原図を読む

 地図の切れ目付近に所在する一筆地が,何枚もの地図に分属している場合がありますが,法141項地図(以下法14条地図という。)では1筆地の形状がよほど大きくない限り,1枚の地図で表示されることになりました。このことにより,土地家屋調査士が分属表示自体を判断して,地図訂正が必要かどうか悩む事は無くなりました。

 しかし,便利さの裏にはいつも大きな代償があります。

 公図がマイラー化され,地図は見やすくなりましたが同時に色を失い,地図から得られる多くの情報を失ってしまいました。同様に,閉鎖された法14条地図(以下閉鎖14条地図という。)から法14条地図への移行で,すべての情報が移された訳でもありません。地籍図14条地図も,地籍図の原図では無く,副図なのです。地籍図原図からすると情報量のすべてを受け継いでいる訳ではありません。

 そのため法14条地図は地籍図原図からすると,情報量が欠落しています。それはより専門性の高い情報です。

新人の土地家屋調査士が地籍図の原図を見る機会は,あまり無いように思われます。

地籍調査からの流れを上手に継続している市町村であれば,原図は職員の手によって,大切に保護されている事と思います。

逆に過去の地籍調査の資料の保管を負担に思っている市町村も少なくありません。地籍調査実施時から30年以上の時間が経過し,担当であるはずの職員でも,原図がどのようなものか知らない,その保管場所さえ知らない。ひどい場合には役所のどの部署が担当なのか不明という場合もあります。

 原図は法務局に保管されている閉鎖14条地図そのものだと思われているかもしれません。また,市町村の国土調査担当課で,原図の閲覧を求めたところ「これが原図だ」と言われ,副図を見せられ納得された方もいるかもしれません。

閉鎖14条地図は原図では無く,原図が完成された時に11の特殊な写真撮影で正確に複写されたものですが,原図の情報を完全には複写してはいません。原図には原図のみが伝える情報があります。

(1) は現在の法第14条地図です。閉鎖14条地図ではⒶとⒷの地図の2枚の地図で表示されていた部分の分属していた部分に線が入っていますが1枚の表示になっています。この部分でいろいろと比較してみたいと思います。

 (図1) 法第14条第1項地図
円/楕円: A
円/楕円: B

下図の(2)は(図1)の法第14条第1項地図で表示されている接続部分の点線表示のある位置の南半分Ⓑの地籍図原図です。

現地に持参して測量をした鉛筆書きのアルミケント紙に墨入れし,整備・図面の体裁を完成させたものが原図で,それを改めて複写したものが副図と考えて良いと思います。

原図は現地に持参され,平板用紙として測量された結果なのです。その原図を眺めるだけで現地の情報が伝わってきます。原図には外側の図郭線,図郭内の区郭交さ記号(いわゆるトンボマーク),国家三角点の△印や,図根三角点の▽印,図根多角点を表すↀ印そしてその下の石の表示が赤色でそれぞれ表示されています。その現地でしか解らない情報を伝えようとしています。

 (図2) 地籍図原図
 

図根多角点等についても,座標値により手作業でプロットされ,その位置に丸印が記載されています。

アルミケント紙には現地で平板測量の測量用紙として使用した為に,測量点には針の穴の跡があります。更には,墨入れをした後,土地の利害関係人からの申し出等により削って修正した跡もあります。修正した跡があれば,何等かの問題が地籍調査時にあったという事が解ります。

(図2)は原図を写真で縮小していますので,少し解りにくいかもしれません。

一筆の土地が2枚の地図にまたがる場合,閉鎖14条地図では分属して表示されることになります。コピーであれば,閉鎖14条地図でも,原図でも同様に見えます。しかし,原図をみれば測量針の跡を明確に見ることが出来ます。

この測量針の跡が大事な資料なのです。現場での野帳に匹敵する資料でしょう。図根多角点のↀ印の位置でも,○の真ん中に穴が開いていない事もあります。更に,コピーには表示されない削った跡や修正した線を見ることも出来ます。これは何らかの理由により修正された跡です。

 また,分属している地図の両方に,共通する図根多角点の印が枠外に記載されています。

(図3)は(図2)原図北側部分に接続する,もう一枚のⒶの原図の接続部分を写真撮影し拡大したものです。



 (図4)は(図2)の原図南側部分Ⓑの一部を拡大したものです。写真撮影したものを適当な縮尺にしています。少しズレがありますが同一の縮尺と思ってください。

(図3)では,境界に測量針の跡が解ると思います。図郭線の枠外にも針の跡があります。地図が2枚にわたる場合,どこの図根多角点から観測したかという事が解ります。つまりどちらに記載されている境界点の位置が正しいのかということになります。 

 原図には,隠された事実があります。地図訂正等の場合は地籍調査時に既に問題のあった場合も多く,原図を見る事により解明出来る場合もあります。

 便利さだけを求めず,法14条地図だけでなく,閉鎖14条地図を必ず確認する。更に必要なら原図を見て,過去の事実を知る事も大切でしょう。

第3章 地籍図14条1項地図
地区で注意すべきこと
     
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