図根多角点と基準点 

地籍調査(図解法)の一筆地測量については,三角点(基本・基準三角点,図根三角点)を使用して多角測量により作成された図根多角点があり,その図根多角点に平板を据え付け,一筆地を測っていることについては説明してきました。

図根多角点は,三角点からトランシットと鋼巻尺を使用して多角測量により作成されていますので,その成果については国土調査担当課で保存され,閲覧する事が出来ます。

さらに図解法による場合,一筆地の境界については,現地の図根多角点に,同一の図根多角点をプロットした平板(地籍図原図)を据え付け,地図の縮尺によりその相似形を平板に作成します。

当然一筆地の境界については,実際に観測した座標値こそありませんが,後日地図を読み取ることにより,その境界の近似値としての座標値を知る事が出来ます。

このように,一筆地の境界に関連する大事なものなのですが,近年亡失が進み,その対処方法をかんがえる必要があります。

その一つとして,亡失した図根多角点に替わる新設多角点を設置するという事になります。新設多角点をどのような基準で設置すべきなのか考えてみたいと思います。 

●多角測量方法

多角点をどのように観測し,設置していますか。

前視点,後視点にピンポールを立て,アスファルト上に打設した金属鋲の多角点に金属脚でTSを据え付け,水平角は半対回で1回観測すれば充分。鉛直角は水平距離を利用するので観測しない。距離については水平距離を2回観測する。2方向なら観測時間は1分以内,据え付け時間を含めても10分程度。結合トラバース測量の閉合比はいつも1/10000以上の精度だから自信があると思われるのでしょぅか。 

●図根多角点は地籍調査時どのような方法で

それでは,地籍調査時,図根多角点はどのように観測し,計算され設置されたのでしょうか。

これを知らないと新たな多角点に要求されているものが解りません。

30年前の図解法によるものの時代は,現在のようなTSは存在していません。図根多角点測量は20秒読みのトランシットと網巻尺を使用しての観測が一般的なようです。

計算については,現在のような厳密網平均での計算では無く,簡易平均網での計算が主流でした。国家三角点や図根多角点を使用して交点を設置して,それらを与点として,1次路線の結合トラバースで路線を組んでいく。更にその1次路線の図根多角点を与点として2次路線を設置,順次3次路線の図根多角点まで設置していき,それ以降は細部多角路線になり4次,5次路線までということになります。

当時の一般的な測量器械であった20秒読みのトランシットを使用した場合,地図の精度区分により,水平角1対回か2対回観測,鉛直角1対回,観測制限については時代により異なりますが水平角の倍角差60秒,観測差40秒,鉛直角は60秒となっています。

いずれにしても,地籍調査時の図根多角点路線の計算は,交点の計算は別として,現在のパソコンを使用した測量ソフトでも十分対応出来るようです。 

●やらなければならない事

ここで,少し気を付けなければならない事があります。

多角測量を行う場合に補正はされていますか。観測時にその都度,気温・気圧を入力されていますか。観測については,水平角・鉛直角・斜距離・機械高・目標高を測っていますか。

この程度はデーターコレクターを使用している方は全部入力出来ます。

観測が半対回であれば,2方向の多角測量を行う場合の所要時間は,1か所の観測に要するのは2分程度でしょうか。

観測について水平角2対回と鉛直角の1対回観測を行ったとしても,多角測量の観測に要する時間は5分程度追加されるだけです。

面倒くさい。半対回でも充分の精度だと思わないで下さい。観測に準備した時間を考えて下さい。観測点にTSを据え付け・後視点と前視点にミラーを据え付ける。この時間はどのくらいかかっていますか。改めて測量をする場合は,更に現場の往復の時間もかかります。おそらく半日仕事になるはずです。観測に要する時間を5分程度追加するだけで,後日必要になるそれらの時間を節約できるのです。より正確で確実な観測として,正規な測量にする為にも5分程度の観測を追加してみましょう。 

観測の制限についても,30年前の20秒読みのトランシットと現在のTSの性能を考えてみてください。観測制限の水平角の倍角差60秒,観測差40秒,鉛直角の60秒は現在の器械の性能では緩い制限になってしまっています。図根三角点を観測する観測制限の水平角の倍角差30秒,観測差20秒,鉛直角の30秒程度でも,現実の問題としては,まだ緩い制限のように思われます。自分の基準を定め,より信頼性を増す努力をしたいものです。

気象補正・傾斜補正・投影補正・縮尺補正を行う事により,初めて平面直角座標面上の距離を得る事が出来ます。

地籍調査のトランシットとテープで観測していた時代でさえ,精度によっては各種の補正を行って図根三角点を結ぶトラバース測量を行っているのです。この補正を行う事により正規な測量になります。 

器械が全部補正して,水平距離に計算してくれて,ミリ単位で表示してくれるからいいだろうと思われる方も縮尺係数0.9999,標高50mの場所で50mの水平距離を観測した場合,平面距離はいくらになるのか。どの程度の影響がでるか,一度計算してみてください。  

●順序

光波測距儀が発達して,図根三角点同士の距離を測る事が簡単に出来る時代になっています。図根三角点を結ぶといっても,いきなり30〜50mピッチで10点も20点も観測しなくても良いのです。決して手抜きをお勧めしている訳ではありません。

図根三角点からなるべく直線的に均等な距離(200m程度)で配置を心がけ2~4点の1次的な新点を設置して図根三角点同士をつないでしまえば良いのです。

その後必要な場所に,図根三角点と1次的な新点,もしくは新点から新点の間を今度は30~50m程度の間隔で2次的な新点でつなげば,最終的には5~8点程度の観測で終了します。

使用しなかった中間地点は後日必要な時に,2次的な新点を作成すれば良いのです。その時は選点や観測等を含めても1日程度の仕事量にしかなりません。

おまけに,これらの新点を使用して測量して行けば,かなり精度の高い測量が保てます。そして今回業務を行った土地の観測点や境界点に対して他の新点が全部高い精度を持って関連性があるという安心感も高まります。 

●将来のために

今回観測している場所から少し離れた場所の仕事を同じ座標系を使用して測量をすると,その中間の場所については距離の縮小や拡大がかかりどこかにひずみが生じてしまうという心配が要らなくなります。

さらに,これらの新点の作成をくりかえしていけば,自分の手で地籍調査と同様に,いえ,それ以上に精度の良い網図が出来上がります。

しかし,最初の高次の観測について上手に選点や観測を行っておかないと,次数が下がるに連れて,どんどん精度が下がる事を肝に命じておいて下さい。

昔,地籍調査で実施された路線の組み方も,土地を大量に測る必要やその当時使用した測量機械の性能等の問題もあり,正直な感想を言うと出来るように路線を組んでいると感じるのですが,当時の事情を考慮すると仕方の無い面もあります。

我々が路線を組む以上,当時よりも良い形で,基本にあった形で路線を組んでおかないと,今度は我々が批判される事になります。

参考の為に,単路線方式と結合多角路線方式での4級基準点の説明図を記載しておきます。

 

●図根三角点と基準点

以上の説明は,本来国土交通省公共測量作業規程に準拠した基準点作成の3,4級基準点の作成方法なのですが,興味のある方は国土地理院ホームページから,最新の国土交通省公共測量作業規定準則をご覧ください。 

2級基準点は500m程度に1点,3級基準点は200m程度に1点,4級基準点は50m程度に1点というように理解してください。

図根三角点は点間の配置では2級基準点程度なのですが,図解法当時作成された図根三角点は残念ながらその程度の精度は期待できず,3級基準点程度とされているようです。

そのため基準点測量では与点として使用する事は難しいようです。

しかし図根三角点が使用出来なくなったら,地籍調査の成果を全部否定する事にもなりかねませんので,利用しやすい状態であれば,図根三角点自体も3級基準点程度の精度は保っているという事なので,その様に扱えば良いと思います。

ただし,高さについては,やや疑問符が付きます。図根三角点の一つ一つ,すべて条件が相違しますのでしっかり自分でチェックして使用しなければなりません。 

●地籍調査の路線との比較

おかしな言い方ですが,自分の作成した基準点も地籍調査の図根多角点も間違いでは無いのです。現地を復元する為には図根多角点が良いし,位置を表示する為には精度の良い基準点から特定した方が良い。これは明白な事実です。二枚舌のようですが,後々使用するためにはどちらの信頼性が高いかという事なのです。 

地籍調査で観測された境界について,その復元を行う時,一番正確でその復元範囲を特定できるのは平板を据付けて境界を観測した図根多角点です。

しかし,その図根多角点が亡失している場合,どのような図根多角点を使用しても,本来の特定できる位置とは多少のズレが生じます。

復元には境界の読み取りの値を使用して図根多角点から復元をする。境界確定後の表示については,精度の良い基準点から観測した値というのが理想と言えます。

地籍調査時の図根多角点を設置する基になった図根三角点を,再び与点として新設の多角点を設置して,その多角点から境界を測っても同一の位置であっても全く同一の値にはなりません。

ここには,新設多角点自体が持つズレがあります。しかし,そのズレを承知して,修正する事が出来れば亡失した図根多角点を使用したと同様になります。

復元も新点から出来るという事になると,確定も当然精度の良い,他とも関連性のある新点からのものが一番良いという事になります。 

●基準点

どうせ後々残すのであれば,図根三角点を使用するよりも,本当の基準点を作成する方が良い。しかし,その手間が大変だし,知識も無いと躊躇されている方も多いと思います。

現在の状態において,地籍調査が終了した,とくに図解法による年代のものであれば,基本三角点や基準三角点まで調査して,正式に基準点の手法でということになると,なかなか個人で観測出来る範疇を越えているのかもしれません。

そこで何人かのグループとかで実行することになると思われます。

現在はGPSのように非常に発達した機械が身近にあり,一歩踏み出す気さえあれば無理では無くなっています。しかし,図根三角点を結ぶ程度の努力とやる気,そして観測手法や知識がなければ,GPSで与点となる基準点を設置出来ても,身に付かず業務として長続きしません。

局地座標で50メートル程度しか測った経験のない方が,いきなりGPSを利用してしまうと,座標値さえ解れば良いという安易な考え方になる恐れがあります。便利な道具を知ると地道な努力をすることに抵抗を覚えてしまうかもしれません。

現場での知識を得るためにも,無駄な努力になるかもしれませんが,一度,図根三角点を使用して3級基準点測量を体験していただく事も必要でしょう。

第3章 地籍図14条1項地図
地区で注意すべきこと
     
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