法務局における国土調査に関する登記と地籍図
土地家屋調査士 宮 本 邦 彦
国土調査における調査の目的及びその内容
1 土地分類調査
土地をその利用の可能性により分類し、あわせて土地の利用目的における必要な諸条件を
明らかにする目的をもって、土地の利用状況、土性その他土壌の物理的及び科学的性質、浸
蝕の状況その他の主要な自然的要素並びにその生産力に関する事項について行う調査。
2 水調査
治水及び利水に資する目的をもって、気象、陸水の流量、水質及び流砂状況並びに取水量
用水量、排水量及び水利慣行等の水利に関する事項について行う調査。
3 地籍調査
土地における地籍の明確化を図る目的をもって、毎筆の土地について、その所有者、地番及
び地目の調査並びに境界の測量及び地積に関する測定等の事項について行う調査。
4 基本調査
土地分類調査、水調査及び地籍調査の基礎とする目的をもって、基準点測量を含む土地及
び水面の測量並びに土地分類調査及び水調査の基準の設定のために行う調査。
土地台帳と登記簿の一元化以前の取扱い
国土調査法は昭和26年法律第180号により公布され、翌27年8月1日施行されている。
愛媛県における国土調査事業については、昭和28年に着手した市町村が松山市・新居浜市
及び城川町の3市町である。しかしながら、松山市においては、旧余土村地区(余戸・市坪・保
免の3地区のみを実施し休止市町村の扱いであった。また、東宇和郡城川町は昭和39年まで
調査を行い、法務局に対する登記嘱託は、昭和35年から同44年までなされて全町完了して
いる。
当時の登記所にける事務は、いまだ登記簿と土地台帳との一元化作業が完了していない中
で登記嘱託がされたと聞いている。また、地籍簿については昭和32年7月22日民事甲
第1388号民事局長通達「国土調査法及び国土調査法による不動産登記に関する政令によ
る土地台帳及び登記事務の取扱方について」により、土地台帳に登録されている土地の表示
が地籍調査の結果の表示と符合しない場合には、地籍調査の実施後に改められている場合を
除き、当該地籍簿を土地台帳とし、地籍簿に基づく登録の修正又は訂正をしたものとする。の
規定に基づき、土地台帳に差し替えられている。
従って、国土調査前の情報については、閉鎖土地台帳の確認が必要となっている。
ただし、登記簿の表題部は一元化改製作業前であるため、「不動産の表示の変更の登記は
遅滞なくすべきであるが、遅くとも、当該土地について今後最初の登記をする時までになすべき
である。」としている。表示に関する登記は土地台帳の記載を行った後に、地籍簿により記載す
るのではなく土地台帳により修正していたものである。
当時の登記記載例は示されてなく、該当登記所の所長及び事務官においては、非常な苦労
が あったと聞いている。出張所から支局経由で本局に照会・相談を行っても、国土調査の処
理について理解している職員がいるはずもなく、やむなく登記法の趣旨を汲みながら処理を行
ったようである。
法務局における国土調査の事務処理が統一的にされるようになったのは、昭和43年3月に
民事局から民事月報号外「国土調査詳解」が発行されてからとなる。なお、登記簿と土地台帳
の一元化作業は昭和45年度末をもって、全国(沖縄・小笠原以外)の作業は完了している。
国土調査における地籍簿については、現在は「職権表示登記等書類つづり込み帳」として
保存期間は30年とされているが、従前は「5年」とされていたため、松山局において早期の地
籍簿については、廃棄処理されて保存されていない場合がある。
平方メートル書き換え(一元化作業完了後)
一元化作業完了後においても登記簿の地積の記載単位は旧尺貫法のままであったが、昭和
41年4月1日計量法の改正により、同日以降の表示に関する登記(変更含む)は、全て平方メ
ートルにより記載することとなった。
しかし、登記用紙全てについて書き換え作業が全登記所で終了したのは、一元化指定期日と
同様昭和45年度末である(地積測量図イン愛媛資料編参照)。登記用紙の表題部には、B地
積欄の表示は旧尺貫法とuの双方の印刷があり、平方メートルの記載に改めた場合は、uの
ゴム印を押印し判別できるように記載している。
また、地積測量図等の記載は、縮尺を表す欄に「Kまたは間」と記載している。法務局におけ
る書き換え作業は、旧畝数の表示のあるゴム印を押印すると、換算後の平方メートルが表れ
るものであった。
ただし、換算基準が 以上と 以下により相違していたため、注意が必要である。
昭和41年民事甲1011号通達・同年民三第307号参照
国土調査実施に伴う行政区画(地番変更を伴う)の変更
愛媛県においては、地番に符合が冠記されているものが多くみられる(甲乙丙・子丑寅・号・
番耕地・番外・員外・新等)。そのため、国土調査実施の際に、合筆処理制限緩和・住所地番
の表記の簡略化等により、地番変更がなされている市町村が多い。
この場合、国土調査の成果として、個人の住所変更は行えないことから、行政区画(小字の
廃止等)の変更を絡めることにより、登記名義人住所変更登記を「行政区画変更に伴う地番変
更」とすることにより、非課税とする方法がとられている。そのため、地番が8000番台まで使
用されている地区が存在する。
もっとも九州地区においては1万番も付与されている。このことは、土地家屋調査士業務を遂
行する上において、従前の土地の調査を行う上で障害となりつつある。特に広範な大字におい
ては、東西南北を付与している地区(大瀬等)もある。また、甲・乙については大字(行政区画)
の一部である地区もあるが、登記事務のコンピュータ入力の際、地番の一部として処理されて
いるものもある。
地籍図について
地籍図の紙質については、国土調査法第20条第1項によりその成果の写しを送付すること
と定められているが、当初は材質までは統一されていなかったものと伺える。
当初ケント紙で作成されていたと考えられるが、一部印画紙により登記所に送付されたもの
があった。当然月日が経過するとともに、結線情報が退色し筆界線が不明確となったため、再
製されたものもある。事業主体である市町村に地籍図の原図が保管されているが、原図はア
ルミケント紙であり、現地における平板測量の際のメジャーピンの穴が確認できる。
法務局に送付された地籍図は、いわゆる第2又は第3原図であると言われている。
昭和48年民3第1886号通知「地籍図の写しはアルミケント紙を用いて作製されているが
今後はポリエステル・フィルムを持って作製する(昭和48年度に実施される地籍調査の地籍図
の写しから)」と定められている。登記所における昭和51年以降の持ち込み地区の処理であっ
た。
地籍図は「地籍図の様式を定める総理府令(昭和29年第6号)をもって定められているが、
当初は図郭を重視した作成方法が採用されていた事案が見受けられる。このことは、1筆の土
地が複数の図郭に分属する場合に、同一縮尺に収めることなく、別縮尺の複数の地図にまた
がっているものが見受けられる。また、昭和の市町村合併の影響により、旧町村の図郭記号
が採用されている場合が多く、別地区の図郭記号番号と分属しているものもある。
地籍図における地図の記号番号は、法務局における地図番号とは連動していない場合が多
く見受けられる。当初地籍簿を土地台帳として使用している場合において、登記簿・土地台帳
一元化作業の際に、地図番号を移記することはできない(昭和36年民事甲2434号民事局長
回答)ことしていたが、昭和42年民事甲979号民事局長回答により、「地図の索引が困難とな
るため、便宜記載しても差し支えない。」とされた。法務局における「不動産の表示に関する登
記事務取扱要領」においても、「登記所毎に起番した一連番号を付す」としていたことにより、最
近まで本来の記号番号で管理されていなかったものである。
そのことにより国土調査地区の一部又は隣接する土地が土地改良法等による換地処分が実
施された場合又は隣接する地区の国土調査が持ち込まれた場合に、登記所備え付け地図と
の照合・確認ができない結果、隣接が齟齬する事案が見受けられる。
現在は、地図情報システムに登録しているため地図番号の重要性は低下している。
法第17条地図が備え付けられるまで
登記所に備え付けられている多くは「旧土地台帳附属地図」であったが、昭和35年不動産登
記法の改正により、土地台帳事務は表示に関する登記とされたことから、登記法施行日である
4月1日に廃止された「旧土地台帳法」に基づく図面であるところから、その根拠法を失ったま
ま登記所内部で使用されていた図面である(ただし、各登記所毎に法務大臣が登記用紙の表
題部の改製期日を定めるまでは、旧土地台帳法の規定が適用された)。
なお、市町村に備え付けられた地図(土地台帳附属地図の副図)は、地方税法の施行により
固定資産税の評価に関して必要な資料の一部として、市町村の条例の定めるところにより地
籍図として備え付けられることとなった。
また、不動産登記法第17条により、「登記所に地図を備える」とされたことから、新地図が早
期に備え付けられるとの思いから、台帳附属地図は不要の物となるとの認識が登記所職員に
及んだことから、粗雑な扱いを受けていた。その後、民事局から法17条地図が備え付けられ
るまでは台帳附属地図を使用して登記事務を行うこととされたが、職員の意識はあまり変わっ
ていなかったと考えられる。その結果、表示に関する分筆・合筆等が申請された場合に、図面
の修正をすることなく登記簿の処理のみを優先していた。
当然一元化指定日以前の申請であり、登記所に提出された分筆申告書添付の図面は、廃棄
され登記所に現存していない。
また、一部の登記所においては、閲覧室の狭隘から図面の閲覧を禁止していた登記所も存
在したことから、調査士諸兄においては地図の情報を確認することなく登記手続きを行わなけ
ればならない状況が現出していたと推測される。そのことは、田中内閣における列島改造政策
ともかさなり、地図の混乱(現地混乱?)から全国的にいわゆる「地図混乱地区」を発生させ
経済取引を混乱させた。平成元年から法務省は地図整備の具体的推進方策(平成元年民三
第178号民事局長通知)を策定し、いわゆる「地図整備作業」に着手した。
松山局においても西条支局を筆頭に作業は行われた。しかし登記所保管の地積測量図等を
資料として作業を行ったため、その修正は困難を極め、修正未了のまま終了している。
また、登記所職員の意識も、地図の混乱を少しでも解消したいとする職員はごく一部であり
不要な作業を強いられたとの意識もあったのではないか。
平成5年不動産登記法の一部改正により、土地台帳附属地図は、「不動産登記法第24条ノ
3第1項の規定による地図」とされ、法的根拠を持った地図となった。このことは、平成13年不
動産登記法の一部改正に伴う「地図の写し制度」へと連動しているものである。
地籍図が登記所に備えられた後の修正
登記所において、法第17条地図に指定するか否かに係らず、その後に分筆・合筆・地図訂
正が提出された場合は、登記官は地図の修正をしなければならない。
このことは旧準則(昭和52年第4473号通達)第113条から第115条に定められている。し
かしながら登記所職員においては、数日間の測量講習等により修正技術の習得を図ってはい
たものの、修正技法は専門家集団である調査士には遠く及ばないものであった。現職当時は
国土調査担当町村職員に指摘され、その修正をまとめて依頼していたものである。
登記所においては、従前は和紙地図に、ガラスペンを使用して修正していたものであり、丸ペ
ン・烏口を使用した修正は不慣れであった。また前出のとおり、アルミケントに関する修正は
地形図を重ねて虫ピン(メジャーピンの使用は少なかった)で点を確保し、それを結線していた
が、点の遺漏・線描の太さ・分属の記載等多くの問題が生じているものもある。
このことは、地図と測量図が齟齬している場合も実際に見受けられた。この場合は、登記官
に地図訂正の旨を要請しておく必要がある。
また、分・合筆を繰り返した結果、下地のアルミを出現させたこともあった。
地籍図の不動産登記法第17条(現14条第1項)地図の指定
昭和30年民三第753号民事局第三課長回答によると、「送付に係る地籍図をもって土地台
帳附属地図としてさしつかえない」としているが、これは、改正不動産登記法施行以前であり当
然のことと思われる。法務局における事務経験からすると、地籍図を法17条地図に指定する
ことができるとされていたものの、実際に国土調査の地籍簿により登記簿の記載を行った後に
地籍図を指定することは松山局においてはなかったと記憶している。
昭和40年後半または50年当初に会計検査院により、国費を投入し整備した地籍図が、不
動産登記法による指定を行っていないことが指摘された。このことから全国の登記所の実情を
調査したものの、やはり指定されている地籍図は極少数であったと記憶している。
民事局は各法務局に対して支持を行うとともに、備え付けられない理由が存しない地籍図は
「法第17条」に指定するよう指導の強化を図った。その結果、松山局内においては、材質がア
ルミケント及びPFであるものについては、全て一括して指定を行ったと記憶している。またその
際、地図の整備に必要であるとして、謄本の登記手数料が300円から350円とされた
(昭和52年4月1日か?)。
表示登記の充実を目途に、昭和52年4月1日不動産登記事務取扱準則が全面的に改正さ
れ、その第28条により、「国土調査法第20条第1項の規定により送付された地籍図は、国土
調査による登記が完了した後に地図(法第17条)として備え付けるものとする。」と規定され
新規に提出される地籍図のみならず登記所保管の地籍図全てに対応したものであった。
表示登記における、この準則改正は地積測量図の現地復元等による大きな改正である。
その後、土地家屋調査士等から法務局に対して、精度の劣る地籍図も存在することから、指
定の解除の申出が多く寄せられ、法務局担当者会議においても議題に取り上げられることが
あったが、指定する方法は定められているものの、解除の規定が存在しないことから、その解
除は行われていない。登記所との協議により、その取扱いの精度区分の扱いが行われたこと
はあるが、残念ながら登記官の交代により意見の相違が明らかとなっている事案が多い。
登記所職員からよく聞く言葉であるが「法17条地図は現地復元性のある地図である」旨指導
があるが、その地籍図のみを見て現地に出向くことは容易ではない。なぜならば、筆界点情報
・図根点等の座標値情報を地籍図から確認することができないためと考える。
また、国土調査無効確認訴訟における判決でも明らかなように、行政庁の内部における一資
料であるとされるが、その目的とする精度区分により作成されている図面であり、250分の1と
5000分の1の地籍図の筆界確認及び測量は違いがあることを認識しなければならない。
昨今は、地籍図を地図情報に入力したことにより、失われた情報が多く存在することを注視し
なければならない。特に、平成以降の数値測量の地籍図については、座標数値の登記所にお
ける公開も検討されるべきである。また、地図情報から排出された地図の写し等を盲信するこ
とは慎む必要がある。情報は和紙と同様原図にのみ山積されている。
現地確認不能地について
地籍図地区における事業を行う上で最も注意を要する事項が、現地確認不能地の存在であ
る。国土調査法における現地確認不能地は、公用地である河川・道路・鉄道用地(国鉄分割民
営化後は別)等は、国土調査事業により調査から除外してもよいとし、その位置の特定を地籍
図に表されていない。
このことは、国土調査が実施される以前に、道路拡幅等により官有管理地となっている場合
は、その位置の特定・測量を行うことなく、「現地確認不能地」として調査除外をしている。
登記簿等には、「不・国調現地確認不能」等の記載がされているが、当初は「記載しても差し
支えない」程度であり、記載のないものも見受けられる。国土調査実施地区でありながら、表題
部事項の登記原因日付欄に、「国土調査の成果」の記載のない土地については調査が必要で
ある。
また、前に説明のとおり、地番変更を行っている地区についてはもっと複雑である。該当地の
旧地番を確認し、その旧地番を頼りに枝番等により調査することが必要となる。ただし、登記情
報に登録されていない場合が多く、登記所窓口において改製不適合登記簿を確認することとな
る。特に国土調査実施後の無番地の処理(払下げ等)には注意を要する。
国土調査を推進するための懸案
国土調査の事業主体に対する監督庁の指導は、現地が法務局備え付けの公図等と齟齬す
る場合は、あらかじめ地図訂正を行った後に調査を行うよう指導がされている。
しかし、平成17年不動産登記法改正により、地図訂正は地積測量図又は土地所在図を添
付するよう規定(登記規則第88条)されているため、訂正該当地のみを事前に測量しなければ
地図訂正に地籍測量図の添付ができないため、「にわとり・卵」の議論がされている。
登記法と国土調査法の調整も必要ではないか。
参考図書
土地台帳の沿革と読み方 友次英樹著 日本加除出版
国土調査詳解(改訂・3訂) 法務省民事局
不動産の表示に関する登記事務取扱要領 松山地方法務局
地図に準ずる図面の閲覧制度の新設について 民事局第三課補佐官
地積測量図イン愛媛 愛媛県土地家屋調査士会
図解法による国土調査実施地区の実務 愛媛県土地家屋調査士会(基準点検討委員会)