7章 おわりに

7.1 座標混乱

今回の検証からも解るように、過去の座標値と自分の観測した結果の座標値を単純に比較して、そのままの値を差(誤差)として判断してはならない。

自分の観測方法による観測値のみが正解である。また高い精度を得たということだけで正解と考えるのなら、本来同一点でありながら、観測者が相違するということだけで別々の値をもつことになる。

結果的に現地の筆界点は明確であるが、その筆界点を表示する数値が複数存在して、どの座標値がどの位置を示すか解らない座標混乱地域となってしまう。

過去の座標値による管理と、時代の要求に対応するための精度追求による間で、土地家屋調査士が悩まされている問題である。

鷹子17条地区では、このようなことが起きないようにと1点1座標で数値管理を行っている。

これは譲ることの出来ない大原則である。

 法17条地図作成当時から移動のない同一点であるかどうかの確認について、統一され基準に則った測量方法により観測を行っているか。当時と使用した与点が相違していないか。また、与点に異常がないかどうか。これらを考慮せず単純な数値のみの比較となっていないかどうか。

 既設図根点の亡失により新設図根点を設置した場合、設置方法等の条件の相違による位置(座標値)のズレ等の合理的な調整の後、移動の無い同一の筆界点で間違いのない場合、座標値のズレ(誤差)についてどの程度を同一点としてよいか。

 現在の社会情勢と、誤差に関する感覚は土地家屋調査士の考えている以上に現実的である。

単純に地図の精度区分の公差ではなく、その3分の1の平均二乗誤差の範囲内でさえも解決しない場合が多い。

数値管理されている地図について、公差範囲の中の最適な値を決定することも境界の専門家としての土地家屋調査士の努めであり、公図地区の筆界点に対する通常の資料収集・調査と同様に、数値的資料と現地調査により土地家屋調査士の専門家としての高度の判断が求められている。

当然、現地には、筆界点位置を明確に表示する不動標識を土地家屋調査士の信頼性のためにも、境界位置を明示する証拠として設置しておくことは絶対的な条件である。

 

7.2 維持管理規程

検証を行なった鷹子17条地図は、法務局作成の法17条地図ということもあり、数値法そして筆界点には全点不動標識が設置され、図根多角点や地図の維持管理規程もあり法務局に数値管理されているという恵まれた地図である。

地籍図17条地図には図根多角点の維持管理規程は無く、さらに地図自体の維持管理規程も存在しない。

これは法17条地図を備え付けている側の不備なのか、専門家である我々が、強く提言しなかった為なのか不明ですが、今後我々土地家屋調査士が提言しなければならないことの一つである。

 

7.3 補足

5.2の固定と変換については、何故固定する必要があるのか、変換したままで比較を行なえば良いと考える方も多いと思う。だが、5章で説明しているとおり変換を行なった集団と新設(改測)図根点の集団で座標値の相違が生じている。

この相違する中身をよく観察すれば、同一方向に同一の量が全体的にズレているものがある、これはTKY2JGDによるパラメータ変換が、個別の条件に細かく対応出来ていないための相違である。

このズレについては、移動の恐れが無く、しかも正確と思える1点に注目して、どの程度相違しているか調べて、片方の集団(パラメータ変換を行なった集団)に対して判明したズレの量を全体的に移動して合わせてやればよい。

つまり、単に片方の集団の座標値がゲタを履いているだけと考えれば良いと思う。この作業を行なった後に本来の相違する量がみえてくる。

同一点を考え、ゲタの量を導き出す(現実には現況測量の後、複数の点から推定する)方法は、法17地図地区で業務を行う土地家屋調査士達の間では経験に基づきさまざまな工夫がされている。

現実に図解法による地籍図17条地図では、図根多角点が亡失して新設図根点を作成した場合の境界復元についても、この手法により位置誤差の範囲内に復元出来る場合が多い。

また、2章の図根多角点の復元については、厳密に言えば図根多角点の復元は不可能である、すべて新設図根多角点を設置するか改測を行なうべきであるというご指摘も当然あるだろう。

通常の法17条地図であれば、新設図根点を設置した場合、その図根点の座標値を使用して、より正確な境界の座標値により地積測量図を作成して登記に反映すべきと考える。

しかし、今回の検証の対象となった鷹子17条地区は境界の座標値が法務局により数値管理がなされており1点1座標の原則で処理されている。5章の検証でもわかるように、新設図根点を設置して使用するためには、既設の図根多角点や境界点の座標値の整合性をとるために、かなりの手間隙と調整を行うための知識が必要である。

これを一筆地の分筆等の依頼で出来るのかどうか、経費負担の問題、そして土地家屋調査士だけが鷹子17条地図の土地表示登記業務に携わっているのではないという現実的な問題がある。

維持管理を容易にするために図根多角点の復元を行なわざるを得ないという特殊事情(必要悪なのか)も生じている。

ただし、復元を行なった図根多角点を使用の際には、必ず近隣の図根多角点を多数観測して、確認するよう指導がなされている。

 

7.4 感謝

昭和62年に愛媛会の会員全員が参加した鷹子17条地図作成作業、そして今回の検証作業にも多数の会員の参加を得ました。

地元の方々には法17条地図の重要性と図根点の大切さは十分浸透しており、我々土地家屋調査士に対する評価も高いものがあります。そのため住民の方から図根点の維持管理作業中や今回の検証作業中にも多くのねぎらいの言葉をいただいた。

これは法17条地図条地図作成作業にあたって、当時の土地家屋調査士達が真摯な態度で作業に従事した結果である。

また、鷹子17条地図図根点検証を通じて、現在の愛媛会の基礎を固められた先輩諸氏の熱い思いを実感した。

改めて先輩諸氏、検証に参加頂いた会員、そして地元の方々に感謝して報告を終了する。

第6章 鷹子17条地図
図根多角点検証
     
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