日本測地系から世界測地系への基準点変換条件の交差で生じるズレ

(ご存知でしょうが 1)

●はじめに

地籍調査地区での業務を長くやっていると,自分の業務で過去に基準点(多角点?)測量を行った現場やその近傍で依頼があり,調査したところ過去に設置した基準点(多角点?)が亡失している場合,もう一度基準点(多角点?)測量が必要となるときがあります。

ここで基準点(多角点?)測量と表現したのは,図根三角点や図根多角点を与点としても,いきなり水平距離を観測して計算したような結合多角測量もあり,厳密には基準点測量と記載できないものも含まれています。現在はそれらの路線も,国土交通省公共測量作業規程に準拠して世界測地形により改めて基準点測量を行うことにしており,以下は基準点測量と表示することにします。

昭和50年頃に地籍調査が実施され,地籍図が法14条第1項地図として備え付けられている地域でのことです。日本測地系の時代には,昔の多角点測量の成果をそのまま使用することも可能だったのですが,2002年(平成14年)測量法改正により世界測地系に変更されると,日本測地系で基準点測量をおこなったものをTKY2JGDでパラメーター変換を行い使用するか,改めて世界測地系での観測・計算を行うことになります。

これから説明する地区は,大規模な地図訂正の為に1996年(平成8年)に国土交通省公共測量作業規程に準拠して,日本測地系によりGPS測量で三等,四等三角点を与点として1級基準点,2級基準点,3級基準点と設置しています。

現場は,日本測地系での3級基準点が設置してある場所で,地図訂正を行った外側の現場です。

この地図訂正の業務を終えた後,測量法の改正が2002年(平成14年)にあり,日本測地系から世界測地系へと改正されました。

日本測地系での基準点から現地での境界点位置を示す座標値のズレ,日本測地系から世界測地系への変換方法による注意点,日本測地系と世界測地系との単純比較,そして最終的には世界測地系での基準点から現地境界点位置を示す座標値のズレ等の説明をおこないたいと思います。

●世界測地系への対応

一方,この地域を含む広い範囲で,電子基準点を直接利用する方法により国土交通省公共測量作業規定に準拠してGPSを使用して1級基準点を設置,その後1級基準点を与点として2級基準点を設置していきました。当然,世界測地系での観測・計算で成果値を求めています。

今回の現地で3級基準点を設置する必要があり,既存の3級基準点3-17を改めて世界測地系で設置した2級基準点を与点として観測・計算を行いました。電子基準点から直接設置した3級基準点という訳ではありませんが,作成方法から電子基準点から直接設置したものといっても良いと思います。

国土交通省公共測量作業規程に準拠しているため,日本測地系による成果も世界測地系による成果も非常に良い精度が得られています。一筆地の測量では,どちらか一方のみの成果を使用すれば良く,両方の成果を比較することはありません。

日本測地系座標であろうと,世界測地系座標だろうと現地の境界点に変動がなければ,いずれの座標で表示されていても問題は無いはずですが,何故,このようなことを説明する必要があるのだと不思議に思われることでしょう。

日本測地系での成果を世界測地系にTKY2JGDで変換しても,我々が使用する範囲であれば平行移動と考えても良く,一筆地の範囲であれば影響を与えません。

表示される境界点の座標値については端数の切り上げ,切り下げが生じますので結果的に面積の変更も生じる場合があります。これはやむを得ないことでしょう。

精度の良い基準点で境界点を特定しており,基準点と境界点の座標値を日本測地系のものから世界測地系にTKY2JGDでパラメーター変換してみても座標値の単純な平行移動であり,その関係は変わらない。

実は,ここに落とし穴があります。

●日本測地系から世界測地系への変換の具体例

日本測地系から世界測地系への変換方法について,明確に理解しておく必要があります。

日本測地系と世界測地系での基準点の関連性について,実際に観測された基準点の座標値で,説明してみます。

本当は基準点自体の精度を比較する場合には,観測方法を含め,基準点全部で比較しなければならないのですが,ここでは基準点の精度比較をしているのではなく,それぞれの座標系における基準点座標と一筆地の境界点座標との関連をなるべく簡単に説明したいので,単純に3級基準点一点だけで説明することとします。

日本測地系での観測・計算も世界測地系での観測・計算も良好で精度も同程度と考えてください。

現地には,日本測地系で設置された3級基準点3−17が残っていました。

そこで,測量方法や計算方法の相違による座標値の変化をみてみます。

(表 1)

区分

基準点の処理方法

点 名

比較

X座標

Y座標

@

日本測地系での観測・計算

四等三角点を与点として使用

3級基準点3−17

36078.326

−94228.002

A

@をTKY2JGDで変換

TK変換3−17

36457.635

−94468.514

@−A

−379.309

240.512

B

世界測地系での観測・計算

電子基準点を直接利用

電子3−17

36457.559

−94468.506

A−B

0.076

−0.008

@は平成8年に四等三角点を使用して,日本座標系で作成した3級基準点3-17の座標値です。

Aは@の日本座標系で作成した3級基準点3−17の座標値をTKY2JGDで変換した値です。

Bは世界測地系で電子基準点を与点として使用し,GPS測量により,3級基準点3−17を電子3-17として新たに観測しました。

@とAの値の関連については,測量法改正に伴う,日本測地系の原点と世界測地系の原点座標の変更によるもので,ここで説明する範囲程度であれば,単純に平行移動と考えてもよいものです。

そうすると,@の日本測地系での座標値をTKY2JGDでパラメーター変換したAのTK変換3-17の座標値は,Bの世界測地系での電子3-17の座標値とは一致しなければならないはずですが,実際には世界測地系で電子基準点を直接利用した観測を行ってみると,3級基準点3-17の値はATK変換3-17とB電子3-17の座標値ではX座標で0.076メートル,Y座標で0.008メートルの差があり0.076メートルの座標の閉合差がありました。

実際に,この地域ではGPS測量により電子基準点のみを使用して1級基準点相当のものを設置する際に,四等三角点を新設の基準点の一つとして組み入れて観測してみると,四等三角点の改算された成果値と, GPS測量で1級基準点相当の観測・計算をした座標値には0.10〜0.25メートル程度の座標の閉合差を生じます。

この原因は,この地域(地籍調査地区)の四等三角点は世界測地系で改測されたものではなく,日本測地系での観測データを使用して改算されたものです。使用されている観測データが電子基準点を与点として使用したものではないために生じたものです。

世界測地系で電子基準点を使用して改測された四等三角点を与点として,3級基準点3-17を観測・計算すれば,0.01メートル程度の観測誤差が生ずる可能性はありますが,電子3-17と同様の数値になります。

TK変換3-17と電子3-17の座標の相違については,許容誤差であり,基準点自体について問題にすることはないと思われるかもしれませんが,この相違を知っておかないと,思わぬ形で一筆地の境界点に影響を与えることがあることを,土地家屋調査士は土地の境界を扱う専門家として知っておく必要があります。

●条件について

今度は基準点と,その基準点から観測された一筆地の境界点について考察してみます。

基準点の比較検証を行う場合には,かなりの数の基準点を対象としなければなりません。一筆地の境界について検証する場合にも観測点,後視点となる基準点(準拠点)2点が最低でも必要で,特定の2点を使用することにより生じる回転や縮小・拡大についても考慮する必要があります。

実際には,境界点は4級基準点を設置してから観測する作業であり,3級,4級と基準点が下位ものものになるに従い,与点となる上位の基準点のズレが下位の基準点位置に加算され,その下位の基準点には更に路線の組み方の善し悪しで生じるズレがあり,境界点を観測した与点となる4級基準点自体がもつ複雑なズレを考慮しなければなりません。

ここでは日本測地系から世界測地系へと変換した基準点の条件により生じる境界点座標のズレの説明を主体としますので,基準点側の条件を簡潔にして3級基準点1点だけで境界点を観測出来るものとして説明します。

(1)日本測地系での基準点測量と境界点

日本測地系の時に,四等三角点を与点として順次基準点を設置し,3級基準点まで設置した。

その3級基準点3-17から1筆地を観測した結果,3級基準点3-17と境界点の位置関係は下図のとおりです。



(2)日本測地系での基準点と境界点を世界測地系へ変換する

日本測地系で計算されたものの世界測地系への変換について,与点として四等三角点を使用する場合,地籍調査地区に存在する四等三角点の多くは世界測地系の値に改算されています。その改算された値を使用して再度観測・計算をすることになります。

日本測地系の時に基準点測量を既におこない,観測の結果良好な結果であるものについては,再観測までは要せず,以前の観測データを使用して,与点の値を改算された値に変更して再計算する方法になります。この場合,変換され世界測地系での新たな座標になった与点同士の精度の善し悪しは,解析結果に影響を与えますが,以前の日本測地系での観測・計算がうまくいっている場合は,この再計算の結果は@の成果値をTKY2JGDで変換した値とほぼ同様の値になります。

したがって,与点として同じ四等三角点を使用する場合は,以前の日本測地系での観測データを利用して改算する方法,@の成果値を直接TKY2JGDで変換も,いずれもAの方法といえます。

境界点の座標値についても,日本測地系での3級基準点3-17の座標値の変換と同様に,TKY2JGDでパラメーター変換します。お互いの距離の遠い四等三角点や3級基準点は,その位置によりパラメーター量は一定ではありませんが,一筆地を観測した基準点と境界点の位置は近距離なので,同様のパラメーター量になり,全体が約450メートルほど平行移動するだけで,基準点と境界点についての位置関係に影響を与えることはありません。


(3)電子基準点を利用しての基準点と境界点の世界測地系への変換

世界測地系により電子基準点を利用して改めて観測を行えば,基準点についてはBの成果値を得ることができます。与点となる四等三角点が,国土地理院により世界測地系で改測されている場合は,電子基準点を使用したものとなっていますので,改めて観測したデータにより計算がされ,その成果値が表示されています。その改測された成果値をもつ四等三角点を与点として観測を行えば,それは電子基準点を直接使用した基準点測量として扱えることになります。直接的か間接的かの違いで0.01メートル以下の観測誤差が生じることはありますが,Bの値を得ることができます。

(表1)のBで示されたように,TK変換3-17と電子3-17にはX座標0.076,Y座標0.008という相違が生じています。

一方,境界点の座標はどのようになるのでしょうか。日本測地系の基準点から既に観測がしてあるからと,境界点の座標値をTKY2JGDで変換したとすれば,基準点は電子基準点からの座標値,境界点はTKY2JGDで変換した値ということになります。


●交差する条件

つまり3級基準点3-17の位置から観測した境界点について,日本測地系のままであれば問題はありませんが,世界測地系にした時, TKY2JGDでパラメーター変換をかけた基準点TK変換3-17と境界点の関係は全体を単純な平行移動をしたものであり,基準点と境界点の関係について,座標値もそのように表示されます。

しかし,(3)の場合のように,基準点は世界測地系で電子基準点からの値を使用する。境界点についてはTKY2JGDでパラメーター変換をかけたものを使用するということであれば,(表1)のBで示されたように,変換TK3-17と電子3-17にはX座標0.076,Y座標0.008という相違が生じています。

これは(図3)で示されているように,基準点3-17と境界点の関係が,白色表示同士のTK変換3-17基準点と一筆地との関係であり,灰色表示同士の基準点電子3-17と一筆地の関係で平行移動して表示されるのではなく,(図4)で表示したように灰色表示の基準点電子3-17と白色表示の一筆地との異なった色の組み合わせになり,本来の位置関係と異なる点線で表示した位置関係になります。



電子基準点から観測すべき本来の位置関係は,灰色表示同士の基準点電子TK3-17から灰色位置の一筆地の関係なのですが,境界点についてその座標値をTKY2JGDでパラメーター変換をかけて使用してしまえば,(図4)のような位置関係になってしまいます。

日本測地系で提出された基準点と境界点について,基準点が亡失したために,世界測地系で電子基準点から精度の良い基準点を設置し,境界点についてはTKY2JGDでパラメーター変換をかけ,そのままお互いの座標値を使用して,現地で逆打ちをして境界点位置を確定してしまうと,本来の位置からはズレることになります(以下,条件交差ズレという)。

勿論,現地で境界点を表示する標識があれば,新設した基準点から再度観測を行えば,正しい位置を示す座標値を得ることができます。

また,日本測地系で基準点から境界点を観測した生データがあり,その基準点も残っているのであれば,世界測地系で改測したその基準点から新たに生データを使用して,計算をやり直せば,境界点も新たに観測した世界測地系の座標値となります。

しかし,日本測地系で設置した基準点が亡失しているので,世界測地系で新設の基準点を設置するのですから,正しいとはいえ矛盾した解決方法です。

この程度の条件交差ズレは誤差範囲で止むを得ないと割り切ることが解決の秘訣なのでしょうか。

●4級基準点(図根多角点)のズレ

そこで,日本測地系の成果値をTKY2JGDでパラメーター変換したものと,世界測地系で電子基準点を使用して直接観測した座標値比較の差がそのまま条件交差ズレですので,1筆地に直接影響を与える4級基準点の条件交差ズレについて,平成14年に実施した鷹子14条地図図根多角点検証記録がありますので,これを参照してみます。




これは,その一部分だけを取り上げてみました。案外,大きなズレがあることが解ります。30ミリメートル以上のズレがあり,そのズレの量,方向は一定ではありません。誤差の理論でそのズレが説明出来るのかもしれませんが,4級基準点(図根多角点)個々にそれぞれの要因があり,非常に複雑な計算になるものと思われます。

四等三角点,図根三角点の持つ与点のズレは,その下位の基準点(図根多角点)全体に影響します。境界点を観測する4級基準点(図根多角点)にもそれぞれ固有のズレがあります。境界点の座標には,その境界点を観測した4級基準点(図根多角点)の持つズレが含まれます。

これが,境界点座標をTKY2JGDでパラメーター変換した座標値と,依頼地の近傍に世界測地系で設置した4級基準点(図根多角点)との関係に生じる条件交差ズレです。

この鷹子地区の法14条第1項地図は昭和61年に作成されたもので,測量機器や観測について,日本測地系での基準点成果といっても良いのですが,(図5)を見ても意外に大きな条件交差ズレが発生することに驚かされます。

幸いにも,鷹子地区は図根多角点が残っており,数値測量で実施され,境界点は全点不動標識で作成された法14条第1項地図です。そのため,基準点,境界点ともTKY2JGDでパラメーター変換すれば良く,世界測地系により直接新たな基準点を設置することはなく,新たな基準点の座標値と境界点を単純にTKY2JGDでパラメーター変換した座標値を使用することによる境界点の条件交差ズレが発生することはありません。

しかし,このような条件交差ズレが発生するにも関わらず,そのズレを確認できない地域がほとんどなのです。基準点の亡失,境界点の標識が無く,条件交差ズレが確認出来ないから何もしないでも良いのでしょうか。もしくは解っていても誤差範囲だからと電子基準点から基準点を設置し,境界点座標を世界測地系にTKY2JGDでパラメーター変換するだけで処理してしまうのでしょうか。


日本測地系から世界測地系への基準点変換条件の交差で生じるズレ
     
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