第2章 カテーテル治療
                                     心筋梗塞闘病記


●カテーテル検査・治療
 ベッドに寝かされ,そのまま天井の鉄骨が剥き出しの飾り気のない部屋に運ばれ
る。中にはベッドが一つ。
 ベッドの横にはテレビの画面のようなものが3台ほど並び心電図のモニターらしき
ものもある。少し離れた位置にも器械が並んでいる。
 部屋には3~4人のスタッフがいる。先程説明をしてくれたお医者さんだけが濃い
緑色の手術着に着替えている。
 診察室のベッドからカテーテル室のベッドへ「イチッ,ニのサン」のかけ声とともに
移された。


 心電図の電極が心臓の周りと手首,足首につけられる。腕に血圧計,指に血中の
酸素濃度を調べる洗濯バサミのようなものも取り付けられた。


 「血糖値は270か,300までは大丈夫だから。」というお医者さんの声が遠くで聞
こえる。
 「体重は何キロありますか。」
 「67キロです。」
 「じやぁ,〇〇だな。」体重に対して薬(造影剤?) の量の調整があるのだろう。
 「はい,きれいな布をかけますからね。」身体の上に布を掛けられた。
 「麻酔を打つのでちょっとチクッとしますよ。動くと危ないですから動かないでくださ
いね。」
 チクッ,ジャキッと切られたような痛みを感じたが,やがて何も感じなくなった。


 カテーテルは途中の血管を破らず上手く心臓に到着するのだろうか。
 不安に思っていたのだが,血管の中をカテーテルが通る違和感もなく,やがて
 「造影剤を入れるので,胸が少し熱くなりますよ。」
 何の音か解らないが,ビタン。続いてゴーッという音が聞こえる。
 手術台が動き,身体が少し上下する。お医者さんが何か操作しているのだろう,
 モニターなのか器械なのか解らないが頭の上を行ったり来たりするものがある。


 お医者さんと検査技師さんとのやりとりが,生け贄の前で魔術師が何か祈ってい
るように聞こえる。
 これで松明でも燃えていたら最悪の状況だ。だんだん不安になってくる。
 「この位置か。」
 「この位置ですね。」
 ビタン,ゴー。
 「カンリュウ」
 「先生はカンリュウ時間にこだわられますね。」
 お医者さんと検査技師らしき男性の会話が断片的に耳に入ってきた。


 看護師さんが,指先を軽く触りながら「大丈夫ですか。」と声を掛けてくれる。
 力なく「はいっ。」
 お医者さんが
 「カテーテルの先を治療用のものに交換しますね。」
 しばらくして,
 検査技師さんに「20 秒数えて。」
 「5 秒,10 秒,15 秒,18,19,20 秒」。
 20秒の声と同時に
 「シュルシュル」。手のひらで縄を編んでいるような音が聞こえる。
 少し,時間を置いて「20 秒数えて。」
 「シュルシュル。」
 数回これが繰り返される。
 「胸の圧迫感はどうですか。」
 「はいっ。無くなりました。」
 看護師さんが「大丈夫ですか。」
 「はいっ。」口は動いたが,声にならない。


 「終わりました。」治療が終了したようだ。
 看護師さんが血圧を測り,お医者さんに報告している。
 100前後の数値だったように思う。
 お医者さんが「いつもの血圧はどの程度ですか。」
 「120位です。」
 「はい。」


●治療後の説明
 メガネのお医者さんが「この画面見えますか。」
 近眼・老眼の上にメガネを取り上げられている。黒い画面の中に血管が映し出さ
れている。透明の膜のようなものが血管で,その中の黒いものが血液ということは
理解できる。


 一本の血管が太いまま途切れ,それから先の形が見えない。
 一気に動きがあり,途切れていた場所の先の形も解るようになった。
 この部分が詰まっていたと教えられても,心臓の血管の知識が無く,詰まっていた
血管がどの位置にあり,どれほど大事なものかも解らない。


 「心筋梗塞は一生治療が必要です。血管が詰まり,血が流れなくなれば心臓の筋
肉は壊死します。詰まってから治療して血液が流れ出すまで3時間以内ならダメー
ジは少ないが,6時間経過しているので,心臓はその分ダメージを受けています。
今後に注意してください。」


 「心筋梗塞を起こした原因として糖尿病があります。血糖値のコントロールをしっ
かりしなければ駄目。コントロールが出来ないようであればインシュリン使用も考え
なさい。」と叱られた。


 カテーテル室のベッドから病室用のベッドに「イチッ,ニのサン」で移動。
 治療は8時30分から9時30分まで1時間かかったようだ。
 外の通路に出ると妻と息子が待っていた。
 息子も妻からの連絡で駆けつけてくれている。
 私が出てくるまでに,お医者さんから妻と長男に詳しい説明があった。
 「心臓の大きな動脈(冠動脈)の一つである左前下行枝で2カ所詰まっている場所
がありました。
 1つは完全に詰まり,その先に90%詰まっている箇所がありました。
今日の治療では完全に詰まっている部分を広げ,そこに金属(ステント)を入れまし
た。90%詰まった箇所については入院期間中に状態をみて,再びカテーテル治療を行なうことにします。」


第 2 章
     
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