復元と立会い 地籍図法14条1項地図(以下地籍図14条地図という。)で図化された一筆地の境界については,土地所有者が地籍調査時に境界に竹くしを立てる等意思表示をした後,それを熟練した測量士が地図の縮尺により平板測量で図化しています。 しかし,合意のあったはずの境界が,現在いろいろと問題を引き起こしています。 果たして,土地所有者の意思が明確であったのか。地籍調査の成果を急ぐあまり,地元の協力員と言われる方々が,土地所有者の立会いを得ずに境界を決めていった等々問題が指摘されています。 このような問題は一部の問題であるが,そのために地籍調査全体が悪いような印象を与えていることは残念です。 客観的な立場(測量に専念した測量士)の人間が,示された境界をその技術を駆使し,地図に反映した事に対しての評価については,どこか議論の片隅に追いやられています。 我々土地家屋調査士は,そのような地籍図14条地図を扱っているからこそ,一層客観的にその地図を扱わなければなりません。
●復 元 地籍調査の最初の作業として,地図から一筆地の境界の座標値を読む作業から始まり,その後は,その値を使用して復元を行うことになります。 作成されて30年以上経過した地図から,その地図上に表示された境界位置を再び現地に示す事とは,実施過程で生じる誤差の解明や信頼性への判断を,専門家としての知識や技術で対応する事です。 最終的に専門家としての判断を行う場合においても,客観的な事実に基づく判断が必要です。 それは判断の処理過程を他人に説明出来るということであり,その為には専門家である土地家屋調査士同士では常識である事も,第三者に解り易く説明の出来る事が必要です。 地図から読み取りをした一筆地の座標値については,「地図上で表示された境界の位置を示す代表値であり,範囲を表す」ことをしっかり頭に入れておく必要があります。
●どちらから測れば 民・民の境界を確定する必要が生じて,反対側土地所有者との境界は,正しい位置であるという前提でお互いの反対側からの境界線から,地籍図14条地図で表示されている距離を測りだし,重複・不足した距離については,その中間の距離や按分した距離にする事も多いと思います。
ただ,そこで基準とした反対側の隣接地の境界が間違いないのかという問題が生じます。 このような処理では,一定の位置から境界の距離を測っていくと自分の土地の境界は食い込まれる。自分の土地も反対側の隣接地に食い込んでいく,将棋倒しのように順次境界が食い込んでいくことになる。境界は川の中や道の中まで入っていくことになる。だから,街区全部を測って距離を調整しなければ納得しない。
こういった主張をされる方に,いつも出会います。これも一面では真実なのですから始末が悪いのです。そういった方に,きっちり説明する必要があります。
●隣接の境界に左右されない 公共座標で境界を復元した場合,隣の境界線からの距離により導いた位置ではありません。 これは図根多角点や図根三角点からの座標で表示していますので,客観的な値であり,結果的にはどちらかに有利な形になるかもしれませんが,片方の土地所有者だけに配慮したものでもありません。他の境界点も同様な方式での復元が出来るので,全体的にどちらにずれているか解ります。 ずれを見せることで,復元の理屈やずれの修正の理解を得られると思います。誤差の範囲がある事を説明した後,隣接地からの距離を確認すれば,より理解を得る事が出来ます。
●誘 導 境界位置を復元して立会いの場合,我々土地家屋調査士が一番気をつけなければならないことは,境界の位置を誘導してしまうことです。 復元を行った位置を,「この位置です。」とそのまま境界としてしまう軽率さ。 専門家が,器械を使用して復元した境界の位置だから,その位置が絶対間違いのない境界である。土地所有者や利害関係人にそう思わせていませんか。 専門家として,明確に「この範囲です。」と説明しなければなりません。土地の利害関係人に,「このあたりに何かありませんでしたか。」という問い掛けも大事であり,土地家屋調査士としての調査能力や誤差に対する知識を発揮することも出来ます。 その時に土地所有者が土の中に埋められた炭やレンガのような境界標識の存在を証明してくれたなら,円満に境界を確定することが出来るし,確定した位置が境界標識の位置と相違していたという問題を生じることは少なくなるでしょう。 土地家屋調査士は書類の資料調査だけでなく,現場での測量からの調査も必要となります。
●事前調査と現況測量 専門家として心細いと思われるような記述をしていますが,ここでもう少し踏み込みましょう。 それは,事前調査として現況を測量しておくことです。 土地所有者の過去の記憶をたどるのは,土地所有者が一番自分の土地のことを知っているからです。記憶と現況がすぐ一致するから,誰よりも明確に発言することが出来る訳です。 そこで,土地家屋調査士が現況を図面にして,全体を地籍調査当時と比較出来るようにすれば,土地所有者の記憶の中に一歩踏み込むことが出来ます。 地籍図14条地図からの読み取り座標と現況の比較が明確になり,少なくても30年以上前と比べてどの位置が相違しているのか,昔のままであるのかが解ります。 当然,立会いの前に実施しておくのか,立会いの後に作成するのか。いろいろ問題がありますが,時間と事情が許せば立会い前に作成しておくほうが良いでしょう。 立会者に現況図と地籍図14条地図との比較を見せながら境界を決めていく方法。 立会いをする位置毎に,土地家屋調査士が読み取り座標をもとに復元して,境界をその都度決めていく方法。 いずれにしても,土地家屋調査士の頭の中で整理しておいて,立会時に大体どのあたりに境界がくるのか。どの位置が間違いのない位置なのかを整理しながら,土地の利害関係者との立会いの中で必要な話なのかどうか取捨選択することも出来ます。 地籍調査当時の説明をする利害関係者の話の中身も良くわかり,境界確定がスムーズに進むでしょう。この方法であればよほど最初に悪い印象(境界位置を誘導している印象)を与えない限りは,土地家屋調査士主導型の立会いになります。
●立会証明書 立会い時や終了時に,後日の問題を生じさせない為にも立会の事実を整備しておく必要があります。実印を押印し,印鑑証明書を添付した境界確認書を取り交わしている方もいるでしょう。ビデオで立会いの一部始終を撮っている方もいるかもしれません。私は,「境界」と表示した標識を立会者に持っていただくことにして,その様子を写真に撮って保存していますが,これでも文句が出るときもあります。 その文句の多くは,土地家屋調査士に騙されて境界位置を決めたが,本来の境界では無い。土地家屋調査士が意図的に誘導したというものです。どういう結果になったとしても,自分の思い通りにならないと不満なのでしょう。 我々土地家屋調査士にとって後日の争いに巻き込まれ,当事者とされてしまう恐れのある一番肝心なところです。 立会時には,物分りの良かった方が後日いきなり事務所に怒鳴り込んでくる事もあり,我々にしても,慎重に用心深く処理をする必要があります。 これは他人に教わることではなく,自分の最も良いと思われる方法で防ぐしかないでしょう。他の人の実践している良い方法でも自分の身についていない事は,それを真似ても中途半端になり,やらなければ良かったということにもなりかねません。
●不動標識 立会いをして境界が決定したら,後々のために不動標識を入れる必要があります。 中には測量をしているから,準拠点があるから現地に何も無くても大丈夫という方がいますが,専門家だからこそ,現地に不動標識がないと困るのだと思わなければなりません。 同一の人物が準拠点を使用して境界を復元したとしても,観測誤差はあります。 現地に不動標識が残っている。地積測量図記載の準拠点から測ってみて2〜5ミリの誤差であったとしたらおそらく測量誤差だとして安心されるでしょう。 一方不動標識が無く,2つの準拠点から別々に同一の境界点を復元した場合,その位置が2〜5ミリ相違したのなら,測量誤差だと思うでしょうか。同じ程度の範囲の誤差でありながら,その信頼性は全く違ってきます。 さらに,不動標識を設置した後に測量をしたのか,測量をした後に逆打ちによって不動標識を入れたのかによっても,その信頼性に雲泥の差があります。 したがって,現地には境界を表示する不動標識と,実際に器械を設置出来る観測点となり得る準拠点と,後視点である準拠点または多角点が必ず必要になります。 準拠点と不動標識と多角点,そして立会い時の証拠,これらがすべてそろって土地家屋調査士としての業務が出来たことになります。
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