第4章 一般病棟へ
                                     心筋梗塞闘病記

●一般病棟へ
 午後3時頃 HCU から一般病棟に移る。
 病棟の看護師さんが HCU まで迎えに来てくれ,ベッドのまま運ばれた。


 一般病棟ではテレビを使用出来るようになっており,カードを購入すれば視聴可能
とのこと。
 午後5時,血圧・脈拍・体温,血中濃度,血糖値の検査。
 血圧 100,血中濃度 98%,血糖値190。
 指からの血糖値検査になり,検査の都度数値を教えてもらえるようになった。


 午後6時 夕食 食欲も出て食事も完食出来るようになった。
 毎食のデザートが楽しみになる。この病院のデザートは,キュウイフルーツ,バナナ
甘夏カンの三つのローテーションのようだ。
 希望のものが出てくると幸せな気分になる。
 午後9時 消灯


●一般病棟二日目
 翌日の朝 5 時に血糖値の検査。血糖値180
 朝 7 時に血圧・脈拍・体温,血中濃度の測定。
 朝 8 時に朝食
 午前10時頃,身体を洗ってもらう,少し元気になって来ているし,自分の娘くらい
の若い看護師さんだったこともあり照れくさい。
 午前11時に血糖値の検査,220,血圧・脈拍・体温,血中濃度の測定。
 正午昼食


 心電図も直接モニターにつないでいたのだが,携帯用の小型ラジオほどの大きさ
のものが空いたということで,巾着袋に入れ首から常時ぶら下げることになった。
 「ナースセンターで常時監視していますから。」ということである。
 リハビリは一般病棟の廊下を使用して行う。片道が50m,往復100m のコースに
なる。本日はストレッチで50m,血圧・脈拍を測定した後,1往復100mを実施する。
 実施後の血圧・脈拍も良好で,順次伸ばしていくとの事。
 最終的には自転車もこぐようにするとの事である。


 心電図とレントゲンの検査を行うとの事で,ベッドに乗ったまま検査室に向かう。
 先ほどからオナラをしたくなっているのだが,看護師さんがずっと世話をしてくれて
いて,ベッドを押してくれている。若い娘さんの前でオナラをしてはいけない。
 おじさんのたしなみとして我慢,我慢。


 やがて心電図の検査室につき,女性の検査技師さんが「汗をかいていますが,どう
しました。」
 正直に,「実は,オナラを我慢していまして。」
 「ここは病院です。(我慢しなくていいですよ。)」と怒られ,オナラは引っ込んだ。


●一般病棟のスケジュール
 一般病棟では,一日のスケジュールがきっちり決まっている。


 朝5時の血糖値検査
  7時の血圧・脈拍そして体温測定
  8時の朝食
  11時の血圧・脈拍・体温測定そして血糖値検査
  12時の昼食
  17時の血圧・脈拍・体温測定そして血糖値検査
  18時の夕食
  21時の消灯が毎日繰り返される。
 リハビリは土・日曜は休み
 薬については看護師さんが管理し,毎回その都度渡される。
 これ以外に,心電図,レントゲンの検査が適宜実施された。


●違い
 ICU と,一般病棟での扱いの差をぼちぼち実感することになる。


 三日目も前日と同様に身体を洗ってもらう。今日の担当は婦長さんのようだ。
 上半身はタオルで洗ってもらったが,後は「自分でトイレの洗浄機能を使って洗っ
てください。」
 「はい。私もその方が良いです。」,やっと解放された。
 血糖値は朝・夕の血糖値は180から150ほど度まで下がってきているのだが
昼の11時に測定する血糖値の値がなかなか200以下にならない。
 血圧は上110~下60前後である。
 看護師さんにカテーテル治療について尋ねると,手首からの治療では3,4日の入
院で退院になるが,リハビリのある人の退院については解らないとのことである。
 血管が完全に詰まってしまった心筋梗塞と,血管が狭くなっている狭心症との治療
の差ということらしい。


 昼食の後,ハミガキをしていると看護師さんが慌ててやってきた。
 「体調に変わったことありませんか。」
 私の姿を見て「あっ。ハミガキをされていたのですか。わかりました。」
 ナースセンターで心電図をモニターしていたらしいのだが、ハミガキのために腕を
動かすので変な波形が現れ,体調に異変があったのではと急いで確認に来てもらっ
たようだ。


●二度目のカテーテル治療
 4月21日(火), 朝の血圧はここ数日100前後の数値になっている。
 本日は二度目のカテーテル治療を行なうため,担当の看護師さんが付きっ切りで
世話をしてくれる。


 午前5時 血圧,脈拍,体温そして血糖値136午前8時の朝食は抜き前日の説明
では,3番目に予定されているとのこと。11時頃になるらしい。
 緊急な場合が入れば遅れるとのことだが,自分自身が救急で治療してもらったの
だから文句は言えない。
 パジャマは寝間着に着がえるが,パンツはそのままで良いとのことだった。


 午前11時過ぎ,連絡が入る。病室から車イスで運ばれ,
 午前11時30分カテーテル室に入る。
 いきなり「どのくらい時間がかかるか解りませんので,オムツをしてください」
 「アリャ。」


 前回は太腿の血管からだったが,今回は手首の動脈からである。
 事前に検査を行なっており,治療方針も予め計画され,
 使用するステントのサイズも決められている。
 「きれいな布を掛けますよ。」
 「チクッとしますよ。」
 チクッ,今度はブスッと鈍い痛みが走る。今回のブスッの方が痛い。


 カテーテルはすんなり心臓に到達した。
 「造影剤を入れるので胸が熱くなりますよ。」
 胸の部分が少し熱くなったような気がする。
 ビタン,ゴー。
 狭窄していた部分にどのようにステントを入れるか話し合っている。
 「この位置の血管の大きさを測って。」
 「〇〇〇です」
 「記録しておいて。」
 ステントの太さと長さ,そして血管の枝分かれしている位置との関係で,どの位置
に配置するか最終的に決めているようである。
 数回同様な会話が繰り返され,位置が決定した。
 お医者さんが検査技師に「20 秒数えて。」
 検査技師が「5 秒,10 秒,15 秒,18,19,20 秒」
 シュルシュル。手のひらで縄を編んでいるような音が聞こえる。
 前回の治療で慣れたのか,治療中の会話の中身がある程度理解できる。
 「ジャキッ。」と大きな音がする。
 カテーテルを挿入した手首の動脈の場所を,透明なベルトで絞めつけ止血した。
 腕時計のベルトを一回り大きくした程度だが,かなり締めつられる。痛い。
 「18ccです」と検査技師さんの声
 治療が終了した。


 床をブラシで洗っている音がする。血液を洗っているのだろう。
 看護師さんが血圧と脈拍を測る「血圧60です。」えっ。
 ずいぶん低いが上の血圧で間違いないようだ。
 今回は30分の治療時間であったが,血圧が低い為,病室へはベッドで帰る事に
なった。


 病室に帰り血圧を測ると80,酸素濃度が92%
 午後1時30分 血圧,脈拍,体温そして血糖値検査113 血圧80,血液中の酸素
 濃度が92%

 ベルトの締めつけがきつく,指が痺れている。
 看護師さんが注射器で10cc 空気を抜きとってくれたおかげで,楽になった。


 午後2時 昼食としてパン2個と乳酸菌飲料が出る。
 検査技師さんが心電図を撮りにやってきた。
 午後3時30分 10cc ベルトから空気を抜く。指のしびれは完全に無くなった。
 午後5時 血圧,脈拍,体温そして血糖値検査146 血圧 80
 午後5時30分 10cc ベルトから空気を抜く。
 明日の朝ベルトを取るそうである。
 午後6時 夕食
 午後7時
 午後9時の消灯前の血圧測定で,やっと90。
 血中の酸素濃度も95%になった。


●カテーテル治療翌日
 4月22日(水),午前5時 血圧,脈拍,体温そして血糖値検査,171。
 血中の酸素濃度は98%,血圧はまだ80台である。
 血糖値が前日の朝よりも上昇している。
 いつも夕食前の値よりも低くなるのだが高くなっている。
 食事に変わりはなく,間食もしていない。カテーテル治療のストレスだろうか。
 朝食後に止血をしていたベルトを取った。
 午前11時 血圧,脈拍,体温そして血糖値検査,181
 本日からリハビリが再開され,200m を連続して歩く。
 理学療法士さんに,「治療の後,血圧が下がる患者さん,多いですか。」と尋ねると
 「血流が良くなるので,下がる方多いですよ。」との事,自分だけでは無かった。
 一安心。


 午後5時 血圧,脈拍,体温そして血糖値検査,146
 午後6時頃,妻と長男そして今年90歳になる母が見舞いにやってきた。
 いきなり,妻が「血糖値の数値,全然管理出来てなかったじゃない。私に数値教え
なかったでしょう。心臓も悪くなったのだから,両方ちゃんと養生しないと退院しても
引き取ってあげない。離縁で!!」
 母が「そしたら,私が引きとらないといけんの。」
 「そうよ。」
 「あっは~。」笑う母
 長男はただニヤニヤ
 嫁と姑の本音とも冗談とも判断のつかない恐ろしい会話が続く。
 迷える子羊が恐怖の大魔王に逆らえるはずも無い。「はい。」
 心臓に悪い話は,ひたすら下を向いてやり過ごそう。
 この後,三人は仲良く回転ずしのお店に行ったそうだ。


●退院の日まで
 血糖値も朝と夕は140以下,昼も180程度になってきた。血中濃度も 98~99%
の状態が続いている。
 リハビリも連続して500m 歩けるようになり,自転車も15分間こげるようになった
ところでリハビリは終了した。
 血糖値の検査も中止になり,自由に歩き回って良いとのことになった。


 看護師さんと会うのも1日3回の血圧測定だけである。
 することが無くなり暇で仕方がない。
 不思議なことに,元気になってくると,本を読む気は無くなり,惰性でテレビを見て
 いるだけとなる。
 イヤホー ンをしている耳が痛い。
 病室仲間と会話をして過ごせばよいのだが,心臓病の病室で老人ばかりである。
 会話の出来る状態では無い。
 また,入退院が激しいため顔見知りにもなれない。
 食事の時間だけが楽しみで8時,12時,18時には条件反射のように座って待っ
 ている。


●退院の日
 4月27日,退院の日
 午前10時,長男が車で迎えに来てくれた。
 病棟の詰め所に退院の挨拶に行くが,忙しい時間帯,担当してくれた看護師さん
は誰もいなかった。


 とりあえず,詰め所の看護師さんに挨拶して,事務担当の若い女性に会計の書類
を,薬剤師さんに薬をもらい,会計へと向かう。
 健康な長男は退院の荷物を持ち,歩いてサッサと行ってしまう。妻が用意してくれたジーパンを履いたところ,入院時から3キロ痩せてしまったせいで,ウェストがブカブカになっている。おまけにベルトを忘れている。

 歩くとズルズルと下がり,手で時折引き上げないとお尻がまる出しになる。
 リハビリをして500m までは連続して歩けるのだが,歩くだけに集中してのことで
ある。実際の行動は人との対応もあり,細かく急に動く必要がある。

 3週間隔離されていたお蔭で,雑踏の中に入ると息苦しい。
 頭もすぐには対応出来ない。
 ちょっと待ってくれ,少し休まないと。息切れがする。
 立ち止まると,ズボンが下がる。
 右手でジーパンを抑える。どの窓口に行くのだろう。
 パニックになりながらも何とか会計処理を済まし,やっと病院を出る。


 お医者さんから「仕事は連休明けからですよ。」と言われた。
 入院中は退院が待ち遠しく,退院したその日から仕事をする気でいたのだが,この
調子では連休明けでも難しそうだ。



第 4 章
     
トップへ
戻る