平均二乗誤差

(精神論的平均二乗誤差)

平均二乗誤差と公差について上手に説明する事が出来ません,以下「絵でみる地籍調査」(山海堂)から引用して説明することとします。 

測量の誤差

ある区間を巻尺を用いて距離を数回測定しますと,各回の測定値は通常一致しません。各回の測定値が一致しないのは,個々の測定値に誤差が付随したものと考えます。

区間の正しい長さ(真値)をXとし,測定した量をLとしますと,誤差ɛは

ε=L−X

で表されます。

一般に,真値はわかりませんので,真値の代わりに,多くの測定値から確率の理論により求めた最確値を用います。

誤差は,その性質によって系統誤差と偶然誤差にわけることができます。

系統誤差は補正できる。

系統誤差は,一般に原因がわかっていて,それに対応して一定の条件では常に同じ方向に,同じ大きさで生じる誤差です。

系統誤差には,目盛りの刻みが正しくない巻尺を用いて距離を測定した場合に生じる誤差などの測量器械固有のもの,温度変化など環境変化によるものなどがあります。

この誤差は,測定数に比例して累積しますが,測定後,理論的に補正する事が可能です。

 誤差論で処理する偶然誤差

偶然誤差は,原因が不明,あるいは誤差の補正方法がない微小な誤差の累積によるもので,正負及び大きさが一定しない誤差をいいます。

偶然誤差は,確率の理論によって処理します。

誤差の分布は正規分布

数回の測定により得られる各々の測定値は,通常,偶然誤差が付随するため一致しません。

この誤差は,誤差の正・負の大きさ横軸,誤差の起きる確率を縦軸にとりますと,正と負を対称とする釣鐘形の分布となります。この分布のことを正規分布といいます。

この分布は,次のような誤差の持つ特徴を表しています。

・小さな誤差は,より大きな誤差よりも多く起こります。

・ある限界を超えるような大きな誤差は,起こりません。

・大きさの等しい誤差は,正・負均等に起こります。

平均二乗誤差

平均二乗誤差(標準偏差ともいう。)は,測定値と真値との差の相加平均の正の平方根をとることにより求められるもので,測定値のバラツキ具合を数量的に表すものです。

平均二乗誤差が小さいほど,その測定精度は良いといいます。

誤差の許容限度は交差

正規分布で表した誤差は,その約68%が平均二乗誤差の範囲内に,99%が平均二乗誤差の3倍までに収まるという性質を持っています。

地籍調査においては,平均二乗誤差の3倍の値を公差といいます。

公差は,測量によって求められた地点の位置誤差の許容限度(最大値)として用いられます。したがって公差を超える誤差は異常なものとして扱い,採用できません。

・・・・・  以上「絵でみる地籍調査」(山海堂)P50,P51から引用しました。

平均二乗誤差の内容について説明ができましたので,ここで,一筆地の境界点の位置誤差で考えます。ここで「当該筆界点のこれを決定した与点に対する位置誤差」という事をもう一度思い出して下さい。

更に,平均二乗誤差・公差についても,(表−1)のように甲1,甲2,甲3,乙1,乙2,乙3と六つに分けられています。この6つについて正規分布(図−2)を比較します。



平均二乗誤差と公差の関係については,公差は平均二乗誤差の3倍の数値です。

精度区分(表−1)をみると,甲1と甲2では平均二乗誤差は2pと7pで3.5倍となりますが,甲2と甲3,甲3と乙1,乙1と乙2,乙2と乙3,精度区分が一つ下がる毎に,平均二乗誤差の値が大体2倍の数値になっているようです。甲1と乙3では,2pと100pですので,50倍の数値になっています。

同一の観測数として精度区分ごとの正規分布の一覧(図−2)を示してみます。厳密な形状を表示すれば,全部を一緒に表示出来ないので概略の形状で表示しています。

精度区分毎に正規分布の釣鐘状の形が大きく変わっていることがわかります。

甲1の背が高く,幅の狭い釣鐘の形状から,乙3の背が低く,幅の広い形に形状が変化していきます。

正確に表示すると甲1はもっと背が高く,乙3はもっと幅の広い釣鐘形の図形になります。

図解法による地籍調査を実施しているような田舎の市街地では地図の縮尺500分の1,地図の精度区分甲3が多く使用されています。これを少し変わった角度から検証してみます。

甲3の平均二乗誤差は15p,公差は45pです。地籍調査を実施する側としては,甲3の平均二乗誤差の範囲にすべての成果が収まるように努力して実施します。

正規分布のように,平均二乗誤差の15pの範囲に68%が収まれば良いと考えているのではなく,平均二乗誤差の15pの範囲に全部が入るように努力しています。

地図を作成する側からすれば,なだらかな釣鐘形の正規分布の形ではなく,平均二乗誤差の15pの範囲中に,観測値が全部入るようにする。これは,(図−3)の網のかかった形を目標に考えているという事でしょう。

現実には,甲3では平均二乗誤差15p,公差45pですが,作成する側の気持ちとして平均二乗誤差15p,公差15pとしていると思えば解りやすいと思います。人間のやる事ですから,これは無理としても,(表−1)からすれば,甲3であれば甲2を,乙1であれば甲2に近い甲3を目指して地図は作られているといっても良いでしょう。

実際には,こんな簡単な事ではありませんが,地図を作成している側の気持ちとしてはそのようになります。地籍調査に従事していた測量士の技術や業務に対する姿勢に直接触れると,そう思わざるを得ません。

このようにして作成された地図に対して,その時代よりも飛躍的に進歩した測量器械を使用した土地家屋調査士の観測値が,単純な比較により地図の精度区分の公差範囲に入っていれば良いとする考え方であれば,それ以上の調査や測量を行う方向にはなりません。

地図を作成した側の意図を汲み取り,「何故,公差ぎりぎりなのか。」という疑問が湧けば,境界を観測した図根多角点が相違する事で起こる「ズレ」の問題は簡単に気付くはずです。

地図を利用して調査・測量する者として,本来実施すべき必要のある調査や測量を実施していれば,いつかそれが当たり前になり,面倒だとか不要な調査・測量とは思わなくなります。

その結果として,境界位置を見落とす事は少なくなりますし,境界に対して慎重になり,不要な境界紛争を生じる事は無くなります。

地籍調査を批判する事は簡単です。地籍調査は既に成果を出し,法14条1項地図(厳密には閉鎖された法14条1項地図)として我々土地家屋調査士の調査・測量をした結果からの批判を待っています。

しかし,専門家の立場で批判するにはしっかりした根拠や証拠が必要です。その根拠を集め,我々は結論を合理的に導き出さなければなりません。業務を行う中で最低限の調査・測量は自動的に行い,その中で疑問に思える事を補足して,調査・測量をする。

 そしてより確実な根拠や証拠を見つけ出す必要があります。決して独りよがりの根拠であってはなりません。誰に対しても納得のできる根拠と,それを見つけ出した方法も明快に説明出来る事が必要です。

これらを最初から全部実行する必要はありませんが,これらを無駄なく取りかかれる土台とも言える最低限の調査・測量を自分の業務の中で,どのように行うか,業務の中の常識としてしっかり身につけておく必要があります。

これは,業務の中で蓄積した経験から習得されるものですが,基本的には土地家屋調査士の「境界の専門家としての信念」なのです。


第4章 地籍図14条1項地図
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