立会の時期

 土地家屋調査士仲間に「何故,立会を行うのか。その必要があるのか。」と聞けば,「あなたは本当に土地家屋調査士か。境界を扱った事があるのか。当たり前の事を聞くな。」と即座に答えが帰ってくるだろう。 

バブル期は,仕事も多く,現在のような境界を特定する測量方法ではなく,商取引の為の面積が必要という時代でした。依頼があれば,即座に登記所で土地登記簿を閲覧,依頼地と隣接土地所有者の確認をして,法14条第1項地図の写しを取り,依頼人と一緒に現地に出向き,依頼人の指示する境界点から他の境界点までの距離を地図上から三角スケールを使用してスケールアップしながら,布巻尺でその距離を測りながら境界と思われる位置を復元して,隣接土地所有者と依頼者に確認していました。

現在に置き換えると,依頼があれば,即座にオンラインシステムで,依頼地と隣接土地所有者の確認をして,取得した法14条第1項地図写しをスキャナーで読み取り,地籍調査での境界点座標を取得して,境界点座標から他の境界点座標の距離を計算する。依頼人と一緒に現地に向かい,依頼人の指示する境界点から他の境界点までの距離を確認しながら,TSを利用して対辺観測により,距離を確認して境界を確認するという事になるのでしょう。 

現在,地籍調査地区でこのような方法で立ち会いを行っている土地家屋調査士は,胆の据わった男気のある人か,現地を見れば即座に境界の解る(決める事の出来る)神様でしょう。 

地籍調査地区の場合,神様ではない土地家屋調査士は,何時の時点で依頼地とその隣接土地所有者との立ち会いをするのが最良のタイミングかと聞かれると,なんとも悩ましく,難しい問題である。

境界の復元をどこまで実施して立会を行うのか。隣接地土地所有者の了解をもらい,図根多角点か新設の基準点を利用して予め現況測量を実施しておき,土地家屋調査士の判断で,復元する範囲を狭めて仮杭なりペンキで印をつけた後立会を行う。一見理想的なのですが,時間がかかってしまいます。

隣接地にも立ち入りを行いますので,土地記憶調査士の判断が入りますので,当事者に本当に公平な復元なのかという疑問を持たせる恐れもあり,土地家屋調査士が無意識に復元位置を立会の結果になるよう誘導してしまう恐れもあり,後日隣接土地所有者から苦情の出る恐れもあります。 

現況測量前に,大雑把な復元を行った後で立会を行い,その結果を比較してみて疑問に思える配置については,立会をした後でも更なる立会をするのか。何度も利害関係人を集めての立ち会いは出来ません。何度も立ち会いを依頼すると,土地家屋調査士の専門性が疑われはじめ,当事者からの信頼を損ねることになります。

当に判断が難しいものです。

 復元は客観的に正しいと思われる位置を調査する測量であり,手段です。立会はそれを補足するものでは無く,独立した権限を持つ強力な証拠の一つなのです。その強力な証拠を裏付けする事が出来るものが復元なのです。

 地籍調査実施時,その一筆地を観測した図根多角点と後視点となる図根多角点が残っている場合は,そのまま復元ができます。地籍調査実施庁で,図根多角点網図を閲覧し,図根多角点成果簿から該当する図根多角点の座標値を入手すれば,一筆地の境界点の座標値を法14条第1項地図から読み取る等の方法で入手して,その座標値を利用して復元した後,立会をすれば良いでしょう。 

古い地籍調査実施地区では境界の復元をしようとしても境界を観測したと思われる図根多角点は亡失している事が多く,即座に復元という事にはなりません。新設の基準点なり多角点を近傍に設置する必要があります。これに手間暇がかかります。

新設の基準点なり多角点を設置,同時進行で地図から境界点座標を読み取る。もしくは,市町村の読み取り座標値を取得する。パソコンに基準点座標と境界点座標を入力してやれば,CAD上で新設基準点が地図上のどの位置に来ているか確認が出来ます。

これから依頼地の観測を行おうとする新設基準点が依頼地近傍にある構造物の位置と一致するような場所に表示されていると思われ,基準点の座標系と地図の座標系はほぼ一致しているものと判断すれば,この時点で立ち会いをしても良いし,タイミング的にも一般的と思われます。 

現地を復元出来る最低限の情報を持った後,利害関係人の立会により境界を確定していき,明らかに相違すると思われる位置については,土地家屋調査士は地図訂正の必要性,そして個人間の融通により筆界ではなく所有権境界である可能性を判断して,依頼人や利害関係人に対処する必要があります。

順次,復元して双方の確認した複数の境界位置について,ほぼ同方向に許容範囲内の「ズレ」があれば,一筆地全体の境界位置は同一方向にズレが生じるはずとして,復元時にそのズレを考慮して立会を進めても問題はありません。

ここでは,最初に新設基準点と現地の関係について,座標系の大きな「ズレ」は無く,恐らく公差範囲との判断が出来ていますので,この「ズレ」は公差範囲内にあるはずです。 

当然,そのようにしても復元位置と立会での位置が公差範囲外まで相違する場合は,聞き取り調査を良く行う必要が生じます。土地所有者双方が相違する理由を簡単に思い出せる場合は問題ないが,不明の場合は一筆地全体の境界を復元した後,それらを基にして再度の立会が必要となるでしょう。

公差範囲内の同一方向に生じる「ズレ」を調整した位置からも,公差範囲内であっても大きく相違していると思える場合は,地図訂正,地積更正,所有権境界が考えられます。当然,公差範囲外であれば,それは確実に地図訂正が必要なものか,利害関係人双方合意の所有権境界であるものと思われます。 

該当する土地所有者も全然境界を知らず,現況も境界を示す構造物の無い場合は,双方の了解を得てから,すべての境界を復元した後での立会となるが,この場合でも許容誤差の広い範囲を示すと混乱する原因となるので,隣接地等の明確な境界を利用して,ある程度までは復元の範囲を専門家として絞り込む必要があります。

その後,立会を行い,自分達の納得の出来る位置を合意してもらう事になります。これが合意境界,いわゆる所有権境界なのか筆界なのか誰にもわかりません。しかし,復元位置からすれば,平均二乗誤差の範囲での合意であれば土地家屋調査士としては,それ以上はどうしょうも無いという現実があります。

次に述べる筆界特定制度や境界確定訴訟での鑑定という事になると最初からそのような調査や測量を必要とし,当事者も納得しています。境界を決定する一つ一つの根拠を明確にして,この位置と思える場所の確証を得れば,専門家の判断としてその位置を示せば良いのです。しかし,土地家屋調査士の判断だけで境界を確定する事を求められている場合は平均二乗誤差の範囲で留めておき,立会の結果に任せることにします。助言を求められれば,そこで専門家としての立場から意見を言うべきでしょう。 

筆界特定制度の調査や裁判の鑑定であれば,立会に関わりなく徹底的に調査した資料を正しいと思われる測量で復元を行い,最終的に1点のみを追求することになる。それはその1点とした一つ一つに,すべて根拠を要求されます。

そこまで追及すれば,真実の位置かどうかは別として,専門家としての判断で1点に絞り込む事は可能です。

土地家屋調査士が一つ一つの根拠を積み上げて境界位置を示せば,第三者である裁判官や筆界特定登記官が客観的に境界位置のみならず,その決定に至る経緯についても審査し,合理性について判断を下します。

第3章 地籍図14条1項地図
地区で注意すべきこと
     
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