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山口県 渋瀬清治
平成8年8月10日 土曜日 午前9時45分。 私が事務所前の国道188号線交差点に出て、彼らを待っていた。 彼ら3人組はフェリーで柳井港に9時35分に到着する予定。従って順調に行けば、9時45分 には私の目の前に姿を現すはず。 ところが、「電話です」と事務所からコードレスホンをもって来た。 出てみると滝上さんの声。 「今、港についているんですけど、今から、新点の5番に行ってみたいのですが」 「一旦事務所に寄られるものかと思って、道路で待っていたのですけれども、いきなり新点の 方に行かれますか。」 「ええ。新点の5番を見てみたいのですが、そちらで待っていますので後から来て下さい。」 してやられた!。 ●ロス 我々は、一旦は事務所に来て、打ち合わせなり若干の荷物を置くなりして、出かけるであろ う、と思って、彼らが荷物を置く場所も確保した。他の荷物とごちゃ混ぜになって、帰るときにあ わててはいけない、と思い場所を確保したのである。しかし、彼らはそんなことには関心が無 く、いきなり現場に行くという。 うーん、甘かった。 すぐに、うちのスタッフ二人に出発するよう指示した。がしかし、彼らスタッフも、一旦は事務 所に来て挨拶をして、という段取りを考えていたため、のんびり構えていた。従って、現場用の 道具や、昼の弁当、水筒などは、まだ用意していなかった。 考えてみれば、GPS部隊が来たらすぐに出かけられるように、身支度を整えておくべきであ った。予想される機材一式を全て車に積み込み、電話一本あれば即スタート出来るようにして おけば、5分差で追いかけることが出来たのに、結局、15分から20分のロスをしてしまった。 彼らは、プロであった。真剣であった。 ●見えない 私は、今日昼過ぎに予定があって抜けるため、先に1人で新点の5番めがけて出発した。残 りの2人は、後から弁当持参で追いかけてくる。曇り空である。かすんでいると言った方が正し いであろう。鈍い太陽がさし、そんなに暑くはないが風がない。いや、山の方を見ると木の枝が 揺れている。風はあるようだ。しかし、ガスっているというか、もやっているというか、遠くは見え ない。従って、今日あるいは明日観測をやるにしても、トランシットを使って、肉眼で視準点を見 る観測方法では無理である。電波という、空飛ぶ兵器を使わない限り観測は無理である。 ●猛者 数日前の電話での打ち合わせの時に滝上さんは、 「夕方7時ぐらいまで選点計画に時間がかかるのではないですか。」と言っていた。 その後、かかってきた渡辺さんの話では、 「夜中の12時を過ぎるかもしれません。」と言っていた。 この二人の準備時間に対する感覚の違いは、実は愛媛で後方交会法の研修会をやったとき の取り組み方の差、そのものであった。 私が滝上さん達と一緒になって宴会を楽しんでいるときに、渡辺氏のグループは、さっさと切 り上げて、明日の準備のための計算に入っていた。 懇親会の後の二次会が終わって帰ってきた頃、やっと計算が終わったという猛者である。渡 辺氏の猛烈な頑張りで翌日の研修が滞り無く出来たことは勿論である。 今日も滝上さんのいう夕方7時には終わるだろうという予定のもと、宿舎のビジネスホテル と、夕食会場に連絡してある。がしかし、渡辺さんの流儀で行くと、飯はそこそこに食べて、即 コンピュータの前に向かって観測計画の立案ということになるのであろうか。 しかし、我々が寄ってたかって見ていても仕方がないかもしれない。とすれば、我々はビール を飲むしかないということになる。 ●新点5番 そんなことを考えている内に、新点5番を作った国民宿舎うずしお荘が見えてきた。 さて、来ているかどうか。 2台の軽ライトバンが止まっている。愛媛ナンバーである。2台の車の間で3人の男がうごめ いている。近寄ると、ニュウーと、顔を出したのは滝上さんであった。すでに道具を外に出して いる。 早速、四人で国民宿舎うずしお荘の屋上に上がることにした。 「上には何が設置してありますか」という渡辺さんの問いに、 「鋲を目地に差し込んでボンドで止めています。鋲を打ち込むと漏水の原因になりますからね」 というふうに言うと、既製品だという、基準点標識を円錐形のコンクリートに埋め込んだものを 持ち出して、 「これを屋上につけましょう」と言い出した。 なるほど、こんな物まで用意していたのか。と言う感じであった。 ●鮮やかな手際 支配人に挨拶をして屋上に出て、私が設置した鋲の位置を案内した。 すると、渡辺さんは、 「何処がいいですかね?」 と言いだした。私が設置した鋲は、目に入らないのである。 私が「なるべく隅の方が良いでしょう」と言ってその場所を指し示すと、小野さんが金ブラシを 持ち出して、屋上のコンクリートをゴシゴシとやりだした。横で渡辺さんが透明なビニールホー スを口にくわえて、金ブラシで掃いたかすを吹き飛ばしている。 実に良いコンビネーションである。滝上さんと私は立ったまま、ただ見ているだけであった。き れいにコンクリートの垢を削り落とした後で取り出された接着剤は、駐車場の車輪止めブロッ クを固定するための2種類の液を混合するタイプのものであった。車止め用であるから、かな り強力なものと見受ける。30分で固まるタイプのものだという。 金ブラシを用意し、かすを吹き飛ばすビニールホースを口にくわえて吹き飛ばす、そして、ボ
ンドは強力なタイプを持ってきて、たっぷり一セットを使って止めてしまう、その鮮やかな手
際・・・
またしても、してやられた、という感じである。
●新点4番 そしてボンドをつけたら、少し押さえて次の点に移るかと思えば違うのである。その上に乗っ て圧をずっとかけているのである。渡辺さんが疲れたら滝上さんが乗って30分間はそこに居 座っていそうな感じである。たまらず、私は歩き出した。この暑い炎天下である。すぐに乾くに 決まっている。彼らもついてきた。このうずしお荘で、私のスタッフ、二人も合流した。 そして次の新点4番の場所へと移動した。そこはコンクリート打設舗装道路の上に、アルミの 表示板を付けた鋲を打っていた。が、先に現場を見た滝上さんが、すぐにその場を無視して、 近くの擁壁の天端をさして、 「ここで良いですかね」と言う。 私が「かまいませんよ」と言うと、ドリル!と車の方に向かって大きな声を張り上げる。 エンジン式のドリルを持ち出し、コンクリートに穴をあけ、横で渡辺さんが削りかすを吹き飛ば し、そして穴の回りをたがねで削りだした。削る仕事、ドリルの仕事は滝上さんの仕事のようで ある。基準点標識に「SK4」の刻印をする。こうしてボンドを穴に流し込み標識を固定して、新 点4番の標識設置が終わった。鮮やかである。 ●二度あることは三度ある 次はbRである。bRは谷あいの一番奥の地点。一番奥に基準点があると、その谷はほぼ 全域が非常に測量がしやすくなるので、是非とも作りたい。しかし、山のすぐ下であるから上空 が開けていない。 従って、新点をGPSを使って作るには非常に難しいところである。そこで、少し広くなってお り、しかも平たい防火水槽の上を一応選点しておいた。しかし、これまた、着くなり、渡辺さん が、 「ここよりもあちらの方が良い」 と言って、少し小高いところの畑の崖っぷちの所を指差した。 そこの地主さんは、私が良く仕事をさせてもらったところであり、二重、三重の意味で知り合 いであるので、ご主人にお願いしてコンクリート杭を埋めさせてもらうことにした。 ●二次製品 そこで登場したのが、変わったコンクリート杭である。エアコンの室外機の基礎用のコンクリ ート二次製品だという。12p角であるため、普通の杭よりも少し大きい。それが新鮮な感じが した。中には番線ではなくて、異形鉄筋が入っているそうである。普通私が入手する杭のように 型枠にはめて作って、ちょっと表面がざらざらした感じの杭よりも、二次製品の特徴であるきれ いなつるつるした表面であり見栄えが良かった。但し、十字がきっていないかわりに、ドリルで 穴を開けていた。 ●コンクリート板 穴を掘るのが早いこと早いこと。渡辺さんと滝上さんが息のあった堀り方をする。あれよあれ よという間に掘っていく。その役割分担も鮮やかだし、掘るスピードもすごい。そして、何を持っ てくるかと思えば、四角いコンクリート板の真ん中が四角くくり抜いてあるものである。 聞いてみると、それは普通はコンクリート杭の基礎の代用品として生コンを打つ代わりにそ の既製品の四角いコンクリート板を置いて、その真ん中のくり抜いてあるところにコンクリート 杭を差し込んで、コンクリート固めの代わりにするものらしい。 これは、建設省とか県の仕事をやる業者が作って利用しているものらしい。県の指定の枡と か側溝とかを作っている二次製品の会社に売っているということであった。今回はそのコンクリ ート板を基礎ではなく、地表面の標識の回りに草が生えるのを防止するために使うのである。 なかなか考えたものである。 ●基礎固め しかし、こんな重いものを四国から運んできて、フェリー会社はもう一人分ないし二人分の料 金をもらわなければ採算が合わないのではないかとさえ思った。セメントも持ってくるし、ビニー ル袋入りの200円くらいで買えるという、バラスも持ってきている。 例によって、船にセメントを流し込み、バラスも入れてこねるのであるが、このこね方がなんと しつこい。我々がやれば、少しこねてみて混ざったなというところで止めるが、止めない。こね るこねる、又、こねるといった感じで、良くこねるのである。 こうして、こね上がったセメントを穴に流し込んで、その上にコンクリート杭を置き、そのまわり にまた、もう一度セメントをこねて流し込む。 こういう風にして基礎部分を作り、コンクリート杭の頭が水平になるように水準器で水準して 位置を決める。それからまたバラスを入れて基礎部分を固め、その上に砂を入れて、杭の頭 から15cmくらいの所で平らに整地して、そして例の基礎にするために使うコンクリート板を置 いて、これまた、水準器で水準する。そして、保護石代わりのコンクリート板を据え終わると、ま わりを埋め戻して終わりである。 なかなか、いろんなものを使うものである。 通常は、このコンクリート板を基礎固めに利用するために、非常に杭を埋める時間が短くて 済むということである。これは、我が事務所も今後、この二次製品の売っているところを探して 入手しておこうと思う。 ●ひるめし ここで、ポカリスエットにレモン酢入りの水を飲んで休憩して、12時10分前であるので昼飯を 食べることにする。場所は、新点No1の近くにある公園に行くことにした。 ここで、計6人の人間が昼飯を食うのであるが、愛媛の3人は肉体労働をしたせいか地べた に座り込んで飯を食い始めた。我々、我が事務所の3人は、いすに座って食事である。 これ は明らかに疲労の度合いの差というものである。海を渡って朝早くからやってきていきなり穴を 掘ったりしたためであろう。それとも、夏バテ真っ最中で盆休み前の疲労が一番重なったとき のためであろうか。 ●のこりの新点 飯を食ってすぐに休む間もなく、新点のNo1を見に行く。 これは、山陽本線の跨線橋を架け替えたために出来た、旧国道敷きのサイドラインの所を 掘って作った新点である。 これは、見るなり「合格」をいただいた。 とって返して、新点No2の所に行くことになった。 これは、今回の仕事の現場である宮岬団地の一番北の部分に当たる位置である。行き止ま りの道の、行き止まりの部分のど真ん中に舗装をくり抜いてセメンを流し込み、真ちゅう製の十 字がきってある測量鋲、直径三センチの鋲を埋め込んだものである。 が、これを見るなり渡辺氏はまた周りを探し始めた。 L型側溝の上の土砂をのけて、ここが良いのではないかとか、あるいは、道路をはずれて、 山の斜面に近い部分に作れないかと探し始めた。行き止まりの道の端の真ん中をくりぬいて 作った新点では、長く持ちそうにないと言う考えからであろう。 ●作りたくなかった位置 どうにも適当な所がないと困っているプロの姿を見て、私は提案した。 「東側にこの団地の貯水槽がありますからその上はどうでしょう。金網を乗り越えなければ行 けませんが」と言うと、 「とにかく行ってみましょう」ということになった。 うちのスタッフによれば、後、そこからトラバーを出すのが大変だから本当は作りたくないとこ ろらしい。歩いて上がってみて「そこにする」と決めてしまった。 渡辺氏はニヤニヤしている。それは、海を渡って持ってきた測量基準点標識を埋め込んだ 円錐形のコンクリートブロックがもう一つあるから、それをどうも使いたかったらしいのだ。使え て嬉しいのである。ニタニタしている。 貯水槽のコンクリートを手際よく、金ブラシでこすり、ビニールパイプで埃を吹き払い、ボンド を塗って、設置が完了した。これで、新点の予定地点全てに、標識を設置し終わり、後は、既 知点を見に行くことになる。 ●枝を切る 既知点は、一番北側が銭壺山二等三角点から大きく偏心した点。アスファルト舗装の上にう ちのスタッフが作っている。山頂は植樹された桜の木が大きくなって、しっかり360度障害物に なっている。従って上空を確保しようとすれば、広いアスファルト舗装の駐車場の真ん中にせざ るを得なかったのであった。やーれやれである。 その次に西側の見晴らしの利く二等三角点、琴石山の頂上。そして、最後に田の尻、三等三 角点で山の中を歩いて行ったところにある。 田の尻三角点は水平角40度の範囲が、高度角80度まで障害物となる松があるため、渡辺 氏が非常に気にしていたところである。着くなり、ツルツルの何の手がかりもない松の木をする すると登り初めて、小さな鋸を取り出しさっさと枝を払い落としてしまった。 枝を払い落とす、と言う言葉の意味は、通常、幹があって左右に枝が出ている、これが普通 の木である。そして、この松は枝が4、5本しか出ていない。しかも半分より高い位置に出てい るだけであるが、そこまでスルスルと手がかり無しに昇っていき、その枝をことごとく払ってしま ったのである。つまり、一番頂上に少し松の葉っぱが繁っているだけの全く一本調子な松の木 になってしまったわけである。 それを見た平岡君も、何だ木にはああして登るのかと、今まで登るのは無理だと諦めていた のを、登り方の見本があったので、簡単に登れた、と言って、報告してきた。彼の場合は枝ば かりでなく、頂上に残っていた葉っぱも落としてきたらしい。 それを見て、渡辺氏が「それは枝を払ったことにはならない」と言ったそうである。なるほど。 平岡君にして見れば、根っこから切りたかった木であるから、その気持ちのせめてもの実現が 頭をはねることであったらしい。 そして、この一番問題とされていた田の尻の障害物が、ほとんど問題のない状況に改善され た。このため、偏心点にプラスチックの杭を打って準備していたものの、その点が利用されず、 三角点そのものにGPS受信器を設置することになったらしい。 ●運行状況 夜、全ての新点並びに既知点を下見して帰ったところで、GPSの受信器を駐車場に出して、 人工衛星の現在の運行状況のデータを取り込んだ。今現在の人工衛星の位置情報に合わせ て観測計画を立てようというわけである。そしてその時間を待つこと、30分。 夜の食事を頼んだ場所には、8時には行くと言ってあるのに、後15分しかない。辛うじて時間 に間に合いそうである・・・と思っていたところが違ったのだ。 ●セッション毎の人員配置 一度、人工衛星の状況などが把握できて、どの人工衛星の組み合わせで観測するかは決ま ったものの、各基準点に誰が行き、そして、次のセッションには誰がどこに移動するかという話 を、1セッション目、2セッション目と、いうふうに決めていかなければならなかったのである。 1時間かかると、渡辺さんが言っていたことの意味がやっと分かった。コンピュータで計算す るのはわずか30分でも、その後、人工衛星の状況に合わせて、各セッションをどの点の組み 合わせとし、そして、その点に誰が行くか、と言うことを決めていくのに時間がかかる、というこ とを知らなかったからである。 ●おさらい GPSの観測計画は、まず、開始予定時刻以降の各測点における受信可能な衛星状況を検 討し、ある一定レベル以上の受信が可能な点のリストを作成する。例えば、全部で点が10点あ る時に、上空の開き具合、即ち障害物情報、これをカーテン情報と言っているが、このカーテ ンの状況に応じて、ある時間には1、2、5、8の四点が受信可能である。即ちスータト時間から 1時間は最低観測しなければいけないので、その1時間の間、ずっと条件が良いのはこの4点 ということになる。 そして次に移動時間を加味して、30分ぐらい後からやはり1時間以上、受信状態がいい点の 組み合わせを探し出す。そして、それが3、5、7、10、と4点になるかもしれない。このようにし てリストアップされたものの中から、後は受信器の数、あるいは移動時間、例えば山の上に上 がらなければいけないときには、1時間以上の時間がかかるとなれば、他の機械を1時間待た せるのは、もったいないので、1台の機械が山の上に登る間には、他の機械だけで観測をする ように計画を立てる。 ●三角形の誤差 後、もう一つのポイントは、その同時に受信状態が良いとされる5点なら5点で作られる三角 形の形がいいかどうかである。この三角形というのは、三角形を構成する3つの点ごとに誤差 の状況を調べてチェックをするために、三角形の形が悪くなるような点は省略して観測計画を 立てることになる。 このようにして、同じ様な組み合わせがあるときに機械を持って移動する時間のことや、例え ば、GPS受信器を高くすることが出来るアタッチメントを持っている人をどう動かすか等の観測 機材並びに観測場所、移動時間などのことを考え合わせて、人員と機械の配置を行い、なお かつどこの測点にいた者が次はどこの測点に移動する、ということを計画することになる。そ のために観測計画に時間がかかることになる。 今回の場合は、後に食事を頼んでいたせいもあって、渡辺氏は大慌てで計画を立てた。従っ て、4セッションを計画していたが、夜の間に、渡辺氏はまた考えて安全のためにもう1セッショ ン、即ち、全部で5セッションを計画した。これは、朝、五時に集まった時に伝達された。 ●GPSに捧げる 従って、12時過ぎには終わる予定が、午後2時半まで観測をすることになった。これらのデー タを持ち帰りコンピュータにかけて解析して今日、日曜日の内に全部のデータを打ち出して愛 媛に帰る予定なのである。より良い条件でより好ましい観測をしようとすれば、選点計画に時 間がかかることになる。今このグループでは、渡辺氏がその役を担っており、他の連中はそば でダベって、ただ時間を過ごしている、ということになる。 毎週、土日に選点をして、1週間おきに観測に行く、こんなことを続けているために女房とい る時間より男同士でいる時間の方が長いということになってしまう。愛媛県の西と東で、3時間 以上離れている者同士が、毎週、ないしは1週間おきに出会っているのであるから、土日は、 完全にGPSのために捧げていることになる。 ●GPSを楽しむ 懇親会の席で、渡辺氏は盛んに強調していた。GPSで儲けてはいけない。GPSで儲けようと すれば仕事が来ない。誰からも依頼が来ない。だから、GPSで安くやって、まず仕事を受ける ことが必要である。今まで仕事がないのであるから、とにかく仕事を受ける道を付けることが必 要だ。そのためには安く1、2級基準点測量をやって、次に例えば3級の時にはちょっとまとも な値段に戻し、4級の基準点測量が発注される頃には、正当な単価にする。 そして、今1人が1台持つことによって管理が行き届き、なおかつ、嫌々ではなく同じ仲間とし て同じ同業者として対等な立場で参加しているために和気あいあいと安い費用でも出来ること になる。 これが、会社組織なり事務所でスタッフを使ってやるとなると、安い費用でやるわけにはいか ない。即ち、人件費として、相応の費用が出て行くからである。このGPSによって、今までのト ータルステーションによる観測に比べ遥かに作業が楽になり、いわば、GPS測量は昔の測量 のスタイルを取らなくなり、ほとんどが木登りとただ座って時間が経過するのを待つという、この 2つのことになってしまったようである。しかし、高精度の基準点が、次々出来るということで、 彼らは、先々、安心して仕事が出来る、という意味で、このGPS測量を楽しんでいるのであっ た。 ●アナゴ料理 懇親会は、柳井の伊保庄というところにある小さな店屋。名前を「みやちゃん」という。店の主 人が宮地という名前であるため、それからつけたものであろう。 ここの特徴は、アナゴ料理。しかもアナゴのフルコースが4500円。その味、ボリュームから 言って、これは非常にお得な、しかも非常に美味しい。食べなければ損、という部類の料理で ある。アナゴの刺身、洗い、せごし、煮付け、天ぷら、空揚げ、そして、アナゴ丼、まだあった が、忘れた。これらが次々に出てきて、非常に旨い。 私は、柳井に居て柳井で仕事をしていて良かったと思うのは、こういうものを食べる時であ る。この料理を1人で食べるわけにはいかないが、話が合う者と一緒に食べると非常に旨く感 じる。 柳井においでの皆さんは、是非、私と一緒に食べに行こうではありませんか。 ●伐採次第 さて、翌朝の5時過ぎから、5セッション目の打ち合わせをした後、時間がないと言うことで、5 時15分にはそれぞれ車に乗って各観測点に散らばって行った。 私もうずしお荘に向かった。着いてみると、もう既に機械が設置してあった。 そこで私は、GPS受信器を初めて扱ううちのスタッフの平岡君のいる貯水槽の方に向かっ た。新点番号No2の現場である。上がってみると、平岡はねじりはちまき姿で機械のそばに座 っていた。既に設置を完了したようで、もう観測をしていた。 ただ、何もすることがないのが確かに暇らしい。そこで私は、後々の多角路線の為に、伐採 をしておくように指示をした。一方向はよく見えるが、もう一方向は完璧に木が生い茂ってい る。実は、平岡君が選点をした時この方向が見えないために、彼はこのNo2の貯水槽の上の 選点を諦めていたのであった。しかし、容赦ない渡辺氏の、「ここにしよう。」という声で決まって しまった。 渡辺氏曰く、「後は伐採をいかにするかだけですよ。」と、こともなげに言ってのける。木登り名 人の本領発揮である。 ●犬の糞 No3の現場には、滝上さんが地面に這いつくばって何かをしていた。邪魔をしてもいけないと 思って、No4の現場に行ってみた。すると小野さんが今機械をセットしているところで、こちらを 見て手を挙げたので私も手を挙げて止まることなく、他の現場へ行ってみることにした。 また、No3の滝上氏の横を通ってみるとまだ何かをやっている。何を一生懸命やっているの か、後から分かったことだが、昨日設置した基準点標識の上に、もうこの早朝には犬の糞がべ っとり付いている。しかも、その基準点標識の上にだけ犬の糞がある、ということで、一生懸命 のけていたのであった。 こんなこともあるのである。滝上さんご苦労様でした。 ●5台必要な訳 GPS測量をやって分かったことであるが、5台の機械を使うのではなく、4台を使って観測 し、1台はフリーの状態で新点なり、次の測点に移動するという方法が、後の計算処理に非常 にいい結果を及ぼす、ということである。 5台の機械で同時に観測すると、解析時間が非常な長さになってしまうらしい。このため、測 量を終えてからの解析時間と測量時間とを比較して、4台で観測し1台が移動する、というパタ ーンが、彼らにはノウハウとして確立されているらしい。 こういうことは、実際にやってみなければ分からないことである。そんなことは説明書に書い てないが、GPSが4台1セットとして販売されているということは、裏を返せばそういうことが分 かっていると思われる。 しかし、4台で観測をすると、どうしても移動時間がかかる箇所があるため、1台の移動のた めに残り全てが待たなければならないということが起こるから、やはり5台購入した方が、結果 としては良い観測計画の立案につながっているようである。 ●残る基準点 高橋さんは言う。今までと大きく違うのは、GPS基準点は建物の上であるとかコンクリートの 構造物の上とかに上空さえ開いていれば設置できるため、無くなる割合が少ないのではない かと。トータルステーションを使う基準点測量は、どうしても前後の見通しが必要なため、直線 的な見通しの利く道路を利用することが多く、このため舗装や水道管の埋設や下水管の工事 によって、どんどん無くなってしまったのが今までであった。 しかし、今後はGPS基準点は、前後の視通ではなく上空の視通ということであるから、後の 多角測量の煩わしさを考えなければ、永続的に残る可能性がある地点に新点を作ることが出 来るというわけである。言われてみれば、そうかもしれない。私もGPSが欲しくなってきた。 ●所有形態 愛媛のGPS所有形態で一番肝心なのは、一つの会社組織で5台のGPSを持っているので はないということである。五人の人間が各1台を持って、しかも分散して住んでいる、ということ のおかげで、その地区、地区の者が選点を行い、観測の時に集合して行う、というシステムの ために、選点作業がある一人の人間に集中することなく現場現場に応じて、役割分担をするこ とが出来るという点である。 このために、ある時は西から3時間掛けて東へ行き、ある時は東から西に3時間掛けて行く ことになって、お互い仕事をする場所が自分の廻りに限られることなく、県下全域に広がって、 今はそれが当たり前にさえなってきている、と言うほどの変化を生んでいるのである。 ●ハイペース しかし、何より驚嘆すべきは2週間に1回の割合で集まり、1ヶ月に一度はGPS基準点を設 置していることである。 例えば、6月で15点、7月もやはり15点から20点。計画を土日にやったとすれば、次の週の 土日には、もう観測して結果が出ている。 こういうペースで彼らの日頃の仕事の範囲を超えた県内あちこちでGPS基準点測量を実施 している。今回は、その成果簿を持ってきてもらい見せてもらった。全部で、5ヶ所分の厚さ 様々のファイルを見せていただいた。 平均計画をしている手書きの図面やGPS基準点を設置したその同じ日に、例えば西条支部 で基準点測量の実地研修会を行い、四級多角測量によって、同時網平均で四級基準点を作 っている。この同時網平均プログラムは、滝上さんの持っているものを利用しているようであ る。その西条支部の研修会は、各班に分かれて7班くらいで、四級基準点を設置していた。既 に、GPSによって5回基準点を設置しているそうであるが、この山口県大畠町の現場が6回 目、ということになる。 ●選点しだい その過去の平均図と今回の平均図を比べてみた。大きな違いはセッションの考え方を理解し た上での選点をしていない私の方の計画がいかに未熟かという点である。 土曜日の夕方、5時から9時くらい行い、次の日の5時から昼2時ぐらいまで行って、それで、 全部で15点ぐらいの新点を作っているのに比べ、5時から起きて観測6時開始で、終了2時半 でありながら、全部で6点というのは、少し差がありすぎるように思った。 これぞ『測量は選点が全て』と言われる具体的な事例であろう。選点をするに当たっては、重 複路線を造らないように空白の三角形を作る平均計画に基づいて選点をすれば、倍の新点を も設置することが可能ということである。今回は、既知点同士の距離が5キロという制限を越え た、一級基準測量の例外編、ともいうべき測量であったが、上空のカーテンの影響による以外 の悪い影響はなく精度以内に入って観測は終了した。 上空の視界を遮るものが最終的な平均計算にどういう影響を及ぼすかを見ることが出来て、 今後、すぐには計画しないであろうが、GPS基準点測量の選点の仕方というものが分かった。 ●報告書 愛媛県の過去の報告書には、GPS測量記の検定証明書が添付されていた。その検定対象 機器は、受信器とアンテナであり、その受信器とアンテナを使用する目的は、「国土調査のた めの基準点測量の実施」となっていた。これを見て、私が「この書き方は区画整理のための基 準点測量、地形測量のための基準点測量のような分け方がしてあるのですか。」と尋ねると、 渡辺氏が、問い合わせをしたところ「一級基準点にも使える。」という検定機関の返事であっ た、とのことである。 確かに、一番下に公共測量作業規定の検定項目による、と書いてあったから当然に公共測 量、一級から四級を実施するために必要な機器の検定内容になっていたものと思われる。 彼らが作った過去の基準点の設置場所は、何とか永久的に残る位置をと考えて道路脇の擁 壁や田んぼ脇のコンクリート製水路の壁の天端、また堤防の斜面部分にコンクリート打ちをし て、砲金を埋め込んだものなど、結構苦労して入れている。アスファルト舗装の中に入れてい る、というのは見当たらなかったようである。 ●完成 やはり、何事もやってみなければ分からない、という部分はあるのである。特に、技術におい てはそうであろう。彼らの能力がどんどん上がっているのは、毎週のように選点をし、毎月のよ うに観測をしているという実績の故であろう。 夕べ、済んだという、安堵感からビールを飲み過ぎて少し体が重い今日であるが、この8月、 私にまた1つのきっかけを与えてくれたような気がする。 渡辺、滝上、小野、高橋の四氏を招いて行った山口県の大畠町、宮岬団地測量のための、 GPS一級基準点測量は、無事終了した。 小野さんが、最後に言っていた「GPS基準点測量は、土地家屋調査士の基準点測量に向い ている。」と言う言葉が、彼ら五人組が取り組む基準点測量を象徴しているように思えた。
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