大洲支部測量研修会2
     
(平成21年5月16日)



        (簡易水平網計算)


   15時、簡易水平網平均計算の説明が始まります。
   会議室の机も、学校スタイルに並べなおし、本格的な講義の始まりです。


   「ここからが、今日の本番です。街区基準点では厳密網平均計算がされており
  厳密網計算をする基準点測量のソフトも手に入りやすくなっていますので、これ
  からは簡易平均計算を使用することはないでしょう。」と前置きをしながら、参加
  者に5ページの資料を手渡し、渡部氏の説明が始まりました。


      


   午前中の観測、手簿の取りまとめ、そして余弦定理での計算までは何とか勢い
  でこなした参加者、まだまだ余裕の表情だったのですが・・。
   鬼の渡部ワールドに、ズルズルと引き込まれていきます。


      
    机を教室スタイルに並べ替え、参加者もまだまだ元気ですが・・。


   手渡された資料の1ページ目の計算要素の内容は、渡部氏が15,6年前に実際
  に観測し、使用した現場の事例だそうだ。


   距離の表現も、午前中の距離の観測結果を水平距離と表現していたが、水平
  網の説明に入ってからは意識的に平面距離という表現である。


   時間の関係で各種の補正については説明しないが、簡易水平網計算の流れを
  知っておいてほしいとの事で企画された。


      


   手渡された計算要素の図を使用して、方向角を統一しますと下図のような説明
  を受ける。
   更に観測要素のデータに基づいて、3路線毎に開放トラバース計算をしなさい
  との指示がある。




   しかし、参加者が電卓のキーを叩いている気配があまりない。
   どうも、最初の方向角の計算方法を思い出すのに苦労しているようだ。
   tan-1の計算をしようとしても、X2−X1かY2−Y1のいずれが分子か分母だ
  ったのか。


   計算で出てきた角度にマイナス符号がついていたらどうするのか。
   日常業務ではパソコンに入力して即座に計算が出来ることでも、いざ手計算と
  いうことになると、なかなか計算が進まない。


   研修企画者としては、何もしないのはまずい、慌てて1ページ目の計算要素に
  図の中に方向角を求めるための絵を書き、確かtanはこの形だからと記憶をた
  どりながら、tan-1の表す角度を絵解きしながら方向角の計算をする。


 


 1号路線のE106からE111の方向角
   α= tan-1 ((−57787.856−(−57824.827))/(116327.530−116544.112))
     = −9°41′13.7″

     図の関係から180°−9°41′14″= 170°18′46″


 2号路線のE102からE101の方向角
  α= tan-1 ((−57372.890−(−57513.298))/(116881.625−116817.132))
    = 65°19′46.08″

     図の関係から65°19′46″


 3号路線のE105からE101の方向角
  α= tan-1 ((−57372.890−(−57297.537))/(116881.625−116600.720))
    = −15°00′58.05″

     図の関係から360°−15°00′58″= 344°59′02″
    がそれぞれ求められた。


   電卓を叩く手を止めて、恐る恐る頭を上げると、黒板に張られた用紙に渡部氏
  が正解を記入している。「合っている。」良かった、一安心。


   そこで、配布された資料の1ページ目の計算要素から2ページ目の「統一する
  方向角の準備」と書かれた計算書に既知の測角、平面距離、与点の座標値を
  記入する。

            統一する方向角の計算準備





   与点同士の方向角が計算で解れば、開放トラバ-ス計算の要領で計算をしてい
  く。与点から最初の新点の方向角は、与点同士で計算した方向角と新点までの
  測角を単純に加えれば良い。


   2つ目の新点からは、前点の方向角に対して、進行方向の新点への測角を加え
  て180度を差し引く計算と頭の中で、遠い昔測量士補試験で勉強したことを思い
  出しながら計算していく。


   後は、その方向角と平面距離を利用して、
      緯距(儿)=平面距離 × cos 方向角
      経距(兀)=平面距離 × sin 方向角


   この計算の後、出発点となる与点のX・Y座標に順次加算していくと、その地点の
  座標値が得られる。


   何とか、電卓を叩く。
   渡部氏から、計算値を聞かれることはわかっている。
   皆から遅れてはならない。
   間違ってもならない。
   変な緊張感がある。電卓を叩く手に力がこもる。
   渡部氏が電卓を叩き、黒板に貼られた表に数字を書き込み終わる。
   「合ってる?」と鬼が問う。
   偉そうに、「大丈夫、合うとる」と答える。


            統一する方向角の準備


        

        





   最初に説明のあったように、E22からE106の方向を3路線の統一する方向角と
  することにしている。


   5ページ目の多角測量平均計算その一(X、Y型)を開けるよう指示がある。

     


   上の部分の図に路線番号と与点、そして求める交点E22を記入。
   それぞれの路線の長さを記入するが、路線の長さについてはq単位で記入す
   ること。


    Pについては1/粘の値であること。
    (n-1)狽oについては、3路線だからn=3であるので
    (n-1)狽o=(3-1)×(3.289+3.802+3.145)= 20.472


     


   ここで、E22からE106の方向角を統一する為に先ほどの計算結果を使用する。


    


   αiの欄には、各路線の計算により求められたE22からE106の方向角につい
  て、計算量を少なくするために、端数のみの計算になるように252°20′を省い
  た値での便宜的な計算をする。


   Pαiについては、計算時にはαiを秒単位で計算することになる。


     


   以上の計算から、求めるα=61″347が得られた。
   この値に,省略した252°20′を戻せば、統一する方向角となる。
   したがって、252°21′01″がE22からE106への統一した方向角である。


角の誤差配布





   角の誤差配布とは、1号路線の計算結果252-20-41と計算の結果である統一
  された方向角
  252-21-01では−20秒の差があるので、角度を観測した観測点において不足し
  た20秒を加える(補正する)必要がある。


   ここで1号路線において、観測点はE106のみと思えるが、E22からE106を見返
  した観測、つまり360-00-00の観測がある。


   観測点のE106とE22の2点で20秒、つまり1点あたり20/2=10秒を加える必要
  がある。


   


    今度は2号路線で、同様にして考えてみよう、2号路線計算結果は252-21-06
   であった。
   統一された方向角は252-21-01である。


   誤差5″を観測点E102、E21、E22の3点で補正するには、-5/3=−1.67が1点
  あたりの補正値になる。


   1号路線は、整数で割りきることが出来たので、考える必要がありませんでした
  が今回の補正する値は少数点以下の端数を持っています。


   端数の処理をどうするのか。
   渡部氏から最初のE102については、-1.67×1=-1.67であり、その値を単純に
  四捨五入して補正量は-2とする。


   2番目の観測点E21については-1.67×2=-3.34については、前回(1回目)の
  補正量が関係してくるので-1.67×2−(前回までの補正量合計)で得られた値を
  四捨五入します。


   つまり、−1.67×2−(-2)=-1.34となり、この値を四捨五入するので補正量
  は-1となる。


   3番目のE22については同様に-1.67×3-(前回までの補正量合計)より
   -1.67×3−(-2-1)=-2.01となります。この値を四捨五入して-2としても結果
  は同様ですが、E22は最後の観測点です(補正を必要とする最終観測点)ので
  総補正量−前回までの補正量合計ということになる。


   したがって、−5−(-2-1)=−2ですという説明がある。


  


   それでは3号路線でも計算してみましょう。
   計算結果252-21-17で、統一する方向角は252-21-01で誤差は16″です。
   角度を観測した点はE105、E23、E22の3点です。
   計算結果の値が大きいので各点の観測値を減じます
   その値は -16/3=-5.3ということになります。


  


   こうして、統一方向角と各観測点での観測角の補正量を求めることができま
  した。

   この結果を利用して、交点(E22)の座標を求めることになります。


(交点)E22の座標計算準備


        


  


 


   統一した方向角により、各路線の補正量を求め、観測点の測角に対して1点毎
  の補正を行い、補正した方向角により改めて各点のXY座標を計算した。


   各路線によりE22の値が相違している。
   各路線のE22の値をまとめると以下のようになる。


  


   そのまま計算に使用すると大きい数値です。
   計算が煩雑にならないように、便宜的に端数のみを使用して計算ができるよう
  各座標値の整数部分を取り除いて計算します。
   もう一度、距離の多角測量平均計算のところに戻り計算します。


   


   計算を簡単にするために整数部分の数値を除いて計算していましたので、計算
  結果0.229と0.331に整数部分の数値116636と−57545をそれぞれ戻してやり
  ます。


   E22の座標はX= 116636.229 Y=−57545.331 という結果になりま
  した。


   18時30分を過ぎている。
   このあたりで、頭が痛くなってきた。
   電卓で計算をしても、何回も答えが相違してきている。
   計算書を見ると、訂正の跡で見るも無残な状態になっている。
   それでも、渡部氏は休ませてくれない。


   鬼じゃ・・。



   嘆いたところで、鬼には鬼たる理由がある訳で、お構いなしに説明は続く。


結合トラバース計算
   統一された方向角から観測点の方向角を補正して交点E22の座標が決定し
  た。測角については補正され、その方向角を利用して新点の各座標値が計
  算された。
   更に、交点E22の座標値が決定されたことにより、各路線が持つX座標
  Y座標の相違を各観測点で補正をすれば、そのまま3つの路線の結合トラバー
  スの計算が完了することになります。 


   


   1号路線では、E22の計算値と決定した値ではX座標で-0.021、Y座標で
  -0.038補正する必要があります。
   E106は与点ですので補正することはできませんので、今回補正する観測点
  は1号路線のE22の値のみに補正することになりますので、E22のX座標
  -0.021Y座標に-0.038すれば、それぞれ決定した値になります。


    


   2号路線においてはX座標で+0.010、Y座標で+0.014補正する必要があり
  ます。
   E102は与点ですから、補正を要する観測点はE21、E22の2点です。
   ここで、距離に比例する補正方法になります。
   2号路線の距離の総和は262.736、E102は与点で補正0の出発点とします。
   E102からE21までの距離は150.193ですから、E21のX座標の補正につい
  ては+0.010×(150.193/262.736)=+0.006 となります。


  


   3号路線も同様に計算してみると
    


  



   となりました。
   このあたりになると、完全に頭はフラフラ状態。
   電卓は何とか、意地で叩き続けている。


   1号路線の閉合差は √(0.0212 + 0.0382)=0.043だが、精度計算だから
  と計算の順番を通り越し、303.841/0.043=7066の閉合比をあらかじめ計算し
  てしまった。


   渡部氏から「閉合差は」と聞かれても、頭のめぐりが悪く閉合比を答えてしまう。
   再度、「閉合差は」と聞かれ、自分でもおかしいなと思うのだが、言葉の違いが
  理解できない。


   頭の働きは限界だ。頭が痛い。


結合トラバース計算


     


 


   何とか、出来上がった。しかし、渡部氏は終了してくれない。
   赤鬼・青鬼を通り過ぎ、閻魔大王に見えてくる。


標準偏差


   我々が計算すれば、座標値の最終結果が得られて閉合比が解ればそれ
  でおしまいなのだが、今から標準偏差の計算だという。
   結合トラバース計算であれば終了なのだが、ここが簡易水平網計算であ
  る。


   今までに計算した交点E22での方向角の角度の補正量(dα)・X座標の
  補正量(dx)、Y座標の補正量(dy)を利用して標準偏差を計算する。
   多角測量平均計算その一の最初に計算したPが必要なので再掲すると。


     


    1号路線、2号路線、3号路線について数値を下記の表にあてはめて計算
   を行う。
    計算にあたっては小数点以下6桁までの指示がある。


 


     (n−1)捻 = 20.472であるので
    mα = ± √((P dα2)/ (n−1)捻)
       = ± √(2215.8/ 20.472)
       = ± 10.403635・・

    mx = ± √((P dx2)/ (n−1)捻)
       = ± √(0.002085/ 20.472)
       = ± 0.010091・・

    my = ± √((P dy2)/ (n−1)捻)
       = ± √(0.007016/ 20.472)
       = ± 0.018512・・
    以上から


  


    mα = ± √((P dα2)/ (n−1)捻)= ± 10″40
    mx = ± √((P dx2)/ (n−1)捻)= ± 0m010
    my = ± √((P dy2)/ (n−1)捻)= ± 0m019


   ここで、渡部氏がぼそっと一言。
   「これ、全部3分の1なんよ。」


   続けて、「距離が均等だから、誤差配分は距離での配分なので結局、この
  現場の場合ほとんど三等分ということになるのよ。
   こういう計算なのです。もう使わないと思いますが、我々は交点が複数ある
  ような計算を悩みながらやっていたんです。」


   パソコンが発達し、厳密網計算が簡単に使用できるようになり、単路線を
  利用したことのない者が理屈を知らず、やみくもに厳密網計算ソフト利用に
  より、制限内に計算が出来ただけで満足している現実がある。


   理論が解らず、観測方法や計算方法の内容も理解できず、結果的に制限
  の中に入っていればそれで良しとする安直な考えがあるのは事実である。


   厳密網計算ソフトに入力以前の問題もあるだろう。


   今回のような測量方法・計算方法が何故使用されていたのか、そこには先人の
  より良い測量結果を求めようとする意欲・知恵そして技術者としての誇りが詰まっ
  ている。


   筆界を扱う専門家である土地家屋調査士に今求められているものは・・・。


   まとめとして、計算終了後に研修に参加された皆さんに配られた資料P6を
  掲載します。






     平成21年5月                 土地家屋調査士 滝上洋之


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