国土調査(地籍調査)関係判例

 

 

国土調査による地図及び地籍簿の作成処分無効確認請求事件

(福島地裁昭和39年9月24日判決)

 

国土調査無効確認請求事件

(高松地裁昭和50年12月23日判決)

 

地籍調査の成果無効確認等請求事件

最高裁昭和60年行(ツ)第156号昭和61年4月4日2小法廷判決,上告棄却,

一審岡山地裁昭和58年行(ウ)第9号昭和59年3月21日判決,

二審広島高裁昭和59年行(コ)第1号昭和60年6月27目判決

 

国土調査の地籍調査の成果無効等確認請求事件

最高裁昭和60年行(ツ)第188号,昭和61年7月14日小法廷判決,上告棄却,

一審前橋地裁昭和59年行(ウ)第1号昭和60東京高裁裁昭和60年行(コ)第10号判決

 

地籍調査の成果に関する損害賠償請求事件

(宮崎地方裁判所昭和62年11月30日判決)

 

地籍調査の成果に関する損害賠償請求事件(宮崎地裁昭和62.11.30判決の控訴審)

(福岡地裁宮崎支部平成元年3月27日判決)

 

地籍調査の成果に関する損害賠償青求事件

(神戸地方裁判所平成2年1月25日判決)

 

地籍調査の成果に関する損害賠償請求事件(神戸地裁平成2.1.25判決の控訴審)

(大阪高裁平成2年11月16日判決)


 

 

○国土調査による地図及び地籍簿の作成処分無効確認請求事件

(福島地裁昭和39年9月24日判決)

 

国土調査による地籍調査は,国又は公共団体等が国土に関する各種施策を策定し又はこれが実施の円滑化を図るための基礎的資料を蒐集する目的の下に「毎筆の土地について,その所有者,地番及び地目の調査並びに境界及び地積に関する測量を行い,その結果を地図及び簿冊に作成するもの」であるから,その限りでは,土地の現況を調査記録するという単純な事実行為にとどまり,調査の成果たる地籍簿及び地図は行政庁の内部における−資料の意味しかなくそれらの記載によって国民の権利自由が侵害される余地は全く存しないものといわざるをえない。

従って,たまたま国土調査に際し土地の境界を誤った事実がかりに存したとしても,その為に真実の権利者が権利を失うものではなく,逆に相手方が権利を取得するものでもないのであって,原告は隣地の所有者を相手どって所有権確認又は境界確定の訴えを提起すれば必要且つ充分というべきであり,その訴えで国土調査の成果と異る境界線を主張することは何ら妨げないのである。もっとも,その際、国土調査において認定された境界線の位置が,或いは有力な証拠方法とされることが全くないとはいえないが,これにより一方当事者の蒙る不利益は全く間接的かつ事実上のものに止まり,到底権利自由の侵害というに値しないことは言を俟たない。この理は,地籍調査に際し合筆又は分筆があったものとして処理され,或いは地番の変更をみた場合も同様であって,これらの場合に,法は土地所有者の意思を尊重する建前からその者の同意を要件としているが(地籍調査作業規程準則第24条から同第26条まで,同第36条等),これら分・合筆・地番変更は単に土地の個数,この呼称の問題にすぎず,これにより権利関係が左右されるものでないことは勿論のこと,国土調査後といえども土地の所有者は任意に,合・分筆して旧に復することは可能であるから,かかる場合であっても国土調査における地籍簿及び地図作成行為にいわゆる行政処分性を認めることは困難といわなければならない。

 

 

 

○国土調査無効確認請求事件

(高松地裁昭和50年12月23日判決)

 

原告の請求は,被告が国土調査法に基づいて実施した本件地籍調査を行政処分としてその無効確認を求めるというにあるところ,職権をもって調査するに,行政処分無効確認の訴えは当該処分をした行政庁を被告として提起しなけれぱならないものであるから,行政庁たる高松市長を被告とする本訴は,被告とすべき者を誤った訴えというほかなく,既にこの点において不適法であり却下を免れない。

(なお,付言するに,原告は本件地籍調査を行政訴訟の対象たる行政処分に該当する旨主張するが,地籍調査は国土調査法2条5項に明記する如く「毎筆の土地について,その所有者,地番及び地目の調査並びに境界及び地積に関する測量を行いその結果を簿冊に作成すること」をいい,いわば土地の現況を調査記録するという単純な事実行為であって,調査の結果作成される地籍簿,地籍図も図法1条所定の目的達成のための行政庁における内部資料にとどまり,その記載及びその内容によつて当該土地についての権利者たる国民の権利義務に直接影響を及ぼす効力を有するものではないと解すべきであるから,地籍調査をもつて行政訴訟の対象となり得べき行政処分であるということはできず,この理はたとえ右地籍簿,地籍図により後日登記簿の記載に変更を生じた場合であっても,その結論を左右するものではない。)

 

 

○地籍調査の成果無効確認等請求事件

 

最高裁昭和60年行(ツ)第156号昭和61年4月4日

2小法廷判決,上告棄却,一審岡山地裁昭和58年

行(ウ)第9号昭和59年3月21日判決,二審広島高

裁昭和59年行(コ)第1号昭和60年6月27目判決

 

    主  文

  本件上告を棄却する。

  上告費用は上告人の負担とする。

     理  由

上告代理人松岡一章の上告理由について

国土調査法に基づく地籍調査の成果たる地籍簿及び地籍図の作成行為は抗告訴訟の対象となる行政処分に該当しないとした原審の判断は,正当であり,また,本件の不作為の違法確認請求に係る訴えを不適法とした原審の判断も,正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく,論旨はいずれも採用することができない。

よつて,行政事件訴訟法7条,民訴法401条,95条,89条に従い,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

                     最高裁判所第2小法廷

                       裁判長裁判官 香 川 保 一

                            裁判官 大 橋   進

                            裁判官 絞   圭 次

                            裁判官 島 谷 六 郎

                            裁判官 藤  島  昭

 

  〈第1審判決〉理  由

1 まず,原告の無効確認請求にかかる訴えの適否について判断するに,右請求は,要するに,編入前の一宮町が行った国土調査法に基づく地籍簿及び地籍図の作成表示行為が行政処分であることを前提に,その一部について無効原因を主張して,当該処分の無効確認を求める,というものである。

ところで,抗告訴訟の対象である行政処分とは,行政庁の法令に基づく行為のすべてを意味するのではなく,公権力の主体である国又は公共団体が行う行為のうちで,その行為により直接国民の法律上の地位ないし権利関孫に影響を及ぼす性質のものに限られるというべきである。

そこで,地籍簿及び地籍図の作成表示行為が行政処分に該当するか否かについて検討するに,国土調査法に基づく国土調査は,国土の開発及び保全並びにその利用の高度化に資するとともに,あわせて地籍の明確化を図るため,国土の実態を科学的かつ総合的に調査するものであり(同法1条),そのうち地籍調査は,毎筆の土地について,その所有者,地番及び地目の調査並びに境界及び地積に関する測量を行い,その結果を地図及び簿冊に作成するものである(同法2条5項)から,それ自体は,土地の現況を調査しその結果を記録するという単純な事実行為にとどまり,調査の成果である地籍簿及び地籍図も行政庁の内部資料でしかなく,それらの作成表示行為により国民の権利利益が侵害される余地は全く存しないものといわざるを得ない。

したがって,原告が主張する車庫証明の発行を受ける資格の審査,固定資産税及び都市計画税の賦課の点における不利益は,行政庁が国土調査の成果(ないしはそれにより是正された土地の表示の登記)を右の各行政事務処理上の一資料として用いることによる事実上の効果に過ぎず,右の審査又は賦課処分に当たつて,地籍簿又は地籍図の作成表示(ないしは土地の表示の登記)に法的拘束力があるとする根拠とはならない。また、原告が主張する境界確定の訴え及び取得時効の成否における不利益も当事者が国土調査の成果を訴訟上の一証拠資料として用いることによる事実上の問題に過ぎないし,さらに一般人が地籍簿又は地籍図の閲覧をしてこれを取引の資料として活用することも単なる事実上の不利益であって,他に地籍簿又は地籍図の作成表示に対し土地の所有者の権利利益を侵害するような法的効力を付与した法令の規定を見いだすことはできない。

以上のとおり,地籍簿及び地籍図の作成表示行為を行政処分と解すべき根拠はなく,したがって右の行為は抗告訴訟の対象とはなり得ないから,原告の無効確認請求にかかる訴えは不適法というべきである。

2 次に,原告の不作為の違法確認請求にかかる訴えの適否について判断するに,この訴えは,法令に基づき国民に申請権が認められ,かつその者がその権利を行使した場合にのみ許されるものであることは法文上明らかである。

の点について,原告は,国土調査法17条及び地方税法381条を類推し,国土調査法17条所定の閲覧期間経週後はもとより,県知事の認証後においても,関係者に地籍簿及び地籍図につき修正の申請権があり,それらの作成者は申請に基づいて修正すべき義務を負っている,と主張する。

しかしながら,国土調査法17条は,誤りの申し出ができる者を全く限定していないし,その申出に対する応答義務を予定した規定もない(同法17条,18条参照)ことなどからすると,同条は,国土調査の最終段階として,地籍薄及び地籍図を一般の閲覧に供し,一般人に調査上の誤りや誤差の指摘をさせて,その内容の正確性を最終的に確認する手続を定めたものであると解すべきであつて,関係者に地篠薄及び地籍図の修正申請の権利を付与した規定であると解すことはできない。したがって,認証期前の閲覧期間においてさえも関係者に修正の申請権を認めることができないのであるから,まして同条を根拠に認証後の国土調査の成果について,関係者に申請権があると認めることは到底できない。

また,地方税法381条7項を国土調査に類推適用すべきものとする理由はないし,同条項の規定も登記官の職権発動を促す一つの措置であって,市町村長に不動産の表示の登記の申請権を認めたものとは解し難い。そして,他に国土調査の成果について土地所有者等に修正の申請権を認めた明文の規定はなく,国土調査の性格が前述のとおりである以上,法令の解釈上当然に申請権が存するものとすることもできないので,結局,原告は被告に対し地籍簿及び地籍図の修正を求める申請権自体を有していないものというべきである。

以上のとおり,原告の主張する修正の申請は法令に基づくものではなく,したがつてこれに対する行政庁の不作為は抗告訴訟の対象とはなり得ないから,原告の不作為の違法確認請求にかかる訴えも不適法というべきである。

3 以上の次第であって,本件訴えはいずれも訴訟要件を欠き不適法であるから,これを却下し,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民訴法89条を適用して,主文のとおり判決する。

岡山地方裁判所第2民事部

〈第2審判決〉理  由

本件についての当裁判所の判断は,原判決9枚目裏4行目から同10枚目表3行目「不利益であつて」までを,「このことは地籍薄及び地籍図が認証を受けた楊合であつても,土地の権利関係(所有権の範囲,土地の境界)には何らの影響を及ぼすものではないから,これによつて結論を異にするものではない。もつとも認証された地籍簿及び地籍図は所有権確認,取得時効,境界確定の訴えにおいては重要な証拠となり,また不動産取引においても,土地の位置,地積などを示す役割を果し,更に国土調査法202項によれば,認証を受けた地籍簿及び地籍図の写の送付を受けた登記所は,それに基づいて「土地の表示に関する登記」及び所有権の登記名義人の表示の変更の登記をしなければならないことになっているから,この面においても重大な影響が生ずるものであることは否定できない。しかしながら,地籍簿,地籍図の作成行為が,前示のとおり事実行為と解される以上,その作成表示行為それ自体は,公証行為ではなく,土地の範囲を画するなど国民の権利義務に影響を及ぼすものでもない(右表示登記などがなされることによつて所有権その他の権利に関する登記が可能となり,それが故に個人の法的地位に影響を及ぼすとしても,それは地籍簿,地籍図の写しの送付を受けた登記所がこれを利用してなした結果によるものであって、地籍簿,地籍図の作成表示行為そのものによるものではない。この点控訴人の主張する車庫証明の発行を受ける資格の審査,固定資産税、都市計画税の賦課の点における不利益も同様である。)からこれらの不利益は単なる事実上の不利益に止るものである。従って,地籍簿,地籍図の作成表示行為は行政訴訟の対象である行政処分と認めることはできない。そして,」と改める外は,いずれも原判決の理由に記載のとおりであるから,これを引用する。

そうすると,原判決は相当であつて,本件控訴は理由がないから,これを棄却すべきものとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法95条,89条を適用して主文のとおり判決する。

 

広島高等裁判所岡山支部第2部

 

○国土調査の地籍調査の成果無効等確認請求事件

 

最高裁昭和60年行(ツ)第188号,昭和61年7月14日小法廷判決,上告棄却,一審前橋地裁昭和59年行(ウ)第1号昭和60年1月29日判決、二審東京高裁裁昭和60年行(コ)第10号判決

 

   主 文 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

    理 由

  上告人の上告理由について

  本件訴えを不適法として却下すべきものとした原審の判断は,正当として是認することかできる。原判決に所論の違法はなく,右違法があることを前提とする所論違憲の主張は,その前提を欠く。論旨は採用することができない。

  よつて,行政事件訴訟法7条,民訴法401条,95条,89条に従い,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

                   最高裁判所第2小法廷            

裁判長裁判官 牧  圭 次

裁判官 島 谷 六 郎

裁判官 茲 島   昭

裁判官 香 川 保 一

 〈第1審判決〉理  由

1 原告の本訴請求は,要するに,昭和47年度に実施された国土調査法に基づく本件土地に関する地籍調査が違法になされたものであるとして,その成果及びこれに基づく登記簿の変更,地図の備え付け並びに右に至る間の被告らの各行為の無効確認変更ないし取消しを求める,というものである。

2 抗告訴訟の対象となる行政処分とは,行政庁の法令に基づく行為のすべてを意味するものではなく,公権力の主体である国又は公共団体が行う行為のうちで,その行為により国民の法律上の地位ないし具体的権利義務関係に直接影響を及ぼすものに限られるというべきであるところ,本件訴えの対象は,以下述べるごとくいずれもかかる行政処分性を有しない。

1) 地籍調査の成果につき

地籍調査は,「毎箪の土地について,その所有者,地番及び地目の調査並びに境界及び地積に関する測量を行い,その結果を地図及び簿冊に作成する。」(国土調査法2条5項)ものであるから,土地の現況を調査記録するという単純な事実行為に過ぎないし,その結果作成される成果である地籍簿や地籍図も同法1条所定の目的達成のだめの行政庁における内部資料に止まり,その記載及びその内容が対外的に効力を有するものではない。

2) 成果の認証請求及び認証

成果に対する認証とは,その請求に基づき,前述の如く行政庁の内部資料たる地籍調査の成果に対し,その成果が測量若しくは調査上の誤り又は国土調査法施行令6条で定める限度以上の誤差がないかどうかを審査するもの(国土調査法19条2項)であり,これによつてはじめて右の成果を公簿の修正及び土地に関する基礎資料となしうるものである。従って,右請求及び認証は,いずれも右成果につき一定の限度でその精度を担保するための制度的保障としての行政庁相互間の内部的行為に止まり,対外的に国民の法律上の地位ないし具体的権利義務関係に直接影響を及ぼすものではない。

(3) 登記簿の変更及び地図の備え付け

地籍調査の成果に基づいてなされる登記は,土地の表示に関する登記及び所有権の登記名義人の表示変更(更正)の登記をいうものである(国土調査法20粂2項,3項及び国土調査法による不動産登記に関する政令((昭和32年政令130号)1条)ところ,これらはいずれも,地籍調査の実施によつて明らかにされた当該土地の現況を前提として,土地の物理的形状等に何らの変動もないままに,これに対応する登記簿の表示の部分を変更するものであつたり,所有権の変動を登記するものではなく単に名義人の表示を現在の表示に合致させるものに過ぎず,これにより直接国民の権利義務を形成しあるいはその範囲を確定する性質を有するものではないから,当該土地についての権利者である国民の法律上の地位ないし具体的権利義務関係に直接影響を及ぼすものではない。また,登記所の登記官は認証された地籍図の写しを不動産登記法17築地図として登記所に備え付けるのである(国土調査法20条,不動産登記事務取扱手続準則28条)が,右地図は地籍調査の成果として当該土地について,その形状,位置関係等の事実状況の把握を目的とするものに過ぎず,これによって実体的に土地の権利関係,境界等を確定する効力を有するものでないから,これまた,当該土地の権利者である国民の具体的権利義務関係等に直接影響を及ぼすものとはいえない。

3 以上の次第で,その余について判断するまでもなく,本件各訴えはいずれも訴訟要件を欠き不適法であるから,これを却下し,訴訟費用の負担につき行訴法7条,民事訴訟法89条を適用して主文のとおり判決する。

 

 

前橋地方裁判所 

 〈第2審判決〉理  由

1 当裁判所も控訴人の本件各訴えは不適法として却下すべきものと判断するが,その理由は,原判決の理由説示(原判決9丁表2行目冒頭から同11丁表10行目末尾まで)と同一であるから,これを引用する。

2 よつて,その余の点について判断するまでもなく,本件各訴えはいずれも訴訟要件を欠き不適法であるから,右各訴えを却下した原判決は相当であり,本件各控訴は理由がないので棄却することとし,控訴費用の負担につき民訴法95条,89条を適用して,主 文のとおり判決する。

東京高等裁判所第14民事部 

 

 

○地籍調査の成果に関する損害賠償請求事件

 

(宮崎地方裁判所昭和62年11月30日判決)

 

被告佐土原町の担当職員の過誤によって,本件土地について結果的に実際の面積より200平方メートルも多い地積の表示が登記簿になされ,原告及び訴外金庫は右公簿上の表示を信じ,その担保価値を評価したうえ右土地上に根抵当権の設定を受け,また,原告において右土地を買い受けたものであるが,登記簿における地積の記載は土地の物理的な現況を公示し,不動産の同一性を識別する機能を有するものであるが,不動産登記制度における沿革的,組織的制約等により右記載が現実の地積と必ずしも一致しないことは公知の事実であり,他方,不動産の物理的な現況については,これを取引しようとする当事者において,当該時点におけるそれを容易かつ最も正確に把握することができるのであるから,一般に土地を買い受け,あるいは土地上に担保権の設定を受けるときは,適切な買受け価額若しくは担保価値を把握するために関係当事者間において当該土地を実測するのが通常であつて,たとえ公簿上の地積表示が国土調査の成果によるものであつたとしても本質的な差異はなく,原告らにおいて本件土地を実測さえしておれば,直ちに実際の面積と公簿上の地積表示が相違することが判明していたのである。したがって,原告主張に係る損害は原告らが自ら当然なすべき右土地の地積測量を怠った結果によるものというべきであるから,被告佐土原町に右のような過誤があつたとしても,それと原告主張に係る損害との間には相当因果関係はないものとしいわねばならず,その余の点について判断するまでもなく,原告の被告佐土原町に対する請求は理由がない。

 

 

○地籍調査の成果に関する損害賠償請求事件

(宮崎地裁昭和62.11.30判決の控訴審)

 

(福岡地裁宮崎支部平成元年3月27日判決) 

 

被控訴人佐土原町は,国土調査法による地方公共団体が行う事業計画に基づき,昭和4512月から昭和463月までの間に,本件土地を含む土地の地籍調査を実施したが、その実地調査による測量結果によると、本件土地の実測面積は413.32平方メートルであつたこと、しかるに右調査結果に基づき地籍簿を作成するに際し担当職員において、本件土地ににつき地籍簿の「地籍調査後の土地の表示」欄の「地籍」欄に誤って「613.32平方メートル」と記載したこと,その後右地籍簿は一定期間閲覧に供されたが,当時の所有者訴外杉本盛義から異議の申出がなかつたこともあり,右地籍簿上の誤記が発見されないまま宮崎地方法務局佐土原出張所に送付され,その結果同出張所は,昭和4810月1日,本件土地の登記簿の地積を「国土調査による成果」を原因として「613.32平方メートル」と変更登記をするに至つたこと、以上の事実が認められ、これを左右するに足りる証拠はない。

右事実によると、被控訴人佐土原町の担当職員において、その職務を行うにつき過失があつたことは明らかというべきであるから,右過失に起因して第三者に損害を発生させた場合には,披控訴人佐土原町は国家賠償法1条1項により,その損害を賠償する責任があるものといわなければならない。

                    

 

○地籍調査の成果に関する損害賠償青求事件

 

(神戸地方裁判所平成2年1月25日判決) 

 

登記簿の地積の表示と実際の地積とが一致しない現状にあること,執行裁判所が競売の目的物である土地について,実際の面積(範囲)を調査確定して表示することは,手続の迅速な処理を妨げることとなり,時間的,経済的制約のある競売手続においては不可能で゙あることなどを考えあわせると,不動産競売において競売の目的である土地の登記簿上の記載の面積表示は,特別の事情がない限り,地番などの表示とともに,単に土地を特定表示するための方法に過ぎないものであつて、その土地が公簿上の面積を有することまでを表示するものではなく、このことは、たとえ競売の目的である土地の表示が国土調査の成果によるものであつたとしても基本的に異なるところはないというべきである。

 

 

○地籍調査の成果に関する損害賠償請求事件

(神戸地裁平成2.1.25判決の控訴審)

 

(大阪高裁平成2年11月16日判決) 

 

本件土地の実測面積(地籍調査の成果による)は公簿面積より714平方メートル少ないので,本件競売はいわゆる数量指示売買に当たるなどとして,その不足分の損害賠償を求めている事案である。

確かに,土地の読売において,目的物件を評価するに当たり,その面積が幾らであるかということは欠くことのできない事項であるから,目的物件の面積が正確に表示されることが望ましいことはいうまでもない(民事執行規則30条1項5号イ参照)。しかしながら,現実には境界が不明確であるなど目的物件の面積を正確に把握することが困難な場合もある上,競売手続における時間的,経済的制約を考慮すると,すべての目的物件につきその範囲を確定して厳密な測量を行うことが不相当であることも見やすい道理である。

本件競売において,評価人の被控訴人○○は,各土地の平方メートル当たりの単価を決定した上,本件土地の面積が公簿と同じ又はほぼ同じであるとして,右単価に本件土地の公簿面積を乗じて個別の評価額を算出し,執行裁判所は,右個別の評価額を合算して最低売却価格とした。

しかし,このことは本件土地の最低競売価格を決めるための評価額の算出過程上,その公簿面積が当該金額決定の基礎とされたことを意味するに過ぎないのであって,他に特別の事情がないかぎり,これにより目的物件につき実際に一定の面積があることまで表示したものと解するのは困難である。結局,本件競売における控訴人主張の本件土地の公簿面積と実測面積との違いによる危険は,買受人である控訴人が負担すべきものというほかはない。

(参考) 控訴審においては,控訴人から地籍調査の成果に対しては積極的な主張がなされず,主に地籍調査成果を基礎として競売価格を決定したとされる鑑定人及び執行裁判所に対して主張されている。


第7章 知っておく必要の
ある資料
     
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