GPS測量ダメ話 8
(GPS観測計画) 国土調査を昭和40年代に実施した田舎では,測量法の改正により日本測地系が世界測地系になっても,国土調査に使用した4等三角点は電子基準点を使用しての改測がされず改算で成果が変更されています。 したがって,1筆地の境界点を表す座標値も国土調査での座標をパラメーター変換した座標系,国家三角点の日本測地系をパラメーターにより変換した世界測地系での座標系,(直接または間接に)電子基準点を使用した世界測地系の座標系と3種類の座標系による座標が混在しています。明らかに相違する座標系では無く,そのまま同一の座標系として使用しがちなのですが,これらの座標系の相違を知り,調整しながら使用しなければなりません。 1級・2級・3級基準点測量はGPS測量で設置する。4級基準点はTS測量により水平網・高低網の厳密網計算で行う。1筆地測量は4級基準点から実施して,当事者の立会による境界点や国土調査(不動産登記法第14条第1項地図)との比較を行い,現況測量により得られる国土調査時の座標系と今回のGPS測量による座標系のズレの調整を行った後,再度確認をして地図訂正が必要か否か判断します。確定した境界点については新たに設置した基準点からの座標値で最終的に表示する。このような方法で私は1筆地測量を実施しています。 山に囲まれた盆地・海と急峻な山との間の狭い地域で業務を行っている調査士にとって,国家三角点は山の頂上にあり毎回々山頂まで機材を担ぎあげて基準点を設置するよりは,電子基準点が使用出来るようになり電子基準点のみを使用して1級基準点を新たに設置しておけば,簡単に2級基準点,3級基準点を設置することが出来るので,1筆地測量の為の基準点をまんべんなく設置することが出来ます。 観測計画というもの 非常に便利になったのですが,以前に比べ事前の準備をせずに簡単にGPSを使用してしまっている事を知る事になってしまいます。新設基準点を設置する時に観測点の状況を良く調査して観測計画を立てるべきなのです。観測の回数が増え慣れるにつれ観測点で基準点を設置した時に大体の状況を自分なりの感覚だけで障害物の状況を判断していました。 ![]() 今から説明する事例は2012年9月22日にGPS観測を行ったものです。 たまたま近傍地の業務処理中に今回の申請地についても分筆業務の依頼があり,周辺の状況も分っていましたので3級基準点3点をこの地域全域に設置しておこうと実施したものです。 観測時間を決定するにあたっては,インターネットで放送歴を入手して,解析ソフトであらかじめ(図−1)の衛星数,(図−2)のDOPを確認しました。観測点の障害物情報は現地で器械により正確に観測せず,自分の感覚により状況判断しました。 与点の2級基準点2−1は海岸の広場にあるので障害物は無いのですが,山の中腹にある2級基準点2−5,2−4は向き合った形で障害物のある方向が相違します。ミカン畑にある基準点は海岸に向いた方向の上空は開けていますが,山頂に向かっては傾斜があり水平方向の100°程度を占める範囲では仰角が20°程度までふさがっています。3級基準点3−15についても海岸の国道の路肩にあり,車が1台駐車できるほど余裕があり西側の山だけが障害物のようです。新点の3級基準点3−22,3−23,3−24についても海岸の建て込んだ住宅地の中ですから障害物はあります。 それでも仰角20°前後までの障害物であれば,衛星も8個以上ありDOPも3.20以下だから,結果的に全方向が埋まっていても大丈夫と,衛星の配置等詳しい情報を確認せず,今までも出来ていたのだから大丈夫と判断しました。 ただ,新点3−24については切り立った山の土砂災害防止の為のコンクリート擁壁上に設置しており,急斜面で障害物も多いので上空に衛星の多い時間帯に観測する必要があると思っていました。 観測開始 (図−2)のDOPの状況から3−24をするにあたっては9時30分〜10時30分の間か
Cセッション開始
2本目のバッテリーはフル充電が出来ています。バッテリーは自動的に引き継がれると思ったのですが,1本目のバッテリーが終了した途端に電源が落ちてしまいました。 外の観測点のバッテリーを確認すると,外の観測点のバッテリーは大丈夫のようです。Cセッションは2−1,3−23,3−24,3−15の4点で観測していましたが,3−23の観測が出来なくても(図−4)のように2−1,3−24,3−15の3点の観測を行えば,必要な基線ベクトルは確保できると判断して,そのまま観測予定時間まで観測をすることにしました。 最初の計画でもAセッションかCセッションのいずれかは3台で観測を行っても良いと思っていましたので問題無いと考えました。(極端に言えばCセッション自体必要がなかったのかもしれません。ただ,与点として使用した3級基準点3−15と新点との関連付はしておきたいと思いました。) 13時30分予定どおり観測は終了しました。 気になる事がありました。何も障害の無いはずの海岸の公園に観測点2−1があり,観測したのですが,この日のAセッション開始時から砂利運搬船が停泊していました。大きなタンカーでしたが観測点からは20mほど離れているので観測には何も不都合が無いだろうと思っていました。 しかし,Cセッションの観測を開始して10分ほどすると,ダンプカーが観測点2−1の横に止まりました。1台が砂利運搬船の横に行きクレーンで砂利を入れている間,もう一台のダンプが観測点のほぼ真横に停車しています。ダンプ2台でのピストン輸送のようです。大型のダンプが観測点の真横に停車するとかなり高い位置まで障害があることになります。2−1の観測点は公園のゲートボール場への入り口になっている場所で,ゲートボール場を囲むように2mほどの生け垣があります。 生け垣は観測点から1mほど離れており,アンテナ高さは1.80mの高さに据えていましたので障害にはならないはずでした。観測点の横に5分程度駐車して,砂利運搬船の横に行き砂利を積み,目的地に運び,10分後に公園に戻ってきます。それを2台のダンプで2,3回くりかえしました。結局,観測点の横には1時間の観測中30分程度ダンプが停車していた事になります。 解析結果 3セッションの観測を終え,事務所に帰り解析です。当日解析するにはちょっと元気が不足していたので,翌日気合いを入れ直して解析しました。 観測データは問題無く取り込むことが出来ましたがCセッションの3−23のデータは解析には使用しない事にします。 公園の2級基準点2−1をBHL固定点として解析を開始,基線毎に解析をして行くとAセッション,Bセッションで観測した基線については次々と緑色に変わり誤差楕円も表示されましたが2−1と3−24の基線に移動するとは緑色ですが,誤差楕円がいきなり大きくなり,今まで解析をして表示されていた誤差楕円は一気に小さく表示されました。更に2−1と3−15の基線は赤く表示され解析不能となってしまいました。 2−1と3−24の基線が解析出来ないのであれば理解出来るのですが,ほとんど障害のない2−1と3−15が解析出来ないなんて・・・。ちょっとショックでした。既知点の入力値を間違えたのかと疑い,チェックしましたが間違いはないようです。 やむをえず,二日後の9月24日に3−23を含む4カ所でCセッションを再観測することにして,9時40分から10時40分まで観測しました。観測点の地形的な状況の変化はありません。公園の2級基準点2−1は砂利運搬船が停泊しておらず,ダンプカーも停車する事はありませんでした。天候も良く観測を終了する事ができました。再測したCセッションのデータを入れ替えて事務所で解析すると問題無く解析する事が出来ました。何故,9月22日のCセッションは解析が出来なかったのか状況を自分なりに分析してみることにしました。 観測前に解析ソフトから(図−5)の衛星数,(図−6)のスカイプロットについても打ち出しをしていたのですがじっくり判断をせず,(図−1)の衛星数,(図−2)DOPだけで観測の状況を判断していました。 観測日の2012年9月22日の9時00分から15時00分までの衛星の状況と実際の観測時間,BセッションとCセッションの違いも考察してみることにします。 ![]() Bセッションの分析 Bセッションは11時10分から12時10分までの観測でした。この時間帯は9個の衛星が上空にあるようになっていますが,実際はどのような状態だったのでしょうか。(図−1),(図−2),(図−5)で判断するかぎりにおいては問題のないように思えます。(図−6)のスカイプロットも11時10分から12時10分ものにして細かく分析してみます。
北の方角にはもともと衛星が飛来していませんが,仰角15°から45°の間の衛星をみるとG01,G07,G08,G06,G16,G30,そして天頂に近い位置にG03,G11,G19の衛星があります。 このままであれば何も考察する必要は無いのですが,観測点にはそれぞれ障害物(カーテン)があります。同一セッションの観測点では同一の衛星を受信する必要がありますが,観測点の障害物により(図−7)の衛星の中で受信できないものがあるのでしょうか。 そこでBセッションで観測した時間帯の衛星の状況(図−7)と観測点2−4,3−22,3−23,3−24地点の障害物(カーテン)情報を,一つに合成して(図−8)のBセッションカーテン情報を作成してみました。 ![]() 観測点周辺の障害物によりこの時間帯ではG01とG08が隠れてしまいましたが,G08を補足するようにG07が,G01を補足するようにG11があります。 南東部分に障害物がありますが,幸いな事にG16とG30衛星の邪魔になっていません。観測終了と同時に障害物に隠れる状態であり観測や解析にほとんど影響を与えなかったものと思われます。解析ソフトに障害物情報を入力して改めて衛星数(図−9)とDOP(図−10)を計算してみました。 ![]() 衛星数・DOPともに障害物の無い状態と比較すると悪くなりました。受信可能としていた衛星も9衛星から7衛星になり,DOPも2.10〜3.20程度のはずが,実際には2.5〜4.3になってしまいました。 観測計画に使用した(図−1)と(図−2は観測点の障害物を全く考慮していないものです。想定内の範囲なのか衛星の多さに助けられた観測だったのか後日観測計画の立案者は知る事になります。 Cセッションを分析する 今度は問題のあったCセッションをみてみることにします。(図−6)から12時30分から13時30分の1時間分だけを取り出して(図−11)を作ります。
G06とG16,G28の3衛星は13時頃に仰角15°以下となり出て行きます。 1時間観測出来る6衛星のうちG03,G11,G19の3衛星は北東に位置して同じ軌道上にあり連続しています。天頂に近い位置はG11とG01の2つの衛星があります。水平位置の配置は良いのですが,北東以外では多くの衛星が仰角の低い位置にあります。先程の(図−7)と相違しているところは観測点の東側に衛星が密集しており,西側に衛星が少ない。仰角60°以上の高い部分と仰角30°以下の低い部分とに偏った配置になっていますが,観測点に何も障害物が無ければ問題の無い衛星の配置に思えます。 Cセッションの観測点2−1,3−24,3−15,3−23のカーテン情報とCセッション観測時間帯の衛星位置(図−11)を合成して(図−12)Cセッションカーテン情報を作成しました。 Cセッションの障害物はBセッションよりも少ないようですが,時間帯と障害物の影響でG08が受信できません。北東方向は仰角も同じような衛星が偏っています。西側には仰角が60°以下ではG28,G07,G01しか無く,1時間満足に観測出来る衛星はG01のみです。仰角が60°以上で天頂までにG01とG11の2つの衛星があります。 南東部分には30°以下にG16,G20,G32がありますが1時間満足に観測の出来る衛星がありません。西側にあり1時間観測が出来るはずのG20,G32,G07の衛星が障害物により最後の10分程度観測が出来なくなっています。衛星は多いのですが不安材料の多い時間帯であったといえそうです。 観測点の障害物を入力して,改めて解析ソフトで衛星数とDOPを計算してみることにします。 Cセッションの12時45分以降の時間帯であればDOPも2.8〜4.0であり問題がありませんが,観測開始12時30分から12時45分の15分間はDOPが5.0〜6.0であり,観測可能(解析可能?)とされている基準5.0を超えています。Cセッションの観測点の障害物,そして観測時間帯の衛星の位置を考慮すれば観測すべきではない時間帯であったといえ,Cセッションが12時45分から13時45分の1時間であればDOPは4.0以下となり問題が無かったようです。 実際の解析では3−24の観測を外した事から,観測点3−24の障害物により本来受信出来なくなるはずの衛星G07,G08の2衛星が1時間受信出来ました。このまま解析が出来たとしても衛星の配置の偏りが解析に大きく影響を与えたものと思われます。満足に1時間受信できたのは天頂付近の北東方向の仰角60°を越えている位置の衛星だけで,衛星が狭い範囲に集まり仰角も45°を越え60°を越えた位置の衛星が多く観測をしてはならない状態となっています。 解析が出来なかった最大の原因として考えられる出来事がありました。海岸に停泊した砂利運搬船は観測点から20メートルほど離れていましたので影響は無かったのですが,ピストン輸送で砂利を運ぶ2台のダンプカーが観測点に影響を与えたようです。 砂利運搬船からクレーンでダンプに砂利を移し,現場へと運搬します。もう一台のダンプカーは待機して前のダンプが移動すると即座に砂利運搬船に横付けします。待機中のダンプカーは観測点から2メートルほどしか離れていません。大きいダンプカーで砂利を運ぶために荷台にカバーをしており,高さは2.5メートルほどになっていたでしょう。エンジンは掛けたまま待機しておりマルチパス等の影響もありますが,ダンプカー自体がカーテンとなった可能性があります。 停車していた位置は観測点2−1の南東の位置です。Cセッションの観測点に共通して障害物の無い方向の位置に大きなダンプカーが停車して仰角30°近くまでの障害物になった可能性があります。そのため北東の低い位置にあったG03,G06の衛星が受信出来なくなってしまったと思われます。その結果受信の出来る衛星は仰角の高い位置に偏り,水平方向についても東側のみになってしまったようです。ダンプカーの位置を観測点の障害物として入力してDOPを計算してみると,観測時間のDOPは5.0〜20.0の数値となり解析が出来るはずのない値になりました。 本来観測の前に,観測点の周囲の状況を事前に観測してカーテン情報を作成し,解析ソフトにあらかじめ入力して状況を確認していれば観測に適正な時間帯を知ることが可能であり,効率よく観測が出来ているはずであり,何よりも観測の状態が良ければ基準点の精度も良くなります。 観測中にダンプカーが停車したのなら,観測にはリスクの大きい時間帯であることが解っていたのですから観測を続行すべきかどうかの判断は簡単に出来たはずなのです。 BセッションとCセッションの時間帯を入れ替えても良かったのです。基準点3−24の観測点は周囲の状況が厳しいが衛星も10個ある。DOPの良い時間帯にやれば大丈夫という簡単な判断で,障害物により受信の出来ない衛星の各何・受信出来る衛星の配置・カーテン情報を入力した最終的なDOPの計算等を確認せずCセッションの時間帯を決めてしまいました。 少しの手間を惜しんで当たり前の事をしないと,後で慌てて調査する事は大変な労力を要します。慢心による慣れに流されず,初心に戻りきっちりと計画する事が必要という事を思い知らされる事例でした。 |