現況を測る

現況平面図からスライド量を推定する

土地分筆登記や土地表題登記の地積測量図作成の為に,境界点だけを観測している方は少ないと思います。
 地積測量図を作成する前提として,事前調査としての意味合いを含めて現況測量を実施されていると思います。
 官・民の境界確認書や民・民の境界確認書を作成する時も現況測量図を添付されていると思います。現況測量をする際に,観測点での器械高,視準点のミラー高を測っておけば,観測した全部の位置の高さ(標高)を知る事が出来ますので,自動的に断面図を切ることができる利点があります。現況点を観測する場合,ミラーの高さの変更は多くないと思いますので,高さを変更する都度に記録しておけば良く,少しの手間で現場の立体的な状況をとらえる事が出来ます。開発が行われる土地であっても,境界確認を行った時にはどのような状況であったのかが解り,境界がどのような過程で決められたのか,現地の写真とともに後日の証拠となります。

 通常の分筆現場であれば200〜300点程度の現況点を取れば,現況測量としては充分でしょう。定型の形状は,必要な屈曲点を観測して,後はオフセットを上手に利用すれば効率的です。現況点を押える場合の注意として,申請地近傍の境界点と思われる位置は支障のない限り観測しておく事です。周辺の土地で,境界の明確な位置が多いほど,申請地の中の信頼出来る位置を推測することが出来ます。ただ,隣接地の境界を測ろうとして,断りなく他人の土地に立ち入ると問題になる場合もありますので注意してください。
 

●重ね図

依頼地の境界を推測する方法として,重ね図の手法があります。(図1)の地図に表示されている土地で説明することにします。

(図1)の一筆地の形状に,別の用紙で作成した(図2)の現況形状を上から重ねて近傍の境界点の合致している場所を探し,(図2)の用紙を回転させ,いろいろと動かしてみて,特定出来る同一の位置を固定させて境界点の位置を探り出す方法です。

この方法では,地籍図での一筆地の形状と,依頼地の境界点だけの比較だけで終わると,どの位置が異動しているのか,信用出来る位置なのか判断が難しく,近傍の境界点と思われる位置から補足・推察することが多いようです。現在ではパソコンのCAD上で,別々の画層として,地籍調査の1筆地の形状と現況の形状の重ね図をすることが出来ますが処理内容は同様です。しかし,平板測量時代(任意座標)の重ね図と相違するところがあります。昔の重ね図は,回転の角度・移動距離は無制限で一致する位置を探し出して境界を確定していました。





極端な場合,依頼地と似たような形状の場所であれば,この重ね図をしても間違いが解らない。また一定の方向の境界点だけを信用して確定したために,全体からするとズレてしまったような例がありました。

専門家としての判断は客観的で誰にも納得の出来るものでなければなりませんが,この方法は詳しく説明の出来ない感覚的な決定方法です。

その意味からも任意座標で現況測量を行った場合は,昔の平板測量の方法と同様であり,現況測量の精度が良いものになったというだけです。無制限の回転・移動をしての重ね図では他人に理解してもらう事は出来ず,客観的な材料にはならないと思います。第三者にも理解の出来る客観的な要素を多く取り入れ,決定(移動)する範囲をとことん小さくする努力をしなければなりません。専門家としての判断を行う「重ね図」に入るまでの過程を合理的に行う必要があります。

 


●地籍調査時の図根多角点を使用する

現地に残っている図根多角点を使用して境界を復元する。更にその図根多角点を使用して現況測量を行って確認すればスライド量も発生せず,国土調査法施行令別表第5による許容誤差のみを考慮すれば良く,重ね図を行うこともないのでここで改めて説明する必要はないと思います。ただし,図根多角点自体の精度の問題があり,確定測量で使用するか否かは考える必要があります。 

●新設の多角点(基準点)を使用する場合

図根多角点が亡失している為に,新設した精度の良い基準点・多角点を使用した場合はどうなるのか,当然地籍調査時の図根多角点そのものではありませんので,図根多角点を使用した場合と相違するズレ(スライド量)が生じます。現況測量は,これまでに説明してきたようにスライド量を知る事の出来る方法でもあります。新設の基準点や基準点からの多角点を使用しての現況測量であれば,重ね図を行っても回転を考える必要はありません。移動する距離も30〜50cm程度,悪くても70〜80cm程度だと思います。この程度の距離であれば,CAD画面の中でどの程度の移動(=スライド量)をすれば良いのか,その確からしい位置を,眼からの情報分析という人間の優れた能力で簡単に判断する事が出来ます。

 (図3)は,現況平面図の座標と地籍図の読取り座標(TKY2JGDで変換)をそのまま同一図面として比較したものです。この図では相違が解りにくいので,(図4)で(図3)の地籍図の位置から現況の境界と思われる位置への移動量を拡大して表示しました。◎は地籍図の読取り座標位置,○は現況座標での境界位置を示します。

(図4)の移動量は現況座標を基準に考えています。地籍図座標を基準とする場合は逆方向の移動量になります。現況図座標を基準にするか,地籍図座標を基準にするか,どちらが正しいかは言えません。自分の納得出来る頭の整理のしやすい方法で実施してください。 

●地籍図の座標を現況測量座標に移動させる方法

まず,(図4)のように地籍図の座標を現況図の座標に移動させる方法で説明します。

地籍図の1筆地の形状をどの方向に移動させるのか。境界の明確な位置でズレの方向を調べてみます。小さな範囲では移動の方向が一緒ですが,全体では移動の方向は一定していません。この様な場合は現況測量を行った範囲の中でも,地籍調査時にこの範囲を観測した条件の相違する図根多角点が複数あると思わなければなりません。

(図1)の法第14条第1項地図を見る限りではↀ印は,南側の道路と北側の道路にしかありません。建物が密集しており,地籍調査時に南側と北側の図根多角点だけで今回調査した境界の全てを観測出来たとは思えない地形です。

恐らく中間地点に観測点が設置されたのではないかと思われます。筆界特定や境界確定訴訟であれば,更に原図を調査して詳細に確認しなければなりませんが,今回はそこまでの必要はなく,頭の中に入れておくだけで良いと思います。

それではスライド量を探ることにします。(図1)と(図2)との対比図である(図3),それを拡大表示した(図4)によると南北方向(X軸)のズレはバラバラです。東西方向(Y軸)のズレは現況図では西側(Y軸のマイナス方向)にズレていることが解ります。そこでCAD上で視覚的に最大公約数的な重ね図をおこなうと,西側に15cm程度地籍図の形状をずらしてやれば,ほとんどの位置が甲3の平均二乗誤差である半径15cmの円に収まるようです。

K16とK17の位置については,移動量が反対になっているのが気になるところです。これは,地籍調査時に観測した図根多角点と別のものだと思われますが,現況測量の結果,K16とK17のある道路境界は地籍調査と合致しており,地図訂正の必要のないことは簡単に判断出来ます。そこで, K16とK17の位置を無理やり平均二乗誤差内にあるように調整せず,この位置は少しズレが生じても良いとして移動すれば,すべて公差の範囲内にあるようになります。

この西側へ15cmのズレが,地籍調査時の図根多角点を使用せずに,新たな多角点(基準点)から観測したためのズレ(スライド量)と言えます。

非常に雑な方法のように思われたかもしれません。もっと緻密にスライド量を探る方法として, (図4)の場合であれば,各点のX方向,Y方向の差を平均してスライド量を導き出す方法を使用すると,この例ではスライド量は(+0.006,−0.157)となります。より正確な数値を得たように思えます。

一見合理的ですが,スライド量は地籍調査時に観測した図根多角点を使用しなかった為に生じるものです。したがって図根多角点毎に細やかな調整を行って探り出せるものです。その為には図根多角点毎に観測された境界点を区別する必要があり,大変な労力と知識が必要となります。この方法が一番良い方法ですがこれ以上追及する必要も無く,読み取り座標の示せる限界もありますので雑に思えるこの方法で良いと思います。目で判断して移動量が反対になっている K16とK17については寛容に対応すれば良いと思います。

また,計算による平均値でスライド量を求める方法で,一気に広範囲を同時に求めてしまうと,該当する図根多角点のスライド量では無く,上位の図根多角点,交点,図根三角点のスライド量を求めてしまう事になるので求めているものと相違する事になります。いずれの方法でも2,3筆までを対象とする方が良いでしょう。 

●現況測量座標を地籍図の座標に合わせる方法

今度は,地籍図座標に現況図座標を移動させる方法を説明します。こちらの方が効率的と言えます。(図4)の移動量の方向とは逆方向になりますので東側に15pのズレがスライド量ということになります。そこで現況測量の観測点(多角点)のJ-23,4-22,4-6そしてJ-24の座標にそれぞれ(+0.000,+0.150)を加えます。これにより,読み取り座標に一致した多角点の座標になり,地籍調査時の図根多角点を使用したのと同様になります。多角点の座標値にY方向に+0.150加える,つまり地籍図の座標に合わせる為に現況図全体を東側に0.150m移動した事になります。

この変更した多角点(基準点)の座標値で地籍図の読み取り座標を復元した位置と,実際の境界位置については大部分が平均二乗誤差の範囲にあるはずという事になります。

前述したようにK16とK17の位置については,やや平均二乗誤差から超えてしまいますが,現況測量からの判断で公差の範囲にあり,地図訂正を考慮しなくても良いと思われます。

すべての境界位置が確定した後,今度は多角点(基準点)の座標を再び,実測座標に戻し,観測した生データで再び計算を行えば精度の良い確定座標になります。

非常に効率的な方法ですが,自分の頭の中で今どのような処理をしているのか整理していないと,何をしているのか解らなくなりますので注意をしてください。 

●最後に

現況測量により,人為的に異動している場所の判断が可能となり,あらかじめ依頼者や隣接地所有者から聞き取りをしていた内容と一致すればその位置を除外する事により,確定の為の位置を絞り込む事が出来るようになります。

また,現況測量の結果で疑問に思える位置について,依頼人や隣接土地所有者に問いかけをする事で意外な事実が判明する場合もあります。今後の登記処理方法をどのように行う必要があるのか,道筋が明確になる場合もあります。このように現況測量とともに地籍調査の復元を心掛ければ,地籍調査の地図が悪いとは簡単には言えなくなります。

現況測量からスライド量を探り出すということは,正しい物差しで地籍調査の成果と比較しなければスライド量を探り出せません。

自分勝手な歪んだものさしで比較する方法では,このスライド量を正しく調査する事ができません。まず,正しいものさしをつくる(設置する)努力をする必要あります。

それは基準点測量に準拠した測量です。地籍調査実施地区で基準点まではと思われるもしれませんが,境界を決定後,確定測量に精度の良い基準点や多角点を使用する事が出来れば,境界位置の特定や面積についても責任を持つ事が出来ます。

今回の現況測量や復元・確定測量については,地形的な問題もあり(図6)のように基準点を設置しました。

基準点に準拠した測量というと労力の問題が指摘されますが,基準点は累積していくことが出来ますので最終的に労力は少なくなっていきます。何よりも基準点測量を手掛けていくことで自分の測量知識や技術も向上していきます。

土地家屋調査士同士が,この基準点に準拠した成果をお互いに信頼し合って,情報交換することが出来れば地積測量図をデータベースとして,土地家屋調査士作成の新たな形の地図が出来ます。



第3章 地籍図14条1項地図
地区で注意すべきこと
     
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