何時の日か その1

(将来への発展をめざして)

● 余りの予算で

 過疎の田舎町で、これといった産業もない町で、既に国土調査は20年以上も前に完了し、
公共事業のための用地測量といっても、精度の良い都市基準点を設置する訳でもなく、普通
は図根三角点同士の結合トラバース測量での公共座標で、もっと安直な場合は任意座標で関
係の用地を測り、その必要とされる幅については、国土調査の図面に当て込むだけの仕事が
官庁の用地測量の主流になってしまっている。

 したがって、立派な公共の施設(町道等)が出来あがっても、その施設と同時に精度の良い
基準点は作成出来ないでいる。また、行政側はその必要性も感じていないようである。

 たまたま、町道の境界確認の担当課に今回、2級基準点作成について5月の連休後、地元
の町に呼びかけを行ったところ今年度の予算にいくらかの余りがあるので、作成をお願いして
みましょうという事になった。

 基準点を作成しようとする地区については、国土調査は完了しているが、なぜか図面の誤差
が比較的大きい地域である。私自身も業務を行ってその事は承知している。町も用地測量を
測量会社に依頼し、いろいろ相違しているという情報を得ているようだ。



●とりあえず

 町の方としたら、私が境界確認の度に精度の良い基準点を作成してくれと要望していたので
あまりにうるさいので仕方なく、意味はあまりわからないが取りあえず基準点を作成しておいて
も損にはならないだろう。今年度も残り少なくなっているが、当初の予算も少し余っていて、こ
れも消化しなければならない、丁度いい話だという事のようなのだが、取りあえず話に乗ってく
れた事がこんな田舎の町では大きな進歩と言って良いだろう。

予算がついた事は大きな収益である。

 官庁の場合、一度予算がつくと、今度は継続的に予算がつく可能性がある。



●役場作成地図

 早速、2級基準点設置のためには使用出来る与点の状況を調査しなければならない。

 この地域で新点を作成するためには、使用可能な与点を前回の基準点作業等で取り寄せた
配点図、点の記、そして2万5千分の1の国土地理院発行の地図で探すと9点ある、このうち5
点については既に現地を調査済みである。

 残り4点について至急に調査しておく必要がある。実務研修仲間が協力してくれるが地元の
人間としては、与点の道案内くらいはしないと申し訳がない。

 国土地理院発行の図面では丁度図面2枚にまたがる位置であったので、町役場が地理院の
許可を得て作成した2万5千分の1の町全図の地図を役場から貰い受け、それによってまだ未
踏さの三角点の探索を行う事にした。



●見知らぬ林道

 まずは、標高450m程の山頂にある、三等三角点を探す。どうも山道をずーっと歩いて登ら
なければならないが、取りあえず車でいける場所を確認しょうと、地図にそって林道を走る。う
れしい事に、地図上では行き止まりになっているはずの位置からまだ林道が伸びている。どう
も昨年延伸したようである。

 三角点のある山はあそこだからとねらいをつけ、そちらにむかっている林道をひたすら車で
走る。やがて行き止まりとなるが、なんと山頂から直線距離で50mほどの位置になっており、
車を止めた位置から桧林を通して頂上の姿が見える。

 しめしめ、これで一つ片付いた。幸いな事にこの林道はもう一つの四等三角点にも同じよう
に続いておりこの日は1回の試みで2つの三角点への登り口がわかるという幸運となった。



●上空の視界取れず

 翌日、これは1回調査には来たのだが、前回の調査ではわからなかった三角点へと登る。こ
れも林道が途中まであり、徒歩で5分程度登れば行き着く場所にある。

 この三角点は桧林の中にあり、前回は山の下刈りと丁度同時期であったらしく、頂上の平坦
な部分に間伐した材木をならべてあった。この間伐材をすべて動かして確認する訳にも行か
ず、前回はあきらめた。今回は見つかるはずと期待して登ると、そこに、にょっこりと標石が頭
を出していた。上空の視界は10m以上の背丈の桧林の中のため駄目。ちょっと偏心も難しそ
うだ。

 まあ、何とか見つかった、これで良しとしょう、本日はもう一つ欲張って探そうと、近所の四等
三角点も探す事にする。

 これは、全く林道は無く、急傾斜のびっしりと雑木が密集する荒れ果てた山をただひたすら頂
上に向かってまっすぐ登る。休憩するにも雑木にもたれて休憩しないと、下に転がってしまいそ
うな急斜面をがむしゃらに登る事40分、やっと頂上へ、三角点も発見したのだが、上空の視
界のためには大伐採が必要。これは駄目だ。

後は転がるように、斜面を降りていく。



● 探すぞ

 未調査の三角点は後1つであるが、ちょっとがっくりきたので後日にする。

少し疲れたし、なかなか山に登る気もおきず日常の業務を処理していたため、しばらくの日数
が経過し、みんなが下見にやってくる、これは急いで登り口を調査しておかなければと思いな
がらもまた数日が過ぎた。そしてついにあと2日と迫った日。

 丁度、付近に仕事があり、予定よりはかどり、午前中に仕事が終了した。

地図は持参していなかったが、役場からもらった地図を見て大体の地形と位置は覚えている。

 早速、山道の記載のあった場所まで、車で走る。前回のように、林道がついているかもしれ
ないと期待して、車の行ける場所までとにかく行けと車で登る。

舗装のない、でこぼこな道をとにかく山の中へ、山の中へと走っていく。ここから道の表示がな

くなっていた場所だと思いながらゆっくり進むと、まだ道がある。しばらく進むと、三叉路になっ
ている。



●山頂はどこだ

 とにかく上に登れと、山頂に向かっている方向の道をひたすら登る。10分程車で進むが、ど
うやら、他の山の方に道が向かっている。これはこの辺りでとまって、道なき道をのぼらなけれ
ばならないな。と思いつつ頂上を見ると、かなり近くに見える。これは近いな、そう傾斜もきつく
ないし、桧林が続くから簡単だろう。ひとつ登って見るかと思ったのが運の尽きであった。

 山の谷あいを約20分程かけて、息を弾ませながらやっと登ると、何とか尾根に出た。

 だが頂上はどこかさっぱりわからない。300mほどまったく起伏がない状態である。取りあえ
 ずどちらかの方向に進まなければならない。

 頭の中で役場にもらった地図を開く、確か地図では、県道から北西に林道が走り、それから
山道がまっすぐ北に登った状態の横に目指す三角点が記載されていた。

 林道からまっすぐ登ったはずだから、西の方向に行けばよいはずと推理し、西の尾根をつた
う。500m程行くと、大きな岩盤の上に出た。何と断崖絶壁である。

 そして、そこから見えたものは、特徴のあるテレビ塔の中継用のアンテナが3本並んで立って
いる。それは三等三角点のある山が、ほんの300mに迫っている。

 車で走っていて気つかなかったが、尾根を一つ越えてしまった場所から登ったようだ。

「こりゃ、いかん間違えた。反対に登ってしまった。引き返そう。」ここで、地図を持って上がらな
かったばっかりに、三角点の正確な位置がわからない。

 ただ漫然とあの山の頂上にあるからと簡単に考えたのが間違いのもとである。

 折角苦労して山の尾根に登ったのに、このままなにもしないでおりるのは口惜しい。



●携帯電話

 そうだ、携帯電話をベルトにぶら下げている。だが、事務所の女の子では地図を見るのはま
ず無理だ。「そうだ、W氏はここの地図を持っている。彼に連絡がつけば、何とかなるぞ。」

 幸いにも山頂であるが『圏外』の表示は無い、彼の事務所に電話。

 呼び出し音が5回程鳴ると聞きなれた彼の声。地獄で仏。

 「今、例の山にあがっとるんやけど、地図もって山にあがらんかったんで、どうも違った場所
にあがったみたいなんよ。三角点のある位置が皆目わからんのよ。悪いけどWさん地図見てく
れん。」

 「えっ、地図持たずに山に登ったんですか。それ、山に迷って大変な事になりますよ。早く降り
た方がいいですよ。」

 「折角登ったから、何とか行きたいんよ。駄目な時は電話するけん、救急隊に連絡してや。」

 「はい。無理せんように。」といいながら地理院発行の地図を広げて場所を探してくれる。

 「それで、大体今の位置何やけど、この位置は大きな岩盤があって絶壁なんよ。丁度目の前
に倉谷の三等三角点の場所が見えよる。」

 「ああ、それだったら東の方向に行かんと駄目ですよ。大分ちがっているから。山降りた方が
いいですよ。」

 「もう一回登るの大変やから、何とか言ってみらい。」

 「そしたら、そこから1キロくらい東ですよ。気をつけてください。」さすがの彼も呆れ果ててしま
ったようだ。

 だが、こちらとすれば、40分以上も息を切らしながら、道のない傾斜地を何とか登って来た
のだ、今降りるとこれがすべて無駄になる。せめて三角点を見つけて、その道順くらいは目安
をつけておきたい。と思いながらも、時間はもう15時になろうとしている。

 何とかしなくてはという思いで、黙々と東へと歩く。間違ったという気持ちからか、両脚の付け
根がとたんに痛くなる。



●下界の風景

 段々、痛みも増してくる。それでも何とか30分程度歩くと、3方向の分岐点になる。ここはや
っと下界の見晴らしが開けた。見慣れた下界が見える。国道が、そして山を挟む形の県道も見
え、更に巨大な米の備蓄倉庫も見える。

 これは明確な地形である。最初に地図で確認した三角点は倉庫から突き当たる位置で事を
覚えていたので、その方向に進む。ここからは、やっと道らしい道になる。といっても草ぼうぼう
で、かろうじて雑木が生えていないため、道とわかる状態である。さらに境界杭として使用して
ある黄色いプラスチック杭が道案内のように入っている。



●あったで

 一緒に登った人夫さん、私よりも20才程年上であり、さすがにへばっている。

 「しばらく休んでいて下ださい。私、ここから向こうに行ってみますので」と言って、南の方向
に、平坦な山頂を歩き続ける。200mほどすると道が登り始める。なんとか三角点よあってく
れと祈るような気持ちで歩き続ける。15分ほどして、なにやら境界標識に変わった格好の印
がある。漫画で良くある打ち上げロケットのような1メートル程度の標識がある。「へぇーっ」と思
いながら、立ち止まって眺めるとそれより1メートルの位置に三角点の標石が顔を出している。

 「やった。」



 鼻高々で携帯電話で、またまたW氏を呼び出す。

 「あったで。」

 「良かったですね。遭難せずにすんだですね。それでそこの状況どうですか。」

 「ああ、そうよな。あんまり良くないね。桧林の中やから、上空はあいてないね。」

 「偏心出来そうですか。」

 「うーん。ちょっとな。一方向だけ、桧を切った後の植林を下ばっかりのところがあるから、そ
こなら見えるかな。ちょっと下の方に降りてみるから」

 がさがさと、携帯電話を持ったまま、10m程移動する。

 「ああっ。見える。見える。きれいに見えるよ。偏心の後視点がきれいに見える。本点も見え
るよ。偏心、大丈夫よ。」

 「ああっ、そうですか。そしたら2日後に行ったときに偏心の観測をしましょう。気をつけて降り
てください。お疲れさんでした。」

 「はい、降ります。」



●方向オンチ

 やっと、面目が立った。今度は降りるだけだ。

 確かこの方向のはずだ、傾斜も下に向いている。人夫さんも待たしているから、いらいらして
いるだろう。時計を見ると、既に17時を回っている。いくら夏とは言え、山の中の暗闇は恐い。
 日が落ちるまでには下山しなければ。

 急げ、急げと心ははやる。だが15分ほど下るのだが、先ほど人夫さんと別れた場所に出な
い。おかしい間違ってしまったのだろうか。不安がいりまじる。とにかく三角点の位置まで戻ろ
う。

 下りは楽な傾斜を今度は喘ぎ喘ぎ登る。倍の時間をかけて三角点の位置にたどり着き、反
対方向に下り始める。どうも、偏心点等を探したため、方向を間違ってしまったらしい。

 それから15分後、やっと人夫さんと別れた場所に戻って来た。

 もう別れて1時間が経過している。人夫さんの姿を探すが、いない。

 大声で人夫さんの名前を呼ぶが返事が無い。

 時計は17時30分になろうとしている。「とにかく、車の位置まで降りよう。」と今度はもと来た
道を歩き。どうも道のように思える、切り開いて場所を降りていく。やはり登るより下る方が早
い。

 17時30分丁度には林道にある車にたどりついていた。さすがに脚が痛い。

 だが、人夫さんはいない。人夫さん私よりひどい方向オンチである。ひょっとして本当に遭難
したのでは。冗談じゃないぞ。明日の新聞の見出しまで思い浮かぶ。

 青ざめて、もう一度探しにあがろうと、とにかく山の稜線まで、人夫さんの名前を大声で呼び
ながら登っていく。もう脚が痛いなどと言ってはいられない。

 稜線に何とか登り、人夫さんと別れた場所に再度歩いていく。脚は痛くないが、やっぱり痛
い。ほとんど引きずるような状態になりながら到着する。

 しかし、人夫さんはいない。仕方ない。もう一度車の場所まで降りて、しばらく待機して、それ
でも駄目なら、警察にいおう。と思いながら、やっとの思いで車にたどり着くと、人夫さんはたば
こを吸いながら座席に座っていた。

 時間は18時をとっくに過ぎていた。もうなんでもいいから、「良かった。」



 だが、後でゆっくり、役場からもらった地図と国土地理院の発行した地図を比べてみると、ど
うも地図が違う。役場の図面の方が大分古いようなのである。

 役場の作成した地図の印刷日と地理院発行地図の発行年がほとんど一緒だったため、役場
の図面の方が便利だという事で役場の図面だけを見て、三角点に登ろうとしたのが大間違い
の元らしい。

 楽をしたければ、一番新しい地図を確認して登りましょう。



基準点・GPS・お役所
次のページ


トップへ
トップへ
戻る
戻る