確 定 値 境界を復元し,立会で位置が明確になった場合,どのような値を使用すれば良いのか。 一つは地図の中の座標,つまり地図全体の他の境界との関連を考えて,図根多角点から得られた座標値を使用する。新設基準点から実際に境界を観測した,新しい観測による値を使用する。 近傍地の既提出の地積測量図に記載された座標値と関連づけた座標で表示する。いろいろな考え方で地積測量図を作成していると思う。
●地籍調査による座標 現地の図根多角点を使用して座標を得た場合。申請地を観測した図根多角点と後視点となる図根多角点があった場合は,この二つの図根多角点の関係のみで1筆地が観測出来ることになる。 地籍調査時の成果と一定の範囲で同じになるので問題も無く,復元位置と境界を確認するにも最良の方法である。ただし,確定した境界位置の表示ということになると,地籍調査時の図根多角点の精度に影響される事になる。 測量法の改正に伴い,旧測地系から世界測地系となり,電子基準点を使用することにより位置の精度が向上しています。復元を行い境界が確定した場合,出来れば精度の良い基準点から確定測量を行う事ができれば,確定した境界位置の絶対位置を表す精度は高くなるし,外の土地に対する位置関係の精度も高くなる。
●地籍調査座標主義 地籍調査を終了した場所であれば,地図の境界位置を読み取った値であっても,地図を作成した図根多角点からの関連した座標であることは間違いありません。 そこで,既に提出されている座標であり,公共座標(または管理座標)なのだからその値を変更することは許されない。他の土地との関連をくずしてはならないとして座標を変更せず,そのまま使用している場合があります。 境界位置を表示する読み取り座標と,境界を実際に観測した値は許容誤差の範囲にあるので,読み取り座標を使用しても許容範囲内に実際の境界位置がある。したがって読み取り座標は境界位置を示していると言えるので変更しなくても良いとする考え方なのです。 この場合実際に境界の確認がなされているかどうか疑問に思えます。確認がされていないからこそ,許容誤差範囲にあるはずだという想定で測量を行っているのではないでしょうか。 一昔前は「地積測量図兼土地所在図」として土地所在図どおりの形状の地積測量図が提出されていましたが,多くはこの様な考え方のような気がします。 実際に境界を確定する必要が出た場合でも,読み取り値との許容誤差範囲に有るはずだ。次回も今回同様の許容誤差が許されるから,今回わざわざ境界の座標を変更する必要もないと考えるのでしょう。
しかし,現実に観測した値が地図を読み取りした値の許容範囲であるから読み取り値を使用するのであろうと,実際に境界を確認せずに読み取り値を使用するのであろうと,表示しなければならない値は現実に観測した値です。 読み取りの値と許容誤差の範囲に入っていれば,実際に観測した値を使用することは思いつきやすいでしょうし,地図の読み取りの座標値(または管理座標)との相違についても,許容誤差内だから実際の値を使用する事は法務局にも簡単に説明出来ると思います。 たとえば甲3の45pの許容誤差範囲にあったとしても,地図の境界点の読み取り値をそのまま使用して,実際の観測値を使用せずに地積測量図を作成する事は,誤った位置で境界を確定した事に外なりません。土地家屋調査士の業務としては問題外ということになります。 ●任意座標を使用して 地籍調査地区において,任意座標で境界を表示することは,かなりの勇気が必要です。測量知識・技術そして境界に対する知識とも並外れた能力が要求されます。 何故なら,公共座標でも任意座標でも同様なのですが,最終的に重ね図を行って境界(筆界)を確認していきます。 今回の観測した点の位置を(0.000,0.000)や,(100.000,100.000)として観測を行う任意座標の場合,その位置をどうやって決定したのでしょうか。 パソコンが今ほど普及していない時は,法14条地図から1筆地をトレースして,観測した1筆地の形状を重ね合わせ,境界を確認(判断)していました。 境界点の読み取りについても,図郭線上の区郭交さ記号の座標値を基準にして読み取る方法では無く,近傍の区郭交さ記号の位置を (0.000,0.000)なり(100.000,100.000)として,依頼地の1筆地の形状の読み取りを行い,任意座標で観測した1筆地の形状をCAD上でどちらかを移動させて重ね図を行う方法で確認する事になるのでしょうか。 しかし,その読み取りした座標値と観測した座標値とは,同じ様な数値になるかもしれませんが,本当に同じ様な位置なのでしょうか。100m以上離れている同じ様な地形の場所ではないのでしょうか。重ね図の根拠とした位置は本当に正しい位置なのでしょうか。 その根拠は,依頼人,利害関係人の昔からの構造物(境界)があったという証言で確認したとしても,30年前の地籍調査実施後に出来たものでも,人の記憶では昔から有ったものという感覚です。その証言なり構造物が本当に昔からのもので間違いないという確認は行ったのでしょうか。 利害関係人に細かい調査を行い,土地家屋調査士の専門家としての知識・判断力があれば境界は明確に決定出来ます。土地家屋調査士の能力の高さゆえに決定された境界です。 しかし,誰もが納得する客観的な事実確認が行えているのでしょうか。
●地図の座標に調整 嘱託登記で時折みられる方法ですが,買収する一連の土地に任意座標の多角点路線を設置する。多角点路線の両端の2点を地籍調査の座標に固定して,地籍調査の座標に平行移動なりヘルマート変換で一気に変換させる方法があります。 多角点は結合トラバースのような測量精度の解るものでは無く,開放トラバースでの設置です。 この場合,あらかじめ地籍調査の座標で読み取りを行い,任意座標で観測した路線の両端付近で明確な境界を観測しておき,CAD上の重ね図で読み取り座標を基準にして,任意座標で観測した点を重ね,境界の読み取り位置と一致する位置を固定すると,読み取り図面の上で多角点の配置が明確になります。その画面で改めて多角点の位置を読み取り図面上の座標に修正してやると,地籍調査の座標に変換された多角点の座標値を得ることが出来ます。 これで変換後の多角点の座標値と読み取り座標を使用して地積測量図を作成することが出来ます。 買収地の新設分筆線だけは実際の観測値になります。 ただし,地図上の境界位置の座標を復元しただけで,境界の確認を行わないと官・民境界線については問題ありませんが,民・民の境界線に分筆買収線が交差した場合,この交差点については読み取り値と分筆買収線との交点計算で算出されます。 この三者境界が後日の残地分筆で障害になっていることはいうまでもありません。 また,1筆地の中の買収部分は土地所有者にとっては関係がなくなりますが,残地部分についても読み取り値で決定された為に,事業に協力した土地所有者が迷惑を被ります。
●測量方法に疑問 図根多角点や図根三角点を使用してはいるが,その測量方法に疑問のあるものも時折見られます。 これらは座標値さえ解れば良いという考え方です。図根三角点や図根多角点を利用して多角点測量をおこなっているが,その測量方法は(図1)のように結合トラバース測量で1q以上となり路線長が長すぎる場合や, 500m以上の開放トラバース測量での新設多角点となっている場合,
(図2)のような図根三角点や図根多角点を使用しての与点2点使用の閉合トラバース測量ですが,500m程度の路線長となっている場合。 特にこれらの測量で問題になるのは,与点と依頼地との位置関係です。
(図1),(図2),(図3)の路線のいずれも,路線の辺長については,測量のしやすいように,そして必要な依頼地近傍にのみ密に多角点を設置して,それ以外は100m以上の辺長で,辺長は不均等な場合が多いようです。 その座標値と地図からの読み取り座標を使用して処理を行った場合,どのような状況になるのでしょうか。「図根多角点探し」でも記載したように,地図の読み取り座標を復元しても,実際の境界(構造物)からの位置が大きく相違してきます。復元を地籍調査の座標で行うことを意図しているのは解るのですが,いささか問題がある方法です。 これらの方法で復元した後,立会を得て確定された境界点を表示するにあたり,新設の多角点から観測された値を確定値として使用すべきなのか。 新設した多角点自体に問題があります。別の方法で隣接地を測量した場合に同一位置を表す座標値が大きく相違することになるのは間違いありません。
●既提出の嘱託登記の多角点(強い者に巻かれろ) 近傍に嘱託登記で測量会社が作成した地積測量図がある場合,提出されている地積測量図に記載された多角点の座標値を使用して申請地を観測する。 依頼地近傍の図根多角点が亡失しているが,自分単独では,新設多角点を設置することに踏み込めない。法14条1項地図で見ると,依頼地の近くが分筆されている。その地積測量図を調査すると,嘱託登記であり,新設の多角点が設置されている。この新設多角点を使用する。 これは良くある事例だと思います。また,今回の申請地が嘱託登記の残地であった場合は,既提出の地積測量図に記載された多角点を使用して復元せざるを得ません。 きちんとした多角点であれば問題はないのですが,先ほど説明したような多角点では前回の責任まで今回背負う事にもなりかねません。前項で記載したような事例では,境界の確認も満足に出来ていない場合が多く,残地の場合は読み取り座標のみで処理されている場合も多いようですので,かなり注意を要します。 使用する場合は,頼りがいのある多角点なのか否かは確認しておく必要があります。 ●公共座標を使用してここでは厳密な意味での公共座標では無く,基準点測量に準拠した測量による成果という意味です。 境界の復元については地籍調査で使用した図根多角点からの復元が一番良い方法です。図根多角点が亡失している場合はいろいろ知恵を働かせて復元しますので,自分に合った合理的な説明の出来る方法で復元すれば良いと思います。 しかし,境界が確定した後,境界を表示する方法となると,正規の測量による方法での新設多角点からの測量つまり公共座標が一番良い方法です。 もっとも,ここで公共座標という言葉を使用していますが,厳密な意味では我々土地家屋調査士の一筆地測量については,公共座標にはなりません。 一般的に我々が使用している公共座標は「基準点測量に準拠した測量で,その値を得たもの」という注釈がついてしまうのはやむを得ないところですが,条件が整い公共測量の届け出をすれば,成果はいつでも公共座標に出来ます,と言い切れるほどの自信は持ちたいものです。 合理的な根拠とする第一歩として,自己流の偏った測量にならない為に,新設多角点については路線の組み方,路線の辺長,与点の条件,観測制限,各種の補正等,正式な測量の方法,つまり基準点測量を行うことが大事です。 前述のとおり,境界の復元については,地籍調査で使用した図根多角点からが一番良い訳です。境界が確定すれば,基準点測量により設置された基準点を使用して,公共座標で表示する事が一番良い組み合わせです。 しかし,図根多角点が亡失している場合はどうすればよいのでしょうか。本編で任意座標での復元等の項からいろいろ記載してきましたが,それらの方法を参考にすれば,基準点測量で設置した基準点からも復元の操作を行うことが出来ます。 まず,地図から境界位置の地籍調査の座標値を読み取ります。 (図5)基準点測量を行った基準点から,現地の境界を含み現況測量を行います。
(図5)で観測した境界点と,地図からの境界位置が一致する場所を探し,読み取り座標の位置に,基準点から観測した境界点位置を一致させるように,基準点の位置を修正する。 修正した基準点位置(座標)から,地図上の境界位置の座標を利用して,復元する。
地図上の境界位置を読み取り座標で復元して,立会により境界が確認される。 修正した基準点座標は復元のみに使用する。基準点から決定した境界を観測する。 本来の基準点座標を使用して,境界位置の座標値を計算する。
確定した境界位置については,基準点による観測値となる。公共座標での表示となります。 ●意図的な任意座標 公共座標で表示すると,地籍調査の座標値との相違が解ってしまうので,公共座標の上位の数値を切り捨てて千位程度の座標で表示するという土地家屋調査士がいます。 何故その様な事をするのか理解できません。相違するのならば,相違する理由を明確にして,自分の自信のある測量結果を使用すべきだと思います。 公共座標にするのであれば,各種の補正も行っており,その数値の補正値が明確になる部分を切り捨てて表示をする事について全く理解が出来ない。 別の理由があるとしか思えません。 ●自分の根拠に出来る数値いずれにしても,土地家屋調査士として自分が責任のとれる根拠のある値を使用するべきです。 最終的に自分の業務の結果を表す数値であり,業務の中身も問われています。 専門家としての知識と技術のすべてを総結集して行った業務です。測量にしても,自分が間違いないという信念で使用した与点から,自分の信じた方法で依頼地の近傍に新設の基準点を作成し,申請地を測量した結果です。 他人が提出している座標があるとか,官公庁が提出している座標があるといって,簡単に自分の観測で得られた値を変更する必要はありません。 既に提出されている座標が本当に,自分と同様に根拠のある測量の結果であることが,自分の調査・測量により明確になり,納得のいく成果であれば,その座標系に合わせるのは問題ありませんし,最終的にその方が良い場合もあります。 自分が行った測量や調査はそのためのチェックであり,既提出成果を納得して使用することが出来るし,他の成果(基準点)についても,次回は安心して使用することが出来ます。 ただし,その既提出の成果(座標・基準点)について,自分が行った測量ほどの根拠がない場合。 正規の方法により測量を行っていない。たとえば遠方の図根多角点2点のみで辺長も1キロ以上にわたって閉合トラバースを組んで,申請地の近傍に新点を作成し無理やり座標を得ている。 測量時は完全な任意座標であったものを,現地に合うようにCADもしくは計算によりみせかけの公共座標に変換しているもの等。 こういった方法で既提出の地積測量図が作成されているのなら,この値に自分の成果を調整して合わす必要は無いと思います。 法務局の職員にしても,これらの事を理解出来なければ本当に法14条地図に携わっているとはいえない。杓子定規に既提出の地積測量図の座標値にあわせろという指導は,事務の手間隙が省けるし,比較するにも都合が良いという机上の理論である。正規な方法で現地を反映した地積測量図を,法務局の都合の良い,内部処理の為の地積測量図へと変更させ,本来の目的を果すことの出来ないものにしている事を承知しておいてほしい。
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