――― 今治支部研修を通して感じたこと ―――

     (愛媛県土地家屋調査士会大洲研修にて)

                                    平成21年8月8日


  こんにちは、今治支部の長野敬です。お世話になります。
  本日は、ご多忙中にも関わらず、研修会に多数のご出席を頂きまして有り難うご
 ざいます。
  また、研修会の企画・準備等、いろいろとお骨折りを頂きました皆様にお礼申し
 上げます。
  今治支部で行われた街区基準点を利用した測量研修を通して感じたこと、という
 テーマでお話をするようにとN様から依頼がありまして、このように一席を設けてい
 ただきました。
  私が個人的に感じたこと、それまでと業務に対する考え方が変わったこと、また
 支部会員さんの意気込みや取り組み方に対する姿勢などをお伝えしたいと思いま
 す。これからお話をする内容は、今治支部の一会員としての立場でお話をさせて
 いただきます。
  本会の業務部・研修部の理事に就職しておきながら、それと異なる発言もあろう
 かと思います。
  皆様にとって良いきっかけを作る一つの材料となれば幸いです。


1.支部研修について


  ご承知のとおり、今治は渡部毅先生のお膝元です。
  先生なしでは、基準点測量を語ることはできません。
  私のような未熟者が皆様の前でお話をすることについて、大変失礼かと存じます
 が、ご容赦の程、よろしくお願いいたします。


 (1)今治では、平成20年4月に街区基準点を使用した基準点測量の運用が
   開始され、運用が開始される1年程前から、測量研修を重ねて参りました。



   先生は、基準点測量研修やGPS測量研修において、今治支部の会員に懇切
  丁寧にご指導してくださいました。
   研修会では、支部会員はもとより、遠方にもかかわらず大洲・松山・西条の支
  部からも参加をいただき、毎回多数の会員さんが取り組んできました。


   私は、参加された皆さんの測量技術や意気込みを目の当たりにし、その意識
  の高さに刺激を受け、研修会に参加させていただきました。
   恥ずかしながら、私は、測量経験や基準点測量やGPS測量に関する経験や
  知識に乏しい未熟者です。


   日常業務では、基準点測量で欠くことのできない、対回観測、測量手簿の書き
  方、手簿の計算の方法、さらには、各種の計算の方法や考え方、気温や気圧の
  補正など、考慮に入れていませんでした。
   正直なところ、興味や関心がなかったと言うべきかも知れません。
   その為、当初の研修では、対回観測、測量手簿を書くこと等何から何まで皆様
  の手を煩わしていたように思います。
   その度、何とかしないといけないなぁ、観測がうまくなりたいなぁ、と痛感してお
  りました。


   対回観測を行い、手簿をつける、手簿の計算をする、といったことは、私は取
  り組んでいないことでしたので、なかなか体が覚えてくれませんでした。


 (2)さらには、観測について今治支部のルールがありました。


  ・ 基準点測量は、丁寧に行い、時間をかけてはいけない。
  ・ 手簿の計算は、正確に素早く行う。
  ・ 倍角差10″、観測差5″、高度定数差10″という観測精度。

   先生の要求している精度を何とかクリアーしようと何度も試みますが、なかな
  か精度におさまりません。肝心の観測では、私を含む数名は、基準点を観測す
  る測量成果としては不十分であるため、何度も再測をしておりました。


   「観測精度がでないと街区基準点を利用した基準点測量はできない。」とご指
  導いただいておりましたので、自分なりに夢中で取り組んでおりました。


   後で関連することをお伝えしようと思いますが、今思い返しますと、再測をする
  ことは、私たちにとってとても有意義なこととなりました。


   研修会では、現場での測量研修を通して、対回観測や基準点測量の取り組み
  方、手簿の読み方、観測の善し悪し、網の組み方等たくさんのイロハを教えてい
  ただきました。


   支部会員さんが同じスタートラインにたち、「目標を一つにがんばろう。」と気
  持ちを一つにできた瞬間でありました。
   自分の未熟さを痛感した反面、基準点測量の「き」の字がわかりはじめた瞬間
  でありました。


 (3)今治支部では、どうような研修を行ってきたのかについて、少し触れてみた
   いと思います。



   支部研修は、大きく分けて2つあります。
   ひとつは、「街区基準点の亡失状況等の確認を現地で行う研修」で、
   もうひとつは、「基準点の測量研修」です。


  ア「街区基準点の亡失状況の確認を現地で行う研修」


    基準点の亡失等の異常の有無の把握と位置の確認をするため、現地におい
   て遠景と近景との写真を撮影し、位置情報を収集する作業です。
   支部では、2日間作業を実施しました。
   この研修会で私たちが得たことは、以下のとおりです。


   (ァ)測量範囲の把握
     街区基準点の測量が必要となる地域の実質的な把握と基準点測量に対す
    る意識の高揚であると思います。
     松山市もそうだと思いますが、驚いたことにかなり広範囲であることです。
     「私たちは、囲まれている」ということを意識させられました。
     「基準点測量からは逃げだすことは許されない」という危機感やそれに対す
    る連帯感が得られたと思います。


   (ィ)街区基準点の種類と現地での基準点の埋設状況の把握
     三角点、街区多角点、節点、補助点といった各街区基準点の埋設された
    標識の確認を行いました。
     探しにくいときの特徴としては、以下のようなことがありました。
     カラー舗装になっている道路では、アスファルトで覆われていたり、鋲も塗
    装されていたり、道路側溝では、砂や土の堆積によって発見が遅れることが
    ありました。


   (ゥ)もう一つ、大切なことをお伝えします。
     我々が、測量を計画する時は、現場に赴きます。
     そこでは、必ず、既知点である街区基準点や登記基準点の確認を行います。
     近くに既知点が有るにもかかわらず、それに気づかず測量を計画するとど
    うなるでしょうか。大変な作業となることは必至です。
     例えば、路線長が100mで済むところ、500m測量作業をすることは無駄
    な作業となると思います。
     この点においても、街区基準点の亡失状況等の確認を現地で行う研修は
    とても大切であり、有意義なこととなりました。


  イ「基準点の測量研修」は、言葉でお伝えすることは、非常に困難です。
    観測に始まり、手簿の整理、点検、成果といった流れの研修が主でした。
    その中で、私にとってとても印象に残っている研修会の報告をします。


   (ァ)(器械の点検・調整)
    今治市に玉川町というところがあり、そのには『基線場』が設置されておりま
   す。各参加者は、その基線場を利用して、ターゲットとミニプリズムの測距を
   10回行います。
    いろいろなTSがあることは当然のことであり、また、気温や気圧の補正方法
   も様々です。
    測定した距離も様々で、みんなと大きくかけ離れた成果となった参加者のか
   たもいらっしゃいました。
   どのような心境だったでしょうか。


    これも、それまでは特に気に掛けておりませんでしたが、基準点を測るときは
   器械の点検・調整は大切であると感じました。


   (ィ)(観測の制限値)
    今治支部での観測の制限値ですが、
    倍角差10″、観測差5″、高度定数差10″という観測精度です。
    したがって、制限値に収まらなければ、当然のことですが再測となります。
    再測は、研修時間、他の参加者のかたが手簿の計算をしているときでも、観
   測の精度を満たしてなければ、何度でも行われました。
    私も再測経験者です。
   これらで得られたことは、みんなで共有するデータを構築するための、各自の
   心構え、取り組み方の基本ではないでしょうか。
   体で教えていただきました。


3.私の経験


  はじめての現場というのは、皆さんもいろいろ苦労されたことと思います。
 測量研修を何度も実施していただき、測量ができるような気がしてきましたが、一
 人でするには不安だらけでしたので、私の場合、2現場ほど先生にご指導を仰ぎま
 した。
  観測の精度や点検路線の精度、網平均の誤差分布や標準偏差のことなど、す
 べてを完全に理解しているかといえば、そうでないと思います。


 (1)私は、一人で基準点測量をしています。
   一人でしていると不安なこともありますし、データの善し悪しも判断できないこ
  とがあります。ただ、当然のことであえて申し上げるのはどうかと思いましたが
  「観測」が一番大切です。


 (2)ある現場の紹介です。
   点検計算をすると、正反の高さが数ミリ、7oくらいだったと記憶しております
  が、他の観測点と比べて誤差が多くなっている観測点がありました。
   観測はすべて終了しているので、成果としての提出はできる状態となりました
  が、翌日になると、どうしても心配になりました。
   迷わず、再測を行うことにしました。そうしたら、精度が良くなり、安心して成果
  を提出することができました。


   気持ちの焦りからなのか、高さの計測ミス、転記ミスなのかどうかはわかりま
  せん。
   ここで、皆さんにお伝えしたいのは、「観測成果に満足できなければ、再測を
  行った方がベターである。」ということです。


 (3)先般、街区基準点に関する各支部との情報交換会がございました。
   その席で、先生からの発言を紹介します。
   「今治支部の再測率は50%である。」という報告です。
  嬉しいような、悲しいような数字です。
  そのようにならない為にも再測にも積極的に取り組んでいきましょう。
   例えば、10点の新点を設置する場合、1点あるいは2点くらいという気持ちや
  意気込みでは、良い成果を得ることはできないと思います。
  言うまでもありませんが、全ての点が大切な観測点ですから。


4.支部会員さんの意気込みや取り組み方に対する姿勢


 (1)現場にも異なりますが、一般的な網の組み方をご紹介します。
   測量地としては、僅か30坪であるとしましょう。
   測量地は幸いにも既知点と既知点とを結ぶ単路線で、必要となる成果を取得
  できるとします。
   皆さんなら、どうしますか。
    @単路線をおこなう。
    A面倒でも、2路線、3路線、あるいは4路線の点検路線を設置するような
     測量計画を立てる。
   単純な数字だけの比較となりますが、単路線であれば、3点くらいでしょうか。
   複合路線であれば、10点くらいでしょうか。


    残念なことに、予期せぬ道路工事や建築工事等によって街区基準点や登記
   基準点は、失われていきます。
   失われたら、皆さんはどうしますか。
   もちろん既知点から引っぱってきますよね。
   皆さんが@単路線だとどうなりますか。
   いずれ、街区基準点と登記基準点は、なくなることでしょう。
   ひいては、私たちは、基準点測量をする現場を失うことになりかねません。
   そのようなことがないよう、今治支部では、いわゆるY型やH型での観測が多く
   見られます。


5.最後に


   私が皆様に対してお伝えしたいことが、3つございます。
  (1)街区基準点及び登記基準点は、私たち土地家屋調査士が自らの手で
    守っていく必要があること。
  (2)皆様の手で守っていくこととするならば、一つにならなければならない。
  (3)自分だけが使うデータとしないこと。
    つまり後続の作業を行う人にも配慮する必要があること
    精度の安定した登記基準点を設置すること


   まだ私は、計算のプロセスをまだ理解できていません。
  今後は、厳密網平均計算がどのようにできているのか、
  についても理解をして行かなくてはならないと感じております。


   よく、このようなことを耳にします。
   今治支部はいいね、今治支部は、先駆者でから・・・、
   今治支部のようにするのは、理想的だよ、
   私は、それを聞いていつもこのように思います。
   2年半前は、私たち今治支部もうまくできるのだろうかと不安だらけでした。
   しかし、支部を構成しているお一人お一人の会員さんが意識を変え、取り組む
  ことによってできたことであると思います。


   最後に、この言葉で、終わりにします。
   アメリカの大統領の言葉ですが、yes,we can
   ありがとうございました。

                          愛媛県土地家屋調査士会今治支部
                               長野 敬


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