反省しています 1 (審査請求に至るまで,境界確認・所管) 女房・子供に相手にされず家庭内粗大ゴミ,年のせいかだんだん気が短くなり,かなり偏屈になっている自分に気付きます。 それでも,土地家屋調査士の仕事だけは適正に処理していると自分では思っていたのですが,それも危ないようです。 昭和56年転職し,父親の補助者を経験した後,昭和61年に土地家屋調査士を開業しました。 開業当時は,オイルショックはありましたが,景気も良く,不動産の商取引も盛んな時期でした。 土地家屋調査士の業務も,現在のようなものではなく,正直なところ筆界と所有権の境界との区別が曖昧でした。しかし時代とともに,土地所有者の権利意識が高くなり,商取引のための面積算出から,境界点1点1点の位置の明確化,境界杭自体の永続性,そして復元性が要求されるようになり,筆界の概念も明確になり,境界の立会いが厳格化されました。 必然的に求積方法も三斜法から座標法へと大きく変化してきました。 更に,GPS(GNSS)測量,インターネットを利用したオンライン申請,これらになると当時は考えることさえ出来ませんでした。 それでも,測量計算はそろばんからパソコン,測量器械も平板から光波測距儀,データコレクター,TS,そして電子平板と大きく様変わりしましたが,時代とともに変化したので,それなりに対応出来たつもりなのですが,法律関係については,根っからの勉強嫌いで調査士の試験に合格した後は勉強もせず,「ぼんくら」調査士の最たるものでした。 試験勉強時の不動産登記法の知識だけで実務を行っていたのですから,今思うとよくやれたものだと自分でも感心します。 小さな出張所がたくさんあったころは,出張所の登記官との関係はお隣さんとのお付合いみたいなもので,登記申請をして補正があれば,登記官に「どういう事」と気軽に問い合わせ,登記官のいうとおりの補正をするという日々でした。これでは土地家屋調査士としての実力がつくはずもありません。 それでも,難しい問題になれば,出張所の登記官と調査士が「ああでもない。こうでもない」と議論したものでした。 「ぼんくら調査士」にとっては好都合だった関係も,近年の統廃合により小さな出張所が無くなり,大きな地域を受け持つ支局だけとなり,登記官との関係も薄れていき,次第に話し合いも少なくなり,都合良く吸収できる情報もなくなってきました。 それでも勉強もせず,過去の経験だけで判断して,経験とともに厚くなった面の皮を武器にしてなんとか一人前の土地家屋調査士を装っていました。 そんな「ぼんくら調査士」が審査請求をしたのですから,どこか間の抜けた話になります。 説明の難しい事案ですが,審査請求をした事件を実際の業務に沿って説明することにします。全部の内容を掲載することは困難なので,必要と思われる部分だけをお伝えすることにします。 また,土地の払い下げの事例であるため,土地家屋調査士業務・行政書士業務・司法書士業務が連携していますが,業務の区別をせず一連の処理として記載しておりますのでご容赦ください。 1.依頼と確認 甲,乙,丙を代表して甲が,私の事務所に依頼にみえました。 それぞれの自己所有地に介在する法定外公共用財産(里道)の用途廃止をした後,普通財産として払い下げを受け,土地の表題登記を行いたいとのことでした。 法14条第1項地図地域においては,土地表題登記や地図訂正については,重複登記防止の為に土地台帳付属地図や畝順帳で,実際に法定外公共用財産が存在しているのか。払い下げをおこなおうとしている位置で相違ないか確認する必要があります。 法務局で法14条第1項地図,土地台帳付属地図,申請地周辺の土地の全部事項証明書を確認しました。畝順帳については,既に愛媛県立図書館で,その地域全域のものを複写したものがありましたのでそれにより確認したところ,法14条第1項地図と土地台帳付属地図の里道の位置関係,そして周囲との関係は合致しており,土地台帳付属地図と畝順帳の里道の位置関係は一致していました。 ただ,畝順帳記載の里道の幅と,法14条第1項地図で表示された幅は,北側部分では一致していましたが,南側(海岸側)になるにつれ段階的に狭くなっていましたが,畝順帳での里道幅の記載は標準的なものでもあり,最終的に自己所有地とすることでもあり,地図訂正までは必要ないものと判断しました。
2.境界確認 法定外公共用財産である里道の境界確認については,地方分権一括法により市町村に譲与されたことにより,県の土木事務所から市役所の担当課になっていますが,海岸については,県の港湾課が境界確認を行うことになっています。 その海岸地域のなかでも漁港区域の指定のあるものについては,市役所が境界確認を行います。 その地域を管轄する市役所の支所に問い合わせると,漁港区域の指定がある地域ということでしたので,市役所支所(里道担当と漁港地区担当)の立会いにより境界確認を行うことにしました。 (図1)の北側の市道と南側の市道を結び,住宅の間に介在するアからウの区間の里道です。 土地払い下げを希望する申請者は2-509-1の土地所有者丙,2-511の土地所有者甲,2-512の土地所有者乙でしたが,2-508の土地所有者丁が不在地主であり,連絡もとれない状態であることがわかりました。反対側土地所有者丁の境界の承諾が得られず,早急に取得する必要もないことから2-509-1の土地所有者丙は今回の申請を断念しました。 2-511,2-507-2,2-507-1の土地所有者は甲,2-512と2-506の土地所有者は乙ですので,甲と乙については払い下げに支障なく,イからウの区間の払い下げのみを受けることになり,その区間の里道の境界確認をすることにしました。 この地域については,既に電子基準点を利用したGPS測量で国土交通省公共測量作業規定に基づき1,2,3級相当の基準点を順次設置しておりましたので,既設基準点を与点として申請地近傍に4級基準点相当の基準点を配置して法14条第1項地図の境界位置を復元,更に現地で隣接土地所有者および市役所の立会いにより確認を受けました。 3.所管 ところが,ここで問題が生じました。 里道と隣接地の境界については問題ないのですが,漁港区域内の里道は元国土交通省所管の財産ではなく,農林水産省所管の財産であり,払い下げ申請をする相手が相違するらしいのです。 元国土交通省所管財産であれば,地方分権一括法により市町村に譲与されています。 しかし,農林水産省所管の財産は,市町村に譲与されていないため,用途廃止をして普通財産となった場合は,国の機関である財務事務所が取り扱うということのようです。 漁港区域内の指定は,海岸の水際線から50メートル以内の範囲で指定があり,指定にあたっては,市役所支所建設課と県の港湾課で決定しているとのことで,市役所支所には,その際に使用した図面が残っており,法14条第1項地図6枚程度を1枚に合成した地図でした。 支所の建設課課長は当時の担当者であり,事情を詳しく説明してくれました。それによると,本来ならば,現地に出向き,現地の構造物を確認しながら特定すべきなのだろうが,平成12年の地方分権一括法により,国土交通省所管の機能を有する法定外公共財産を国から市町村に5年間で譲与する必要があり,国土交通省所管財産から除外される農林省所管財産の範囲を先行して特定する必要があった。 財務省からの通達では,現地には出向かず,公図や法14条第1項地図を利用して範囲を特定して良いとのことであり,法14条第1項地図地域であることから,(図2)のように法14条第1項地図を利用して海岸の水際線にある大きな屈曲点を選び,そこから陸地方向に50メートル以内の点を地図上に配置(以下,図上点という。)して,隣接する図上点を結ぶ海岸側を漁港区域とした。 地図には,5点ほどの図上点が配置されていましたが,便宜的に図上で表示された点であり,現地でその位置を表示するものや,位置を特定するための座標値も存在しないとのことでした。 法定外公共用財産である里道や水路が漁港区域(農林水産省所管財産)と市役所管轄(元国土交通省所管財産)に区分され,(図2)では図上点Z1,Z2を結ぶ海岸側が漁港区域であり,申請地ではAの位置ということになります。 このようにして農林水産省所管財産の範囲を確定した後,残りの機能を有する里道については元国土交通省所管財産として市町村に譲与されました。 法定外公共用財産でも,市町村が機能を有していないものとして判断して譲与を受けなかったものや,申請する際に表示漏れで譲与を受けることができなかったものがあり,それらの財産は財務事務所が管轄し,境界確認も財務事務所が直接行います。 今回の場合は,機能を有する連続する法定外公共用財産の内,国土交通省所管財産と農林水産省所管財産に分かれ,国土交通省所管財産部分は譲与されたが,農林水産省所管財産は市町村に譲与されなかったものです。漁港区域の指定図面と譲与図面の図面上の区分は合致しており,財務事務所が所管する法定外公共用財産は存在していません。 しかし,図上で表示されている位置を現地で明確に復元することはできず,実際に確定する時には,県と市役所がもう一度現地で立会いをして決定することになります。財務省からの通達では,それで良いようになっているようです。 払い下げ申請にあたり,里道を漁港区域(農林水産省所管分)と市役所管轄分(元国土交通省所管財産)を現地で区分けしなければ,申請を行うことができません。調査士業務の地図から境界を復元する方法とは相違し,土地家屋調査士が介在する余地はありません。 そこで,県と市で漁港区域の位置を現地で確定するようお願いしましたところ,市役所担当者は県の港湾課と連絡を取り合い,現地でその位置を特定してくれました。 県の港湾課はどの位置でも良い,管理の際に明確な(図2)の市道との境界ウの位置でも良いという程度の考えだったようですが,市役所担当者は譲与図面で示された位置とあまり相違しない位置であること。そして,図示された位置と常識的に考えて誤差範囲内程度であり,現地で明確な位置ということでの判断から,2-507-1と2-506の土地については,お互いに争いはなく,その境界も石積みで明確であることから,境界線を延長したBの位置までを漁港区域の範囲として決定してくれました。 4.払い下げ申請 範囲が特定できましたので,確定したBの位置から北側の申請については直接市役所に,南側の甲,乙の申請については県の港湾課を経由して財務事務所に申請しました。 市役所の対応は早く,甲の払い下げ申請は順調に処理が進みました。 甲は市役所財政課から指示された売買代金を納付,契約用に登記申請用にイからBの位置までの範囲で表示した地積測量図を提出し,一週間後には,国から市への譲与図面,市から本人への売り渡し証書とともに,提出した地積測量図を添付した登記承諾書の交付がありました。 漁港区域内の土地の払い下げ処理については,県の港湾課を経由して財務事務所での処理ということもあり,6ヶ月ほど処理に時間がかかるものと思われました。
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