|
宮 内 大 介 愛媛会においては、ここ数年来業務内容の根本的な見直しと改善を図り、そこで得られた方 針を実現するために、種々の実務研修会を行い、完全実施の徹底を推進して来た。 しゃにむに突き進んで来た趣きもあり、その過程においては、様々な反発や批判の声もたく さんあったものである。 しかし、現在では、様々の困難を克服し、規範とする業務の安定実施時期にさしかかってお り、その業務内容の水準の高さ(自画自賛)は勿論であるが、全県的に見て実施率が高いこと において、全国的にも高い評価を受けている。 いまや他会からの見学、研修への参加、講師要請等も受けることになり、それらの場を通じ て、全国の土地家屋調査士の方々との情報交換が図られていることは喜ばしいことである。 一方、新たな問題点も数多く出て来ている。 愛媛県は全国的に見ても法務局備え付けの地図(登記簿付属地図)の内容が悪い。 これは、我々土地家屋調査士の間では従来より認識されていた事であるが、他県の色々な 付属地図を見せてもらうにつけ、そのあまりの差異に驚いてしまったものである。 また、地図の悪さは、逆にその為に、日常業務の中で境界確認作業等が徹底されるきっか けともなった原因の一つでもある。 現在の愛媛会の土地家屋調査士の業務の内容としては、地図と現地と過去の業務との整合 性を図るための部分に多大な労力を要しているのが実情である。 しかしこの事実は、一部の関係者を除き、まだまだ一般県民に広く周知されているとはいえ ず、表示登記に携わる機会の多い地方自治体の公共嘱託登記担当者、境界確認担当者、権 利登記にのみ長く携わって来た法務局の一部の職員においても理解が浅い現実がある。 対外的に認識された最も顕著な事例としては、地図整備作業を進めてゆく中で、より明確に なり、徐々に関係者にも認識され始めた事である。 依頼者と各種関係官庁(前述)・団体(土地改良区・水利組合等)との間に位置して業務を行 う土地家屋調査士の苦労は並み大抵ではない。 悪い地図を補完するものとして国土調査が挙げられる。しかし国土調査のの進捗率におい て、全国でも有数の先進県である愛媛県の国土調査の実態は旧付属地図との整合性や境界 確認作業の簡略化の実態に伴い、地籍図としてはともかく、不登法第17条地図としての成果 は甚だお粗末なものである。 更に、国土調査実施地域であれば、「不動産表示登記事務取扱要領に対する質疑応答集」 にも明記されている通り、地積測量図の作製は公共座標が原則であるが、その基になる図根 点の亡失率は甚だしい。 いきおい、原則を貫こうとすれば遠方の図根点(なければ三角点)からトラバー点を落としてく る羽目になる。 決定打としては、勿論と言ってよいくらい国調時の境界杭は無いので(最近実施の国調は境 界杭を入れているが、地権者が邪魔になるので抜いてしまっている。境界杭・図根点の大切さ のPRの必要性が痛感される)、筆界座標値が公開されていなければ、読取り座標から逆打ち 復元が必要になる。 その揚げ句はお決まりの誤差に悩まされる。 きちんと係る事実関係、経緯を依頼者に説明しながら理解を求めて業務を進めてゆけば、 当然業務処理にかかる時間は長くなる。 この事は、依頼人からみれば、依頼業務が遅い(取引きが出来ない、家が建たない等々)と いう苦情になる。 更には、かかった手間ひまと収集資料の膨大さ、処理体制の整備(事務所の広さ・高性能の 測量機具・コンピュータ等)、処理人員の確保(補助者の人数・給料)等、こちら側の必要経費 も増大する。 この事は、依頼人からみれば、費用(報酬額)が高いという苦情になる。 もっと困る事は、境 界確認立会等で隣接地土地所有者との感情的なトラブルである。 最近のご時勢として、良く言えば権利意識の高揚、反して言えば義務意識の低下、悪く言え ば近所付き合いの希薄から生じた疑心暗鬼(隣が境界を侵犯しているという被害妄想意識)、 自分勝手(私は正しい隣の塀の築きかたが間違っている)、他人の不幸を喜ぶ風潮(隣の家 が建とうが建つまいが)、単なる妬み(隣は土地を売って大金が入る)等々、全く我々土地家屋 調査士の責任外の原因によって業務が遅延・中断・中止になってしまうことも多発している。 おまけに、隣接地相続未登記なら承諾印貰いは全国展開、全く「泣きっ面にハチ」である。 かかる事実・実態・現実を前にして我々土地家屋調査士は今後いかなる業務をなすべきか、 また、目指すべきかについて、常に深く考察をしてゆかなければならないのであるが、今回は 土地家屋調査士の業務の集約ともいえる地積測量図作成に絞って考えてみる。 土地家屋調査士の業務の流れは、連合会が規範として制定する「調査測量実施要領」の91 ページにあるフローチャートに詳しくまとめられている。 このフローチャートに従って業務を進 めておれば、とんでもない間違いをすることはないし、むしろそう進めるべきである。 しかし全国的に見てみると残念ではあるが、フローチャートに沿った業務が完全実施されて いるとは言い難い状況である。 その中で愛媛会の業務内容は、未だ会として「調査測量実施要領」の制定こそしてはいない が、実質的には前記フローチャートに沿ったものであるといえよう。 特に、徹底した境界確認作業と境界標の設置、それに現地復元性を持たせた座標値による 地積測量図の作製がそれである。 土地家屋調査士の業務の中で、最終的な位置を占めるのが地積測量図の作製である。 地積測量図は、土地家屋調査士の商品(成果品)であり、作製する数々の書類の内で、最大 の特徴といえば、依頼者に写しは手渡すが原本を法務局に提出して、永久に保存され、一般 国民の閲覧に供されることである。 つまり、登記簿と地図(付属図面)を補完して現地を担保する唯一の情報源である。 本来であれば、不登法第17条地図がその役目を果たすべきものであるがその効力を果た している地図はほとんど無く、全国的に見ても松山市鷹子町の地図が数少ない例の一つであ る。 地図作製においても、境界確認、境界標、復元性が最大の課題であり、再度述べるが、国 土調査の地籍図に欠けているのは、境界確認と境界標であろう。 地積測量図作製に当たり留意すべきことを要約してみると、 業務のプロセスを明確にして、 適正な立会人による境界確認作業を行い、 現地に境界標を埋設し、 万一境界標が亡失した場合に復元ができる手段を講じて、 それらの情報を盛り込んでおくことである。 業務のプロセスを明確化 適正な立会人による境界確認作業 前述した「調査測量実施要領」に基づいて行った業務、特に、各種資料 調査、境界確認 作業、測量作業の与点を、きちんと示すことである。 1、境界確認番号の記載 境界確認においては、現在「官民境界確認書の番号。日付」を地積測量図に記載してい る。 この事は、正当な所有者・管理者(特に、法定外公共財産−農道・水路)において適切な 境界確認がなされた事実を担保することであり、不動産が転々と所有権移転されてゆく過 程において、取引の安全に資することになり、第三者の信頼を得ることになる。 将来は、民々境界も文書における境界確認書の作成が励行されている現実を踏まえて、 何等かの形で官民境界確認と同様に地積測量図に記載されることが望ましい。 一例をあげれば、地積測量図の隣接地番と共に立会人の氏名を記載しておくだけでも相 当に有効な手段となるのではないか。 2、測量作業の与点と測量方法の表示 境界確認を終えて地積測量作業を行い、その成果を地積測量図に記載するのである が、測量の際に使用したトラバー点・図根点・三角点等の与点を明示することである。 国土調査実施地域のように公共座標を利用するときは、特に大切である。測量に誤差は 付き物であり、同じ測点でも異なる図根点から測れば違う座標値が計測される。 三角点・図根点は元々精度に応じた誤差を持っており、誤差論を踏まえれば理解される 性質のものではあるが、無用な混乱や誤解を招かないためにも与点や与点からの測量方 法(開放、閉合、結合トラバース等)を明示することは必要である。 3、その他調査資料の明示 いかに苦労して調査を行っても、人間の能力には限界がある。 土地家屋調査士の能力だけでなく調査時点の時代的背景もあり、当時は万全な調査資 料であると思われていても、将来新しい資料の発見等により境界確認等の不備が問われ る事態も発生する可能性がある。 その場合に、何か大事なことかといえば、当時収集不可能な資料調査の不備が糾弾され ることではなく、当時の資料で行った作業の結果と、新しい資料で行う作業の差異(誤差) が明確に分かることである。 例えば、立会時の法定外公共用財産(農道・水路)の幅員を地積測量図に記載しておくこ とである。 幅員は境界確認書に添付されている畝順帳に記載されているが、現在の愛媛県下で行 われている境界確認の実態から言えば、まだまだ試行錯誤の時期であり、畝順帳記載の 権限は土地改良区にゆだねられており不安材料も多いものである。 つまり、将来幅員証明の変化も有り得ることである。 さらに、年月が経って境界確認書の原本を誰が所有しているかを探す苦労や、県で再証 明書を発行してもらう手間を考えれば、幅員記載により当面のトラブルは避けられる。 現地に境界標を埋設境界確認が済んだ時には、同時に積極的に境界標識を埋設するこ とを励行しよう。 1、現場で前述のような様々な経緯を経て境界が決まるわけであるが、単純な思い違 いも良くあることである。決まった境界に、仮杭でも良いから杭を入れて双方の地権者 に目で見てわかる状態を示すことである。 2、分筆後の境界標埋設等、すぐに出来ない場合は致し方ないが、成果図面と現地と の両方をきちんと確認してもらうことが肝要である。 3、平成5年10月1日の不動産登記法改正により、細則において現地に境界標を入 れて地積測量図に明示することが義務付けられた。 従前の取扱いは「境界標があれば明示する」ことであったので、文言の違いは些少だが、 意味するところは全然違う扱いである。 従来まで境界標と言えば「永久標識」を意味すると解釈されていたが、本来の機能から すれば、現地にある境界標は木杭、金属鋲、根巻なしのプラ杭、素堀のコンクリート杭等 でも積極的に記載すべきと思う。 どんな境界標でも永久に存在するものではなく、依頼者に引渡した時点の状態を明示し ておくことが大事になって来ている。 万一境界標が亡失した場合に復元ができる手段を講じておくこと。 昭和52年の不動産登記法の改正により、地積測量図に境界の復元能力を持たせるこ とが要請されることになった。 この要綱の趣旨をいかに実現すべきか熟慮する必要がある。 1、前項で述べたように永久標識といえども絶対ではない。 いろいろな要因にて亡失することを可能性として認識しなければなるまい。勿論亡失の 原因は地権者の責めに帰するものであるが、必要に応じて復元ができることが不登法の 目的とするところであり、その手段を適切に講じることは土地家屋調査士の職責でもある と思う。 2、復元のための手段として現在最も有効なのは境界点と準拠点(引照点) を座標値により表示することであろう。 点の記からの距離・角度表示や略図等でも役目は果たすが、精度においては座標値表 示に優るものはないであろう。 境界点の座標値表示は当会では常識となっているが、全国レベルではまだまだである。 しかし当会においても準拠点の座標値表示は100%とは言い難い。 取扱要領等で引照点方式が主流のため座標値表示が少ないことは土地家屋調査士とし ての復元にたいする認識が甘いと思われる。 さらに、準拠点の座標値は表示されていても、これも取扱要領を最低限満たしたにすぎな い2点のみの場合が多いことは、誠に嘆かわしい。 境界標が亡失する可能性と同じく、準拠点の亡失率を考えると、数と設置場所の工夫が 当然図られるべきである。 具体的に言うと、数は少なくとも5〜10以上、場所は遠近でトランシットの設置可能なもの と亡失のおそれのない場所をそれぞれ組み合わせる工夫が欲しい。 以上の配慮がなされた地積測量図はまだまだ希少価値である。 単に、登記済証が下る事よりも、将来の危険防止を考えた地積測量図作成態度を問い たい。 以上の事を前提に様々な情報を盛り込んでおく。 当然地積測量図の記載事項は多くなる。 場合によっては心無い登記官から余字記載である等の指摘を受けたり、補正の付箋が 付いたりする場合もある。 ここでひるんではならない。不登法の目指すところを説明理解してもらえば登記官も分かっ てくれる事であろう。 また、内容が多くなれば1枚の地積測量図では収まりきれないので、数葉にわたる事にな るが、これは当然の事であり結構な事である。 現在の地積測量図の様式では致し方なく、更に様式の改善もみなければなるまい。 当初述べたように、これでも必要最低限の情報をできるだけ凝縮した形で地積測量図のな かに盛り込もうとする手段であるので、当面多少の無理はある。 しかし、以上述べて来た事を実行すれば、個々の土地家屋調査士の業務内容の差異はお のずと地積測量図に現れてくる。 他会の土地家屋調査士の愚痴に、「私はきちんと業務を行っているが、質の悪い業務内容 の土地家屋調査士が安い値段で仕事を取ってしまう。」と言うことをよく聞く。 しかし、愛媛会にとってはとっくの昔の遺物である、旧態依然とした内容の地積測量図が、 むしろ全国的には一般的な状況としては、第三者が地積測量図だけを見ても業務内容の 優劣をつけられないのである。 意地悪な質問ではあるが、愚痴をこぼす土地家屋調査士に地積測量図の内容を問うてみ れば、彼が非難する土地家屋調査士の地積測量図と内容は何等変わる事はない。 それではと、愛媛会の地積測量図を例にあげて、「こんな風に作製してみれば?」と勧める となんだかんだと躊躇してしまう。 「分かってはいるが、今一つ!」と煮えたやら沸いたやら? このあたりは、全く気持ちの持ちよう、発想の転換である。 従来の業務のやり方に固執することなく、大儀を踏まえて実現可能な方法を講じてゆかな ければ、個々の土地家屋調査士は勿論、土地家屋調査士制度自体の将来も危ぶまれる事 であろう。 是非皆さんの意識改革を期待するものであります。
|