昭和40年代以降の土地家屋調査士業務 「図解法による地籍調査」が実施されていた当時から現在まで,つまり昭和40年代 からの土地家屋調査士業務を振り返ってみることにします。 1. 測量事情 (ア)昭和40年代 昭和40年代当時の一般的な土地家屋調査士の登記業務は「面積算定が中心で,位置 の特定という事については現在ほど考えていなかった。」先輩諸氏から良く聞く話です。 地籍調査実施地区でも,昭和40~50年代は三斜法による測量図が提出され,現地復元 性の無いものも多く提出されていました。 面積が解りさえすれば良い,1筆地を平板で測る事が業務のすべてと当時の土地家屋 調査士・官公庁の職員,そして法務局の職員も思っていたのではないでしょうか。 現在では当たり前に思える公共座標での復元方法(地籍図作成の経緯をさかのぼる 復元方法)については思いもよらなかったのかもしれません。 昭和40年代の土地家屋調査士の業務内容は,外業では布テープ・平板測量が主流の 時代です。山間部を測るときに布テープとコンパス測量,先進的な土地家屋調査士が布 テープとバーニヤ式のトランシットを使用していた頃です。 求積には三斜法が使用され,内業に使用する計算道具はそろばんが主流で,トランシ ットを使用されていた方は対数表を引きながらの計算でした。平板やトランシットを使用す るにあたり,技術も測量知識も自分が磨き上げるという職人的な感覚だったのでしょう。 (イ)昭和50年代 昭和50年頃から土地家屋調査士の周りの環境は大きく変わり始めます。四則演算の出 来る電卓が販売されると,急速に電卓の性能は向上していきます。外業に使用する測量 器械についても平板からトランシットへ,そのトランシットもバーニヤ式のものからマイクロ 読みのものに進歩して行きました。 登記業務においても昭和52年には不動産登記法取扱準則(以下「準則」という)が改正 され,大きな転換期を迎えました。そんな時に関数電卓,そして磁気カードを利用したプロ グラム電卓が発売されます。技術改革が堰をきったように進み,1年の間隔が半年の間 隔というように性能が良く手ごろな値段になった新製品が次々と販売されました。 この頃,平板利用派とトランシット利用派が半々だったようですが,調査士会の斡旋で多 くの土地家屋調査士が20秒読みのトランシットを購入し,徐々に20秒読みのトランシットと 鋼巻尺を使用するようになっていく事になります。 50年代半ばにはパソコンも販売されました。現在の関数電卓に毛の生えた程度の性能 でディスプレイも小さい,今から思えばおもちゃのような器械でしたが,値段は高価でした。 50年代後半になると,トランシットもデジタル読みに進歩して,トランシットの頭に載せ距離 の観測が出来る光波距離計が出現,そしてトランシットと一体型となった光波測距儀も売り 出されました。性能も良くなり値段も手ごろになったパソコンと測量ソフトのセットも大々的 に販売され始めました。 (ウ)昭和60年代 昭和62年に松山市鷹子地区で法17条地図作業が全県下の土地家屋調査士が参加する 研修として実施されました。法17条地図は現在では法14条1項地図となりましたが,多くの 会員は鷹子17条という言葉に慣れ親しんでいるので以下「鷹子17条地図」で統一します。 その時には大部分の会員が一体型の光波測距儀を購入していましたが,パソコンの測 量ソフトを利用している調査士は3割程度でした。作業において会員間の情報交換が活発 に行われ,鷹子17条地図作業終了後,測量ソフトとパソコンのセットは土地家屋調査士の 必需品になっていました。 更に測量ソフトにCADも組み込まれるようになり,光波測距儀を使用することにより今ま で現場作業も1日仕事だったものが2時間程度になり,内業での計算に2日かがりだったも のが,事務所に帰り手簿からパソコンに測量データを入力してやれば,正確な数値の座標 値計算が1時間程度で終了,手作業による誤りが少なくなりました。 プリンタープロットやプロッターでいきなり地積測量図を作成する事が出来るようになりま した。その結果,手作業で座標値をプロットするという煩わしい作業から解放され,今まで 二の足を踏んでいたような難しい計算や作図も簡単に出来るようになりました。 また,鷹子地区では法17条地図作成作業の前年に基準点設置作業が行われ,最終的 に県下の40数名の調査士が基準点班として従事しました。 参加者には基準点の観測法方法・計算方法についてあらかじめ研修があり,手簿の付 け方, 2対回の水平角観測,1対回の鉛直角の観測,2セットの距離観測,そしてそれぞれ に制限のあることを知り,大いに役に立つことになりました。 基準点測量を理解することが出来たかは別として,今まで独学で覚えた開放トラバースか ら,既知点から既知点を結ぶ結合トラバース測量(単路線測量)を実際に観測し,計算して 実際に体験することが出来たおかげで,地籍調査地区での図根多角点を利用する方法が 理解出来た調査士も多かったことでしょう。 鷹子17条地図作業に関連して,不動標識としての根巻きコンクリート杭・会標,位置特定 の為の準拠点・会標や準拠点を設置する為の充電式ドリル,表示を切り替える事の出来る デジタル式の光波測距儀等,これらが一気に広まりました。 1筆地測量においても標準的な境界確認方法・境界標識の設置・他の調査士との連携等 鷹子17条地図作業を調査士会全員の研修としての成果ともいえます。 昭和63年には法務局の協力もあり,地積測量図に境界確認書の交付番号と日付につい ての記載の義務付けがなされ,境界確認書は機能管理者では無く,財産管理者からのも のが必要であるとされ,境界の立会についての認識が一層深まる事になりました。 現地復元性からも座標法での計算方法が一気に推進されました。表示単位をp単位と するかo単位とするか,いろいろと議論がありました。 (エ)平成から現在 しかし,その後,県下の会員全員が強制的に参加する研修については実施されていませ ん。鷹子17条地図作業の参加者は基準点作業についてはもう充分は出来ると思い,その 後の努力を忘れてしまいました。鷹子17条地図作業以降に入会した会員は,そのような作 業すら知らず,強制的な研修は受けていません。本会において基準点研修も開催されまし たが,残念ながら鷹子17条地図作業ほどの影響力は無かったように思われます。 鷹子17条地図作業から20数年が経過して,測量ソフトやパソコンそしてTSの性能のおか げで,結果的に鷹子17条地図作業と同様な事が出来ていても,自分達の測量知識や技術 のレベルの向上を怠っていた事は事実です。 平成18年12月1日付登第287号により,人口集中地区(DID地区)の街区基準点設置地区 では街区基準点を利用しない場合,却下するということになりました。 この街区基準点の利用方法については,基準点測量そのものですので自己研鑽してい れば,当たり前の作業として何ら混乱することはなかったと思うのですが・・。 2. 位置の特定 (ア)三斜法での位置特定 面積の計算方法については三斜法が主流でしたが,現地の復元性ということから 昭和52年の準則改正とともに不動標識(引照点)からの位置特定が求められ,しばらくの 間はこれまでの方法より大きく変化する事になるので緩やかに運用されていたようです。 不動標識からの特定は求積地に対し,2点以上を特定するように要求されていました。 昭和57年頃には実測2辺長の記載の義務付けがされ,その後,可能な限り辺長を記載す ることとなり,座標法での求積も多くみられるようになりましたが,すべての窓口の法務局 職員が座標法に対応出来ていた訳ではなく,三斜法による地積測量図で再提出することを 求められたりすることもありました。 座標法で計算した後,改めて三斜法での面積計算をすることになり,土地家屋調査士に とり現地の復元の為に,地積測量図に境界点の座標値を記載する必要性を改めて認識さ せる機会にもなりました。しばらくして,すべての法務局窓口でも座標法の求積に対応出来 る体制が整い,地積測量図の求積方法として座標法は一般的なものになりました。 (イ)座標法での位置特定 平成7年の取扱要領に,地積測量図に全辺の距離を記載となっていますが,この場合は 座標法での記載が一般的になっており,求積表に隣接点からの辺長の記載がなされてい るのに,一筆地の,細かい屈曲点(短い点間距離)の細かい場所にも辺長をわざわざ記載 する必要があるのかという議論が法務局となされています。 (ウ)街区基準点の使用 昭和52年の不動産登記法取扱準則の改正により位置の特定ということが徹底されるよう になり,その改正当時は大混乱でした。 地籍調査実施地区は公共座標が原則であるとされましたが,準則123条のただし書によ り,広大な土地の一部の分筆や地籍調査実施地区では,残地求積については当分の間 は猶予することとされ,平成16年の改正により全筆求積が明記されるまでは1筆地の残地 については境界確定や求積は行っていませんでした。 しかし,法務局の認識としては,これまでも残地については境界確認を行っての求積まで は求めていなかったが,概略の測量をして全体の形状を確認することは求めていたとされ ています。平成16年の改正以降,地籍調査実施地区においても広大な土地以外は,1筆 地全部を求積(双方求積)する事を要求されていますが,公共座標での地積測量図作成に ついては窓口で強制されていません。 人口集中地区(DID地区)では街区基準点が設置され,街区基準点を使用した測量によ る地積測量図の作成が義務付けされています。 地籍調査は公共座標での成果です。何時地籍調査実施地区も公共座標(基準点測量) での地積測量図作成の義務付けが行われるか解らないのだという事を自覚しておくべきで す。
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