしまう。 20メートル程派手に転んだが、やっと杭が止まった。幸いにも雑草がいい具合にあり、ブロ ックしてくれた様である。是ではうかつに草刈りも出来ない。やはり生きているもので無駄なも のはないのである。少々宗教的な悟りを開く。 原因は杭を立てかけた時、草の上にうっかり置いたため、重さで下の部分が滑り、ゴロゴロと 派手に転がったようだ。 ●ごめんなさい あれやこれやで、何とか杭やセメントを運びあげたのだが、日頃の行いが余程悪いのか、行 く場所、行く場所、穴を掘ると、岩盤にぶつかる。固い岩盤では無いため、しょうれんやトンカチ とたがねを使用して岩を割り乍ら穴を開ける事が出来るが、遅々としてはかどらない。ついに 半日かがりの仕事となり、裏業が登場する事となる。 本当はこんなことをしてはいけないのだろうが、岩盤のどうも中心になってしまったようだ、こ れ以上は岩を割って進む事も出来ない。背に腹はかえられない。 知られざる地盤の下であり、岩盤があり、セメントで固める事だし、逆にコンクリート杭を割っ て、すこし短くしてしまおうとよからぬ相談が成立してしまう、このあたりがお金を請求出来ない 理由の一つかも知れない。 トンカチでコンクリート杭の先端を10センチ程割って短くして、穴に設置。 何とか、格好がついた、ちょっと確認と足で押してみるが、動かない。「良し。ええがっ。」。何と か基準点の全点設置完了。後は観測だけである。
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