第1章 鷹子17条地図概要 検証の対象となる鷹子17条地図について、当時の愛媛県における一般的な土地家屋調査士業務の内容にふれながら、鷹子17条地図作成の過程について説明する。 昭和62年度の法務局法17条地図作成事業として松山市鷹子地区が選定された。当時の地区の概要は次のとおりである。 実施地区の地域区分 市街地53.4% 準市街地26.0% 農耕地20.6%である。 実施地区の面積など 約1.11ku 筆数3,060筆 所有者約1,150名 特 徴 内旧軍用地(飛行場用地)の0.13kuが地図混乱地域 (筆数約255筆、所有者約135名)として存在。 地図混乱の解消策 地域を集団和解方式により解決 登記法17条地図 数値法 筆 界 標 識 「筆界点全点に不動標識を設置」 同時に土地家屋調査士会も全会員が参加する研修事業として実施したものである。 (今も鷹子地区に残る17条地図作業当時のたて看板)
1.1 図根三角点 図根三角点6点 昭和61年10月17日〜62年4月22日 計画期間 延日数8日 延従事者24人 作業期間 延日数18日 延従事者177人 与点の三等三角点鷹ノ子、星岡、高井、四等三角点原、平井、向井を使用しH型により図根三角点A1(鷹子町グランドの南西隅 地中標) A2(鷹子病院の屋上) A3(市役所久米支所屋上) B1(久米小学校屋上) B2(市道 地中標) B3(久米窪田ゴルフ練習場池土手 地中標) の6点を作成した。
1.2 図根多角点 計画期間 延日数3日 延従事者18人 作業期間 延日数18日 延従事者256人 実施にあたっては昭和61年4月から準備を行い昭和63年3月に成果品を法務局に納入している。県内の各支部から図根点班員を選抜して、基準点測量を行ったが、多くの班員にとって観測方法、各種の補正計算、いずれも未経験の作業であった。 1次路線 17路線 2次路線 32路線により計399点を結合多角路線により作成 図根多角点測量については甲2精度で納品されているが、自主目標を甲1精度として倍角差30秒、観測差20秒を制限値としている。 図根多角点測量においては昭和60年当時普及しはじめた一体型光波測距儀を使用して器械高、視準高を同一にして水平角2対回観測、鉛直角1対回観測、そして距離は斜距離の2セットの観測。 ※ 基準点測量では当たり前のことも当時の愛媛会の土地家屋調査士にとっては全く経験のない作業であった。最新型の一体型光波測距儀により、斜距離と水平距離をボタン表示で切り替えることが出来るようになった時期でもあったことから、便利さだけに気をとられ、観測にあたって斜距離を観測する意味が明確でなかった会員も多い。 境界確認は計画機関である法務局が立会を行い、作業機関である土地家屋調査士会も立会の補助を行う者として携わった。 境界点の仮位置には黄色、決定した境界点には赤色のスプレーを使用することにより、境界点の決定状況を明示した。 全点不動標識を目標に掲げ境界にはコンクリート杭5280本、鋳鉄杭326本、金属標6830枚を設置して一筆地の決定を行った。
不動標識には、番号の重複を避けるため、あらかじめ連続番号を印刷したシールの貼付を行い、シールに記された番号を境界点番号と定め、公図を基礎にした一筆地全部の境界点の番号および標識の種類の記載された素図が法務局職員・土地家屋調査士の協力により作成された。
※ 愛媛会において、主に法定外公共用財産の立会いについて、裁判上の争いになった時の当事者適格などの問題を理由として、土地改良区等の機能管理者だけではなく、財産管理者の立会いとその境界証明書交付受領へと強硬に会員指導を進めており、この機会に県や市の管理係の立会いを直接経験することが出来たのは、法務局職員・土地家屋調査士にとっても有益であり、全会員に実技指導を周知することが出来た。その効果として現在の境界確認方式が一気に県下に浸透した。(愛媛会では、これを境に、地積測量図への境界確認番号の記載の義務化、準拠点の記載要領、境界標識の改良、境界点などの詳細図励行など境界復元を命題にして地積測量図の高度化が急速に進行した。)
1.4 一筆地測量 一筆地測量については、鷹子地区を1〜16の工区に分け、県下6支部の受け持ち工区について、支部の構成人数等を考慮して西条支部(8、9、10)、今治支部(11、12)、松山支部(1、2、3、4、5、6、7)、大洲支部(13)、八幡浜支部(14)、宇和島支部(15、16)とした。 また、公共座標での測量であるため、後視点、器械点の2点に図根多角点を使用しての観測を義務づけた。 一筆地素図を持参して、図根多角点名称、境界点番号により境界を確認の後、一筆地の境界点にはピンポールとミラーを三脚等で固定した後、1対回観測を行った。 受け持ち地域の一筆地を観測終了後、各支部では受け持ち地域全体の一筆地の図化をそれぞれに行い、再度現地での結線の確認、境界点間を結ぶ辺長について、実測と計算辺長の差が許容範囲外のものは再測量を行うこととされていたが、現実には各支部の判断で1センチ以上のものは再測量が行なわれたようである。
※ 鷹子地区の地図作成にあたり、当時の研修担当者は事前に各支部を巡回し、当時の土地家屋調査士にはほとんど経験の無かった観測方法(水平角の2対回観測、鉛直角の1対回観測)について研修を行った。
※ 一筆地の観測についても水平角観測については1対回観測を行い、図根多角点を実際に利用したことにより、公共座標による測量とは、法17条地図地域での測量はどうあるべきかについて、平板測量の感覚をそのまま移行しての任意座標による局地的な測量が主であった当時の土地家屋調査士にとって大きな転機となった。
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