気になる事


   (図根多角点亡失による新設基準点設置により生じるズレについて)


 図根多角点が亡失した場合、新設多角点を設置する事になります。
新設多角点は亡失した図根多角点そのものではありません。


 亡失した図根多角点の近傍に設置した新設多角点をそのまま使用して境界点や
亡失した図根多角点を復元したとしても、完全に同一の位置にはなりません。


 これは亡失した図根多角点の作る座標系と、新設した多角点の作る座標系が
わずかに相違している為です。


 この座標系が相違する理由として、いろいろな事が考えられます。


 同一の条件で同一多角点を観測・計算した場合。
 たとえば基準点研修などで同一与点を使用し、新点2,3点を観測・計算した場合
観測者それぞれの成果数値がわずかに相違して、誰の数値を採用するのか悩む事
になります。


 さらに、同一与点を使用したとしても、時間の経過とともに現地の状況の変化によ
り観測条件の相違が生じ、使用する測量器械の性能も相違した場合には同一点で
あっても、その数値が相違してきます。


 前者の場合は数値を統一する必要が、後者の場合は新設多角点の作る座標系と
亡失した図根多角点の作っていた座標系を一致させる必要があります。


 そんなことは測量誤差の範疇であり、些細なことを気にする必要は無いと思われ
るかもしれません。
 しかし、この相違が直接一筆地の境界にも影響を与えるならば、一筆地の境界を
扱う専門家である調査士はその相違(ズレ)について、考える必要があります。


 座標系のズレを一致させる方法として、現地に残る構造物に対する座標値比較でそ
の差を導き出し、その量を操作することによりそのズレの調整をすることになります。


 ズレの調整方法を含め、私が思っている事を少し記載してみます。


●復元の意義
 私は法14条地図地区で業務を行っています。
 詳しくは、昭和30年代後半から40年代後半にかけて実施された図解法による古い
国土調査実施地区です。(以下地籍図地区という)


 このような地籍図地区の地図の精度は悪い、境界の立会の不手際や境界のとら
え方についても現況主義の為信用できないと批判する方が多いようです。


 全くいい加減な測量業者が受託している場合は別として、第三者が体系的に客観
的に、国土調査を実施する為の基準に沿って測量をしている訳ですから、意図的に
間違うことは難しいと思っています。


 地域の協力員が勝手に境界を決め、また現況主義で境界を測量していたとしても
その測量した位置を復元してみることは大事な事であり、当時その位置を境界とした
のは、境界とされるものが存在していたか、何らかの理由があったはずです。


 現況主義であったとしても、地籍図で観測されたすべての境界が相違している訳で
はありません。


 地籍図は縮尺を定め、1筆地の形状を明確にした資料であり、その形状を現地で
復元出来る資料であることに間違い無いのです


  筆界でないとしても、当時の状況を示しています。


 復元を行い、その復元した位置がどのようなものだったのか、土地所有者本人さえ
も忘れている30年以上前の状況を蘇らせる事が出来ます。


 現況の構造物がそれ以前のものであったのか、以降に作られたものだったのか。
 以前から存在するものならば、何時から存在していたものなのか。
 一時的なものではなかったのか。
 隣接土地所有者の記憶とも一致しているのか。


 復元測量は筆界を探り出す手法であり、筆界の調査がここから始まります。
その為にも、当時観測された位置を正確に復元する事は大切です。


  測量と調査、境界の専門家である調査士の独壇場です。


●重ね図
 復元方法として、地籍図の地区では一昔前までは任意座標で一筆地の境界点を
観測して地籍図と同一縮尺で形状を作成し、現地の異動のないと思われる場所を
固定して、不明の境界位置を探り出す方法として、または、1筆地の中の一部を特
定して分筆位置を決定する方法として「重ね図」を採用されていた方が多いようです。


 現在のように、すべての観測点に実測数値が存在する数値測量に慣れた若い調
査士さんには考えられない事でしょうが、地籍図に表示されている境界点は座標値
を持たず、1筆地の境界の情報は地図で図示されているのみで形状での把握が主
流でした。


 昭和50年代後半、私も正直この方法で業務を行っていました。
 任意座標での観測後、固定する位置を探り出す為に、無制限ともいえる移動や、か
なりの回転を加え、強引に形状の重ね図を行って結果を出したものの本当に正しい処
理だったのか、思い出す度に不安になります。


 他の境界点に大きな影響を与える固定位置の選定理由が、申請人のあいまいな
記憶を信頼しての事だったり、堅固な構造物という理由だけで建築年を調査しなか
ったり昔から異動のないものであるという証言をまるごと信用していたり、まさに神
のみぞ知る状態で明確な根拠が示せない時が多くありました。


 そこで、一歩進んで地籍図と同様の公共座標で測量することが出来れば、同一の
座標原点を共有することで客観的な比較が出来る。


  重ね図的な発想をするにしろ固定点を判断する為の移動や回転を考える必要が
無くなり、効率的で信頼性のある方法だと考えられました。


 地籍図作成当時の図根多角点を使用すれば、地籍図と同様の公共座標と考えて
も問題なく、地籍図に表示されている境界点の位置を区郭線交差記号(以下トンボ
マークという)から表示された距離を利用して公共座標値として読み取れば、同じ公
共座標の土俵上にありそのまま比較すれば良いことになります。


 更にその後で、図根多角点と境界点の関係について、国土調査法施行令別表
第5(以下別表第5という)で説明されている位置誤差等を考慮して、復元位置が本
来の境界点であるかの是非を決定することになります。





●図根多角点からの測量
 申請地を観測した図根多角点が異動無く残っていれば、各観測点の読み取り座標
値と図根多角点の成果座標値を使用して、図根多角点から境界点の関係は逆計算
により復元可能です。


 その為には視通の効く図根多角点が2つ以上必要で、申請地の近傍(50m範囲)に
あるその図根多角点と後視点となった図根多角点を探します。

 ここで異動の無いと思われる図根多角点を発見出来れば、ほぼ問題無く、読み取
りによる境界点の座標位置(以下読取り位置という)を復元することができます。


 30年以上も前の図根多角点が運よく残っているとは限りません。


 そこで申請地の近傍100m範囲に広げ調査してみますが、この範囲で探し出せた2
つの図根多角点は、お互いに視通ができるのか否か、2つの図根多角点と申請地と
の位置関係を考慮すれば使用可能でしょう。


 時代の経過とともに、地籍図作成当時の図根多角点は亡失していきます。
この程度の範囲では、探し出せないかもしれません。


 捜索範囲を広げ、200m〜300m範囲まで調査します。
 ここで図根多角点が運よく見つかれば、お互いに視通ができるのか否か、2つの
図根多角点と申請地との位置関係を考慮しながら読み取り位置を一応復元すること
は出来ます。


 しかし、探し出せた図根多角点と申請地の境界点との関係は、境界点を直接観測し
た図根多角点ならば問題ありませんが、そうでなければ残存していた図根多角点と申
請地の読取り位置との関連については直接の関係では無いことに注意しなければなり
ません。


●新設多角点設置
 申請地近傍の図根多角点が亡失している場合、申請地近傍の100m範囲で諦め
るか、200m〜300m範囲まで図根多角点を探すのか、人それぞれですが、再び任
意座標の重ね図で確認する方法に戻ることは専門家として抵抗があると思います。


 近傍に残存する図根多角点2点を使用して100m以上の距離のある境界点を放射
測量での復元や開放多角測量で申請地近傍に新設図根多角点を設置して境界点を
復元する方もいるかもしれません。


 しかし自分自身の測量の精度を知るために、最低でも図根多角点3点以上を使用し
て結合多角測量を行いたいものです。


 図根多角点同士を使用して結合多角測量を行えば1/2,000〜1/10,000程度の
精度ですが、与点となった図根多角点同士が同一路線内のものでなければ、自分
自身の測量の精度に関係なく満足な精度が得られない場合も多くみられます。


 他路線同士での精度ということになると1/1,000〜1/3,000程度、図根多角点同
士の点間距離が近い場合は1/300〜1/500程度ということもあります。


 宅地を観測するならば、経験上も実務上も最低限1/5000以上の精度が必要だと
されており、不安を感じさせる精度です。


 この場合、境界点の復元をする為に行う測量であると割り切ってしまえば、そのま
ま使用することが出来ますが、肝心の自分自身が行った測量の本当の精度というもの
が不明になる恐れがあります。


 技術的な問題、そして経済的な問題もあり、自分の中で納得するものが必要です。








 別表第5の備考2には、「筆界点の位置誤差とは、当該筆界点のこれを決定した与
点に対する位置誤差をいう」とあります。


 当該筆界点のこれを決定した与点とは、地籍図で表示されている境界点を直接観測
した図根多角点です。


 国土調査時、その境界点を直接測った図根多角点から、もう一度測って(復元して)
別表第5の範囲にあるかどうか確認しなさいということになります。


 したがって、探し出せた図根多角点が、国土調査時に境界点を直接観測したもので
無い場合は注意する必要があります。


  別表第5の位置誤差については、地図の精度区分が甲3であれば平均二乗誤差
15cm公差45cmということになっており、半径45cmの円の範囲にあれば良いという
ことです。


 えらく余裕のある範囲と思われるかもしれませんが、ここでもう一つの誤差である点
間誤差を考慮する必要があります。


 この点間誤差について、隣接する境界点を考えた場合にいずれの境界点とも半径
45cm以内にあっても、その二つの点間距離には誤差円の同一方向になければ制限
をこえてしまいます。


 点間距離については1つの方向だけでは無いので、最終的には平均二乗誤差の
半径15cmの円の範囲内でないと誤差制限を超えると思ってよいでしょう。


 このような誤差範囲の制限を考慮する場合に、図根多角点が相違する(ズレる)こ
とで座標値のみの比較をした場合、別表第5の範囲から外れることもあります。


 それだけで範囲外となることはあり得ないとは思いますが、別表第5でいう範囲内
でやや微妙な位置にあるものが、観測に使用した図根多角点の実際の位置と亡失
した図根多角点で表示される座標値が相違する為に、ズレが加算される形で範囲
外になってしまう事はありえます。


 通常業務でも結合多角測量を行い、1筆地周辺に連続して複数の多角点を設置して
観測多角点から隣接する多角点を超えて境界点を観測した場合、本来観測すべきで
あった多角点から観測すると境界点の座標値にズレが生じます。


 これは、本来多角測量自体で誤差配分されているものを考慮せず、座標値を求めた
為に生じたズレが主なものですが、観測した多角点の相違により何らかのズレが発生
するという身近な事実です。





 新設の多角点を設置した場合、与点の座標値は変わりませんが、与点を結ぶ形の
新設多角点はどのようになるのか。


 与点と、その路線の中の多角点を同一点で、同一の条件で再度観測を行ったとして
も、観測成果・座標値が一致するとは限りません。
わずかですが、測量誤差を生じます。


 与点が同一でも、与点を結ぶ路線の形が相違したら路線の中にある同一点でも観測
成果・座標値は相違してきます。





 更に測量機械が相違すれば、ここでも相違する理由が増えることになります。


 新設多角点を設置した場合、その図根多角点自体が、既存の座標値とやや相違し
た位置を示す座標値を持つ(ズレる)ことになることを承知していなければなりません。





 詳しく言い直すと、新設した多角点の座標値は、国土調査時に境界点を測量した図
根多角点からすると位置的にズレがある。新設多角点から観測した境界点の座標値
にもそのズレは影響します。





 この3つの図は、与点となった図根三角点は同一で路線の形や観測方法・観測時期
は相違しますが実際に私が観測したものです。


 路線の形やその観測方法により同一位置にある●で表示された多角点の座標値が
相違しました。


 図6(昭和62年頃水平距離での観測)、図7(平成3年頃水平距離での観測)は、単路
線でありながら与点をお互いに取付け点にしていることや、図7については路線の形に
問題があります。


 図8(平成7年頃観測)になって、基準点測量という形で厳密網計算を行っています。
 3つの方法の相違により図根三角点に一番近い同一位置の多角点でも、座標値は
1〜2cm相違しました。


 既設図根多角点からであっても、本来その境界点を観測すべき図根多角点から観
測したもので無ければ境界点の座標値にズレが生じます


 ここで生じたズレをどう考えるのか、このズレは座標系のズレとも言えるものであ
り座標系を統一して(ズレを最大限消去して)、で別表第5の内容を吟味しなければ
なりません。


 この座標系の統一という事が、この話のテーマです。


●任意座標と公共座標
 少しまわり道になりますが、ここでいう公共座標とは厳密な意味での公共座標では
ありません。


 公共測量作業規程に準拠した測量の成果という意味で使用しています。
 自分の測量成果と国土調査時代の成果とを比較する事になりますから、その比較
に使用する自分の測量成果が「ものさし」となります。


 「ものさし」はJIS基準のような皆が認める正規で、かつ正確なものでなければな
りません。


 変形した自分勝手な目盛りのものさしでは、微妙な分量を正確に観測することが出
来ず、先ほど記載した微妙なズレを発見することが出来ないかもしれません。

 逆に地籍図の測量時には存在していなかった誤差を、新たに測量したことにより付
け加えてしまうかもしれません。


 自分だけの独りよがりの任意座標では、正規の基準によるものでは無いので、「も
のさし」としては利用出来ないということになります。

 正規の基準とは公共測量作業規程です。
 公共測量作業規程に準じた測量、つまり公共測量ということになる訳です。


 厳密には、公共機関からの発注が必要になりますが、「ものさし」として使用するに
は、そこまでの必要はないと思いますので、ここでは単純に公共測量作業規定に準じ
た測量を公共測量、その成果を公共座標と表現します。

 任意座標と公共座標の大きな相違は、各種の補正計算を行っているか否かという
ことでしょう。


 各種の観測の制限等についても決められています。


 地籍図は国土調査の作業規程に基づいたプロの仕事です。
 当時の測量器械と知識を活用して作成された地図であることに違いはありません。
 調査士は、その仕事に対して尊敬の念を持って対応する必要があります。


 それが、任意座標では無く公共座標を使用するということであり、観測制限につい
ても公共測量作業規程に記載してある筒一杯の制限で満足する事では無く、自己研
鑚ともいうべき制限の中で業務を行ってこそ、地籍図を取り扱うことが出来ます。


●4級基準点
 そこで飛躍するかもしれませんが、「正しいものさし」を作るために新設多角点を基
準点に準拠するもの(以下基準点という)にしてしまいましょう。


 基準点であれば、正しいものさしの役割とともに確定測量に安心して使用すること
が出来ます。


 街区基準点設置地域では、街区基準点の使用が義務づけられていますが、地籍図
地区については、もともと公共座標での測量が義務付けされています。


 街区基準点設置地区と地籍図地区の違いは、精度の良い与点が近傍に存在してい
るか否かということでしょう。


 街区基準点設置地区では街区三角点や街区多角点が設置され、申請地近傍200
〜300m範囲には基準点が存在しています。
 一方、地籍図地区では近傍の図根多角点は亡失していますが、図根三角点まで範
囲を広げれば、かなりの確率で存在しており、安定した精度が保障されています。


 申請地からの範囲は500〜800mということになります。
 地籍図の図根三角点は3級基準点と同等程度とされていますので、図根三角点を与
点として4級基準点を設置すれば、基準点としても信頼できるものを設置出来ます。


 簡単にそのような事を発言するな、技術的な問題・経済的な問題があるとお叱りを
受けるかもしれません。
確かにそうかもしれません。


 しかし基準点を設置した場合、今までの任意座標の多角点とは相違して基準点の成
果は累積していき、やがては近傍の自分の設置した基準点を使用して別の申請地に
も利用することが出来るようになります。


 現在ではGPS測量機がありますので、既設の図根三角点や1、2級基準点、国家三
角点そして電子基準点を使用することは容易になっています。


 申請地を囲むように200 m〜300mの範囲に3級基準点を2、3点設置して、そこか
ら更に申請地を囲む形で4級基準点を設置すれば、信頼できる精度の良い基準点が地
籍図の中に表示されている図根多角点と同様以上の配置になってきます。


●復元測量の精度と確定測量の精度
 復元測量の精度と確定測量の精度を考えてみます。


 復元測量の精度とは他人の成果を復元して位置を示すまでの測量に必要な精度。
確定測量の精度とは明確になった位置を、自分の責任で他人にわかるように正確な
座標値を表示している事を証明する測量の精度です。

 復元測量については、地籍図作成時の図根多角点を使用しての精度になりますので
もともとの図根多角点同士の精度が良くなければ、それ以上の精度を求める事は出来
ません。


 地籍図に表示された境界点位置を探し出すという事では問題ありませんが、この成
果をそのまま自分の確定測量の成果として、地積測量図に記載出来るのでしょうか。


 復元のみを考えるのでは無く、境界が確定したら、その位置を正確に表示するとい
う確定測量の事も考えなければなりません。


 復元は復元測量・確定は確定測量で別に行う。
 これは理想なのですが、それこそ経済的に無理があります。
 だからこそ、「正しいものさし」でもある基準点を復元測量に使用してしまおうとい
う考えが生まれます。


●TKY2JGD
 地籍図は旧日本測地系で作成されており、現在、我々は世界測地系での観測・計算
を行っています。


 その為、地籍図の外郭線上の区郭線交差記号の座標値についてはTKY2JGDで変
換されて表示されています。


 TKY2JGDは旧日本測地系の座標値から世界測地系の座標値へと変換するもので
国土地理院のホームページにも掲載されている便利な変換方法です。


 国土地理院の管理する三角点の成果は、世界測地系にする為にGPS測量により直
接観測されて改測されています。


 しかし私が業務を行っている地区では、主要な役割を持つ4等三角点は改測されて
いません。


 旧日本測地系での成果を世界測地系の成果とする為には、旧日本測地系で測量さ
れた成果をTKY2JGDで世界測地系の座標系に変換して使用することになります。


 TKY2JGDでの変換については、調査士が業務を行う程度の小さな範囲であれば平
行移動程度の変換と考えれば良いのですが、基準点を設置しようとする者にとり、厄
介な問題があります。


 4等三角点の旧日本測地系での成果を変換して得られた世界測地系の座標値と、実
際に電子基準点から同じ4等三角点を直接観測して求めた場合、近傍の4等三角点と
の相対的な位置関係である点間距離は成果値とは1〜2cmの相違ですが座標値比較
では、10cm〜15cm程度の絶対的位置誤差ともいうべきズレが生じています。


 旧日本測地系での基準点や三角点成果をTKY2JGDで世界測地系に変換した成果
値を与点成果として、GPS等を使用して新設の基準点を設置すれば問題ないのです
が電子基準点を直接使用してGPS測量を行った場合の基準点成果とは相違があるこ
とになります。

 実際問題として、地籍図地区で新たに基準点を設置する場合、荒れ放題になった状
態の山頂の三角点や既設基準点を与点として観測を行う必要があるのか。
 電子基準点とGPSを利用すれば、立地条件の良い場所に効率的に基準点を設置す
る事が出来るのに、直接電子基準点を利用することが出来ないか悩みました。


 本来の基準点作業では国土地理院に相談して、その方法を決めるべきですが、自分
の業務、調査士業務を行う上で考えると、電子基準点を使用した測量が一般的になっ
ている現在、電子基準点からの直接の座標値との比較で考えられる様になっています。


 そこで、電子基準点から平地にある観測のやり易い三角点を直接観測してみて、
TKY2JGDによる変換とどの程度のズレを生じているか、地域性によるズレを理解し
ながら、電子基準点を使用した基準点を設置する方法をとりました。

 地籍図の境界点の座標値については、TKY2JGDによる変換であることから、電子
基準点を直接利用した基準点と境界点の関係について、地域性によるズレが加わるこ
とになります。


 このズレをどのように扱うのかは、現地で測量を行う人間が臨機応変に考える必要
がありますが、このズレも座標系の統一にあたり考慮にいれるべきズレのひとつと考
えています。


●アナログとデジタル
 地籍図作成の為の三角点や図根多角点には成果座標値が存在しています。
 境界点の座標値は平板測量であるために平板上で図化されてはいますが、観測成
果としての座標値は存在していません。


 境界点の座標値は、後日地籍図を読み取ることにより得られた座標値で、直接観測
されて得られたものではありません。


 この座標値が少数点第三位で表示されているとすれば、座標値を復元することによ
り位置精度はミリ単位で決定できるのでしょうか。


 よく考えてください。


 読み取り値ですから、確定した値ではありません。
 少数点第三位までが表示されていてもミリ単位での測量の結果ではなく、そこには
半径10cm程度の円を代表する値が表示されているのです。


 この半径10cm程度の円の範囲であれば、どの値も正解なのです。


 数値で受け渡された値では無く、地籍図作成当時のプロット誤差・復元の為に地籍
図から読み取りを行った時の読取り誤差を含んでの範囲なのです。


 大体このあたりという視覚で表示していた人間的な感覚が通じず、デジタルの表示
になったばっかりに代表値のみが正解のように思ってしまいます。


 座標値で表示されていても、精度そのものが上がった訳では無く、反対に視覚的な
情報量が欠落したと言えます。


●ちょっと違う
 図根多角点も境界点の座標値もTKY2JGDのようにズレを一括して一気に変換して
求めてしまえば良いと思っている方は多いようです。


 確かに一気に全体を変換してしまえば簡単ですが・・・。
 各種変換方法について、処理過程の詳細や難しい理論は全く解りませんので誤りが
あればお許しください。


 ただ、そんなに難しく考える必要は無く地籍図の作られた過程をなぞっていけば良
いと思っています。


 法14条地図作成作業でも解ることですが、基準点設置作業と1筆地の観測作業とは
一連の作業です。


 基準点設置の後、その基準点を使用して1筆地の境界点を観測しています。
地籍図地区の場合は図根多角点を観測し、計算して数値で得た後、地籍図原図にプ
ロットします。


 そしてその地籍図原図を現地に持参して、その図根多角点に設置した後、境界点を
平板測量しています。


 図根多角点と境界点の測量は別々に行われています。


●開きなおす
 多角点の成果と1筆地を観測したデータは別物です。
 調査士が少し大きな現場で業務を行う場合、多角点の測量と1筆地の境界点の測量
を同時に行う場合はありますが、地籍図や法14条地図作りの場合は、基準点(図根多
角点)網を設置し、観測の後、一括で計算します。


 その成果を使用して1筆地の境界を観測することになります。
 つまり図根多角点と境界点の観測は別物なのです。
 同時に観測していたとしても、先に図根多角点のデータを計算した後、境界点の観
測データを別に計算します。


 したがって、変換について別々に分離した形で考える必要があります。

 図根多角点2つを使用して、その2つで全体の境界点を含む座標値を一気に変換す
る方法は、図根多角点の成果により縮小拡大・回転がかかります。


 境界点の観測データは、図根多角点2つを使用し、片方を観測点、片方を後視点と
して使用しての観測です。


 後視点を0度方向で観測して、境界点を観測したデータは、観測点の上にそのまま
乗っかって計算した結果です。


 境界点の観測結果は、図根多角点の成果による縮小や拡大をかける必要はありま
せん。


 1筆地を別々の図根多角点から、それぞれに観測した状態が明確であるならば、読
み取り座標と図根多角点との関連で、逆計算での放射計算を行い、放射測量の結果
を図根多角点の成果に、もう一度上乗せして計算すれば良いのです。


 実際の処理については、厳密にそこまでしなくても読み取った形状をそのままCAD
上で移動させて重ね図をしてやれば良いと思います。


●再び重ね図、自分の眼で探る
 何だかんだと言いながら、最後はCAD上での重ね図です。
 今までの説明はなんだったのか・・・。
 もう少しお付き合いください。


 専門家の知識を伴った経験は大事です。
 最後は専門家としての勘に頼ることになります。いえ、決断するのです
勘を働かせるには、全体を見て判断しなければなりません。


 客観的に合理的に詰める事柄は詰めていき、これ以上詰めようのないところで
専門家として判断するということです。


 その為にも視覚は大事なのです。
 地図を見て、全体の状態から判断しています。
 もう一度、図面を見て、全体を見ながら判断しましょう。


 各境界点の読み取り値の形状(以下地籍図形状)と実際に観測した現況・境界点の
形状(以下実測形状)の属性を別にしてCAD上で重ねてみましょう。


 この状態で回転不要、移動距離はおそらく10〜30cm以内になっているはずです。
ここで地籍図形状と実測形状をお互いに共通する点を固定点として重ね図にするの
ではなく、全体を見ながら、地籍図形状と実測形状が最大公約数的に一致する場所を
探します。


 この時の大きな移動量が、座標系統一の為のズレの調整量です。
 更に、別表第5の位置誤差を判断していきます。
地籍図形状の各境界点は平均2乗誤差の円の範囲を表していることを考慮して、全
体の境界点に対して細やかな調整を行います。


 ほとんど同時の処理になると思います。
 この処理は頼りないように思われるかもしれませんが、最終的にズレの量と別表第5
の位置誤差を知る一つ方法だと思います。


調査士は境界を決定する神様にはなれませんが、合理的な判断を自分で導く事は出
来ます。


その為にも、判断過程を明確にすることは大切な事です。
今回説明している重ね図は、新設多角点と読み取り位置との関係を調整するもので
以下の二通りの方法になります。


 新設多角点を固定して読み取り位置の座標を復元する為の座標とする為に、読み
取り位置を異動して、読み取り位置の座標系を新設多角点の座標系に一致させる為
の重ね図の方法。


 読み取り位置の座標値を固定して、新設多角点を異動して読み取り位置の座標系に
多角点の座標系を一致させる為の重ね図の方法。


 これをもう一度、詳しく説明することにします。
 同一位置の図根多角点を使用して新設多角点を設置した場合を想定してください。
 現実には、このような場合わざわざ新設基準点を設置しませんが、後々の説明の理
解が容易になりますので、あえて説明します。


 図根多角点が異動無く残っている。同一図根多角点を新たな基準点の路線の中に
組み込んで改めて基準点測量をした場合、使用与点が同一でも、観測方法や路線の
形の相違により座標値が相違してしまう事は説明しました。


 この場合、同一多角点に対して座標成果が2つ存在することになります。
 一方、多角点と境界点の関係は全く変わっていません。


 多角点の座標が変われば、その分だけ境界点の座標も変える必要があるということ
になります。逆に境界点の座標をそのまま使用するのであれば、多角点の座標は既存
の座標系にする必要があります。



 そこで、先ほどの二通りの方法の重ね図になる訳です。
 この場合はいずれも、既設多角点と新設多角点の差は同一物であることから簡単に
判明します。





 亡失した図根多角点にかわり、新設多角点(基準点)を設置すると、座標系のズレを
直接知ることは出来ません。


 現況の境界と思われる構造物や不動標識等を観測して、その最大公約数的なズレ
により導き出すことになります。





 どちらかの座標系の座標値を固定して、もう一方の座標系のズレを調整する作業と
いうことになります。


 いずれにしても、どちらか一方は同一点でありながら二重の座標値を持つようにな
ります。


 現在どのような作業を行っているのか混乱しないように、自分がやり易く、かつ納
得の行く方法を使用すべきです。


 復元位置を優先するのか、筆界点の位置を優先して誤差範囲を決定すべきなのか
聞かれることがありますが、結果的には同じ事になるとは思います。


 復元を行う時には、筆界点が不明な訳ですから、正確な復元を心がけ、復元位置か
ら誤差範囲の位置に筆界点があれば、その位置を筆界点として確認できます。


 最初から筆界点が分かっていれば、誤差範囲の位置に復元位置が来れば、復元作
業も正確である。筆界点としての主張も間違いないという判断になります。





●確定座標
 以上のような方法で復元を行い、境界点の位置が決定すれば確定測量を行います。


 地積測量図に使用する為の座標値、最終的に調査士が責任を持つ座標値と言って
良いと思います。


 正規な方法で正確な数値を使用すべきです。
 街区基準点地区の場合は、最終的に地図を作成するという目標があり、1点1座標
の原則から、隣接地の同一境界点について、お互いの座標値を使用出来る信頼感が
必要にもなります。


 地籍図地区についても同様です。
 地籍図地区では、既に旧日本測地系で統一された地図が作成されている訳ですが
当時の図根多角点の多くが亡失しています。


 現在の測量機械の性能を十に活用する事が出来るように、世界測地系でもう一度地
図を作りなおす気持ちで挑戦したいと思います。


 調査士の手で従来の地籍図をもっと精密な地図にしましょう。


 その為には新設基準点を使用した観測値を使用すべきです。


 統一性のある地積測量図を連続する事が出来れば、そのまま詳細な地図になりま
す。


 そのように地積測量図に統一性があり、1点1座標で表示されているのならば、現在
の地籍図は全体の索引として使用されることになり、地籍図と地積測量図が合体した
理想的な法14条地図となるでしょう。


●最後に
 ここで述べたズレは街区基準点設置地区でも同様に存在します。


 地籍図地区ではこのズレが、比較的大きくてアナログ的なものでもあるため、指摘
されると簡単に理解出来ますが、街区基準点地区についてはこのズレが小さく、すべ
てがデジタルであるため、簡単には理解できません。


 地籍図地区で亡失した図根多角点に替わる新設基準点を設置した場合の処理につ
いて、境界点を守るために基準点をいかに維持するか。


 境界を守り、地図を守る為に、筆界専門家調査士独自の観点から体系的に理論付
けし、ズレの解消方法と共に別表第5に替わる基準を調査士自らが構築して、街区
基準点設置地区にも提言する必要があるでしょう。


                             平成22年7月
                            土地家屋調査士 滝上洋之



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