重ね図 

30年前には,平板測量もしくはトランシットでの任意座標による測量成果図と法141項地図(以下地籍図14条地図という。)の1筆地の形状との重ね図による作業が主流でした。

現在は平板測量で登記申請をされる方もいません。どのような方法であったのか逆に説明をする必要があるのかもしれません。

平板測量が主流の頃は,地籍図14条地図の1筆地の形状を法務局でトレースして,その形状を当時の地積測量図の縮尺300分の1250分の1に拡大して,現地で平板測量や任意座標で測量したものを比較していました。現地を測量した平板測量の形状と地籍図14条地図の土地の形状との間には何等関連も無く,出来あがった1筆地の形状を単純に比較するものでした。



その形状比較による境界点探索の上手下手が,専門家としての技量のように思われていた事も事実です。

同一縮尺で作成された2つの図面のうち,いずれかを固定して,もう一方の図面を上から重ね合わせ,移動,固定,回転させることにより,形状の合致している状態を探り出します。

重ね合わせる時の根拠となる「昔からの構造物である。この位置は境界に間違いない。」という土地所有者や隣接土地所有者の証言により,現地で間違いなく境界と思われる位置と地籍図14条地図でその境界位置と思われる位置を固定し,回転を加えて他の境界と思われる位置を確認していく方法でした。

この方法ですと,土地所有者や隣接土地所有者から,本当の境界位置を聞き取れている事が最低条件です。(図4)から(図7)まで,同じ現場の重ね図について,4つの例をあげましたが,現場の状況による判断も必要であり,どれが正解なのかわかりません。

聞き取りを行い現地での境界として固定した位置は本当に正しいものだったのでしょうか。


全体的な形状を参考にして合わせるのか,一部の確かな位置を固定して重ね図を完成させるのか。調整を行う土地家屋調査士の腕のみせどころなのかもしれません。しかし,判断を行う土地家屋調査士も絶対の自信があったわけではありません。

測量器械が発達し,安価になったおかげで平板測量からトランシット主流の測量方法が一般的なものになり,数値化による比較が簡単に出来るようになりました。

地籍図14条地図から境界点の読取りを行い,地籍調査時の図根多角点を探し出し,公共座標で図根多角点からの復元・現況測量を行うという事が一般的になりました。

その結果,地図からの境界点の読取り座標と図根多角点の座標値が重要な意味を持つことになり,図根多角点を探索することが主流となりました。


図根多角点が亡失していれば,近傍の図根多角点から新たな多角点を設置する。とにかく座標比較をするための座標値がほしいと境界の復元の根拠を座標に求めました。

境界点を観測した図根多角点があるうちは問題も無く境界の復元ができました。地籍調査時に境界点を観測した図根多角点が亡失していたとしても,同一路線の隣接する図根多角点が探し出せている間は,ほとんど問題はなく,平板時代の重ね図の技術を駆使する必要はありませんでした。

やがて,地籍調査から20年〜30年以上も時間が経過すると,境界点を観測した図根多角点も勿論ですが,近傍の図根多角点さえも亡失しているようになりました。

単純な座標比較の復元では,公差の制限に近い誤差が生じる事も珍しくなく,時には公差の範囲を超えてしまう場合も現れはじめました。

土地家屋調査士の測量技術や測量器械の向上によるものでもなく,地籍調査の成果が悪いためでもなく,復元を行う者の考え方による問題でした。単に座標値が解れば良いと考え,その方法が自分だけの独りよがりな方法となっていました。

依頼地近傍の図根多角点が亡失している為に,遠方に残っている路線の相違する図根多角点から開放トラバース測量で新設多角点を設置して,地籍図14条地図からの境界読み取り座標により復元していました。

また,残っている図根多角点を2個以上探しあて,結合トラバース測量を行ってはいるが,図根多角点の位置は申請地との位置関係をみると,風船が膨らんだ形の,ほとんど閉合トラバース測量に近い状態の一番膨らんだ位置に申請地がある。これは,座標値さえ解れば,どのような形でも良いと思いこんでいたためでした。

このように作成された新設多角点から観測された境界点と地籍図14条地図から読み取りを行った境界点座標を比較する方法では,公差範囲の制限を超える状況が多くみられるようになりました。これが何らかの原因による「ズレ」によるものということには気づいていましたが,その解消方法については暗中模索の状態でした。

公共測量作業規程による測量を知る事により,今までの「独りよがりな測量方法の稚拙さ」を知り,正しく測量を行っていなかったために起るもの,そして「座標系の相違」によるもの,これが「ズレ」の大きな原因であると気付きました。

公共測量作業規程は測量の専門家達が,長い間の経験と知識とそれに裏打ちされた理論で作成された規程ですので,これを利用すべきです。技術や知識は無理でも,その方法については真似ることが出来ます。独りよがりだった測量方法から正式な測量方法を実行したところ新設多角点(基準点)と境界点読み取り座標との比較においては,その誤差について少なくなりました。

しかし,どのような精度の良い新設多角点(基準点)であっても,亡失した図根多角点そのものではないという事実は重いものがあります。そこには必ず「座標系の相違」があるのだということを,我々は学びました。

そこで,それを解消するために平板時代の「重ね図」の手法を活用します。

(図8)(図9)とも,座標系が一致しているとして,(図10)のように座標値のまま表示します。

(図10)では図郭内の交叉記号(トンボ)の座標は同じです。

しかし,地籍図14条地図の座標系(実線交叉記号)か,新設多角点による座標系(点線交叉記号)か,どちらかの座標系に一致させるのか決める必要があります。

座標系のどちらを基本とするのか,先ほどの文鎮で固定する方の図面をどちらにするのかという問題です。この方法は効率面から考慮すれば良いと思いますので自分の理解しやすい方法で実施して下さい。

ここでは説明が楽なので,新設多角点(点線交叉記号)による座標系で固定(統一)することにして説明します。

新設多角点による座標系で固定(統一)しますので,現況図面(図9)を固定して,地籍図14条地図(図8)の座標を平行移動させます。

お互いの図面については,縮小・拡大をかけず平行移動のみです。回転は必要ないと思います。(図10)では,(図9)現況図に(図8)地図読み取り座標をそのまま表示しているので,点線交叉記号と実線交叉記号の位置は一致しています。

ここで地籍図14条地図の境界点を2重丸で包んで表示しました。2重丸のうち小さい内側の丸が平均二乗誤差の範囲,大きい外側の丸が公差の範囲という表示にしています。厳密な縮尺表示ではありません。(図10)で現れている相違を「重ね図」の手法を利用して,この座標系による「ズレ」を極力解消する事にします。

恐らくこの段階でも地図の読取り境界位置と新設多角点からの境界位置については外側の公差範囲の円の中に含まれていると思います。

新設多角点の境界点(図9)と地籍図14条他図読取り境界点(図8)のについて,特定の点が完全に一致するところでは無く,(図9)を固定して(図8)を全体的に一致している思われる状態で移動してみてください。移動する方向・量はわかりませんが,それほどの移動量でもなく,目で簡単に確認出来る状態だろうと思います。そして,それら全部の位置が内側の平均二乗誤差の範囲内にあれば,問題のない範囲でしょう。時には,平均二乗誤差の円の範囲からはみ出すものもあるかもしれません。その場合は,出来るだけ多くの位置がその範囲内にあるように,もう一度平行移動してみます。

更に,立会時の証言で確実と思われる位置を確認してみて,本作業により間違いがないと判断出来たら,それらの位置を優先的な位置にして考察してみます。

外側の円からはみ出したものについては,本来の境界ではないものも含まれているはずですので,改めて土地所有者に確認をする事が大切になります。

平行移動量(方向および距離)は図郭線交さ記号(トンボ)の位置の「ズレ」により確認することが出来ます。

このようにして得られた「ズレ」の量については,判断する要素も少なく,じっくり観察していくと,全体の関係で明確になってくる事も多く,専門家として境界を判断した「根拠」を合理的に説明する事も可能になります。そして,この「ズレ」の扱い方の相違が「復元」と「確定」の大きな分かれ目でもあります。

以上,ここでは「重ね図」の手法を中心に説明していますので,境界の復元と土地所有者の立会による境界確定について全く省略しています。

立会前の復元時にこの作業を行うのか,境界立会の後にこの作業を行うのか,その実施するタイミングによって「重ね図」の方法と,それによる判断も相違する事になります。


第3章 地籍図14条1項地図
地区で注意すべきこと
     
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