建物滅失

(建物 3)

● 建物の最後

調査士は申請人から建物の相談を受けた場合、どちらでも良いような事と判断したら「土地は
永久に残りますが、建物は取り壊してしまえば、おしまいですから。」という風に、つい言ってし
まう。

土地の滅失というのにはめったにお目にかからないが、建物の滅失登記は、建物表示登記に
はつきもので、単独で滅失登記が出現する場合も多い。

だが、この建物滅失登記については、実物が既に無くなっており、申請人に聞き取りを行い、
そのとおりの申請になってしまう事が多い、時として未登記建物の滅失であったり、よくよく調
査してみると、隣の地番に所在していたりと、実態が良く解らない。特に自己所有地に他人名
義の建物が登記簿では所在している場合、その事情を知っていればなんともないのだが、古
い建物で2世代程前の人の所有建物となると、他の地番に所在しているのやら、現実には所
有権移転して現所有者の被相続人の物なのだが、単に登記未了のままとなっているのか。全
く分からず、滅失の申出をして良いものかどうか悩む事になる。

そんな具合だから、自己所有の一つの地番に、同じく自己所有の建物がいろいろあり、しかも
未登記建物や登記のある建物が混在している場合はなかなかどの建物がはたしてその建物
なのか判断が難しくなるのは当たり前。




●建物滅失の依頼

先日、事務所におばあさんがやってこられ、

「建物を取り壊ししたんで、届け出を出しに役場に行ったら、建物を壊した登記をしといた方が
いいですよ、と言われてお宅にきたんですが、登記してもらえますか。」

と持参した登記済証を見せて、

「この権利証に書いてある建物なんですよ、この分を壊したんです。」

10年程前にご主人名義の土地、建物を相続されており、依頼のあった建物は、現在自分が
住んでいる場所では無く、道一つ隔てた場所で貸し家にしていた建物との事。

持参された登記済証を見ると、確かに自宅のある、土地、建物そして貸し家のある場所の土
地、建物が表示されている。

「はい、解りました。それでは、一応現場に行って確認させて頂きます。取りあえず、建物の解
体業者にこの滅失証明書に印鑑をもらっておいて頂きますか。」




●現地にて

近所の現場であったので、早速調査に出かけたところ、現地の土地の形状はひょろ長い地形
で、資料として持参した地図と合致しており、この地番である事は間違いなく、現地も土地の国
道側の部分が整地され、アスファルト舗装がされ、駐車場にしてある。

だが同一の敷地にまだ建物が残っている。

「駐車場になっている位置から行くと、二階建ての居宅1棟と平家建ての居宅が2棟ある。確か
持参してもらった登記済証にも、念のため登記簿を閲覧したけれど、この土地には建物は2個
しか登記がされていない、1つは主が平家建て居宅、付属建物の平家建ての納屋の分と、もう
1つは平家建ての居宅だが、この取り壊された建物との関係はどうなっているのだろうか。今
日は会えないから、おばあさんが事務所に来られた時に、良く聞く事にしょう」




●事務所にて

翌日、滅失証明書を持参していただいた。

「あの、取り壊された建物なんですが、現地は確認したのですが、まだ建物が3棟残っていた
んですけれど、どの建物を壊されたんでしょうか。それによって処理が違ってくるんですが。」

「ええっと、二つ壊したのは間違いないんだけど。」

「この内のどれですか。」

と持参してもらった登記済証の建物表示の記載を見てもらうが、あまり解らないようで。

「登記には建物はどうなってますか。」

「1つは家屋番号〇の1の居宅と納屋、もう一つは家屋番号〇の2の居宅なんですけれど、ど
ちらでしょうか。ひょっとして家屋番号〇の1の居宅と家屋番号〇の2の居宅を取り壊されたの
だったら、処理が違ってくるんですよ。」

「そうなんですか。そんなに厄介なんですか。貸し家を二軒壊したんだけれど、どちらか解らな
いです。そちらで登記所調べてもらって解りませんか」

「こればっかりは、未登記建物もありますし、比較的新しい建物で登記所に建物図面が出てい
ればいいんですが、かなり古い建物のようなので登記所を調べても解らないです。」

「昨日、おいでになった時に、役場の方には届け出をしたとおっしゃってましたが、役場の税務
課に行かれたんですね。」

「ええっ、それで税務課の人が名簿を見て、貸し家に住んでいた人の名前を見て、これとこれ
ですね。解りました、そうしたら後は調査士さんのとこへ行って登記所に取り壊しの申請をして
もらいなさいと言う事できたんです。」

「その税務課の家屋台帳を比較して、言ってくれたんですね。それだったら申し訳ありません
が、その家屋台帳には家屋番号も記載されていますので、再度この権利証の家屋番号と確認
してもらって下さい。」

本来、こちらが調べても良いのだが、既に本人が税務課に出かけ打ち合わせをしているので、
本人が一番解っており、多分貸し家の住人の記載もある事だから、その方が確実である。30
分後、おばあさんは役場から帰ってこられ、

「この建物です。家屋番号〇の1の方の建物らしいです。どうも納屋を居宅として使っていた様
なんですけど、どうして登記所は変わってなかったんでしょう、おかしいですね。」

「いや、それは建物について変更をしたら自分が登記所に申請をしないと変わらないんです
よ。」

滅失登記の為、形状の比較は出来ない。申請人の建物の登記についての知識もあいまい。ど
こに何があったやら。こんな時は申請人さんと共に税務課の家屋台帳を閲覧させてもらいまし
ょう。

調査士さん、ひょっとして他人の建物を取り壊したり、まだ建っている建物を取り壊ししていま
せんか。




● 登記済証はあるけれど

話変わって、それは相続の業務から始まった。

司法書士の事務所に母親が死亡したので、その相続をという依頼であり、参考のためと役場
税務課から母親所有分の固定資産税課税台帳の写しと、登記済証を持参されたが、登記済
証に記載してある建物が登記簿には見当たらず、固定資産課税台帳の写しにも、その建物の
表示は無く、現在居住している建物は未登記建物とされている。

そのため未登記建物の表示を依頼されたものであるが、現地に行き、建物を測量。調査を行
うと、どうもかなり古い建物で昭和の初期には既に建っていたような建物である、申請人さんに
話を聞くと、これは昭和4年に母親がAさんから土地と共に購入した建物であり、その当時から
全然変わっていないとの事。

更に、登記済証を見ると、同時に所有権移転のされた土地については、ちゃんと登記がなされ
ている。

「おかしいな。ちゃんと建物があり、その建物の所在もこの地番の記載でほとんど現況と一致
する建物で、登記済証をみれば、受け付け番号、受け付け日からして間違いなく所有権移転し
ているはずなのに、何故なのだろうか。」と調査が終了しても疑問に思う。事務所に帰り、いろ
いろ理由を考えるが、原因らしきものは考え付かない。ひょっとして所在不明の登記簿の綴り
の中にでもあるのだろうか。えい、分からぬ時の登記所だのみ、こういう事は登記官に聞いた
方が早い。早速登記所に向かう。




●登記所にて

登記官に「あの、この地区について所在不明の建物の登記簿はあるんですかね。」と尋ねる。

「あるよ。公有水面の上の建物とか番戸の建物があるよ。」

「いや、ちゃんとした現在の地番の建物で、登記済証もある建物なんですよ。」

「それはおかしいな。」

登記官も協力してくれて、登記簿を調査してくれたところ、なんと閉鎖登記簿の中から出てき
た。

「あった、あった。ああ、これは昭和35年の台帳の一元化の時に職権で抹消しとるなぁ。恐らく
台帳一元化の作業の時に家屋台帳に滅失の記載があった為に、職権で抹消してしまったんで
すね。」

何故か、この閉鎖登記簿の中に前所有者Aさんの建物がまだ出てきた。どうやら前所有者に
何らかの原因があったのかもしれないが、このような処理をされたら、解らないのが当たり前
の話である。当然、この事は依頼人も知るはずが無い。

仕方なく、「それでは、この建物どうしましょうかね。」

「う〜んっ。現在、この建物はどうなっているんですか。」

「ちゃんと残っているのは、調査して確認してます。それにきちんとして相続をしたいと思ってお
り、その後新築された付属建物についても登記したいと言う事ですし、それにもう古い建物で、
新築した付属建物にしても昭和47年ですから、建物の表示登記でも、表示変更登記でもいず
れでも良いと思いますけど。」

「それでは建物の滅失の回復をしましょう。」

「こちらが申請をする様にするんですか。」

「いや、職権で回復しますので、この表示があるものとして申請して下さい。」

「解りました、それじゃあ、このとおりの記載でよろしいんですね。」

かくして、登記済証記載のとおり、、床面積が坪表示、付属建物の種類が雪隠という昔懐かし
い申請になった。

とにかく、滅失登記は難しい、一度こんな風に無くしてしまうと、誰も、その建物が実際にあると
は思わない。建物の登記の依頼がある場合は、通常、現在生きている登記簿の閲覧しかしな
い。これからは閉鎖登記簿もみる必要が身に染みる。

恐らく、この建物もそのまま表示登記として申請しても、登記官が気が付いたかどうか。よくぞ
登記済証を見せてくれたものである。



建物の話も少しだけ
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