何故,地図から座標値を読み取るのか

TSで境界を復元するためには,観測点と後視点そして境界の座標値が必要になりますので,1筆地の数値測量を実施している場合はその座標値を閲覧すれば目的を果たせます。ところが地籍図14条1項地図(以下地籍図14条地図という。)の場合には,図根多角点はトランシットと綱巻尺による測量で座標値(公共座標)がありますが,1筆地については図根多角点から平板測量で実施されていますので,直接観測した生データは無く,その座標値はありません。

そこで,復元に必要な境界点の座標値を知るためには,地籍図14条地図から図化された境界位置の情報を座標値として読み取ることになります。 

●復元の大事さ

一般には,「国土調査は誤っている。現況主義で測量がなされている。当事者間での境界の立会が不足しており,筆界を表示していない。」など根拠を持たない有らぬ誹りを受けたことがあり,公的には,「地籍調査は行政処分で無く,筆界の創設行為ではない,単に筆界を正確な測量で測り直しただけだから,地籍調査時の調査に誤りがあれば,筆界について地籍調査以前の公図に戻り決定する。」とされています。

この事から,地籍調査時の復元について,正確に復元しなくても良い,現況の境界を当事者の立会で確認し,任意座標で重ね図程度の比較により確認をすれば良いと誤解している方もいるかもしれません。

地籍調査法を持ち出すまでも無く,大多数の地区では,地籍調査時の所有者の立会に基づき境界確認をして改めて測量をした地図であるということで,”地図としての市民権”が得られています。

そこで,立会が不足しているとか,現況主義であったという主張をする場合は,まず地籍調査時に境界とされた位置を復元し,この位置が正しいのか否かを確認する必要があります。

 現況主義であれば,地籍調査時点でそのような状況であった事実を知ることになり,何故,そのような状況であったかという理由を探り出し,本来の筆界を究明するカギになります。

 

●何故読み取るのか

 ここで,何故読み取りを行わなければならないのか疑問に思われるかもしれません。

 法務局で法14条1項地図の写しの交付を受け,地図で隣接地を調べ,申請地と隣接地の土地所有者を全部
  事項証明書で調査。現地で土地所有者や隣接地所有者の立会いを得て,局地座標で測った一筆地の形状と
  法14条第1項地図の1筆地の形状を重ね図にして,相違の一番少ない位置を固定して,相違の大きな場所
  については公差の範囲内かどうかを確認し,位置誤差の公差から外れていれば地図訂正をすれば良いのだ。
  隣接地の土地所有者も立会いで境界を確認しており,あらかじめ地籍調査と相違すれば地図訂正を行うと
  隣接地所有者に説明しているので問題はない。この様な考え方になるのかもしれません。


   しかし,この位置が本当に正しいのでしょうか。隣地の土地所有者,依頼のあった土地の所有者とも,記憶
  に間違いがないのでしようか。当事者同士が土地の交換をしていた。時間の経過とともに,過去の境界の位置
  について思い違いをしているのではないですか。(裁判では,記憶が変質すると言ったりします。)


   そして,異動が無く明確な位置とされ,地籍調査時の形状と現地の一筆地の境界とを一致(固定)させた
  位置は本当に間違いないのでしょうか。土地家屋調査士の独り善がりの判断ではありませんか。


   もしかしたら,他の位置は正しく,この位置だけが間違っているのではありませんか。どんどん不安になります。

   このような判断は,客観的かつ合理的に出来る作業量を多くして,人間の判断する範囲を狭めてやることにより
  信頼性は増す事になり,間違いも少なくなります。

   客観的に境界の範囲を特定できる方法があればそれも使用するべきです。当然,過去の書面や資料の調査
  も大切です,そして土地家屋調査士の経験により最終的な判断を行えば,専門家の知見を駆使する事で筆界を
  決めることが出来ます。

 

●同一の座標系

  極論すれば,地図の読み取りをすると言うことは,地図に表示された公共座標(地籍調査実施時の座標)を
  読み取るということなのです。

   現地に図根多角点が残っていれば,図根多角点の座標値を利用して1筆地の実測値が解ります。
   その実測値での1筆地形状と地図位置の座標での1筆地形状を,そのまま同一の座標系(位相)で重ね図を
   すれば,境界位置の範囲については,どの位置が相違しているかも容易に知ることが出来るようになります。


   当然,いろいろな誤差がありますので,読み取りをした値がそのまま,正しい境界の値という訳ではなく
   多分に重ね図的調整を行う要素も残ります。客観的に判断出来る部分が非常に多くなり,重ね図を行うため
   の移動量や,一番正確と思われる位置,もしくは最大公約数的な位置が解ってきます。

   言葉にすると,作業量の割にわずかな成果だと思われるかもしれませんが,これは個人の勘に頼った部分
   では無く,第三者に説明の出来る合理的な成果です。


   そして,範囲を絞り込んで客観的な要素が無くなってから,専門家としての永年の経験と知識により境界
  位置を決定することになる訳です。

●地図から知る境界の座標

まずは法務局に行き,法14条第1項地図を入手して,境界の座標値を知る事から始まりますが,最
近は市町村役場の中にはパソコンで管理するために,図解法であっても,市町村役場が独自に地籍図を
読み取り,内部資料として座標を持っているところもありますので,その座標値を閲覧する手段もあり
ます。

しかし,この座標は境界を直接測量して得られた数値ではなく,数値測量によって得られた値では
ありません。言いかえれば,現地で境界を示す座標値では無く,地図を管理する為の座標値であると
いう事をはっきり自覚しておくべきです。

●誤差

地図から境界の座標を読み取る場合には,数々の誤差がある事を承知して読み取る必要があります。

  この誤差は知識として必要なもので,このことを理解していれば後日の境界を復元する際の土地家
 屋調査士としての心構えや,当事者等への対応も柔軟になります。土地家屋調査士として境界決定の
 判断は柔軟に対応しなければなりません。


  単純に人間の目の分解能というのは25センチ離れた位置で0.2ミリのものを読み取ることが出来る
 そうです。地籍調査の境界線については0.1ミリで表示されているそうです。


  漠然と地図をながめていますが,すでに専門家としての技術が発揮されています。しかしこの
 0.1ミリにしても500分の1であれば現地では5センチの幅を持つことになります。


  当然,地籍調査当時境界を観測した後のプロットの時点でも同様の誤差が生じ,今回読み取りを
 行う際にも誤差は生じています。

  これらは図解法によるものであればやむを得ない誤差で,読み取りをして数値にしても変わらず
 持っている誤差なのです。読み取りをして,アナログをデジタルにしたからと言っても,その基に
 なっているものが替わっているものではありません。


  ここで説明しなければならない地図について,現在の法14条第1項地図と閉鎖された法14条第1
 項地図があります。現在の法14条第1項地図(以下「法14条地図」という。)は電子化されており
 地図というよりは,地図情報システムそのものという概念です。
 

●閉鎖された法14条地図

閉鎖された法14条地図(以下「地籍図14条地図」という。)については,アルミケント紙,マイラー等があります。

公図地区の方でも,マイラー(フイルム)についてはご存知だとおもいますが,アルミケント紙というと現物がどんなものなのか解りにくいと思います。伸縮のないようにとアルミ箔をケント紙でサンドイッチのように挟み込んだもので,地籍調査時の平板で観測した原図としても使用されており,この原図を見ると地籍調査時に測量した観測点の針の後が明確にわかります。

それがそのまま地籍調査実施庁で原図として保管されており,その原図を同一のアルミケント紙に11の写真による謄写をしたものが,法務局に備え付けられている地籍図14条地図なのです。

このアルミケント紙は伸縮の少ないものだとされていましたが,それでも長い年月の経過とともに老朽化し,地図用紙の伸縮は避けられなくなってきましたし,法務局の手入れによる誤差も生じています。

地図を読み取る際には地図作成時の誤差以外にも,地図を維持管理していく際に生じている誤差もあることを承知して読み取らなければなりません。

 ●図郭交さ記号

地籍図14条地図の外枠の300×400ミリを表す太線を図郭線と言い,この図郭線の左下と右上にこの法14条地図の座標を示す数字が記載されています。

そして,この図郭線を基にして,10センチ区切りで図郭内の区郭交さ記号(トンボ)が記載されており,この記号により法14条地図は12ブロックに区画し表示されると同時に,簡単に座標を知ることが出来るようになっています。

区郭交さ記号(トンボ)の間隔は,10センチ間隔とされているため,地図の縮尺によりその表示する距離は異なりますが,500分の1であれば50メートル,1000分の1であれば100メートルを表しています。

 

●地図の伸縮

ところが,この区郭交さ記号が10センチの規格どおりの距離でないことのほうが多いのです。

実際の距離は10センチ(100ミリ)の正方形ではなく,X方向は98ミリ,Y方向は102ミリの変形の四角形だったりします。

さらに詳しく調べると,本来平行であるはずの四角形のX方向,Y方向のそれぞれの二辺も平行でなく,距離も相違している場合の方が多いのです。

これは,もともとの地図作成時から厳密な形状でなかったもの,その後の地図用紙の伸縮・老朽化によるものがあります。当然,最初からおかしくて,更に地図の老朽化により変形な形状になってしまったものも考えられます。最初の地図の図郭線そして,区郭交さ記号についても地籍調査当時は手書きであったことを知っておく必要があります。

 

●一筆地の形状

図根多角点は,地図の形状を作成後,その区郭交さ記号等により,観測した座標値を基にして地図(平板)に,これも人間の手によりプロットされています。

したがって,最初に歪みがあった場合は,図根多角点も相違した位置にプロットされていることになります。そこから観測された境界の位置も,実際の座標で表示される場所よりも相違していることになりますが,観測した図根多角点との位置関係については問題ありません。

その様なことから一筆地の形状については工場用地のような大きな土地であれば,歪みが生ずる可能性がありますが,一般的な宅地や農地程度であれば問題はないと思われます。 

●図根多角点を読み取る

地図からは一筆地の境界点だけでなく,ある程度の広がりをもって隣接土地や,近傍の図根多角点の印も必ず謄写し読み取っておきましょう。

図根多角点を表示する地図上の石という印は,図郭線や図郭内の区郭交さ記号(トンボ)のように図上での座標ではなく,唯一現場で座標を持っている物的証拠と言ってよい点なのです。

地籍調査実施庁で調査した図根多角点の座標値と,地図の読み取りを行なって得た座標値が,ほぼ一致(10センチ程度)していれば地籍図14条地図に正しくプロットされているという事になります。

勿論,アレッと思うような座標のズレがあれば,その図面の中のどこかにおかしい場所があるのかもしれません。その図根多角点から観測した境界については,地図から読み取った値から言うとすべて同一の方向にズレがあることになります。 

●謄 写

地図の読み取りを行なうためには,地籍図14条地図は持ち出しをする事が出来ませんから,地図の謄写が必要です。地図の謄写については,閉鎖された法第14条第1項地図をトレースする方法が最も良い方法です。

コピー機やトレース紙の使用は注意する必要があります。昔のコピー機は,コピー時の歪みが大きく気になっていました。現在のコピー機はデジタル機でコピー時の伸縮については問題なく,その後のコピー用紙自体の伸縮に気をつける必要があります。トレース紙は謄写した直後は良いのですが,時間が経過するとトレース紙自身の伸縮により思わぬ誤差が生じますので,出来るだけ硬質の鉛筆を使用して,フイルムでの謄写をお進めします。地図自体を直接謄写するために,地図自体のひずみ以外には誤差を生じないため一番良い方法でしょう。しかしこれには謄写する人間の慣れと,謄写技術が謄写結果を大きく左右します。初めての方は充分注意してください。

狭い範囲であれば,最近は読み取った座標を印字出来るプラニメーターがあり法務局にも持ち込み可能のようなので,これは法14条地図を直接読み取れるという利点が有ります。

しかしながら器械の性質上広い範囲を読み取ると誤差が生じます。同じく狭い範囲であれば,コピーを使用することも可能でしょう。 

●法14条地図で

現在の法14条地図であれば,A3版で申請地がその図郭線(256250o)で囲まれている状態で出力されます。これをそのまま利用する事が出来れば,人間の謄写による技術の上手下手,境界点の取り忘れ等による形状の相違が無く,また時間の節約といった利点があります。

ただし,この出力された法14条地図の写しについては,単純に利用せず,地籍図14条地図と対比を行っておく事をお勧めします。

何故ならば,現在の法14条地図は地籍図14条地図をスキャナーで読み取りをする事により,地図上の境界の位置を座標にして電子化したものです。その移行手続きの際,スキャナーによる読み取りで同一点判断による誤った修正がされたもの,地図が分属表示されていたものを自動的に接合した結果,1筆の形状が変異している場合もあります。

これらは地図訂正では無く,法務局側の移行処理の問題ですので,速やかに法務局に指摘する必要があります。本来は地籍図14条地図を読み取り,使用してほしいと思います。

地籍図14条地図をどのようにトレースするかという問題もありますが,この方法については「閉鎖された法14条地図からの読取り方法」の項目で詳しく記載しておりますので参考にして下さい。

●自分の判断

法務局から入手する方法について,法14条地図の写しを利用する。地籍図14条地図をトレースする。地籍図14条地図の写しを利用する。法14条地図の写しを地籍図14条地図と重ね合わせてチェックをした後利用する。どの方法が最良なのかは各自考えてほしい。

いずれかの方法で入手した後,自分で判断して最良と思われる方法で地図から境界点の座標の読み取りを行ってください。デジタイザーで読み取る方法や,スキャナーで読み取る方法もあります。原始的な方法ですが三角スケールを使用して人間の目で読取る方法もあります。

どの方法が良いとは言えません。とにかく地籍調査地区において最初の業務が地図の読み取りなのです。いかに正しく,間違い無く客観的に座標を知るか。

そして,その座標値は決定された座標ではなく,誤差を含んでおり,「地図上に表示された境界位置の範囲を示す代表値」であることを承知してほしいと思います。

読み取りの値が境界位置そのものをピンポイントで表示するのでは無く,誤差を含み,位置を示す範囲を表示しているものであることを理解して,公平に土地所有者や隣接土地所有者との対応が出来るように,その時に余裕を持って専門的な知識を発揮出来るための材料であることを認識しなければなりません。



第2章地籍図14条1項地図
地区でいつもの作業
     
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