三斜法による測量図からの復元2

形状が明確でなく,面積計算に使用した数字からの復元

分筆申告書の図面のように,底辺や高さのみ記載されているが,縮尺が明確でなく,形状は手書きの見取り図的なものはどうしようも無いと諦められているようです。

そこで20年前,いや,30年前になるかもしれませんが,三斜法を利用していた当時に立ち返って,どのような計算や面積計算をしていたか頭のトレーニングがてら考えてみましょう。(図1)のような土地について,説明の都合上,屈曲点(境界点)に適当な記号a,b,c,d,eを付けて説明しますが,明確な位置という意味ではありません。

点cと点eの位置には,隣家との境界として昔から残る境界石がありますが,他の境界点a,b,dには何も無く,境界位置は不明です。

 














 不動産登記のための測量実務 (法務省民事第三課編) 昭和47年6月10日発行から


 三斜法

 求積する土地の区画を三角形によって区分し,乗線 h と底辺 a によって面積を求める方法で,計算式は

1/2 × a × hで示される。

 (a) 留意事項

  (i) 三斜区分の要領

   @ 底辺と高さの比は1:3から3:1以内におさめるようにすること。

   A 垂線の足が三角形の内部にくるようにとること。

   B 区分三角形の数が最小になるようにする。

   C 底辺を共有する三角形をなるべく多く作る。

  (A) 定規縁が正しく直線になっているものを用いる。

  (B) 鉛筆は,鉛筆芯が紙面に垂直になるように保持し,定規縁に正しく添えて用いるようにする。

  (C) スケール(ミリ尺)の検定公差は  1/2,000〜1/300のものであるので,外業に使用したスケール(ミリ尺)を内業にも使用するようにする。 

(♭)三斜計算法

図上距離を読み取り,実長に換算し,区分された三角形ごとに面積を計算し,その値を合計して求める。

 

 以上,不動産登記のための測量実務 (法務省民事第三課編) 昭和47年6月10日発行より

(ア)測量図に記載されている数値のみで復元出来る場合

調査をしたところ,この土地について昔作成された(図2)の分筆申告書図面がありました。平板測量で作成されており,その図面は底辺と高さのみが表示されています。使用されている距離は,平板測量の成果から距離を読み取って記載されたものと思われ,読み取りの単位は5p単位のようですが,形状は明確ではありません。

 

 現地のa,b,dとされる位置には何も無く不明です。そこでcの位置を中心にして,それぞれの境界点a,b,dの位置を明確にすることを考えていきます。三角形の三辺全部の距離が明確になれば,位置の特定は出来るのではないでしょうか。

 まずは境界点cのある区分三角形㋐ から考えていきます。

㋐の単独の面積は (8.55 × 5.25)×  ½= 22.44375 です。

 点cの位置から,点bの位置は8.55mの位置,点aの位置は底辺cbに対して,直角に5.25m離れた位置ということだけは解りますが,それ以上のことは残念ながらわかりません。縮尺どおりに作成された地積測量図であれば,その地積測量図から辺acと辺abの距離を測りだせば良いことになりますが,ここでは,距離を測り出すことも出来ません。

 そこで,(図4)のように隣の区分三角形㋑との組み合わせで考えます。区分三角形㋐,㋑を組み合わせて考えると,区分三角形㋐の辺abの距離が7.30mとなっています。区分三角形㋐においては,2辺が明確になりました。辺acが解ればこの区分三角形で表示されている位置関係が解ることになります。高さ5.25mと表示されています。境界点aから底辺cbに対しての垂線が5.25mということになります。

ここで,点a,点dから垂線を下ろした交点をそれぞれ@Aとし,点bから@までの距離をX1,点bからAまでの距離をX2とします。区分三角形は高さを共有した直角三角形2つが一緒になったものですから,

  

 
@の位置からbの位置までをx1とすると,三角形a@bは直角三角形ですから,ピタゴラスの定理を利用して,I1の距離を求めます。

   I1==5.072228307となり,小数点第3位を四捨五入して5.07mとすれば,辺bcの残りの距離は8.55m−5.07m=3.48 mとなります。

そうすると辺acも同様に となり6.30mです。

 三辺法(へロンの公式)で面積を確かめてみましょう。

     

       から,

     s=(8.55+7.30+6.30)/2=11.075

     =22.45162215

三斜法による面積が22.44375ですから,ほぼ一致しているといって良いでしょう。 

今度は(図5)のようにして,区分三角形㋑で考えると,先ほどの区分三角形㋐単独で考えた時と同様です。そこで他に利用出来る条件がないか探すと,三角形㋒で辺dbについて距離7.15mが記載されています。

先ほどと同様にして,三角形㋑の辺adを求める事にします。

 

 ここでもピタゴラスの定理を利用します。@の位置からbの位置までをx1とすると,

   I1==5.515435893となります。四捨五入して5.52mとすれば,辺bcの残りの距離は7.30m−5.52m=1.78 mとなります。

そうすると辺adも同様にとなり4.89mということになります。再び三辺法(へロンの公式)で面積を確かめてみましょう。

     

     

から,

     s=(7.30+7.15+4.89)× 1/2=9.670

     =16.61504909

区分三角形㋑の三斜法による面積が16.6075ですから,区分三角形㋐と同程度の誤差ですので,一致しているといって良いでしょう。

 

区分三角形㋐と区分三角形㋑で示された境界の位置関係については,大体が解りました,最後の区分三角形㋒はそれ自体が直角三角形になっています。

辺ebはとなり8.68mということになります。

(図5)において,点cの位置を(0.000,0.000)とします。(図5)には@からIまでの必要な角度がありますが,それらの角度が解れば,区分三角形の辺長の距離は解っていますので,それぞれの点a,点d,点bそして点eの座標値を求めることが出来るのではないでしょうか。

そこで点cを原点(0.000,0.000)として,区分三角形の㋐の底辺である辺cbをY軸と同一と仮定すれば座標平面が出来あがります。


 

そこで@からGまでの角度をそれぞれ計算してみます。

@は @=sin-1(5.25/6.30)で@は56°26′33.68″となり,56°26′34″です。

 Aは90°−@で33°33′26″です。

  Bは B=sin-1(5.25/7.30)でBは45°59′11.99″となり,45°59′12″です。

 Cは90°−Bで44°00′48″です。

  Dは D=sin-1(4.55/4.89)でDは68°30′29.71″となり,68°30′30″です。

 Eは90°−Dですので,21°29′30″です。

 Fは F=sin-1(4.55/7.15)でFは39°31′16.31″となり,39°31′16″です。

 Gは90°−Fで,50°28′44″です。 

 Hの角度は90°です。

 Iは I=tan-1(4.90/7.15)でIは34°25′24.29″となり,34°25′24″です。

 Jは90°−Iで55°34′36″です。

 ここで,

 @=56°26′34″

 A+C+D=33°33′26″+44°00′48″+68°30′30″=146°04′44″

 E+G+H=21°29′30″+50°28′44″+90°0′0″ =161°58′14″

 B+F+I=45°59′12″+39°31′16″+34°25′24″=119°55′52″

    J=55°34′36″

5角形cadebの内角の和は

56°26′34″+146°04′44″+161°58′14″+119°55′52″+55°34′36″

=540°0′0″ となり,計算に間違いはないようです。

 点cの座標値を(0.000,0.000)として,ここで方向角を求めます。

点dに向かって

点cでの方向角は 90°−56°26′34″= 33°33′26″

点aでの方向角は 360°−(A+C+D)= 213°55′16″が観測角になりますので

         33°33′26″+213°55′16″−180°= 67°28′42″

 点bでの方向角は 360°−(E+G+H)= 198°01′46″が観測角になりますので

         67°28′42″+198°01′46″−180°= 85°30′28″

 点cから点aまでの距離は6.30m,点aから点dまでの距離は4.89m,点dから点eまでの距離は4.90mです。

 そうすると点aの座標値は

   X=6.30×cos33°33′26″+ 0.000 = 5.250

   Y=6.30×sin33°33′26″+ 0.000 = 3.482

点dの座標値は

   X=4.89×cos67°28′42″+ 5.250 = 7.123

   Y=4.89×sin67°28′42″+ 3.482 = 7.999  となります。

点eの座標値は

   X=4.90×cos85°30′28″+ 7.123 = 7.507

   Y=4.90×sin85°30′28″+ 7.999 = 12.884 となります。

点bに向かって

点cから点bへの方向角は 90°になり,

点bから点eに向かっての観測角は(B+F+I)=119°55′52″です。

点bでの方向角は

   90°0′0″+119°55′52″−180°=29°55′52″です。

点cから点bに向かっての距離は8.55mです。点bから点eの距離は8.68mです。

 そうすると点bの座標値は   X=8.55×cos90°+0.000= 0.000

                Y=8.55×sin90°+0.000= 8.550

点eの座標値は        X=8.67×cos29°55′52″+0.000= 7.513

                Y=8.67×sin29°55′52″+8.550=12.875

点eの座標値を両方から求めましたが,

点d経由で求めた座標値 (7.507,12.884) 点cからの距離 14.911m

点b経由で求めた座標値 (7.513,12.875) 点cからの距離 14.907m となりました。

どちらを使用するのか,現地に残る点cと点eの実測距離は14.919mでした。2つの値の算術平均値を使用するのか,いずれにしても復元という意味では満足出来るのではないでしょうか。

 (イ)現地に残る点と測量図記載の数値を利用しての復元

それでは,点eの位置がこのような場合はどうすればよいのでしょうか。点cと点eは現地に残っており,その実測距離は13.971mでした。


ここからは,もうパソコンを利用しましょう。電卓で小難しい計算をするよりも,眼で見ながら画像で処理の出来るCADを利用します。先ほどの例と同様区分三角形㋐,㋑について,点a,b,c,dの座標値を求める事が出来ますので説明を省略します。そこでCAD上で点d(7.123,7.999),点b(0.000,8.550)を結ぶ辺dbに対して,高さの距離として表示されている4.90mの誤差範囲である4.88m,4.90m,4.92m幅の3本の平行線を引きます。




点cと点eは現地に残っており,現地での距離は13.971mでしたので,点cを中心に半径13.971mの円を描きます。

そうすると,4.88mから4.92mの平行線の間に半径13.971mの円の外周が15p程の距離で交叉しています。点eの位置と求積している土地との関係から,このあたりになるということが解ります。

そこで,高さの距離として記載されている4.90mの平行線と,半径13.971mの円との交点の座標値をCAD上で求めてみると(4.893,13.086)でした。

 本来の点eの位置は(4.805,13.119)であり,現実には4.92mの平行線と13.731mの円の交わる位置(4.825,13.111)がほぼ正解となる場所でしたが,宝くじのようなもので,自分の判断で4.90m丁度の位置を選びましたので,結果的に0.09m程の位置誤差となりました。どの位置が正しいのか解らない訳ですから,ここは自分の決めた位置が正しいと思うしかありません。

これまでの条件に何かが追加されれば,これまでの過程の中で1p単位で組み合わせを変えながら試行錯誤してみれば,より正確なものになります。 

(ウ)再び測量図の数値のみで復元する

ここまできましたので,もし辺deの距離5.60mが記載されていたとしたら,どのようになったのでしょうか。(図6)の状態で辺deの距離5.60mの記載があったとして(図9)のようにして計算してみます。


   I1=となり,小数点第3位を四捨五入して2.71mとすれば,I2の距離は7.15m−2.71m=4.44 mとなります。

参考までに辺Dは となり6.61mです。

Hは H=sin-1(4.90/5.60)ですから

Hの角度は61°02′41.91″となり,61°02′42″です。

ここで点dから点aを後視点としての観測角は360°−(E+G+H)=226°59′04″

点aから点dへの方向角が67°28′42″ですから,これから点dから点eへの方向角に直すと,

67°28′42″+ 226°59′04″−180°=114°27′46″となります。

 これから,点eの座標値を求めると,

  X=5.60 × cos114°27′46″+ 7.123 = 4.804

  Y=5.60 × sin114°27′46″+ 7.999 =13.096

             点cからの計算距離 13.949m

これを確認のために点bから計算してやれば

Iは I=tan-1(4.90/4.44)ですから

Iの角度は47°49′10.45″となり,47°49′10″です。

ここで点bから点cを後視点としての観測角はB+F+I=133°19′38″となります。

点cから点bへの方向角が90°0′0″ですから,これから点bから点eへの方向角に直すと,

90°0′0″+ 133°19′38″−180°=43°19′38″となります。

 これから,点eの座標値を求めると,

  X=6.61 × cos43°19′38″+ 0.000 = 4.808

  Y=6.61 × sin43°19′38″+ 8.550 =13.086

             点cからの計算距離 13.941mとなりました。

 どちらの位置が正しいのか,どのように判断すれば良いのでしょうか。

点cから点eへの実測距離は13.971mでした。これを参考に各点の値を1p毎に修正して試行錯誤しながら決める事になるでしょう。

高さ4.90mと表示されていても,5p単位の表示方法であり,四捨五入の関係から4.88mから4.92mの範囲はすべて4.90mで表示されています。これは他の区分三角形で表示された距離も同様です。それぞれの底辺と高さに同様の範囲を示す誤差があり,そこから導き出された距離にも誤差があります。

今回の計算に使用した土地は都合の良いものだったかもしれません。読み取りの数値にも作成者の癖とも言える部分があり,これを根気よく試行錯誤を繰り返しながら解析する事も必要になります。また,特徴のある地形を利用することで特定出来る場合もあります。更に,隣接している土地の測量図を組み合わせることにより明確になる場合もあります。条件が整うほど正確になっていきます。

しかし,元の測量図以上の精度を求めることは出来ないことも事実です。今回の例ではうまくいきましたが,全く駄目な場合もあります。以前の測量が正確であったかどうか,測量図中の三角形の選び方にも大きく左右されます。現に(図10)のような場合は計算する事が出来ません。

 三斜法で盛んに測量図が提出されていた頃は,距離の表示を行う底辺・高さの組み合わせを,自分の行った業務を他人に知られたくないので,わざと復元の出来ない組み合わせをするというような事もお酒の席では話題になっていました。

 (エ)測量図の数値と地形を利用して復元する

もう一度(図10)の条件で,点cは残っています。ただし点aから点cの境界を含む線上には㋐のコンクリート構造物,点bから点eの境界線を含む線上にも㋑のコンクリート構造物があります。測量図に記載されている点cからの距離10.75m点dの位置,点cから13.95mの距離の点eの位置には何もありません。

 しかし点dからの垂線3.95mから

  少数第3位を四捨五入して10.00m

    13.95m−10.00m=3.95mとなり

点dから点eまでの距離は  少数第3位を四捨五入して5.59mは解ります。

 点cを中心として半径10.75mの円Ⓐ,半径13.95mの円Ⓑをそれぞれ描き,㋑のコンクリート構造物と13.95mの円の交点を仮の点eとします。更に仮の点eから半径5.59mの円Ⓒを描きます。その5.59mの円Ⓒと,点cを中心とする半径10.75mの円Ⓐの交点を仮の点dとします。




これで現地に残る点cから仮の点e,点dを一応推定することができました。これから(図11)で示すように,この仮の点e,点dを利用して進めていきます。

測量図には高さの記載があります。底辺ceに平行な線で3.95m離れた上側の線を@線,底辺ceに平行な線で2.95m離れた下側の線をA線とすれば,@の線と㋐の線が交叉します。その点を仮のa点とします。Aの線と㋑の線が交叉します。その点を仮のb点とします。

仮の点a,仮の点b,仮の点d,仮の点eが推定できました。しかし,この仮の点については2つの組み合わせの条件や順序を変えれば,数値が異なってきます。

例えば,点cからの半径10.75mの円Ⓐと点eからの半径5.59mの円Ⓒの交点位置と,辺ecに3.95m幅に上側にとった平行線@線と円Ⓐ(または円Ⓒ)との交点位置は相違していることが解ると思います。

この異なる事になった原因は,記載されている数値が0.05mの幅を持っている事が大きな原因です。



今度は仮の点を現場に合致するように,細かく条件を設定して再度計算していきます。具体的には最初の点cからの距離を半径10.75mとして測量図記載のとおりの距離としての条件で計算しましたが,10.77mから開始する場合と10.78mで開始する場合,仮の点4を計算するための組み合わせを行う順序。極力間接的な数値の使用が少なくなるようにします。表示された数値幅の条件を変えながら,現地に一番合う条件を試行錯誤して探っていくことになります。パソコンが発達したおかげで人間の目で微妙な調整の判断をしながら,条件を整えていくことが出来るようになりました。CADの得意分野です。

ただし,この場合でも最初の測量図記載の数値で行った場合に,とんでもない誤差が出てしまった場合の復元は難しく,それ以上の試行錯誤は不要と思われます。

 (オ)他の測量図を利用する。

同時に隣接地も分筆してあれば,その隣接地の測量図と組み合わせることにより,復元の手掛りが生まれる場合もあります。特に官公庁の代位による用地測量のような場合は注意しておく必要があるでしょう。

無駄であっても,土地家屋調査士は専門家として確認しておく必要があります。

第5章 地籍調査地区でも
知っておきたいこと
     
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