反省しています 2 (登記申請・却下・審査請求・棄却) 5.土地表題申請 甲は,払い下げを受けた土地と自己所有地2-511,2-507-1,2-507-2を一体利用地として,建物の新築を計画しており,早急な登記が必要でしたので,市役所所管の里道の払い下げを受けた後,平成23年6月2日に松山地方法務局大洲支局に土地表題登記を申請しました。 所有権証明書として(図3)国から市への譲与図面,市の登記承諾書および売り渡し証書を添付して土地表題登記を申請しました。ここからは,実際のデータを使用して説明します。 (図3)の譲与図面中㋑~㋒の区間,約25.40mについて,甲,乙がそれぞれ払い下げをすることとなりましたが,譲与図面の白色矢印起点87(以下㋐という。)から黒色矢印終点87(以下Ⓐという。)の区間については,法定外公共用財産(国土交通省所管財産)として国から市に譲与された部分として表示されています。Ⓐ~Ⓑ~㋒の区間については,漁港区域の指定があり,市ではなく県が管理する農林水産省所管財産の里道である。ただし,境界の確認については県ではなく市が確認を行います。 (図3)の譲与図面で表されている範囲については,先に漁港区域の範囲の指定があり,それ以外は国から市が譲与を受けた部分とする表示です。国からの譲与図面と漁港区域の指定をした図面は同一の図面が利用されていますので,現地でⒶの位置を確定すれば,必然的にその位置で漁港区域と市に譲与された部分が決定されることになります。 これにより,㋑~Ⓐ~Ⓑ~㋒の区間について,里道全部の境界確認を行い,その里道の中で漁港区域(農林水産省所管財産分)と市所管財産(元国土交通省所管財産)の境界はⒷと決定されました。 そこで,㋑~Ⓐ~Ⓑの区間については国から市に譲与された財産として,甲が市に対して用途廃止申請・払い下げの申請を行いました。Ⓑ~㋒の区間については,漁港区域の農林水産省所管財産の里道ということで,甲,乙がそれぞれ県港湾課に払い下げを前提とした用途廃止の申請を行いました。 市の事務手続きの方が早く,平成23年6月1日市から甲への払い下げがあり,平成23年6月2日,払い下げ範囲を㋑~Ⓐ~Ⓑとして,①国から市への国有財産譲与契約書・(図3)の譲与図面,②市と甲の土地売買契約書・市の登記承諾書(㋑~Ⓐ~Ⓑを範囲とする地積測量図添付)を所有権証明書として松山地方法務局大洲支局に土地表題登記を申請しました。 6.補正 ところが,平成23年6月7日の午後,松山地方法務局大洲支局の登記官から電話連絡が入り「譲与図面に示されたⒶと,今回登記申請がされたⒷについて位置の相違があり,Ⓐ~Ⓑの区間の所有権証明書が添付されていない。この区間が市に譲与されているとする財務事務所の証明書が必要である。」との補正の指示でした。 「財務事務所の証明は出ない。市が証明する位置の相違した理由書,または同時に県に対して用途廃止をしているので県の証明書等でそれに替える事は出来ないのか。」と登記官に尋ねたところ,「財務事務所の証明でなければ駄目」との事でした。 6月10日大洲支局に出向き,登記官と直接話し合いましたが,「譲与図面表示位置と払い下げ位置が一致していても財務事務所の証明が必要。今回は位置が一致していないので財務事務所所管財産が存在しないことの証明が絶対に必要である。」また,「市の証明や県の証明では駄目。農林水産省所管財産の払い下げを受け,同時に申請するのであれば認める。」との事でした。 登記官からは「必要書類を提出するのは代理人として当たり前ではないか」また,「事前に登記所と相談を行う事案である。なぜ相談しなかったのか」との指摘がありましたが,財務事務所が登記官の指摘するような証明書を交付しないことは解っています。 里道の中の境界については,譲与をおこなっている元国土交通省所管財産と農林省所管の法定外公共用財産であるため,現在の状態では財務事務所が関与しないことは明白です。 また,どの時点で登記官に相談をすれば良いのでしょうか。位置の特定時に登記官の指示を仰ぐ必要があるのでしょうか。更には現地で立会いの上位置を特定してもらえるのでしょうか。登記官の裁量権はどこまで及ぶのでしょうか。 農林水産省所管の法定外公共財産分を用途廃止した後は,普通財産となり,財務事務所からの払い下げがされますが,それと同時申請という事であれば,半年以上待つ必要があります。 表題登記申請をされた場合の位置の判断等については,登記官の裁量内であることも解っていますが,現時点では取り下げをしても登記官の指示どおりの証明書を添付することは物理的に出来ません。 私としては,対処する方法がなく「却下して下さい。」と言うしかありませんでした。 その後,登記官は市役所財務担当者に対しても「財務事務所の証明書を付けなければ却下になる。」と電話連絡をしたようです。市役所財務担当者は登記官の意図している意味が解らず,「どのような処理をしたか不明である。後から連絡をする」として応答しました。 市役所の担当者から私にも連絡が入り,市の関係部署の担当者達と確認の話し合いをした結果,財務省からの通達どおり,譲与図面をもとに現地で常識的な範囲で位置を確定したのだから何等おかしな処理をしていない。「却下」には明確な理由が必要なのだから,それにより対処しようということになり,市の財務担当者から登記官に対し,「適正な処理をしている。所有権証明書に全部の範囲を含んでおり,払い下げの処理にも問題ないものと考える」と電話で回答がされました。 7.問い合わせ 本当に「却下」されても仕方のない事案なのか,とりあえず同業者に確認をしました。まず大洲支局管内の親しい土地家屋調査士に問い合わせると「問題ない」とのことです。 他支局管内の海岸区域で業務を行っている土地家屋調査士にも同様に問い合わせをしたところ,やはり「問題ない。もっと譲与図面と相違するひどい事例もあるが,問題になった事はない」との事でした。 更に,他支部の複数の土地家屋調査士に問い合わせをしてみれば,「譲与図面」を添付せず土地表題登記申請を行っている現状であり,それで補正の指示を受けたこともないということでした。 8.却下 その後,登記官からは何も連絡がありませんでしたが, 7月8日午後5時前に登記官より「却下しました。」との電話連絡があり,11日に大洲支局に出向き「却下決定書」を受領しました。 それには「所有権を証明する書類がなく『却下』する。」というだけの記載でした。 財務省の通達どおりの処理を行って,何故「却下」されるのか。 あまりにも「しゃくし定規」な解釈と思いましたが,登記官と喧嘩をしても無駄なことで,次に進まなければなりません。 9.審査請求はできるのか ここで,土地家屋調査士の選択肢は再提出か審査請求という方法になります。 再提出しても登記官の要求する証明書を添付することは出来ません。 支局長名で「却下」の決定がされており,その原因である財務事務所の所有権証明書が必要というのは大洲支局の統一見解ということですから,再提出しても再び「却下」されるということです。そうすると審査請求しかありません。 審査請求について,全く知識が無かったため,行政不服審査法と同様に考え,大洲支局で「却下」になったものは,松山地方法務局に「審査請求」すれば良いのだと単純に思い,松山地方法務局総務課を訪れ,審査請求について尋ねたところ,不動産登記法では「却下」され6カ月以内に「審査請求」を行う場合は,申請を行った登記所に提出する。それに対して登記官が意見を添えて3日以内に本局に送付するのだそうです。 また,表題登記については,「却下」されても登記官の行政処分性がない場合には「審査請求」は出来ない。審査請求が出来ないのであれば「教示」する必要もないということで「教示」されなかった可能性があるとのことでした。 急いで,大洲支局に引き返し,今回の「却下」について「審査請求」が出来るものなのか尋ねたところ,大洲支局統括登記官から「土地表題登記申請」であり「審査請求」は出来ないので教示をしなかったとのことです。 事務所に帰り,審査請求に詳しい調査士に相談したところ,実地調査をして却下をしたのならば申請書綴りに登記官の実地調査報告書も綴り込まれているはずで,それに詳しい理由が記載されている。それを閲覧してみれば審査請求できる可能性もあるということでした。 平成23年8月1日,依頼人甲に土地表題登記申請が「却下」された経緯を説明し,「申請書の閲覧」と「審査請求」について,改めて委任を受けました。 平成23年8月7日大洲支局に出向き,登記官の実地調査報告書の閲覧をしたところ,登記官は実地調査を行っていませんでした。その際に大洲支局統括登記官に再び「却下」の際の教示について尋ねると,申請代理人が土地家屋調査士であるため詳しく説明しなかった。一般人が申請したのであれば詳しく説明したとのことでした。 10.審査請求 正直,大洲支局統括登記官の説明を受けると,あまりに理不尽と思えるしくみに自分でもかなり興奮していくのがわかりましたが,喧嘩をするために行動しているのではなく,登記申請を行うために行動しているのだと自分に言い聞かせ,その場を後にしました。 その後,大洲支局から私の事務所に帰るまでの間(車で25分程度)に,大洲支局統括登記官から「審査請求」について申請があれば,受け付けると事務所に電話連絡がありました。 そこで,はじめて作成するため書式や記載要領さえも解らず,かなりの時間がかかってしまいましたが,何とか形式を整え,平成23年8月24日に下記の審査請求書を大洲支局総務係に提出しました。 以下「審査請求書」の書式,文言,記載方法,通達の引用方法等不備な点が多いと思われますが,申請人を特定する情報以外そのまま掲載します。 審 査 請 求 書 平成23年8月24日 松山地方法務局長 殿 住所 ■■市▲▲町▼▼ ○○○番地○ 請求人 甲 ■ ■ 西予市宇和町卯之町二丁目390番地 上記代理人 滝 上 洋 之 松山地方法務局大洲支局に申請した下記登記申請に対して,当該登記官が行った却下処分については,後記の理由により不当と思われるので審査請求を行います。 尚,却下理由等について,当方が理解出来る様な文章にて回答を頂きます様,お願い致します。 記 1,(審査請求の趣旨) 申請に係る登記をなせとの裁決を求める 2,(審査請求人の年齢) 58 歳 3,(審査請求に係る処分があったことを知った年月日) 平成23年 7月11日 4,(処分庁の教示の有無及びその内容) 無し 5,(登記申請の添付書面) 地積測量図および土地所在図 1通 代理権限証明書 1通 所有権証明書 2通 住所証明書 1通 境界確認書 1通 調査報告書 1通 6,(審査請求を行う事件の表示) 平成23年6月2日受付第5026号の土地表題登記申請 [ 理 由 ] 1 却下理由で,「表題部所有者となる者が所有権を有する書面の添付がない」とされているが,その真偽を問う。 所有権証明書については,地方分権法による取得による契約書写しを添付しているものであり,松山地方法務局長平成19年訓令第12号による不動産の表示に関する登記事務取扱要領第5条第4号による承継取得の所有権証明書及び■■市からの払下げによる官公署の証明書2点を添付しているものである。 登記官からの補正指示は,「地方分権法による譲与手続きにより■■市が取得した譲与図面による取得分以上の範囲が特定されているため,今回表題登記申請された土地全てが譲与された土地と認定できない。」というものである。 機能を有する法定外公共用財産は国が管理する必要のあるものを除き,原則的に市町村に譲与されている。しかし,本件においては機能を有する法定外公共用財産のうち市に譲与された財産部分と漁港区域で譲与されなかった農林水産省所管財産部分に区分けされており,市に譲与された部分については市が,譲与されなかった漁港区域内の農林水産省所管財産部分については財産管理者である愛媛県が譲与図面をもとに現地で協議を行い,位置を確定した。 その後,市は確定され明確になった部分を用途廃止して,普通財産として払い下げの処理を行い,申請人に対し所有権証明書を交付した。 このようにして決定された所有権証明書について,払い下げ部分全部を含めた所有権証明書として扱われない事に関して疑問を持たざるを得ない。 また,以上の事実を説明したにも関わらず,大洲支局登記官は実地調査を行わず,書面審査のみをもって添付がないと判断している。 登記官による実地調査権について不動産登記法第29条による実地調査をなすべき事項として,土地等の物理的状況を明確にするための事項のみならず,所有権の登記のされていない不動産については,所有権に関する事項も含まれ,所有者が何人かの調査・認定は必ずしも容易ではないが,所有権の保存の登記の申請適格者及び固定資産税の納税義務者が定まることから,認定に当たっては,慎重に調査判断をすることとしている。(登記研究719号53P参照)。 また日本加除出版・精解設例不動産登記添付書面(下巻)284Pでは,所有権の認定について,登記官は,司法機関ではなく,行政機関であることから,提出された書類は特段の事情がなければ,これを正しいものとして取り扱って差し支えなく,所有権の認定についても,確信に至るまでの心証は必要はなく,一応の推認が得られれば足りるものとし,同287Pでは,福岡高等裁判所平成元年10月25日判決(判例時報1355号67P)を引用して,実地調査権につき,「実態上の権利関係の存否に関する詳細な事実認定及び法律判断を常に義務として課すことまでは,法の趣旨とすることはできない」としていることからも同様である。 2 譲与図面の示す位置の精度について 譲与図面の表示する範囲と,所有権証明書の示す実際の範囲との相違について,どの様な基準により登記官が確認したのか,譲与を受けた市町村,そして土地家屋調査士全員の問題でもあるので,その判断基準を明示願いたい。 平成11年7月16日付け蔵理第2592号では譲与財産の特定方法として,原則として不動産登記法第17条地図地区であれば法17条地図の写しを,公図地区であれば公図を用いて譲与を受ける法定外公共用財産の箇所を特定すれば足りるとされている。また,平成16年3月31日付け財理第1136号,国官会第2021号の財務省理財局長及び国土交通省大臣官房長から法務省民事局宛て照会でも物件特定を極力簡便化することとされ,境界確定手続きを省略していると明記されている。 このようにして譲与された土地の表題登記をするには,現地で位置を特定する必要があり,今回の市と県のみが特殊な処理を行っているものではない。 本表題登記に関する譲与図面のもとになっている法14条第1項地図は,縮尺500分の1,乙1の精度である。譲与対象外の根拠となった漁港区域の指定は,この地図写しをもとに,地図で示される大きな曲りごとに,海岸部から50メートル以内の任意の点を図上で定め(以下「図上点」という),隣接する図上点を結ぶことで漁港区域の範囲を表示している。図上点,区域の範囲の表示については,現地の構造物や公共座標等により位置が特定されているものではない。 そのような譲与図面をもとに財産管理者である市と県が,お互いの権限により現地の状況を加味して個々の境界位置を決定することにより,譲与図面で示されたおおよその位置が最終的に確定されたと判断すべきものであり,譲与図面の修正等の必要は無いと思われる。 そのような実状であるにもかかわらず,登記官は譲与図面が表示する位置と,市と県が現地で確定した位置は相違すると判断し,譲与図面と一致またはその範囲を超える場合には財務事務所による新たな証明書が必要とし,その提出が無いとして譲与図面の示す位置の精度について説明する事無く却下した。 譲与図面の示す位置の精度を示さず,単に登記官の見た目での判断とするならば,権限を有する財産管理者が譲与図面をもとに立会を行い,現地での個々の状況等を考慮して,真摯に位置を決定しても,登記官の主観のみで否定されることとなる。 今回の却下理由である所有権証明書の範囲を示す重要な判断基準であり,譲与図面に記載されている位置に対する適正な精度区分を示されたい。 3 登記官の■■市役所に対する問い合わせ 大洲支局登記官は市に対し,電話での問い合わせを行っている。その電話の内容について市財政課担当者は理解できず,「即座に回答出来ない,不明」と回答した。その後,市財政課担当者は建設課,農業水産課のそれぞれの担当者および代理人に事情を聴取したところ,登記官の指摘内容を把握することが出来たので,折り返し電話で登記官に対し,「払い下げ承諾をした土地について,払い下げに至る経緯等適正に処理を行っており,所有権証明書についても問題ない。」との回答をした。 本申請における所有権証明書について,当職による虚偽記載の確認を行ったものならば,登記官の行為は当職としては許しがたい行為である。更に,市役所担当者の電話回答があったにも関わらず,却下処分とした事は,登記官は最初から却下ありきの処理を行っており,地方分権法における譲与手続き作業について,登記官の認識が現実と乖離していると言わざるを得ない。 4 教示について 却下決定書の記載から,審査請求及び行政訴訟法による取り消し訴訟についての教示が欠落している。一般的に土地表題登記における不動産の物理的状況を客観的事実に基づいて,単に登記法により公示するとされたものと考えるが,判断に誤認がある。 表題登記における所有者を記録することは,所有者として記録された特定個人に不動産登記法第74条第1項第1号に基づき所有権の保存の登記の申請をすることができる地位を与えるという法的効果を有することから,行政処分性を有すると解されている(逐条解説不動産登記規則・小宮山秀史著P375)。 以上のことから,却下決定書において審査請求等に関する教示の表示が必要である。教示の記載がないことにより,審査請求が内容を審査することなく請求が理由がないとして棄却されることも予想されるためその決定の更正後の際決定をいただきたい。 11.裁決書 平成23年第1290号 裁 決 審査請求人愛媛県■■市▲▲町▼▼ ○○○番地○ 甲 ■ ■ 上記代理人愛媛県西予市宇和町卯之町二丁目390番地 滝 上 洋 之 処分庁松山地方法務局大洲支局登記官 松山地方法務局大洲支局平成23年6月2日受付第5026号土地表題登記申請(以下「本件登記申請」という。)事件の却下処分に対する審査請求について,次のとおり裁決する。 なお,この裁決につき取消しの訴えを提起しようとする場合には,この裁決の送達を受けた日から6月以内(送達を受けた日の翌日から起算します。)に,国を被告として(訴訟において国を代表する者は法務大臣となります。),提起しなければなりません(なお,裁決の送達を受けた日から6月以内であっても,裁決の日から1年を経過すると裁決の取消しの訴えを提起することができなくなりますので御注意ください。)。 主 文 本件審査請求を棄却する。 理 由 1 審査請求の趣旨及び理由 本件審査請求の趣旨及び理由の要旨は,審査請求人が,■■市■■町■■2番耕地511番地先の里道(以下「本件土地」という。)について申請した本件登記申請事件を,当局大洲支局登記官が,本件土地の範囲は,国と■■市の国有財産譲与契約書添付の譲与図面(以下「本件譲与図面」という。)における譲与範囲を超えるものであり,当該範囲について「表題部所有者となる者が所有権を有するとを証する情報」(以下「所有権証明書」という。)が提供されていないとして,不動産登記法(以下「不登法」という。)第25条第9号の規定により却下したことに対し,上記所有権証明書は,譲与部分全部を含むものとして扱われるべきであるから,当該却下処分を取り消し,申請に基づく登記をせよというものである。 2 審査庁の判断 (1) 審査請求人は,審査請求書において,「市に譲与された部分については市が,譲与されなかった漁港区域内の農林水産省所管財産部分については財産管理者である愛媛県が譲与図面をもとに現地で協議を行い,位置を確定した(審査請求書の1の第3段落)・・・譲与対象外の根拠となった漁港区域の指定は・・・現地の構造物や公共座標により位置が特定されているものではない。そのような譲与図面をもとに財産管理者である市と県が,お互いの権限により現地の状況を加味して個々の境界位置を決定することにより,譲与図面で示されたおおよその位置が最終的に確定されたと判断すべき(同2の第3,4段落)」であるとして,国から■■市に譲与された本件土地の範囲は,本件譲与図面の精度に問題があることから,■■市と愛媛県が現地で協議を行った結果確定した旨主張している。 (2) いわゆる地方分権一括法の施行に伴う法定外公共物の譲与手続については,「法定外公共物に係る国有財産の取扱いについて」(平成11年7月16日付け蔵理第2592号)において,機能を有する法定外公共物に係る国有財産について,市町村から国有財産特別措置法第5条第1項第5号の規定による譲与の申請があった場合,国は,今後とも国が管理する必要があるもの(農林水産省所管の財産である漁港区域又は国有林の区域内の里道・水路,国営土地改良事業により設置された土地改良施設の用に供されている里道・水路など)を除き,当該申請のあった財産を,市町村に速やかに譲与するものとされている。そして,市町村による譲与財産の特定方法は,原則として不動産登記法第14条の地図が整備されている区域にあっては当該地図の写しにより,その他の区域にあっては旧土地台帳法施行細則第2条に規定する地図(いわゆる公図)の写しに,里道・水路の起終点を明示することで行い,その幅員及び面積は示す必要がなく,譲与の申請に際して測量図,求積図等の添付は不要とされている。 (3) これを本件についてみれば,本件土地は,地方分権一括法の規定により,■■市が国に対し平成16年1月19日に譲与申請したものであり,当該申請に添付の本件譲与図面には,起点△87,終点▲87が明示され,これに基づき,国と■■市の間で同年10月8日付けで譲与契約が締結されていることから,譲与の対象となる本件土地の範囲は,本件譲与図面により特定されていると判断できる。そうすると,■■市と審査請求人との問で締結された売買契約の対象となる本件土地の範囲は,本件譲与図面のそれを明らかに超えるものであるから,その超える範囲について,国から■■市へ譲与があったと客観的に認めることはできない上,これを認めるに足る■■市の所有権証明書の提供もない。 なお,審査請求人は,本件譲与図面の精度(本件譲与図面における本件土地の範囲が正確ではないこと)を問題としているが,前記のとおり,本件譲与図面においては,譲与の対象となる本件土地の範囲が,起点△87及び終点▲87の明示により客観的に特定されているといえるし,非譲与財産である農林水産省所管の財産たる漁港区域の範囲も十分に考慮されており,地方分権一括法施行に伴う譲与財産の特定が,専ら譲与図面により行われること及び本件譲与図面は,■■市が国に対し譲与申請するに当たり作成されたものであり,当該申請を受けて,国が譲与契約を締結したことを踏まえれば,譲受人■■市のみならず,譲与人国との協議ないし同意がないまま,本件譲与図面における本件土地の範囲と異なる範囲を,登記官において■■市の所有と認定することはできない。 (4) 審査請求人は,当局大洲支局登記官が,実地調査を行わず,書面審査のみで却下の判断したことをも問題とするが,そもそも本件登記申請には,不動産登記令第7条第1項第6号(別表の四の項添付情報欄ハ)で定める情報の提供がされておらず,登記官において実地調査を行ったとしても,これが提供されない限り却下は免れないのであるから,本件登記申請において,登記官が,前記情報の提供がなされる前に実地調査の必要を認めなかったことに何ら問題はない。 (5) したがって,本件登記申請において,本件譲与図面に基づき,本件土地の表題登記をするに足る所有権証明書の提供がないとして,不登法第25条第9号の規定により同登記申請を却下した当局大洲支局登記官の判断は正当である。 (6) なお,審査請求人に対する当局大洲支局登記官の却下決定には,取消訴訟及び審査請求ができる旨の教示がされていない。 登記実務上,登記官が登記の申請等を却下する場合,これが行政処分性を有しないものであるときは,取消訴訟及び審査請求ができる旨の教示は必要ないとされているので,当該却下の行政処分性の有無が問題となり得る。しかしながら,本件においては,当局大洲支局登記官がした却下決定の行政処分性の有無にかかわらず,審査請求人は,既に審査庁に対し本件審査請求を行っていることから,審査請求の機会を失したとはいえないし,また,当該却下決定が行政処分性を有するものであれば,例え原処分たる登記官の処分取消しの訴えの出訴期間を経過しても,本件審査請求を行ったことにより,その取消訴訟に係る出訴の機会は確保されている(行政事件訴訟法第14条第3項)。 3 結論 以上のとおり,本件審査請求は理由がないから,主文のとおり裁決する。 平成23年11月8日 松山地方法務局長 横 井 三 男 12.最後に 以上が,今回の土地表題登記申請の「却下」,「審査請求」,「棄却」にいたる経緯です。 自分が当たり前と思いこんでいることについて「却下」され,登記官の処理はおかしいのではないのかと「審査請求」をしました。 私としては,譲与図面で示された位置と現地で確定された位置の相違について,譲与図面作成の過程(漁港区域の範囲の設定)を考慮すれば,譲与図面上での位置表示は目安的なものである。 財務省からの通達にもあるように,権限を有するもの同士が譲与図面に基づき現地で「常識的な判断」により位置を確定すれば良い。 「常識的な判断」であるかどうかは,客観的な位置誤差の判断によるべきで,位置誤差の範囲を超えると判断されるのであれば,登記官の指摘どおり所有権証明書は必要であろうと考え,客観的な位置誤差を示してほしいと思いました。 法第14条第1項地図地区において,地図上の位置の特定については,利害関係人が立会いをして確定した位置と法第14条第1項地図で表示される位置と,国土調査施行令別表第5に示される許容誤差範囲内にあれば同一の位置を表示しているものとみなします。 しかし,その法14条第1項地図を利用して,現地立会いもなく,測量もされず,図上で記入された位置については,法14条第1項地図が持つ許容誤差は関係ない。 登記官の見た目による判断(裁量範囲)であり,一人の登記官の判断で良い。それにより登記官が見た目と相違する範囲の所有権証明書が無いと判断すれば,わざわざ実地調査なんかする必要もない。他の支局や法務局で問題のないことでも,その事案の処理を行う登記官の裁量にゆだねられた事であるから,申請代理人である調査士は文句なんか言うなということのようです。 不動産登記法さえ解釈しかねている「ぼんくら調査士」には,難しすぎて理解できません。 公図地区の土地家屋調査士さんは大変だなぁと思うしかありません。 今回の「審査請求」については,「素行の悪い土地家屋調査士の引き起こした特殊な個別案件」として処理されたのかもしれませんが,愛媛県土地家屋調査士会からの懲戒処分はまだありません。 このような事例があったことすら知られていないと思います。私自身の恥さらしともいうべき内容なのですが,審査請求事件は数少ないと思われ,経験の浅い土地家屋調査士の参考となると思われ,申請人を特定する情報以外はすべてそのまま公開することとしました。 13.申請代理人として感じたこと 「審査請求」について記載されているいろんな文献を調べますと,大洲支局の「却下」の決定にあたっては,あらかじめ松山地方法務局と内議がされます。「却下」された後,「審査請求」を行えば松山地方法務局が「裁決」をすることになりますが,そこでも判断の難しい場合は管区である高松法務局と内議するようです。 大洲支局で「却下」が決定され,その「却下」に不服ありとして「審査請求」をしても,最初の「却下」を決定したときに相談を受けている松山地方法務局に提出することになるのですから,その判断を覆すことは難しく,裁決をするにしても「0か100か」という判断になるようです。 「ぼんくら調査士」の青臭い正義感から,依頼人にも市役所にも迷惑をかけ,審査請求も棄却されてしまい3カ月という無駄な時間をかけてしまいました。 これ以上,依頼人にご迷惑をおかけすることは出来ません。採決に不服だからと,「行政訴訟」を起こしても,結果は明白であり,無駄な時間と費用をかけるだけのようです。 ただ,この土地表題登記を他の支局へ申請することは出来ませんが,改めて登記申請を行えば,別の事件として扱われるとの事です。 平成23年6月2日申請分に補正書類として,①,②,③を追加して再申請してみようと思っています。 ① 漁港区域の境界確認について,平成20年4月1日愛媛県から■■市に権限移譲されていることについて,情報公開法を利用して市から文書の提供を受け明確にしました。 ② 補正するのであれば必要であろうと思っていた■■市の意見書の交付を受けました。 ③ 平成23年9月30日,登記官の指示するとおりの財務事務所の証明が出るのかどうか。松山財務事務所に出向き確認すると,「財務事務所は関与しない問題である。漁港区域との境界については市と県との問題であり,財務事務所では解らない。」という事でした。最初から,財務事務所が証明書を出さないことは明白で,松山財務事務所に出向くこと自体無駄と思っていましたが,「却下」された一番の理由ですので,その証明書自体が出るか否か確認して録取書を作成しました。 (注) 審査請求が棄却される前に,大洲支局統括登記官に「要求する財務事務所の証明が出ると思っているのか。」と尋ねたところ,登記官が必要とした証明が出るか出ないか,もしくは有無について登記官はあらかじめ承知しておく必要はないとの事でした。 このような書類を添付したところで「却下」・「棄却」の理由とされた所有権証明書の問題は満足していません。大洲支局の登記官や合議を受けた松山地方法務局の登記官達の統一した判断をそれぞれ公文書で示されたのですから,再提出したところで,再び「却下」になるでしょう。 ただ,登記官の裁量の問題ですので,もしかして私のような「ぼんくら調査士」と同一の感性を持つ希有な登記官が存在するかもしれません。
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