ズレ(スライド量)について


   読み取りの座標値をもとに復元をした時に困ることは,ほとんどの場合かなりの位置誤差を生じることです。
  ありのままに復元した位置を土地所有者に示してこのあたりになります。そういった説明をすると怪訝そうに
  この境界位置は構造物で明確なのに,何故そんなにズレた位置になるのかという素朴な疑問に遭遇します。

   実際に,そのまま位置誤差を計算すると,1m近くズレる場合も多く,いささか驚かされる場合があります。
  しかしこの原因は案外簡単に説明が出来るようです。

 

●何故か,ズレる

この位置誤差については,地籍調査当時に該当の境界を測った図根多角点からの誤差であるということは,既に説明をしたとおりです。単純に位置誤差の話をする場合,地図の精度が甲3の地域である場合には位置誤差について,平均二乗誤差は15cm,公差は45cmということになっています。

しかし,地図から読み取りをした座標値をそのまま現地に復元してみると,形状はほぼ一致するにもかかわらず,(図1)のように全体の位置がすべて同一の方向に50p近くズレます。

 

これは位置誤差については危ない。法務局で位置誤差の指摘を受けるかもしれない,しかし,座標値を信用すると,隣接地を広範囲に地図訂正する必要があるが,関連する土地も形状は一致している。どうも地図訂正の事例でもない。単に境界を示す座標値がズレているだけだ。何が原因なのだろうか。こういった形でのズレを経験された方も多いはずです。

 

●説明の出来るズレ

この場合,規則的にある一定方向に一筆地全体をずらして地籍調査図面と重ね図をしてやると,全部の境界点について(図2)のようになり,10〜20センチ程度の位置誤差に収まり,胸をなでおろす事になります。

その場合,この1筆地を改めて測量した観測点は地籍調査当時その境界を観測したと思われる図根多角点だったのでしょうか。地籍調査の際に該当の境界点を観測した図根多角点であれば,このような誤差は無く,この様な大きなズレがあるとすれば,地籍調査時の誤りというしかありません。

ここで観測点について確認してみると,地籍調査時に該当する1筆地を観測した図根多角点が亡失していたので,近傍の図根多角点や図根三角点を探し出し,新設の多角点を作成した。もしくは,基本・基準三角点を使用した,本来の基準点測量で基準点を作成した。そしてその新設多角点なり新設基準点から復元・観測をしたものだったのではないでしょうか。

これらは正しい方法なのですが,どうしても地籍調査当時に該当の境界を測った図根多角点からの観測・復元でなければ多かれ少なかれ,このズレは生まれます。本来使用しなければならない図根多角点が亡失したために生じたズレを「スライド量」と表示することにします。

それではこのスライド量をもう少し説明します。

 

●地籍調査の路線

詳しい説明は別稿で改めて説明することとして,ここでは地籍調査時の図根多角点との関連で考えてみます。30年以上前の地籍調査の図根多角点の網図をみると,実施地区全域を測るという目的で路線が組まれていることが解ります。

また,現在ほどパソコンも進歩していないために,かなり苦労した路線になっています。現在のような厳密網計算については,ほとんど使用されていません。

すべての路線を一緒に平均計算を行うことは無く,異なる路線同士の関連性は薄く,他の路線との図根多角点同士を使用した結合トラバース測量を行った場合,思うような精度が出ません。見た目の精度だけで判断し,距離が長いトラバース測量の精度で判断を誤っているかもしれません。地籍調査当時でも,現在でさえもこれらのチェックをすることは大変なことになります。

一方,現在において,我々土地家屋調査士が路線を組んだとしても,依頼地を含んだ,ごく狭い範囲での一部の路線です。

現在作成された路線の図根多角点なり基準点と,地籍調査の路線の中で作成された図根多角点については,いろいろと条件が相違します。地籍調査時の図根多角点と新設の多角点が,同一点であっても,座標の値が相違してしまうのは,ある程度やむを得ないことでしょう。

さらに,新規に作成された路線が,依頼のあった土地に座標を関連付けさえ出来れば良いという考えで作成されたものであったのなら,かなりの相違が生じます。10p程度のズレは簡単に生じてしまいます。

 

●ズレを小さく

このズレについて,いかに小さくするかという問題については,すべてを無くすことに関しては無理ですが,なるべく小さくすることは出来ます。

それは,新規に図根多角点や基準点を作る際には正規の方法で観測や計算をするということなのです。正規な方法であれば,与点の精度が良ければ新設の基準点の位置誤差については10センチ内外で求まります。

少し怪しげな自己流の方法で作成された新しいトラバー点と,古い時代にやむなくそういった方法になってしまった地籍調査の図根多角点を比較してみれば大きな相違になってしまいます。どちらか一方が正解に近い値であれば,片方の相違する分だけのスライド量の補正ですみます。

当然,正規な方法という事になれば,各種の補正は必要となります。地籍調査でも各種の補正はされていますので,各種の補正をすることなく水平距離一発での開放トラバース計算での比較はもっての外ということになります。

 

●ズレの量を知る

さて,ズレが生じることばかり記述してきましたが,頭の中ではそういった事が起きるであろうし,漠然と理解することは出来る。しかし,どうすればスライド量が明確に解るのか。一番簡単な方法は,現地に図根多角点が残っていれば,その図根多角点を新設の基準点から測ってやり,お互いの座標値を比較してやれば,明確にそのズレの量が距離として解ります。

ただ,現地に図根多角点が亡失しているので新設の基準点を設置したのだから,そんな事は出来ない。当然といえば当然なのですが,ただ1点のみがあり,後視点や観測点になる図根多角点が無かった場合は,こういった方法でスライド量が判明します。

 

●図根多角点も無い場合のスライド量

現地に図根多角点が無い場合はどうするのか。この場合も簡単なのです。事前測量等で現況測量をしていれば,このスライド量もほとんど判明します。地籍調査図面との重ね図をここでやれば良いのです。

ただし,ここでは任意座標での比較ではありません。お互いに公共座標になっていますので,そのまま表示すると1メートル内外の位置ですべてが表示されています。どの位置が正しい間違いの無い位置なのか,自分の目で判断することが出来ます。正しいと思われる位置が複数見つかるはずです。1点のみを固定せず,最大公約数的に重ね図をして見てください。おおよそのスライド量が判明するはずです。(図4)の場合A,B,C,Dの関係から,ズレの方向と大体の距離0.40m程度という事を推測することが出来ます。確実と思われる境界(構造物)が多いほど確実なスライド量を知る事が出来ると思います。ただし,この場合スライド量と位置誤差の一部を一気に修正してしまう事もあります。

 

 

●スライドの量の性質

このスライド量は固定した値です。単純にX方向にのみ何センチ,またはY方向にのみ何センチといった場合や,X方向に何センチ,Y方向に何センチといった斜め方向にスライド量のあるもの,その性質はいろいろですが,縮小・拡大は考慮しなくて良いでしょう。

このスライド量は単純に,地籍調査時に境界を実際に観測した図根多角点が使用できないために起こるズレなのですから,それ以上の修正を行う必要はありません。

図根多角点とそこから観測をした境界点に共通するものですから,一つの図根多角点とそこから観測された境界点をブロック化して,隣接する図根多角点もまたブロック化して,それぞれにこのスライド量を考察する必要があります。1筆地を複数の図根多角点から観測されたものについて結果的に縮小・拡大となる場合もあります。幸いな事に,図根多角点は図根三角点や基本・基準三角点から作成されているために,スライド量の修正を行う場合,回転(ねじれ)を考慮しなくても良いと思われます。実際には10秒や20秒程度の回転はありますが,広大な範囲であれば別ですが,通常の一筆地であれば問題になりません。逆に狭い範囲だからこそ計算上10秒や20秒の回転がかかると思った方が正解かもしれません。

 

●位置誤差を考える

以上の修正を行った後に位置誤差を考慮すれば良いと思われます。このような単純なスライド量について,位置誤差の公差の中にすべて含まれているとしたら地図が悪いという結論にしかなりません。

今まで記述したことを理解していただいて,少なくともこのスライド量を考察できる程度の測量・調査を実行したのなら,本当の地図の内容がみえてきます。

地図の精度はそんなに悪くないし,先人の測量技術・知識の高さを知ることも出来,現在の我々土地家屋調査士はそれ以上のことを行う必要があることが解ります。

それが解れば地籍調査の成果(地籍図14条1項地図)はかなり利用出来るし,正しい利用方法こそが地図を時代とともに有効に使う方法なのです。

第2章地籍図14条1項地図
地区でいつもの作業
     
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