天狗の鼻毛



●不 安

 ついに2級基準点づくりに向けて動きだした、手簿や記簿については何とかわかるももの観
測の実技については、我々調査士は日頃の観測は1筆地測量であり、100メートルが限度で
あり500メートルが標準の2級基準点の観測にはほとんど経験が無い。恐らくピンポールを使
用しての測量がほとんどである。大型三脚のターゲット板付き1素子を使用しての測量には馴
染みが少ないだろう。
 実際、自分の観測が本当に正しい値なのか、不安である。各種のトラバースを組んで観測
し、その閉合誤差の結果により高い精度が出た場合に自己満足するしかないのである。
 観測の値ほど、どの値が正しいのか解らない物はない、同一地点を複数の人間が測った場
合、自分が「あの人の技術は素晴らしい」と認めた人の観測値が正しいと思うだけであり。私
のような技術の無い人間は自分の観測の値に不安がある。
 常に、他人が同一地を観測して、異なる値が出た場合どうしょうかと不安なものである。更に
今回のような2級基準点を実際に作る場合、重複して観測しないため、即、自分の観測結果が
他人の観測結果に影響を与えかねず、責任重大である。


●しっかり、練習して下さいよ

 彼が「しっかり、練習して下さいよ」と事ある度に言うのが解る。測量のプロである彼にとって
は、倍角差、観測差が再測を重ねて、やっと30秒と20秒の制限値に入り喜んでいる我々に
は不安があるのだろう。
 「50メートル程度で、練習したのでは駄目」と聞くと、笑って「駄目です、全然違います」。こん
な我々では、日頃馴染みのない4方向の3対回での観測は、再測のくり返しとなり、何回観測
しても、制限内に入る事は至難の技となる。
 一方、W氏にとっては、「制限値には、誰でも入るんです。でも、その中身が大事なんで 
す」。レベルが違う。
 「しっかり、練習して下さいよ」。この一言に集約される。
 「前回、案内してもらった現場で見通しも良く、足場も良い場所がありましたね。そこの地形図
を送ってもらえますか。」と電話の連絡が入って来た。確かに、この研修が2級基準点の研修
に発展する前の準備段階で、偏心の研修をしたいと考え、足場も良く、見晴らしも良く、しかも
四等三角点のある場所という事で、構造改善事業の実施地域で、4キロ四方が田んぼで、見
晴らしも良い場所を下見してもらっていた。しかし、「これは、現場が良すぎて研修になりません
よ。見ただけで、もう研修が終わってしまってます。」と言われてしまった場所であった。
 突然の事に、「えっ、一体何するの。」「ちょっと、考えている事がありますから。」訳の解らぬ
まま、彼に地形図をFaxで送る。



●現場に行きましょう

  9月、彼はやって来た。2級基準点研修の現
場に行く前に、「ちょっと、Fax送ってもらった所
に行って下さい。」現場に到着。丁度現場には4
メートル道路と2メートルの水路が東西に直線
に走っている。更に南北に河川が走っているだ
け、後は区画された2000平方メートルの田ん
ぼが整然と並んでおり、公民館、小学校、交番
のみが田んぼの真ん中にあるだけである。
 まず、彼は、河川と道路の交差する場所にある橋の近所に案内させた。車から降り、あたり
を見渡した後、「良し。それじゃあ、小学校に行ってください。」すぐに小学校の裏庭に行く。こ
の位置からも、まわりが良く見え、先程の位置も肉眼でも良く見える。丁度500メートル程の距
離だろうか。水路のコンクリート擁壁に鋲を入れた後、ペンキで3と記載する。「それじゃあ、ま
た、先程の位置に戻って下さい。」橋の場所に戻り、道のコンクリート擁壁に鋲を入れペンキで
2と記載。休む間も無く、「ゆっくり、こちらの方向に走ってもらえますか」、道路をはさんで小学
校とは反対側の方向に言われるとおり、ゆっくり走る。彼は車の走行メーターを見ている。車の
走行メーターが500メーターを越えた時、あたりを見渡し、「このあたりで止めてください」、付
近の足場の良い場所を探し、コンクリート擁壁のある場所に鋲を打ち込み、ペンキで1と記載。
更に元の橋の位置に戻り、今度は道路に添って走行メーターによって位置を決める。この場
所には以前私が観測して多角点として砲金を入れていたので、これを代用することとし、彼は
ペンキで4と記載した。



●三辺法

 まだ、私には何が起こっているのか解らない。「今度は、2の地点に光波測距儀を立てて距
離を観測しますから、まず4の地点の小学校でミラーを立ててもらいますか。それが終わったら
3、1の順番に2の方向に向けてミラーを立ててもらえますか。」訳も解らず、仕方なく、車で4、
3、1の順番でミラーを据え付けて行く。全部を終了。「後、どうすれば良いの」「今度は、4の地
点に光波測距儀を据え付けますから、1と3の地点に順番に4の方向に向けてミラーを据え付
けて下さい。」これも言われるままにミラーを据え付ける。恐らく彼の事だから、豊富な経験か
ら何か考えている事までは解る。しかし、一体何をしようとしているのか、私には皆目解らな
い。

 「一体、何をしている訳」ついに、恥を忘れ彼に聞くことにした。「三角形を2つ作ったんです。
これは自分で考えたんですが、三辺の距離が解れば三辺法により、各内角が解ります。距離
の誤差が仮に1センチあったとしても、辺長が500メートルあるから、角度にはほとんど影響を
与えないでしょう。一応、これで器械のチェックもしたいと思いますし、各人の練習にもなると思
います。」。なるほど、水平角を直接観測したのでは、各人の誤差もあるし、器械の誤差もあ
る、最初に言ったように、どれが正解というのではなく、このあたりの角度ということにしかなら
ない。いっその事、違った方法で、器械的に出した方が正確というものなのかもしれない。現在
の光波測距儀であれば距離が500メートルあっても、その距離誤差は1センチもないはずで
ある。
 「しっかり、練習しておいてくださいよ」と彼は言い残して帰っていった。



●観 測

 各種の研修において、どうも実習というと、
観測制限からはずれてしまい、評判を落とし
ている私にとっては、ちょっと辛い言葉であ
った。日頃、自分の観測が正しく行えている
かどうかの確認のための良い機会となっ
た。 早速、仕事の合間を見て、2の位置に
光波測距儀を据えて観測する事とし、3対回
で1、3、4の3方向を観測する事とした。
  幸い、足場は良く、傾斜もほとんど無い場所なので、思ったより、楽に観測は終了した。当
然、2級基準点の観測制限である倍角差30秒、観測差20秒の制限の中には何とか入り、15
秒と15秒であった。
 また、その内角についても、中数が三辺法により算出した値とは1秒程度の差であった。私
はその観測値が正しいものかどうか解らず、ただ、1秒差ということから単純に「やった」と思い
ながら、事の成否を彼に電話で聞くことになる。



●倍角差と観測差

 「どうでしたか。」
 「1秒だったけれど、器械の標準偏差くらいだったらいいだろうか。私の器械は3秒なんだけ
れど」、「1秒、もっと出ると思いましたけれど、器械の標準偏差内なら本当に良いですが、10
秒以内ならいいんじゃないですか。ところで、観測差と倍角差はどの程度ありましたか。」
 「15秒と15秒だよ。」
 「良くないですね。平坦地で非常に条件の良い場所でこんなに差が出ると、傾斜がきつく、観
測条件の悪い山の中の三角点からの観測では制限に入りませんよ。もっと練習して下さい。
せめて、10秒と10秒程度にして下さい。」
 やはり、間接的に腕が悪いという事になったか、つらい。
 気を取り直し、練習、練習。諦めの悪い観測よりもさっさと的確に観測する様に心掛け練習
する事となる。
 正解が解っていると、今まで解らなかった自分の観測の癖を知る事が出来、今後の参考とな
る。
 当然、正解を頭の中に入れて観測する事は、その値に気を取られてしまい、本当の観測が
出来ないのは当然であるので、今回の研修参加者には正解を隠して観測してもらう事にする。
一体どんな結果が出るか楽しみである。



基準点測量体験記
     
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