突風・次々と倒れた

(ついにアンテナが壊れた)

● 移動

 今回は連続して地域が違う2現場を掛け持ちで観測する事になっており、最初に二日掛りで
18時にやっと観測終了した現場から、車で1時間30分かけて移動。今回の仕事の依頼をして
くれた調査士(測量業者との兼業)H氏の事務所に到着。
 すぐに宿舎に移動。チェック・インをして、自分の荷物を各自の部屋に置き宴会場に集合し、
食事。この間のなんと長い事。腹がへったよ〜っ。と腹の虫がひと騒ぎ。
 だが、ここでもホテルのフロントが「明日の朝食、どうされますか」。W氏、即座に「明日、早い
から朝食いりません。」(おいおい、またたこ部屋が続くぞ。)
 H氏が用意してくれた、おいしい晩飯を食い。ビールを飲む。だが、家を出て三日目の疲労
がじわじわと身体に響く。
 晩飯の終了後、本日の結果を確認するため、W氏の部屋に戻り、前の現場の観測データを
ダウンロードしての解析。本日の観測の結果は如何にと待っていたが、解析のための手助け
が出来ない私は、ついに疲労の局地。
 W氏達に後を任せ(全く役に立たないので、居ても、居なくても同じ、肥満体のこの身は、なま
じっか居ない方が部屋が広くなる。)、その日のうちに部屋に帰り、高いびき



● 朝も早よから

 またまた、6時起床となり、6時30分ホテルの駐車場に集合。本日もまだ、朝食にありつけな
い。本日の天候はどんより曇っているが、雨はまだ降りそうに無い。でも寒い、風がやや強い。
まだ身体が本当に目覚めていない。その証拠に車のドアを締める際に、右手の中指部分を軽
く挟んでしまい。出血。
 やっと目覚めるが、何か起こりそうな気がする。
 運転に注意しながら、取り敢えず、依頼人の測量会社に7時集合。
 さすがに、おにぎりを用意してくれている。当然、ぱくつきながら本日の打ち合わせとなる。
(少し、人間的な生活に戻れそう。)
 本日は6セッションの観測である。前回下見に来ている私は、みんなを案内しなければならな
い。
 だか、現場までたどり着ければ解るが、そこまで行く道が解らない。
 地元の測量業兼業のH氏と、その社員達の道案内で車を連ねて、全員現地へと向かう。
 この依頼のあった地域は、与点となる三角点が意外と車等で行き易い場所が多いのだが、
唯一、山の道のない道を20分程登らなければならない四等三角点がある。前回の下見の際
に私も登り、ついでに伐採を行って観測のための環境作りを行ったのだが、外業の際にいつも
着ているお気に入りのジャンバーを破いてしまった、本当にいばらの道である。三角点に到
着。伐採を行った後。いのししを狩るために猟をしていた方に出会い、やっと下山するための
獣道を教えてもらった。危うく標的になりかけた場所でもある。
 第4セッションで、この与点にW氏とH氏が登る事になっている。そのため第3セッションと第
4セッションは1時間40分程度の余裕がある。後でこの時間的余裕が生きる事になるとは、誰
も知るはずがなかった。



●観測開始

 今回は2級基準点と3級基準点を同日に観測するのだが、前半のセッションは、3級基準点
観測からのスタートとなる。時間的都合で、2級基準点の観測は後半のセッションになってい
る。
 確定測量を行う、現地の3級基準点と与点となる2級基準点の位置に陣取ってのスタートとな
る。お互いの距離が近く、肉眼で三脚にポールとアンテナのGPS観測をしている姿が解る。
 私の観測場所は、大きな道路が交差する丁字路の角、コンクリート擁壁に設置された基準
点に受信機を設置、トラック等の往来が考えられ、1メートルのポールを整準台とアンテナの中
間に接続。アンテナ高を2メートル50程度の高さにして観測を開始。他の観測場所も全員そう
している様である。
 この時は、起床した時とはうって変わって、肌寒くはあるが晴天。風はそよ風程度であった。
 午前7時25分。やや早めに電源を投入。1時間後、第1セッションは何事も無く終了。
続いて、第2セッションのため移動を行う。本日の第3セッションまで3級基準点のための観測
のセッションである。
 車で移動。今回の観測場所は、お墓の中に設置してある基準点である。お墓の通路部分の
コンクリートの犬走り?(通路)部分にしっかりとその基準点は設置してある。
 下見の段階で「よく、この場所に設置させてくれたね。」と感心した場所でもある。了解はしっ
かりとってあり、H氏は交渉上手。びっくり。私だったら最初から無理だとあきらめてしまうのだ
が・・・・。いや、彼は心臓に・・・。
 高台にあるその場所は、風が吹きさらす場所である。足場はちょっと微妙な所に基準点が設
置してあり、三脚をきっちり据えようとすると、コンクリート犬走り部分が、15センチほど高くな
っており、犬走りの幅は80センチ程で、横はお墓のブロック塀。犬走りを(通路)を挟んで、隣
のお墓であるが、2メートル程の段差で石積みが下がっている。
 いろいろ、三脚の開きを格好良く立てようとするのだが、どうしても三脚が、犬走りの角に当
たってしまう。
 仕方なく少し狭い脚の開きにして、コンクリート犬走り部分に三脚の脚を3本とも設置し、観測
準備をしていたのだが、そこへ丁度H氏がひょっとして道順を間違えているのではないかとや
って来た。このお墓にはいる道はちょっとわかりにくく、他の場所に行きそうな地形である為心
配して来てくれたらしい。
「あれっ、大分三脚の幅が狭いけど、大丈夫かな。ここは風強いけん。」
「そうやね。ただ微妙な所に基準点鋲が打ってあるんで、じゃあ、まだ時間があるんで
もう一回据えてみようか。」
 丁度、午前9時を挟む形になり、移動時間を含めてセッション間に40分の余裕の時間があ
り、時計を見ると、まだ観測開始まで20分以上ある。何回か試す事5分。普段だったら、あき
らめる時間なのだが、H氏が見ている手前、何とかしなければならない。ようやく、犬走り部分
から15センチ下がって、他のお墓との段差部分(2メートル下がっている石積み)の間に5セン
チ程度の隙間があり、そこに、三脚の石突きを設置。なんとか格好の良い、正三角形の形で
三脚を設置する事が出来た。後は観測を待つだけである。



● 見学者

 「必ず9時過ぎてから、スタートして下さいよ。」と確認の声がトランシーバーより聞こえ、9時5
分電源を投入。第2セッションの観測を開始する。
 観測を開始して、しばらくした頃。地元の調査士さん二人が観測の見学にやって来た。GPS
の説明をしながら、いろいろ話をしている内に、時間が経過。第2セッション終了。引き続きこ
の場所での観測である。他の観測者の移動のため20分の間を開け、第3セッションは開始し
た。だが、先程のセッションの終了間際から風がまた強くなって来ている。
 強い風が時々吹いている。この場所は完全に風が吹き上げになる為、これ以上強い風にな
ると都合の悪い事になりそうだ。
 そして、第3セッションが終ろうとしている時それは起こってしまった。
トランシーバーから、「三脚がずれてしまいました。」と、悲壮な声が入ってくる。
「コンクリート部分に、三脚を設置していたら、横風で三脚がずれてしまいました。」と、O君の
声。
 しばらくして、W氏「今度のセッションの間に2時間近く余裕があるから、3台で観測をして下さ
い。」、次のセッションからは2級基準点の観測となっているので、Wと私がそれぞれに与点に
移動する事になっている。特にW氏とH氏が、与点の道なき道を上がる為、充分時間の間隔を
とっていた。その間に移動するW氏と私の器械以外の3台で観測させ、三脚がずれてしまった
第3セッションを補うように観測の条件を組み替えたようである。
 とにかく、障害物の状態や、天候からW氏とH氏が上がる与点は、もうこれ以上遅らす事は
出来ない。
 各自、三脚が移動しないよう、工夫を凝らし観測を始める。地面に三脚の据え付けが出来る
場所であれば良く踏み込みを行えばそう問題はないが、コンクリート面だと、そうもいかない。
各自、砂袋。ブロック。紐で三脚を結わえる等、いろんな方法で固定。
何とか、特別に組み込まれたセッションは終了したようである。
 そして、私とW氏がそれぞれに与点に上がってのセッションとなった頃。突風はもはや、時々
ではなく、5分置きくらいに吹きまくっている。
 私の担当する与点は、山頂の公園敷地にある三等三角点、場所は車で横付けも出来る便
利の良い場所なのだが、最初から地元のH氏に「ここは、風が強い場所だから、気をつけて下
さい。」と言われている。
 H氏の指示で、社員のM君と一緒に土砂の販売会社で砂を買い、砂袋を三個買い。与点の
公園に上がり、スカイレッグを設置し、砂袋で三脚に重しをつけ移動しないようにした後、アン
テナをその上に設置。



●ぐらり

 丁度三角点の横には4メートル程の剪定された庭木と、照明灯があり、本来無風であれば、
万全の体制としてスカイレッグに1メートルのポールを2本継ぎ、最低でも5メートル程の高さに
するはずであった。
 だがそのつもりでポールを設置して、固定しようとした瞬間、突風が吹き、ポールを2本持っ
た手とともに、ぐらりと大きく揺れた。
「これは、駄目だ、止めよう。」M君と話し合い、ポールの接続は1本にする。
同時に、「ポールはあまり継がん方がええよ。」とトランシーバーでW氏の声が入ってくる。
「はい、そうします。今、2本は止めて、1本にしたところよ。」
 吹きっさらしの山頂、しかも公園として整備、地面はカラー舗装になっており、足場は良い
が、風をよける場所は無い。仕方なく、風よけの意味で、風の方向に車を止める。これで少し
は違うはずである。
 どんどん風は強くなって来る。普通の観測であれば、光波測距儀自体が揺れてしまって、目
標の観測が難しく、普通は絶対観測は行わない天候になってきてしまった。
 だが、みんな忙しい日程をやりくりして、スケジュール調整をしている。とにかく観測をしなけ
ればならない。
 中間に臨時の第4セッションが入ったが、本来の第4セッションである。第5セッションが13
時20分開始された。時折突風となり、びゅーっという音とともに、車の中に居ても、車のきしむ
ような音とともに、移動しそうになるのが解る。
 それでも、何とか1時間の観測で第5セッションは終了。事件は次のセッションにまたまた起
こった。



● 次々と

 第6セッション、私は第5セッションと同様の位置で観測開始。もう一つの与点に登っている
W氏は、このセッションの時間を利用して下山しているはずである。
 風は相変わらず、強い。普通であれば寒いと言って、車の中に入り、居眠りをするのである
が、この風では、どうなるやら心配でうかつに車の中にいる訳にもいかない。
一向に風はやむ気配が無い。
 そして、50分が過ぎようとした頃、突然トランシーバーから声が、「倒れた。」という声が入る。
こちらは何が起こっているのか全然解らない。誰の声なのかも、通常と相違したうろたえた声
だけに、若い二人なのか、宝さんなのか、観測の無いW氏と目の前に器械がある私の観測場
所では無い事だけは解ったのだが、他の観測地点と大分離れており、全く見通しも出来ない場
所にいるので、どうなっているのやら、さっぱり解らない。
 やがて、「アンテナ大丈夫か」というW氏の声と、「うん、大丈夫で、ゆっくり倒れたけん、なん
とも無いで」という若いY君の会話が聞こえてきた。だが、この時最悪の結果になろうとしていた
のだ。
 ああ何ともなかったんだな、と一安心する暇も無く、またW氏の声で、「もう一回セッションを
やって下さい」という声が入る。
 電源を切り。改めて新しいセッションとして観測を再開。1時間後観測を終了。
 既に17時を越しており、今度のセッションが本日の最終となるはずである。
 次の観測場所の中学校の校庭内にある四等三角点に移動。いろんな事が次々に起こり移
動時間は未定。
 到着後、直ちに連絡を取り合い、観測を開始する事にする。



● 校庭

 校庭にある四等三角点は、通常の状態であれば30センチ程埋没しており、過去に使用した
事のある人でないと、場所がわからないという三角点。事実、このGPSの観測をするにあたっ
て、三角点の成果表を取り寄せたところ、亡失扱いとなっており成果の交付が出来ないと言わ
れ、慌ててH氏が現実に埋没した形で存在している事を地方測量部に交渉し、やっと成果をも
らう事が出来たという三角点である。
 さすがの国土地理院の調査官も、これほど埋っているとは思わず、亡失扱いにしたらしい。
恐らく校庭にある事から、校庭の土入れ(真土)をした際に埋没してしまったのだろう。
 使用した事のあるH氏でさえ、わからなくなると困るからと、校庭のブロック塀に1メートルと赤
ペンキで印をつけていながら、なかなか掘り当てられなかったのだから、調査官を調査不足と
責める事は出来ない。
 校庭の中、しかも端っこの方だから、観測には良い場所のはずなのだが、校庭にある古いポ
プラの大木(高さ15メートル、直径2メートル)が10メートル間隔の並木になっており、その並
木の間に、この三角点があった。



● 後悔

 前回の下見に来た時、丁度この並木だけが障害物であった為。「何とか観測できるんじゃな
いん。」と簡単に安請け合いをしていた。
 後で2回目の下見の時にはW氏も来てくれたのだが、ここまでは時間が無くて、私の感覚を
そのまま信用してくれていた。
 後日、観測状況が悪いとの事で、方位標の偏心を行っての再測となってしまったが、ここで
はまだそんな事は解っていない。
兎に角、観測をこなさなければならない。
 風とともにどんどん日が暮れてくるが、何とか観測を修了する。そして集合場所に全員が集
まる。
「Y君、アンテナ大丈夫やったん。」
「うん。ゆっくり倒れたけん。途中で手で止めたけん、大丈夫よ。」
「そしたら、良かったい。」
だが、O君の元気が無い。
「O君どうしたん。」
「いや、倒れて、アンテナ壊れてしもうたんです。」
 実はトランシーバーからは若い二人の声がそれぞれに入って来ていたのだ。返事のなかった
O君の観測場所では三脚とともに、GPSのアンテナが倒れ、整準台とアンテナが壊れてしまっ
たようである。
「ありゃ、O君のも倒れとったんかな。」
まさか二つ同時に倒れていようとは思わなかった。
 今まで、あまりにも順調に観測が出来ていた。全天候型と言えど、使用する側にその環境に
適応させる努力を怠っていたと言える。これが実務の厳しさなのかもしれない。



● 補足

 だが、このアンテナが倒れ、アンテナを被覆する部分の一部が割れてしまい、中身には影響
が無いと簡単に考えたのだが、精密器械のため、早速修理を業者に依頼したところ。軍事機
密になるため、日本では修理出来ません。修理には米国に送り、半年程かかりますとの返事
であった。
 器械を大事に扱う事。慎重な計画。現地の状況を考える。三脚は良く踏み込んで、きっちり
据え付ける。観測は手際良く。これはTSで培ったことだったはずだ。GPSの便利さと今まで観
測の順調さから、ついつい忘れてしまっていた事柄だった。
 そしてGPS観測特有の整準台とポールの継ぎ目は3センチ程のアタッチメントで繋がってい
るだけである。後から冷静に考えると、起こるべくして起った転倒と言える。
 壊してみてはじめて分かる基礎的な事項。何事も基本を大事にしなければならない。



たそがれ調査士達のGPS奮戦記
     
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