図根多角点(図根三角点)探し
昭和50年代後半から平成初期の頃,法14条第1項地図(以下法14条地図という。)地区の最初の業務といえば,現地の図根多角点探しだった。 ●国土調査担当課で 役場で,図根多角点の網図を閲覧し,近傍にある図根多角点の名称を確認,同一路線にある図根多角点の名称と座標値を写す。さらに網図で近傍を通る路線の図根多角点の名称と路線名・座標値を写す。そして申請地を含む青焼の地籍図の写しを交付して貰う。観測点となる図根多角点から他の図根多角点までの距離を,座標値を開いて計算しておく。 準備が出来ると,役場の青焼の地籍図を片手に現地へ出かける。本当は法務局の法14条地図の写しがほしいのだが,法務局の出張所にはコピー機がまだ整備していない時代であり,トレースをしなければならない時代でもあった。 地図には1筆地の形状,長狭物(道路・水路・河川)の外,国家三角点を表示する△印,図根三角点を表示する▽印,図根多角点を表示するↀ印でその下に石と記載があるものと,ↀ印だけのものがある。申請地を含む青焼の地籍図写しの中には普通では△印や▽印は記載されていないが,申請地の近傍にはↀと記載されている印があるはずです。 ●図根多角点を探す 現地でまず必要になるものは,地図の写し,三角スケール,コンベックスと30mか50mのテープ,そしてスコップである。 青焼きの地図から,申請地の位置を探し出し,形状が合致しているか確認した後,その申請地の周辺にↀ印に石と記載されたものが無いか確認をする。 近傍にↀ印があれば,構造物(境界)からの距離を地図から三角スケールで距離を読み取る。更にもう一つの構造物(境界)から図根多角点までの距離を読み取り,2円の交点を求める要領で位置を出していく。 この地域では,図根多角点がそのまま顔を出していることは稀である。通常は土の中に埋まっている。そこでスコップで土を直径15p程度の円の範囲を5pほどの深さで掘ってみる。見つからないので,別の構造物(境界)に組み合わせを変えて,再び2円の交点を探してみると,先ほどの位置から20pほどズレた位置になる。 もう一度スコップで土を直径30pの範囲で,深さ5pほどを丁寧に掘ると,頭に十字を切った4p角のセメント柱が出てきた。 土中に垂直に埋まっており異動は無いようである。地籍調査の際に,ↀ印に石の記載のある図根多角点は,後日の復元等を考慮して,連続して堅固なコンクリート杭等を配置するように配慮されたようである。ↀ印だけで石の記載のないものは,図根多角点ではあるが,木杭のような仮設のものを使用したようである。 2つ目の図根多角点は探しやすい。1つ目に探し当てた図根多角点からの計算距離をテープで探してみる。 近隣の構造物からの距離は目見当でも,大体探し当てる事ができる。 解らない場合は先ほどと同じ要領で,近傍の構造物(境界)からの距離を加え探す,簡単に二つ目の図根多角点は見つかった。これで境界の読み取り値と図根多角点を使用して境界点の復元が出来ることになる。 この場合,復元位置と境界の構造物が10cm以内で,ほとんど一致といっても良い状態であり,やはり数値によるものが正確なのだと簡単に思った。 しかし,申請地近傍で探し出せていた図根多角点も,亡失している事が多くなり始め,5年もすると一つは簡単に探し出せていたものが,もう一つの図根多角点は亡失している事が多くなり範囲を広げての調査が必要になってきました。
●図根多角点の亡失が進む 申請地を観測した図根多角点から,同一路線の図根多角点が見つかる間は問題無いのですが,遠慮なく図根多角点は亡失していきます。 更に広範囲を調査しないと図根多角点が残っていません。やむを得ず近くの図根多角点で見つけ出せたものを路線の相違した図根多角点であっても使用することになります。 申請地を観測していたと思われる図根多角点2つが残っているうちは,放射測量でもよかったのですが,片方が亡失している場合は図根多角点の2つの組み合わせの距離が長くなります。2つの図根多角点同士の見通しがきけば良いのですが,見通しが利かない状態も多くなり始めます。 申請地を測った観測点が亡失している場合は誤差の配分もあり,また,亡失した図根多角点に近い値にする事,そして測量自体の精度・図根多角点自体の精度を確認する必要があります。そうなると最低限でも結合トラバース測量を実施する事が必要になります。しかし,図根多角点は2つでは無く,3つ以上が必要になり,そのうちの2つはお互いの見通しがきく必要があります。 申請地を観測した図根多角点が亡失してからは,3点以上を使用して結合トラバース測量をしていても,路線の相違する図根多角点を結合した場合精度はかなり低くなっていきます。 それに比例するように,座標を読み取り復元した位置と実際の境界との間に生じる距離がだんだん大きくなってきます。 申請地を観測したと思われる図根多角点から復元していた時は5p以内で復元できていたものが,30p以上復元位置と相違する事も多くなっていきます。
時間が経過するにしたがい,砂利道であった町道はアスファルト舗装に,草ぼうぼうだった里道はセメント舗装に,民地に設置していたものは開発が進み,図根多角点は亡失します。10年ひと昔です。20年以上経過すると,これはやむをえないことでしょう。
不思議な事に図根多角点を一度掘り当てて,土中から顔を出させてしまうと,どんなに丁寧に土をかぶせて復旧したとしても,次回もう一度探すと,何故か無くなってしまっている事が多いものです。
●図根多角点を使用する 依頼地近傍の亡失していない図根多角点を探さなければなりません。しかし,どの範囲までを探すのか,探さなければならないのか。路線の相違する図根多角点を組み合わせて使用する限界はどこまでなのか。必ず結合トラバース測量を行う必要があるのか。閉合トラバース測量や開放トラバース測量では駄目なのか。 ここで挫折して任意座標の世界に戻ってしまう土地家屋調査士も多いようです。 復元の為に行う測量だけを考えるのであれば,狭い範囲であれば(図3)のような開放トラバース測量でも,(図4)のような閉合トラバース測量でも問題はなく,現実的なのかもしれません。また結合トラバースでも(図5)のような形になるのも仕方ないかもしれません。ただ,復元測量のみを行う為に,このような測量をすることが合理的なのでしょうか。復元が出来れば,正確な位置や面積を表示しなくても良いと考えるのなら問題ありません。我々土地家屋調査士には確定測量という地積測量図を作る業務があります。 図根多角点間が100m程度なら,(図2)のような新点2点程度の結合トラバース測量であり2時間程度の労力です。300m〜400mの距離を結合トラバース測量で行うとしたら,新点6〜10点程度になり,1日仕事になってしまいます。何より与点となる図根多角点を調査すること自体が1日仕事になってきます。 距離の長い路線になると,結合トラバース測量であっても(図5)のような路線になる場合や,地籍調査時の路線の相違する図根多角点を与点とする場合などは,労力の割にはがっかりするような精度になってきます。地籍調査の図根多角点網図で,同一路線の図根多角点であるかどうか。別路線であれば何次路線なのか調査しておく必要があります。 図2のような結合トラバース測量を行うべきで,測量精度の確認出来ない開放トラバースや,拡大縮小がかかっても解らない閉合トラバースはやめておくべきでしょう。
●図根三角点を使用する 図根多角点が近傍に無い場合は発想を転換して,図根三角点を使用しましょう。与点として使用しても良いでしょうし,取り付け点としても使用出来ます。 図根三角点は図根多角点に比較して,比較的見通しの良い場所の堅固な場所で,コンクリート柱か御影石でしっかり設置されています。 近くの図根三角点を調査しておくと,いろいろと便利な事が多くなります。見通しの良い場所にあるので,場合によっては図根多角点からの取り付け点として使用する事が出来るかもしれません。 図根三角点は,大体500m〜800mの範囲に1個設置されているようです。図根三角点同士を結ぶと,精度的には1/5000〜1/8000程度のように思われます。 1つの申請地のみの事を思うと,気が進まないかもしれませんが,後日,近傍地の申請にも利用出来ると考えると,その気になれるのではないでしょうか。 ●集成図 図根三角点を使用して多角点を設置することにした場合,内業で近隣の図根三角点がどこにあるか調査する必要があります。今度は役場の青焼きの図面と集成図を使用します。申請地を含む1/2500の集成図には▽マークの図根三角点が3つか4つの記載があります。 現実的な対応として,依頼地を囲む形になるように近傍の図根三角点を3点か4点選びます。国土地理院発行の地形図も用意しておき,地形図から図根三角点のある位置が大体推測できます。険しい山の頂上付近にある図根三角点はとても使用出来ないかもしれませんが,なだらかな山の頂上や,小山にある場合は使用出来ます。 意外と,車で移動できるような場所に設置されている場合もあり,一度調査してみる価値はあります。特に見通しの良い場所で,交通の便が良く,利用のしやすい場所にある図根三角点を確認すれば,非常に使いやすくなります。 しかし図根三角点を利用しての測量になると,本当に測量業務です。効率よく,再び同じ事を繰り返す必要のないように,計画を練り,路線の形を考え,新点設置の場所を考慮する必要があります。
●観測の方法 測量の方法についても,いろいろと考える必要はあると思います。 200〜300m間隔で図根三角点間を結ぶ方法。 図根三角点を50m間隔で結ぶ方法。 200〜300m間隔の新点を設置し,その新点間を50m間隔で結ぶ方法。 その測量方法については各自の得意な方法というか,測量知識と技術により決まってくると思います。 精度を確認する測量,つまり自分で安心できる測量を行う訳ですから,観測方法は最低でも結合トラバース測量,水平角は2対回観測,鉛直角は1対回,距離観測は2回2セット必要でしょう。 中には水平角も鉛直角も半対回で良い,距離も水平距離のみで良いのだと思われる方がいるかもしれません。半対回の観測で何分かかるのでしょうか。機械の据え付け,観測。その時間は15分程度でしょう。しかし2対回,1対回,2セットを行っても観測条件は一緒で,観測時間が5分程度増えるだけなのです。それだけで信頼性が増し,測量計算方法も幅が広がり,どこに出しても恥ずかしくない成果になります。 その観測制限については各自の定める制限で良いと思いますが,再測で何回も同じ場所を観測する必要のないように,そして今回の新点が次回の与点となる場合もあります。その為に頑張って設置したいものです。 自分で安心して使用の出来るような精度にしたいものです。そうすると現在の測量機械の性能を考えると,どの程度の制限になるのでしょうか。 後日,後悔することのないように,厳しい制限にしておく方が信頼性も増します。何よりも自分自身の訓練になります。
●もう一度 図根多角点は加速度的に亡失してしまいますが,もうこの地域では図根多角点は亡失してしまっている。探しても仕方が無いと思っていませんか。最初から探していないかもしれません。しかし,意外なところに残っている場合もあります。 新設の図根多角点か基準点を設置した後,亡失したと思われる図根多角点の座標値を利用して復元をしてみてください。案外出てきます。 一つだけでも,現地のズレを知ることが出来るし,何よりも境界の復元には,現地を測った図根多角点を使用する事が一番正確なのです。
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