三斜法による測量図からの復元1
地積測量図を作成する方法として,現在では観測方法はTSで,求積方法は座標法が主流となっています。お客さんの要望により,素人にも解りやすい方法でということで,三斜求積をする方もTSで観測後,座標法での面積計算の後,三斜求積をおこなっていると思われ,平板測量での三斜求積といってもピンとこない方も多いと思います。その様な方の為に,三斜法により提出された過去の測量図について考察していきたいと思います。
この提出された測量図にも,大きく分けて二通りあります。 @記載されている数値については,測量されて得られた値であるが,縮尺の記載が無く,形状が適当に作成されているもの。 A縮尺の表示があり,縮尺どおり,正確に製図されているもの。 Aは法務局に残る地積測量図,@は分筆申告書の測量図と大きく区別する事が出来ます。しかし,Aの法務局に残る地積測量図でも,時代によっては怪しげなものもあり,単純にこの様な区分は適切ではないと思いますが,取りあえずここではそのように区分しておきます。 (図1)の測量図を使用して現地を復元する方法をそれぞれに復習していきましょう。
@縮尺の表示があり,縮尺どおり,正確に製図されているもの。 現地が全く解らない場合であれば,この測量図ではどうしようもありません。しかし,いずれかの境界点が残っていれば,なんとなります。
(ア)平板による復元 仮に点dと点bが現地に残っているとすれば,平板測量を経験されている方にとっては簡単な復元になると思います。残っているいずれかの点に平板を据え付けて(到心),もう一方の点を整準して図形を固定(定位)してやり,その後図形を拡大した方向に復元点までの距離(図形の縮尺により読み取りした距離)をとれば復元が出来ます。平板測量を経験されていない方でも,形状が明確ですので,これ以外の現地での巻尺での復元方法やTSを利用された方法で復元されていると思います。 これは,大きく分けて三通りの方法があると思われます。 (イ)図形から距離をスケールアップ・網巻尺 2円の交点の要領で,既知の点から求める点を探していきます。 既知点dから半径5.15mの円と点bから半径6.20mの円の交点aを求めることが出来ます。 既知点dから半径7.85mの円と点bから半径4.90mの円の交点cを求めることが出来ます。 そして求められた交点a,交点cの現地での実際の距離と図上距離の8.85mについて比較確認することが出来れば,正しく復元出来たか否かの確認になります。
(ウ)測量図から座標を読み取り復元 作成されている測量図に,その測量図が作成されている 座標化された境界点の2点間の距離を計算して,後は(イ)と同様の処理を行い現地で復元する。 (エ)読み取り座標と現地の座標を使用 (図5)のようにして,任意の観測点TP1(20.000,20.000)から現地に残る境界点を現況測量とともに観測し,その観測値を座標化。(ウ)と同様にして測量図に示された境界点の座標値を得る。
ここで,(図5)と(図4)の点dと点bについては,本来同一の点でありながら,お互いに関連のない座標となっていますので,これからの処理上,どちらかの座標に統一する必要があります。 そこで現地の座標(図5)に合わせることにします。まず(図5)と(図4)の点dは同一のものですので,(図4)の点dを(図5)の点dの位置まで平行移動します。 平行移動量は(16.913−2.052=14.861,18.982−1.574=17.408)ですので,(図4)全体の形状をX方向に+14.861,Y方向に+17.408に平行移動します。ここから(図4)のaを4a,(図5)のaを5aのように表記します。
(図6)のようになりますが,図で解る様にこれでは統一出来ていません。(図6)で4dと5dについては,平行移動することにより同一になっています。しかし,4bと5bについては平行移動しても,まだこのような差があります。 (図4)の形状は(図5)に対してdを同一にした状態で回転がかかっている為です。そこで,この回転の角度を調べるために,(図6)の状態で点4bと点5bについて,同一の座標系の5dからの方向角をそれぞれに計算してみると,(図7)のように
点5bの位置では5dからの方向角は 点4bの位置では5dからの方向角は となります。 (図4)と(図5)の形状の関係では (5bの向角)76°28′31″−(4bの方向角)64°51′13″=11°37′18″となり,点dを固定した場合,5bは11°37′18″だけ4bよりも回転がかかっている事になります。 そこで(図6)のそれぞれの点4a,4b,4cについて,5d(=4d)からの方向角と距離を計算したところ(図8)のようになるので,その計算した方向角にそれぞれ11°37′18″を加えてやれば(図9)のようになり,これで(図4)と(図5)の図形の形状は一致しました。
そうすると, 点4aの座標値は
点4bの座標値は
点4cの座標値は
となります。
4bの平行移動・回転後の点は(18.852,27.043)となり,現場に残る5b座標値(18.857,27.064)と完全に一致しません。 これは,実際の距離と,測量図から読み取った値との相違によるものですが,点4dを点5dに一致させ,点4bまでも点4bに一致させてしまうと,図形を読み取った際の誤差ともいえる歪をそのまま増幅する恐れがあるので,方向のみを一致させたものです。 これは,一筆地を観測する場合でも,観測点に器械を据えて,後視点を0°0′0″として観測開始しますが,その際に点間距離について数o程度の誤差であれば,後視点は異動の無いものとして観測していますので,同一の観測点から観測出来るものは,この方法で良いと思います。 これで,現地の任意座標と測量図から読み取った座標を統一したものが出来ました。現地での観測点TP1(20.000,20.000)と,現地に残る点d(16.913,18.982),または点b(18.852,27.043)との座標値を組み合わせることにより,点a(21.459,21.406)および点c(14.013,26.275)を現地で復元できます。
(オ)ヘルマート変換を利用する こんな面倒な事をやらずに,最初から一気にヘルマート変換をすれば良いと思われる方も多いと思います。先ほどは点5dと点4dを一致させ,点5bと点4bの回転角度のみを一致させましたが,今度は点5dと点4dを一致させ,点5bと点4bも一致させます。 その時に多少の縮小・拡大が生じますが,パソコンで処理する場合には一気に大量のデータの処理が出来ますので効率的です。 しかし,許容誤差であるはずの読み取り時の歪までも変換してしまう恐れがありますので注意してください。 復元という事ですのであまり問題は無いかもしれませんが,パソコン内での計算になり,自分の意図していない思わぬ誤差が生じる事もあります。詳しい説明は省略します。 ちなみに,この例で(図5)の2点に(図4)の2点を一致させてヘルマート変換行った場合の結果です。
ヘルマート変換 1点dを固定し,bの方向角のみ使用 aの座標値(21.471,21.412) aの座標値(21.459,21.406) bの座標値(18.857,27.064) bの座標値(18.852,27.043) cの座標値(14.006,26.294) cの座標値(14.013,26.275) 同一点dの座標値(16.913,18.982) dの座標値(16.913,18.982)
どちらが正しいという事では無く,利用目的に合わせて効率的にご使用ください。ただ使用にあたり,このような違いが生じる事も知っておいて下さい。
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