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●大変だ 何の因果か知らないけれど、ついにGPSを購入する事になりそうだ。 しかも最終的に受信機を5台購入する事になりそうだ。 5人のメンバーが各々一台受信機を購入し、仕事の度に集まり、使用する事にしたいのだが、 果たして採算はあうのかどうか皆目解らない。 何故このような事になってしまったのか。 このメンバー全員、金儲けが下手くそ、更に致命的な事に大酒のみばっかりの集団である。 基準点の研修に参加しているメンバーであるにもかかわらず、昼間の測量実習が終了すれ ば、みんなでワイワイガヤカヤお酒を飲む事が楽しみになってしまった落ちこぼれ調査士達で ある。 当然、現在進行中の基準点測量の自主研修にあたっては、気心の知れた連中が集まるた め、夜は大宴会が催される。 そんな大宴会の最中。 ●図根三角点の高さ 「図根三角点の高さは信用できるの。」 「そうですね。古い国土調査では、水平位置は何とかいいみたいですけど、高さはどうもまずい ようなね。どうかしたん。」 「いや、この間一応基準点測量の真似事を四等三角点と図根三角点を使用してやってみた ら水平網のほうは標準偏差が5秒で非常に良い精度なのに、高さがどうにも入らないんです よ、50センチ程越えてしまうんよ。それにもう1つ別の地域で図根三角点3つを使用して厳密 網平均をかけてみたら、水平網の方は7秒程度の標準偏差でこれも非常に良い精度なのに高 さは制限をこえるんよ。それも観測結果を調べてみると一番条件の良い平地にある図根三角 点の高さがやっぱりおかしいんで、観測方法をどこか間違えたのかな、と不安にもなっている んだけれど。」 「国土調査の図根三角点はどうも高さは駄目な事が多いから、あまり気にせんでいいですよ。」 「GPSで一回全部、図根三角点をチェックしたらいいだろうね。」 「まあ、国土調査の値は変える事が出来ないけれどチェックはした方がいいかもしれません ね。」 ●GPSの使い方 「ところで今GPSはどのくらいの値段ぞな。」 「1台1000万くらいするんじゃないん。」 「いいや、この前セールスに来た業者が言いよったけど、だいぶ安くなっとるらしいですよ。何 でも1周波と2周波とあるらしいですよ、2周波だったら高いけど、1周波だとかなり安くなるとの 話でしたよ。」 「GPSは本当に使えるんかな。なんかジオイド面がまだはっきりしていないっていう話しじゃな い」 「我々がやる基準点測量よりかは、結果がええんじゃない」 「前に研修を受けた時にGPS衛星が24個上がらんと常時観測出来ないという事だったけど」 「今、24個全部あがっているそうですよ。でも観測に使用するには常に4個のGPS衛星が必 要らしいですよ。だからその場所によっては計画をきちんと決めないと観測出来ない事がある らしいですよ」 「研修の時に上空の視界が15度という風に聞いたんだけれど、あれは地上から15度。それと も天頂から15度なの。漠然と聞いていたので解っていないんだけれど」 「高度角ですから地上から天頂に向かって15度の角度です」 「私がやっている地域は20年生以上の檜林の中にある三角点が多いので使用は難しいか な。雑木は伐採出来るけれど檜はなかなか伐採の御願いが難しい、背が高くなっているから 大量に伐採が必要になるね」 「GPSですべて観測する事は出来ないという事かもしれませんね。やはり現在の光波測距儀と 併用する形になるんじゃないですか。」 ●GPS測量の距離の範囲 「GPS測量をやる場合、与点との関係はどうなっているの。1周波なら10キロまでとか、2周波 だったら数100キロまでかまわないようにカタログでは書いてあるんだけれど」 「やはり建設省公共測量作業規程に準拠するから、2級基準点に使用するのなら、与点同士 の距離は3キロまでじゃないんですか。」 「それじゃあ、折角10キロまで使用できるけど3キロ以上では使用出来ないことになるのかな」 「いや、現実には計画機関の了承を得る事が出来れば3キロ以上でもいい訳です。現実に地 形とかの問題がどうしてもありますから。」 「なるほどね、あまり杓子定規に考える必要は無い訳だね。それと、与点と新点の配置の問題 だけれど」 「与点が新点を包む形の配置がやはり一番良いようですよ。与点同士を結ぶ直線から外側に なるとやはり制限があるようですよ。」 ●セッション 「ところで実際に測っていく方法なんだけど、セクションというのかセッションといのか英語に弱 いんで直に忘れてしまうんだれけれど、三角形を作りながら測っていくわけだろう」 「そうです、当然その中に与点が含まれるんですけれど、同時刻に複数のGPS受信機で測る のをセッションと言って、そのセッションと次に測るセッションのうち2つの点を同一の点を重複 しながら測っていかなければならないんです。」 「ああ、セッションて言うんだったね。そうだと5台あっても、1回のセッションで新しい観測は3 点しか出来ないという事なのかな。」 「はい、ただ単純に1セッションと2セッション目の重複の観測はどうでもいいという訳ではない ようですよ、一度に5台観測する場合はその5台が作る三角形は10個出来る事になりますか ら、その中の他の三角形を横切る形になる三角形は省かないといけないようです。それに1セ ッション目と2セッション目でも計算する時は同じものとして計算するから全体での三角形の形 状を考えなければならないし、そのためにも他のセッションと重複する基線は大事にしないとい けませんね。」 ●業者を使え 「ところで、今回の研修は一部の地形が悪いですね。ここは国の三角点同士の視通はどうやら 無理ですね。偏心しても無理ですね。それこそGPSを使って新点を作らないと無理かもしれま せんね。業者にデモでも頼んでみますかね。」 「この間うちに来たとき、GPSのデモはしますよと言っていましたよ。」 「一回、頼んでみようよ。」 「駄目でもともとだものね。」 「何台用意してくれるのかな。」 「5台あればいいですけれど、少なくても3台ほしいですね。」 「業者もデモする時はGPSについて講義してくれるんじゃろ。」 「GPSのデモをしてくれるんだったら、それも研修にしたらいいが。」 「しかし、GPSも買えるものなら買いたいね。」 「これからはどんどん使用される機械だから欲しいですね。でもGPSで全部出来る訳ではない ですよ。そのあたりを誤解したら大変な事になりますよ。ただ、近い将来基準点測量で大いに 活用される事は間違い無いでしょうね」 「時代に取り残されないようにそのノウハウを知りたいね。損得勘定せずに、買えるものなら買 いたいね、グループで買えばなんとか買えるんじゃないの」 大酒飲みの揃ったこの面々、後は翌日の事を忘れて、酒を浴びる事になり、私もこのあたりか らいつもの様にプッッンしてしまった。 ●知識の程度 2、3日後、研修も終了し、業務に励んでいると、我々のメンバーの中では若いY氏からの電 話。 「業者に聞いたら、やってくれるとの事でしたよ。早速日時を指定して欲しいとの事でしたし、受 信機も三台揃えるという事でした。」 「やること早いな。業者を脅かしたんじゃない。」 早速、W氏に連絡、即座に「それじゃ、現地に新点の埋設をしましょう。」 事は流れるように進んでいく。 だがGPSの事について、明確な知識のあるものはいない。かろうじてY氏とW氏が過去数 回、GPSの研修に参加しただけでそれだけが頼みの綱である。 私も過去1回だけ研修を受けた事があるが、さっぱり解らなかった事を思い出す。 いまだにセッション・WGS−84・スタティック・キネマティックさっぱり解らない。 解ったような解らないような感覚の中で、GPS測量は三角測量のような感じだなぁと漠然と思 ってしまう。もっとも三角測量についても詳しい知識があるわけではない。その時の研修では 1. GPS衛星が24個あがったら常時観測が出来る。(現在は既にあがっている) 2. 上空が15度の角度で開けていれば観測が可能である。 3. その精度は驚くべきものである。 4. GPS衛星の発する電波を受信して、位置を計算する。 5. 基線となる部分(2点)を重複して測っていく。 そして決定的なのは、GPS受信器の横でいやになるほど待たなくてはならないという実感。 等々、説明を受けて解った?(つもり)、になっていた。 だがいざ自分が使用する事になると、まったく使用出来る知識が無い。何の事はない、解っ ていない事が解ったのである。 早速、全員勉強を開始する事になるが、なにせ中年男のくたびれた脳味噌にはなかなか思う ように知識はつまってくれない。GPSの本よりも、ついつい週刊誌に手が伸びて子供の教育上 悪いページを熱心に読む事になり、古女房から怒られてしまう。 ●新 点 取り敢えず、新点となる2点について、基準点の埋設を行う事とした。新点の選点について は、この後の観測を考え、新点同士の視通が出来る場所とし、今回使用する与点と新点およ び与点同士については視通が出来ない状態であり、通常のトータルステイションでの観測であ れば、大量の伐採をし、当然偏心も必要とされ、更に高測標を立てる必要がある。しかしそれ でも観測出来ないかもしれない。 対岸の離れ小島にある三等三角点を使用すれば、何とか視通は確保出来るかもしれない が、そこに行くには船を雇う必要もあり、更に以前そこに行った調査士の話では、雑木が密生 しており使用出来ないとの事。 丁度GPSを使用するには、本当に良い条件(通常の観測ではどうにもならない)となり、GPS を使用し、万が一駄目でも元々という気楽な気持ちで研修をしてもらう事にした。 新点1は与点2点を結ぶ直線から15度程度外の位置になり、距離的にはほぼ中央の位置 に作成。新点2は与点を結ぶ直線上の位置に作成した。 基準点鋲の埋設にあたっては、50cm四方、深さも50cmの穴を開けてコンクリート杭を使 用し、コンクリートの根巻きをして固定した後、コンクリート杭に基準点鋲を埋設し、更に基準点 鋲を地図をみながら北の方向に向けて設置。 ●カーテン GPSについても、私より二歩も三歩も先んじているW氏とY氏が、「さぁ、カーテンを測ろう か。」と、何やらゴソゴソやっている、「カーテン、何それ」見渡したところ、殺風景な男ばっか り、後は海と山しかない。色気のあるレースのカーテンなんかあるわけが無い、二人とも奥さん に相手にされず欲求不満でもやもやしているのではと疑ってみたくもなろうというもの。 だが光波測距儀を据え終わると、 「北はどっちですか。」 「あの島の方向だけれど、どうするの。」 「360度の方向の障害物を方位を基準にとっていくんですよ。」 「棒コンパスならあるけど」 「あるんですか。それを先に言ってください」 どうもカーテンとは障害物の事を言うらしい。 棒コンパスを光波測距儀に取り付け、磁北を0度にして、観測を始めた、高度角を15度の位 置で設定し、それ以上に障害となる場所の最初の水平位置と高度角を測り、後は大きな屈曲 点の位置の水平角と高度角を手際良く、観測手と手簿者となって測っていった。 現在、この二人に大きく知識で差をつけられている私はただポカンと大口を開けてみている のみ。 「何時、こんな知識を仕入れたんだろうか。」ついに、参考書さえあれば勉強しなくても良いと いう、私の安直な考えが頭をもたげ、「まぁ、後で参考書を教えてもらえば良いか。」毎度、毎度 知識のおぼつかないのはこのせいである。 ●与 点 さあ、今度は与点へと向かう。与点は四等三角点下泊と同じく四等三角点大崎を使用する。 まず、下泊へと向かう、標高100m程の小高い山の山頂にある三角点は2m程度の雑木に囲 まれてはいたが、多少の伐採を行えば、他の三角点を視通する事は出来る場所であった。 以前2級基準点作成のために下見をした時は、まず一安心と胸をなでおろした場所であっ た。しかし、今回はGPSを使用する事になり、一転して状況が変わってしまった。 このさいに伐採も済ませてしまえと言うことになったのだか、三角点の場所は民家に近い場所 でもあり、近所に車を止める空き地もなかった事から、集落の真ん中をむさくるしい作業服を 着た一行が手に斧、鋸、鎌を持っての行列となった。さぞかし周囲の方は山賊でも出たのかと びっくりされたであろう。 そのあたりの感情については、すっかり欠落してしまった我々基準点測量研修のメンバー は、黙々と山道を登り、適度に息を切らせながら、山頂の三角点へと到着した。 いつもどうり伐採である。だが、今回は勝手が違う。上空の視通をとるように伐採しなければ ならない。まずは三角点に立ち、周囲をぐるっと眺めて15度以上に伸びている雑木を切ってい く、今回は木によじ登りながらの伐採の方向の指示も無い。 比較的大きな木は既に台風と雷により倒れていたため、少量の伐採で終了した。 ●偏心点 もう一つの与点、大崎へと向かう。 大崎は、海に突き出た岬の先端にあり、標高60mほどの高さにある三角点である。この三 角点の横には高さ10m程の灯台があり、更に上空に桜の大きな枝がある。この場所は公園 となっており、なかなか伐採が出来ない場所で、特に桜は伐採する事は後々の問題もあり難し い。 この大崎・下泊間は、愛媛県南予地方独特のリアス式海岸で、視通はまったく効かない、偏 心してもまず無理な地形。後視点として使用するのには非常に良い場所である。ただこの三角 点から他の場所へ行く事が出来ない場所にある三角点なのである。 「どうも、これは偏心をした方がいいみたいですね。」 「GPSの偏心はどうするの」 「いゃ、今度の場合は単純な偏心にします。GPSの本当の偏心はまだ、良くわかりませんの で、良く習った後にしましょう。」 早速、偏心の準備にとりかかった。丁度26m程離れた位置に海を眺めるための展望台が 出来ている。その位置であれば地上からの高度15度以上には障害物が無い、ここを偏心点 とすることに決定し、鋲を打ち込んだ。ここで日も暮れ、大宴会が待っており、本日の予定は終 了した。 ●下準備 日を改め、まったく未知の機械であるGPSとの比較という意味から実際にGPS観測との差を チェックする事とし、新点1と新点2にそれぞれ光波測距儀と反射板を1m55の高さに統一し てたて、相互の位置の気圧・温度を観測しその平均値を光波測距儀に入力し、器械内部で気 象補正を自動で補正の後、新点同士の斜距離および高度角を新点1と新点2の位置から相互 に観測したところ新点1から537m591で+10度52分57秒、新点2から537m586で −10度53分18秒であり、斜距離および高度角の平均は537m589と10度53分8秒で、新 点1と新点2の高低差は101m523、水平距離は527m916であった。 更に大崎の偏心点の座標および標高を得るために、偏心観測を行った。本点は四等三角点 大崎、そして後視点は四等三角点横はえである。双方とも海抜100m迄の高さで比較的楽な 地形である。 早速、大碕、偏心点、横はえに分かれ観測の準備にとりかかる。だか、いつものようにW氏 またまた私の思いもよらぬ行動に出た。 彼は後視点の横はえに登ったのだか、光波測距儀と反射板を持って上がるという。後視点だ から反射板さえ持って上がれば良いものをと思ったが、また私の無知が指摘されても困るので 黙っていた。 ●観測開始 3班に分かれ、お互いの準備を確認。しかし大崎で思わぬ事態が待っていた。 なんと大崎の本点と偏心点の間に車が止まっているではないか。 車はどうもつり客のようで、ここに車を置き海岸に降りている。キーもついていない、視通はな んとかとれるものの、本点寄りにおいてあるため、偏心点から本点を視通するのに反射板の 高さを高くしなければならない。最初の計画でのお互いの足元が見える状態での観測予定が 狂ってしまった。 それでも気を取り直して観測を開始する、丁度相手の横はえも明確にみえるので念には念を 入れて、観測出来るものはすべて観測してしまおうと、大崎から横はえ、更に偏心点までのそ れぞれの距離、水平角、鉛直角を観測した。 またそれぞれの器械高と反射高をコンペックスで計測、特に偏心点については、器械高と反 射高が相違したので注意深く観測し観測を終了したと思った時。トランシーバーから「大崎の本 点と偏心点に反射板を取り付けてください」との声が入った。「あれっ」と思いながら即座に、反 射板とプリズムを取り付ける。 ●内角の和 10分ほどして 「観測終了しました、そちらの内角は合わせて何度になりますか。」 早速、大崎の本点からの内角と偏心点からの内角を暗算で計算する。 「大崎から偏心点が139度18分55秒で偏心点から横はえが40度3分7秒だから179度22 分2秒です」 「解りました、こちらの内角は0度37分49秒ですので、大崎・偏心点・横はえで作る三角形の 内角の和180度との閉合差は9秒です。結果は良いようです。今から山を降りてそちらへ向か います。」 なるほど、念には念を入れて横はえからも内角と鉛直角そして距離を観測したようである。そ れで光波測距儀と反射板を持って上がったのかと今頃納得する。 今回の偏心は通常と相違して光波測距儀で偏心点、大崎、横はえの与点とも視通が出来る。 ただ上空の視界がとれないための偏心である。したがって、こういう確認が出来るのである。 実務経験が豊富な事は、とっさに反応の出来る事だなと感心するばかり。 どうしても我々には余裕が無い、後から説明されてなるほどと思う事ばかりで、何故その時に 頭に浮かばないのか不思議な気がするのだから結果が解った後の処理というのは簡単に思 える見本であろう。 ●やってしまった しばらくして彼は大崎に帰って来た。 「偏心点の標高を出しましょう計算をしてみてください。」 お互いの距離を平均し、鉛直角も平均して、高さを計算してみるが、おかしい。どうも大崎の本 点から偏心点の標高を計算した値(私が観測した値)と、偏心点から大崎の本点および横はえ から大崎の本点を観測した値は5センチ相違する。横はえから偏心点そして偏心点から横は えを観測した結果は既存の標高にドンピシャで一致。 「いかん。またやってしまったか」。恐らく私のミスだ。 W氏は内心、もう仕方がないな、役にたたない人だなと思ったに違いないが、そこはミスを排 除するためのプロ、一方的には非難しなかったが、 「もう一度念のためレベルを使用して直接水準で確認しておいてください」 やさしく、冷たく言われてしまう。 当然、偏心点の標高はドンピシャの値を使用する事とした。 後日、レベルを持参して現場に出向き、一応観測の確認は行った、ああっ恥ずかしい。
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