本来の境界位置との許容誤差(公差)

(地図からの許容誤差,地積測量図からの許容誤差) 

地籍図141項地図(以下地籍図14条地図という。)地区の場合,既設の境界については地籍調査実施時に境界を確定し,測量がなされ,その成果品である地図が法務局に備え付けられ,この地図を基に登記がなされています。

地図上に表示された境界点を,後日地図と現地を比較した場合にどの範囲までの相違であれば同一点として考えてもよいのかという事が問題になります。

測量の許容誤差である公差も位置や辺長,そして面積に対するもの,さまざまな公差がありますが,ここでは一筆地の境界位置に対する公差を考察してみます。

 ●二つの公差

地籍図14条地図地区において,公差の考え方は二通り考える必要があります。 

@地籍図14条地図により直接復元した位置と,本来の境界との許容誤差

A地籍調査完了後,境界が確定されて地積測量図が提出されている。その地積測量図から復元した位置と本来の境界との許容誤差 
この二つに分けて考慮しなければなりません。

許容誤差という場合に,筆界は同一点であることは絶対条件である。筆界そのものがその都度異動しているのではありません。したがって,地図上で表示された境界位置の許容範囲内に筆界があるはずだから探して,正しい表示をしなさいということです。

図解法による地図の場合,直接境界を観測した数値では表示されていない。図根多角点から境界を測り,それを図示したものなのです。

地図の境界位置を基に筆界を探し出し,その筆界を実際に観測して表示した地積測量図がある場合は,図解法による地図の境界位置表示からの許容誤差とはおのずと相違が生じるのです。

 筆界は異動の無いものです。異動の無い筆界を実際に観測しているのであれば,それ以降は筆界を表示する地積測量図からの筆界の特定となります。地図上の境界表示位置からの特定と比べ精度は高いはずです。

やむを得ず,地図の精度区分をそのまま利用しても,数値法による許容誤差を使用すべきです。また,復元に使用する地積測量図が他人の作成したものか,自分のものかによっても許容誤差の精度区分は区別すべきです。ただし,地籍調査直後の30年以上前に平板測量をしたようなものは,境界位置の特定よりも面積が優先されていた当時の事情や,地籍調査と同様の方法で復元するという意識も無く,必要な測量機械も一般的でなかった事もあり,地図の境界位置表示からの復元となり,地図の精度区分でやむを得ないかもしれません。それ以外であれば専門家として自分の許容誤差を持つ必要があるでしょう。 

●地図の精度区分

地図から最初に境界を復元し,本来の境界との位置の許容範囲については,当然国土調査法施行令別表第5により表示されています。
 ここでは,甲3の精度区分で説明します。 

(1) 国土調査法施行令別表第5(1筆地測量および地積測定の誤差の限度)

精度区分

筆界点の位置誤差

筆界点間の図上距離または

地積測定の公差

平均二乗誤差

公差

計算距離と直接測定による

距離との差異の公差

1

2p

6p

0.020m + 0.003 √Sm + a o

(0.025 + 0.003 4F) √Fu

2

7p

20p

0.04m + 0.01 √Sm + a o

(0.05 + 0.01 4F) √Fu

3

15p

45p

0.08m + 0.02 √Sm + a o

(0.10 + 0.02 4F) √Fu

1

25p

75p

0.13m + 0.04 √Sm + a o

(0.10 + 0.04 4F) √Fu

2

50p

150p

0.25m + 0.07 √Sm + a o

(0.25 + 0.07 4F) √Fu

3

100p

300p

0.50m + 0.14 √Sm + a o

(0.50 + 0.14 4F) √Fu

備考  1 精度区分とは,誤差の限度の区分をいい,その適用の基準は,国土庁長官が定める。
    2 筆界点の位置誤差とは,当該筆界点のこれを決定した与点に対する位置誤差をいう。
    3 Sは,筆界点間の距離をメートル単位で示した数とする。
    4 aは,図解法を用いる場合において,図解作業の級がA級であるときは,0.2に,その他である
      ときは0.3に当該地積測量図の縮尺の分母の数を乗じて得た級とする。図解作業のA級とは
      図解法による与点のプロット誤差が0.1ミリメートル以内である級をいう。

    5 Fは,1筆地の地積を平方メートル単位で示した数とする。

位置の誤差は,備考2にあるように当該筆界点のこれを決定した与点からのものです。法14条地図ではその境界を測った図根多角点からのものであり,平均二乗誤差は15センチ,公差は45センチとなっています。

図解法による地図であれば,作成時の現地での観測,プロット。現地復元時の読み取り,そして境界の逆打ちによる誤差が考えられ,ある程度の誤差を見込むことは必要です。

地図の縮尺が500分の1の場合,専門家の手によって描かれた場合の線1本が0.1ミリの太さです。つまり現地では5センチの範囲である事を理解すれば,平均二乗誤差の半径15pの円の範囲にあれば,かなり正確な測量や作図を行っていると理解できると思います。

しかしながら,それ以上になった場合の公差の範囲45cmであれば,ちょっと雑なのかな。それとも何か理由があったのかなと疑っても良いような値です。

当然,その公差さえも外れてしまう場合は,明らかにどこかに間違いがあると思ってもよいでしょう。 

ここで,別表第5のもう一つの項目を見てください。「筆界点間の図上距離または計算距離と直接測定による距離との差異の公差」とあります。簡単に「2点間の距離誤差」や「辺長誤差」といっているものです。

1つの境界点の位置誤差を単独で考える場合は,先ほどの「筆界点の位置誤差」で良いのですが,今度は外の筆界点に関連する許容誤差が決められています。a位置とb位置の2点間の図上での距離が15.00mとして考えてみましょう。

2のように,a位置とb位置の2点を復元しました。本来の筆界位置A,Bとは,それぞれ相違があったとします。ここで甲3,図面の縮尺1/500の場合の筆界点の位置誤差と2点間の距離誤差を同時に図示してみます。

 復元位置と筆界点位置,どちらを基準にして考えるのかという問題があります。正解の筆界点位置から考えると間違いないのかもしれませんが,我々が業務を行う過程においては,復元位置しか解っていないのですから,復元位置(地図上で表示されている境界位置)から考える方が現実的です。

したがって復元位置を基準に話を進める事にします。

 これからの図では,小さい点線の円が平均二乗誤差の範囲,大きい点線の円が公差範囲。小さな○が図上読み取り点を現地に復元した位置。●点が筆界点とします。

地図の精度区分が甲3,地図の縮尺1/500,a位置とb位置の図上距離が15.00mである場合に,点間距離の許容誤差の計算式   0.08m + 0.02 √Sm + a o にそのまま代入すると

 0.08m(0.02×√15.00)m(0.3×500)o = 0.307m

地上距離(実測)が14.693mから15.307mまでであれば許容誤差であるとされます。

 (図2) 図上位置aと筆界点位置Aの位置誤差0.45m,図上位置bと筆界点位置Bの位置誤差0.45mが図1のとおり,復元点からすると筆界点はそれぞれ反対方向にあり,公差の範囲内で点間距離が最大限になる方向です。

図上距離15.00m,地上距離(実測)15.90mとなり,許容誤差0.307mを超えてしまいました。

 (図3)図上位置aと筆界点位置Aの位置誤差0.15m,図上位置bと筆界点位置Bの位置誤差0.45mが図2のとおり,復元点からすると筆界点はそれぞれ反対方向にあり,一方が平均二乗誤差内にあり,もう一方が公差の範囲内にある場合で点間距離が最大限になる方向です。


図上距離15.00m,地上距離(実測)15.60mとなり,許容誤差0.307mを超えてしまいました。

(図4) 図上位置aと筆界点位置Aの位置誤差0.15m,図上位置bと筆界点位置Bの位置誤差0.16mが図2のとおりの平均二乗誤差の範囲内で有るにもかかわらず,復元点からすると筆界点はそれぞれ反対方向にあり,一方が平均二乗誤差の位置で,もう一方が平均二乗誤差を超えているが公差の範囲内にあり,点間距離が最大限になる方向です。


図上距離15.00m,地上距離(実測)15.31mとなり,位置誤差が平均二乗誤差の範囲内であり,許容誤差0.307mをわずかに超えてしまいました。

  (図5) 図上位置aと筆界点位置Aの位置誤差0.15m,図上位置bと筆界点位置Bの位置誤差0.15mが図2のとおり復元点からすると平均二乗誤差の範囲の最大限の位置で,それぞれの筆界点は復元点からすると反対方向にあり,点間距離が最大限になる方向です。



図上距離15.00m,地上距離(実測)15.30mとなり,許容誤差0.307mの範囲内になり,位置誤差,2点間の距離誤差も両方満足することになりました。 

(図6) 更に,1筆地は境界点で囲む形になりますので,1つの境界点は必ず他の2点との直接の関連があります。これを図上距離15.00mの正三角形の形状で検証してみます。



(図7) ここで(図 6)の一部を拡大し,図上で説明を追加します。



図上読み取り値abcがそれぞれの筆界ABCに対し,平均二乗誤差の15pの範囲の最大限の場合を想定した場合,2点間の図上距離15.00mに対し,地上距離(実測)15.258mとなり,2点間の距離誤差0.307mに入ります。

 (図3)や(5),そして(6)からも解るように,復元点からそれぞれの筆界が平均二乗誤差の範囲にあり,しかも同一の方向にある場合は安心出来るものと言えますが,復元点に対して反対側にある場合は気をつける必要があります。図上距離15.00mとして,検証しましたが,距離の短い場合は平均二乗誤差の範囲内であっても2点間の距離誤差の制限を超える場合もあります。

このことからも位置誤差について,単独で使用する場合は公差を満足するだけではなく,少なくても平均二乗誤差の範囲にある事が必要です。 

●ついでに

点間距離の誤差の計算式で甲3の場合は0.08m + 0.02 √Sm + a oで計算されます。乙1では0.13m + 0.04 √Sm + a o この式の頭の数値に注目すると甲30.08m,乙2では0.25mです。これは,地図の縮尺が甲3であれば1/500,乙1であれば1/1000が平均的な縮尺と思われます。

地図上で認識できる0.1oが表示できる現地での距離は1/5000.05m1/10000.10mです。地図上でどの程度まで距離の限度を考えると,それぞれの計算式の0.08m0.13mが固定された誤差として表示されていると考えれば良いでしょう。したがって位置誤差は平均二乗誤差の範囲,点間距離の誤差は計算式の頭に表示されている数値が本来の許容誤差と思えば間違いないでしょう。

 地図から筆界を探る場合,意外に厳しい制限です。地籍調査を実施する側は公差では無く平均二乗誤差の範囲内の制限により,業務を行なっている事を我々土地家屋調査士は理解していなければなりません。

 ●既提出地積測量図との許容誤差

さて,このように復元され,探し出し,改めて測量をされて確定された筆界は地積測量図により特定されます。

既提出の地積測量図から復元・特定した位置と本来の境界とに生じた相違について,地図の精度区分の許容誤差を適用すべきではありません。

本当の境界(筆界)は1つしかないもので異動しないものなのです。その異動しない筆界を地図から探し出して,地図の拡大図である地積測量図で表示したのですから,以降はその拡大図の中での精度で特定することになります。

 提出された地積測量図には,時代により,いろいろなものがあります。

 地籍調査が完了した後で作成された地積測量図であっても復元性に乏しいものがあるのも事実で,それらの地積測量図が提出されている申請地についての登記処理については,地図の精度区分により対処せざるを得ないでしょう。 

30年以上昔の平板測量で作成された地積測量図と,現在のトータルステーションで測量をされた地積測量図では本来の位置(境界)を特定出来る範囲(精度)はおのずと異なることになります。 

(昭和40年代)

平板測量で作成した地積測量図は,辺長の記載も無い三斜法による面積計算で,10センチか5センチ単位の記載,また現地の境界には位置よりも面積が優先されていた時代背景もあり,当時の多くの調査士は境界に不動標識は設置していなかった時代。 

(昭和5060年代)

やがて,トランシットとテープを使用するようになると,地積測量図にもセンチ単位での辺長が記載されるようになり,三斜法であっても一度境界の座標を計算し,ヘロンの公式か座標法を使用して三角形の面積を計算の後,それを再度,面積を合うように三斜法の表示に直して表示していた時代。 

(昭和61年頃から)

立会について,官民境界確認書が絶対条件とされ,民・民の境界立会についても明確な方法での確認を行うようになった時代。 

(平成初期〜)

現在のようにトータルステーションを使用し,境界点の位置や面積の表示はすべて座標を使用し,その座標値もpかo単位の表示として,境界には不動標識を設置し,なおかつ引照点で位置を特定している時代。 

そういった各々の時代の要請の中で作成された地積測量図は,本来の境界(筆界)をどの程度の誤差で復元出来るのでしょうか。そして,それは筆界を間違いなく表示しているのでしょうか。

 当然地積測量図が提出された後は,大筋は地図で,現地を反映し細かい個所を表示している地積測量図で,より確実に境界を復元し,特定することになります。

    少なくとも数値法で作成,もしくは数値法で観測の後,三斜法で作成されている地積測量図のある
   地域については,境界を確定し,その位置を特定する座標値を実際に持っています。地積測量図の
   縮尺は250分の1ですので,その縮尺程度を要する地図の精度区分と同等である必要があります。

これは,中都市の市街地を測る程度の精度は要求され,甲2の精度区分に該当するはずです。甲2の精度区分の位置誤差というのは,平均二乗誤差は7センチ,公差は20センチとなります。この程度であれば充分対応できるはずです。

ただし,現在と同じ状態で作成された地積測量図においては,この甲2の位置誤差では無く,本来は単に測量誤差だけ,具体的には2p程度と思ったほうが現実的な対応です。

 我々専門家の良心に基づく対応と言ってもよく,少なくとも責任を持って地積測量図を作成する人間にとっては最低限度の条件でしょう。

つまり地積測量図作成者としては甲1の精度区分の平均二乗誤差2センチ,公差6センチであり,他人の作成した地積測量図は甲2の精度区分を満足していると考えれば良いのではないでしょうか。 

●変な誤解

ここで,地図からの境界位置を復元して筆界点の位置が確定した場合に,その筆界に対して地積測量図が作成されます。更に,その後,同一の筆界に対して処理をされ,新たな地積測量図が作成されていきます。

この場合の許容誤差については,それぞれ説明しましたが,変な誤解があるようです。

同一境界(筆界)を確定する度に,地図の精度区分の許容誤差があると考える官公庁の担当者がいます。これは全くの誤解としか言えず,境界(筆界)の意味を知らない事から発生している誤解でしょう。 

また,嘱託登記に良くあった同一縮尺で土地所在図と地積測量図を兼ねる事が出来る測量図が提出されていますが,これは実際の業務内容からすれば手抜きといっても良いものです。

境界は地図の読み取り座標で良い,筆界がそこから公差の範囲にあれば読み取り座標をそのまま使用します。

したがって土地所在図と地積測量図は同一のものになります。現地での復元については,登記業務を行う度に地図の精度区分が有効になります。読み取り値と筆界は公差範囲なのですから,再び筆界を表示する時には読み取り値の範囲内にあるとして,後続の土地家屋調査士も合わせてくれるだろうという考え方でしょう。

当然そうすると1筆地の形状は,現地を1対1で詳細に反映することが出来ず,地図の読み取り値のみになります。これが進むと,法14条地図は絶対である。少しでも形状が相違すると地図訂正です。

線1本でも相違しては駄目。役所の地図を管理している座標が,現地まで管理してしまうという考え方になり,まさに机上分筆でしか業務をすることが出来なくなります。

 しかし,本来の考え方はそうではないはずです。

公差を本当に考えて行くと,非常に柔軟な考え方が出来ます。

1であれば,位置については平均二乗誤差25センチ,公差75センチと一括的な表示になっていますが,その許容誤差を地籍調査時の現地での観測・平板へのプロット・復元のための読み取り・現地でのくい打ち時,そして地図自体の老朽化による影響といったものも考慮され,それを一つ一つ分析していけば公差を超えてしまう理由や,その対処の方法も明らかになってきます。

 この章でも,許容誤差は平均二乗誤差までとか厳しく説明しましたが,反面このくらいはいいですよという緩やかな規則でもあるのです。

弾力的に運用し最終的には精度の良い,現地を本当に復元出来る地図にしなければなりません。

第2章地籍図14条1項地図
地区でいつもの作業
     
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