大洲支部測量研修会1 (平成21年5月16日) ( 観測 ) 観測準備 午前8時20分松山地方法務局大洲支局に到着、すでに講師の渡部今治支部長 (以下渡部氏という)が支局のピロッティで何やら準備をしている。 黙々と準備をする渡部氏 挨拶をしながら近づくと、地面にチョークで印をしている。 「何を企んどん。」 いつも、研修会が開始されるまで種明かしをしてくれない。 それでも、参加者に対しては内容を知らないとは言えず、開始されると一気 にその方向性について理解しなければならない。 研修が開始されて思わずニャッとする場合もあるが 「えっ何、おいおいちょっと待ってよ、これはまずいぞ、うかうかしていると全く 分からないぞ」と思わされる事が多い。 内容を理解出来ず、段取りが悪いと「このくらいは知っていると思ったのに」と あっさり言われてしまう。 研修企画者にとってはいつも悩みの種である。 『趣味は測量、しかも役に立たない事を考える事』と渡部氏は言っているが 彼の本当の趣味は『講師面をした偉そうな助手をうろうろさせていじめること』 ではないかと私は密かに思っている。 今回もどうやらその趣味にまんまとはまってしまいそうになっている。 おかげでここ最近頭の毛が・・・。 渡部氏、私にはお構いなしにチョークからやや離れた位置にトンカチで鋲を 打ち込んでいる。 午前9時になり、参加者はすべて揃った。 会議室に入り、今から開始することの説明が始まる。 ここで真面目に聞いておかなければ、渡部氏から一日中馬鹿にされてまうこ とになる。 本日の手順については、参加者には全て承知しているような顔をしながら 渡部氏の説明に聴き耳を立て対応する。 黒板に書かれた観測計画図 (ピンポールに3つのミラー表示は原稿での説明が容易なように筆者が追加 で図示した) 観測については、Aと表示された赤丸のピロッティの場所(鋲の打ち込まれた 9つの位置)で二人一組により観測手、手簿者を交代しながら1、2、3の3方向 について観測を行う。 観測場所については最初に選んだAの場所を固定した場所としての観測であ り移動はしない。 水平角2対回、鉛直角1対回、斜距離観測であること。 その場所で1回観測が完了すればTSを箱に戻し、最初の状態まで戻した後 観測手・手簿者が交代して、器械を再び据え付けして観測を行う。 一人の観測者が同じ場所で同じ目標を6回繰り返して観測することになり、最 終的には1箇所で12回TSの据付と観測を行うことの説明があった。 水平角と距離観測の手簿が手渡される。 ベテランと新人を組み合わせ、二人一組の班編成を決定。 観測の制限について「4級基準点相当の制限よ。」との返答があると思い 渡部氏に「今日の観測の制限は無いの。」と聞くと 「今回はありません。そのままで良いです。」との答えが返って来る。 あっ、これはきついと思ったが、今回私は観測に加わらなくても良いとのこと それだったらそれはそれで良いか。 やっと渡部氏の企んでいる事が分かったので、結果がちょっと楽しみになった。 観測開始 午前9時30分、大洲支局のピロッティに各自持参のTSがずらっと並ぶ。 TSの種類、三脚も木脚、金属脚といろいろあり壮観である。 各自の観測位置から1,2,3の目標に障害の無いように設置されたAの位置 求心のやり方もいろいろです レーザー・垂球・求心望遠鏡 参加者のTSが据付終われば、目標となる1、2、3の位置にピンポールを垂直 に立てる必要がある。 一本のピンポールに3個のミニ・ミラーを据え付けの為、ピンポールを垂直に 立てる。 野本氏は気を利かし、3の位置に三脚と整準台を据え付け、整準台の求心を 利用してピンポールを垂直に立てている。 これはいかん、遅れては渡部氏に「さっさと動いてよ。」と怒られてしまう。 2の位置に急ぐ。 徳永氏も雰囲気を察知したのか、1の位置で整準台を据え付けている。 1、2、3の位置にそれぞれプリズムが設置されたのだが、TSと正対している かどうか確認しなければならない。 既に設置されているAの位置のTSに向かって、3つの班を1つのグループとし て上段・中段・下段のいずれかのプリズムを観測することとして、それぞれの班 にそのプリズムが正対しているか確認していく。 1つのグループの中のそれぞれの班に対しても丁寧に確認していく。 準備はすべて整った。 2対回観測 観測は3方向で水平角は0°、90°輪郭の2対回、鉛直角は1対回、距離は 斜距離の2回2セットである。 更に、観測開始にあたり、渡部氏から「本日の温度26度、気圧1020ヘクトパ スカルをTSに入力してください。1回毎の観測開始時間と終了時間については 手簿に必ず書いておいてください。」と注意がある。 観測が終了すれば、その都度三脚をたたみTSを箱に収納する。 観測手と手簿者は交代して改めて三脚を据え付けTSを設置して観測を行うと いう段取りである。 この作業を6回繰り返すということは、観測点を6点移動して観測するのと同様 であり、移動時間の節約でもある。 しかも同一点を観測しているのだから、その観測結果が観測を重ねるにつれ どのような変化があるのか。 そしてどのような結果が要求されているのか。 また1回毎の観測差・倍角差はどうなっているのか。 すべて自分の行った観測結果である。 何とも良く考えている。 観測は進み、2対回観測に慣れた班と不慣れな班では観測スピードに明確な 差が現れてくる。 3方向の観測で早い観測者は8分程度、遅い観測者は20分程度かかっている ようだ。 手簿者も、慣れている参加者は角度の差し引き計算は黙って升目を埋めてい るのだが、不慣れな参加者はどのように差し引き計算をして良いのか解らず じっと考え続けている。 それでも観測も3回目あたりからは調子も良くなり、所要時間も短くリズムに乗 った観測になる。 だが5回目、6回目になると、観測開始から2時間以上が経過して緊張感が無く なり、疲れの為観測の値がばらついてくる。 12時30分、2人一組で各々6回、計12回すべての観測を終了した班が現れ 12時50分、5班が12回の観測を終了したところで本日の観測を終了した。 内業・(手簿まとめ・計算) 13時30分、弁当を食べ終わった後は、当然内業です。 松山地方法務局大洲支局の会議室で手簿のまとめを行います。 会議室に集まり、一斉に手簿の整理が始まる。 手簿の整理で、角度の差し引き計算をしていきます。 水平角の差し引き計算においても手簿づけ時に最初から電卓を使用しており 観測時間の短縮にはなっていないようである。 特に鉛直角の計算は分かりにくく、r−?の計算はマイナス数字となるため現場 で差し引き計算を暗算でしている参加者は稀で、内業で初めて計算を行う参加 者もいる。 それでも、14時頃には全員、手簿のまとめが終了し、渡部氏から新たな資料が 配られた。 Aから1、2、3の観測角(水平角)をまず上記の図に入力し、距離直読式の 手簿を利用してD・cosαで水平距離を、D・sinαと器械高・目標高を利用して H2の標高を計算するように指示がある。 D・cosαの水平距離については、いつも利用しているのですんなり納得でき たようですが、H2の標高を計算する為の比高の計算については、器械高、目標 高がどのように影響するのか、なかなか納得が出来ない。 Aの位置の標高 H1=0.000mとして計算するように指示が出ます。 Aから1、2、3への水平距離、そしてそれぞれの標高を求め、最初に入力した 観測角から∠1A2と∠2A3をそれぞれに求め、1〜2、2〜3の距離を余弦定理 で計算していく。 Aの観測点は相違しても、余弦定理を利用して計算された1〜2、2〜3の距離 は全員同じ数値になるはずである。 6回の観測も余裕で終了し、計算も2番目に報告した徳永氏だったのだが 4人の結果が報告されると、ひとりだけ計算値が外れている様だ。 同一の場所で観測した相方の結果が出ると、相方の観測した数値での計算値 は、他の計算値とほぼ一致しているではないか。 仲間に冷やかされる徳永氏 高岡町の基準点設置作業で遭遇した「呪いのおばちゃん」がいたのではという 結論になろうとしたのだが、徳永氏たまらなくなり 「距離を直接観測してきます。」と再び駐車場へと飛び出していった。 全員の最終的な計算結果 駐車場で直接水平距離を観測した徳永氏の報告によると 徳永氏のTS 野本氏のTS 1〜2の距離 18.683m 18.684m 2〜3の距離 20.702m 20.703m という結果になった。 彼らのTSはいずれも松山支部の基線場において距離はチェックしており距離に ついては問題ない。 黒板に記載された全員の計算値について、同一人の観測であっても回数によっ てバラツキのある観測もみられる。 参考までに、ある参加者の観測値および計算値一覧を記載してみる。 同一観測点から固定された同一点を観測しているにも関わらず、観測さ れた値が一定でないことが解る。 更に、自分の観測値が正確なものであったかどうか、1〜2、2〜3の計算 値については同一地点の距離の値だから全員同じ値のはずである。 観測値を比較することで、自分自身の観測の内容(上手・下手)も分かり 他人との成果の比較も出来る。(いや、されてしまう。) 今回の研修は初歩的なようで、見方によればかなり厳しい研修である。 基準点測量に最も大事な観測の中身が問われている。 この事実に気がついた参加者は何人いただろうか。 平成21年5月 土地家屋調査士 滝上洋之 |