地籍調査主要通達解説から 地籍調査がどのような考え方で実施されていたのか,地籍調査の主要通達の解説に その考え方が示されていたので,以下引用します。 門田 稔永著【地籍調査<一筆地調査関係>主要通達等解説】(みずほ書房)より 水害復旧地等の一筆地調査について 昭30.6.18 審計土73号 経審庁計画部長回答(広島県農地部長照会) 要旨
[関係通達等] 昭30.5.10 審計土第53号 経審庁計画部長・農林省農地局長共同通達 [参考条文] 国調法1条,同20条,地籍準則23条 解説 1 国土調査法に基づく地籍調査の基本方針は,それによって土地に関する権利関係を 新たに創設するというものではなく,あくまでも現地把握されている地籍事項を参考と しながら,現地調査によって土地の物理的状況を調査し,その結果に基づいて既存 の地籍を修正していく,いわゆる修正主義を原則としているといえる。このことは国調 法20条1項で地籍調査の成果を認証した場合には,その成果の写しを当該調査に係 る土地の登記の事務を掌る登記所に送付するとし,登記所ではその成果(地籍図及 び地籍簿)に基づいて所要の登記をしなければならない。(国調法20条2項,同登記 令1条)という法手続きからもうかがわれることである。 さらに,具体的な一筆地調査工程における現地調査の作業要領を見ると一層そのこ とが明らかである。すなわち,地籍調査における現地調査は,関係土地所有者らの立 会の下に登記所備え付けの図面(いわゆる公図)に基づいて作成された調査図素図に 基づいて,毎筆の土地についてその所有者,地番,地目及び筆界の調査を行い(地籍 準則23条)その調査素図の表示が調査の結果と相違しているときは,調査素図の当該 表示事項を訂正し又は修正して調査図を作成するとされている(同条3項)ことからも 地籍調査がいわゆる修正主義を採っていることが明確であるといえよう。 その趣旨は,権利の客体である不動産たる土地について,現在把握され公示されて いる地籍事項が,仮に現在の土地の物理的状況を正確に反映しておらず,種々の不 備欠陥を内包しているものがあるとしても,沿革的にはそれらは一定の法手続に基づ くものである。また,現在公示されている地籍事項等を前提としながら日常における不 動産取引等か行われている実状をも併せ考えるならば,これを何らの法手続によらず 廃止又は訂正することができないことは容易に理解されよう。したがって,地籍調査は 以上のような趣旨と経過を踏まえながら実施されるものであるから,例えば,調査図素 図等の表示事項と現地における土地の物理的状況が著しく相違し,既に他の各種資料 等によっても従前の毎筆の土地との関連を把握し難い場合に,地籍調査そのものの実 施が可能であるかということが問題となろう。 2 ところで,地籍調査は前述のとおり既存の地籍事項等を前提としながら,現地の土地 の物理的状況を調査,確認していくものであるから,その意味では現況主義でると解さ れよう。しかし,この現況主義という意味がややもすれば,現在の土地の物理的状況を そのまま認容していくことであると誤解されている場合があるようである。すなわち,何 ら法手続きに基づくことなく,例えば,現地における単なる土地の利用状況,専有形態 をそのままの状態で認め,その結果を成果に取りまとめることであると解するが如くで ある。これは,現地調査に基づく調査図の作成というそのこと自体の作業手順は異なら ないとしても,その調査の内容は明らかに既存の地籍事項の変更であって,それは地 籍調査の予定している既存の地籍事項の修正という基本的な方針からはみ出したもの であるといえよう。 本件事案のような地域の一筆地調査について疑義が生じ,照会がなされた趣旨も恐 らく前述のような原則論を踏まえてのものであろうと考える。しかしながら,地籍調査の 原則論を前提としながらも,具体的な事案の処理に当たっては,必ずしも原則通りの取 り扱いでは解決し得ないものがあろう。つまり,国土調査法における地籍調査又は土地 改良法等により事業施行も事実上不可能な場合等に,ただ,地籍調査の原則論によっ て処理し得ないとして調査対象地域から除外すること自体は容易なことであるが,決し てそれのみで抜本的解決が図られたということにはならない。そこで,これらの問題点 の抜本的な解消に当たっては,別途何らかの法手続に基づく方策を講じることが要請 されるところではあるが,早急にそれが期待できない現段階においては,どの程度原 則論を踏まえながら具体的,かつ,実効性のある解決方策をとっていくべきかが検討さ れるべきであると考える。 本照会の水害復旧地の現況は,一般私人が法手続に基づかず適宜協議して区画整 理されたいわゆる私設区画整理地区であるので,従前の土地の区画等は全く判明しな い状態であったものと推察される。しかし,かといって,復旧後の区画そのままで一筆 地調査をし,それを登記まで反映させる取扱いはやはり問題がある。そこで通常の土 地改良法に基づく事業施行の手順としてはあり得ないことではあるが,まず,土地改良 区を設立し,当該土地改良区が水害復旧後に関係者が協議して区画整理した現在の 土地と同じ状態で工事をしたものとして,形式的に土地改良手続によって取り扱うという ものであろう。回答で,「土地改良区を設立して区画整理を行ったものとし」といっている のは,そのことを意味するものであろう。したがって,形式的にしろ水害復旧後のいわ ゆる私設区画整理された状態で土地改良法に基づく工事が施行されたものとして取り 扱われるならば,地籍調査としては,本来の土地改良法に基づく区画整理工事を施行 した地区につき,一筆地調査を実施する場合と同様に現況通りの調査をすれば足りる こととなる。また,私設区画整理されている個々の土地はその状態で土地改良法に基 づく換地計画がなされ換地処分されることになるだろうから,登記手続上からいっても 特段の問題は生じないと解される。 なお,この方策は,事後処理の方策として土地改良法による土地改良区を設立させ ることによって,まず,関係所有者間の土地に関する権利関係を確定させ,それに地 籍調査を併用させることによって地籍の明確化を図ろうとしたものであるが,このよう に関係人の協力が得られず土地改良区の設立そのものができない場合の問題解決 はかなり困難となろう。 3 地籍調査を行う対象地域の中には,このように調査図素図作成の基となる登記所備 え付けの地図(旧土地台帳附属地図,いわゆる「公図」)と現地の現況が著しく相違す る,いわゆる地図混乱地域と称されるような地区がかなり存するようである。仄聞する ところによれば,昭和50年度に全国の法務局で土地家屋調査士又は土地所有者らの 申し出等を参考に調査した結果によれば,このような地図混乱地域と称される地区が 約550箇所存するといわれている。これは,個々の現地について詳細かつ綿密な調査 が行われた結果ではないということから判断し,具体的にはもっと多くの地図混乱地域 と称されるものが存するのではなかろうかと考えられる。 ところで,このいわゆる地図混乱地域と称されるものが何かという点については,必ず しも法的な判断基準がある訳ではなく,その形態も様々のものに及ぶと思われるが,法 務省においては,前述したように「登記所備え付けのいわゆる公図と現地の状況が著し く相違する地域」を一般的に地図混乱地域と称しているようである。 このいわゆる地図混乱地域と称されるものが発生した要因については,種々のもの が考えられるが大別すると①自然災害等による場合②登記手続等を無視した土地の 区画整理等③小規模な土地改良事業等の中断④民間デベロッパー等による土地開発 事業等による土地の細分化,などに分類できるようである。また,その形態も発生要因 あるいは地域によってそれぞれ異なるようであり,地図混乱地域と称されるようになっ た時期との関係も含め現在における所有者らの権利関係がかなり複そうしている地域 も存するようである。そこで,法務局においては,係る地域は地図の存しない地域と同じ ように特に表示に関する登記事務処理については,慎重な取扱いがされているようであ る。 4 したがって,いわゆる地図混乱地域と称される地域については,早急に地籍の明確化 を目的としている国調法に基づく地籍調査の実施が望まれるところであるが,既に述べ たとおり係る地域の具体的な地籍調査の実施の可能性については,前提としていくつ かの問題の検討が必要であると考えられる。 すなわち,当該地図混乱地域の発生要因・形態から見て地籍調査が唯一,かつ,適 正な問題解決の方策であるのか。また,関係土地所有者らの協力関係,さらには,当 該地域の関係諸機関の対応策などを総合的に検討した結果,地籍調査の実施が可能 ということであれば積極的にこれを推進すべきであろう。一般の地籍調査の場合に関 係土地所有者が最も重要であることはいうまでもないことであるが,係る地域について 問題解決には少なからず関係人の権利関係に直接影響を及ぼす場合もあり得るので より以上に関係土地所有者らの協力関係の有り方が問われることになろう。 ちなみに,法務省においては地図混乱地域の解消策の一環として,昭和54年度から 当該地域の実態調査と表示に関する登記事務の適正な処理を図ることを目的とした図 根点設置作業が行われている模様であるが,これらの地域の抜本的な是正方策と地 籍の明確化を図るという目的等から,地籍調査の実施機関においても適宜関係機関と 情報交換をし,それぞれに実施されている事業をリンクさせるような地籍調査の有り方 を検討すべきときであろうと考える。
|